「ローゼマイン様がいらしたぞ。」
「おお、ローゼマイン様だ。」
えっと、私が来たくらいで騒ぎすぎではないですかね。
「ローゼマイン様、なぜこちらに来られたのですか。貴方に万が一のことがあって困ります。」
「騎士団長、今はそんなことよりも現状はどうなっておりますか。」
すでに簡単に話は聞いてきましたし、見た所ではランツェナーヴェの方々とは国境門付近でにらみ合いの様相を呈しています。
「は、すでにランツェナーヴェが攻めてきたときに一当てあり、現在
アナスタージウス王子から忠告があったので、貴族院へ戻ってきてから念のため対策と準備をお願いしていたのですが役に立った模様です。
流石にここまで早く攻めてくるとは夢にも思いませんでしたが。
「今の所は双方に目立った被害がありません。このまま引いてくれればよいのですが」
まあ、攻めてくる理由はアダルジーザ離宮関連でしょうしね。
目立った被害がないとはいえ、軽症から重症の者までいるます。
「シュトレイトコルベン」
「ルングシュメールの癒しを」
フリュートレーネの杖を出してから、広域に癒しをかけます。
おお、天使様の祝福だ。という声が聞こえますが癒しであって祝福ではないのですが。
せっかくなので、祝福もかけておきますか。
武勇の神アングリーフ、狩猟の神シュラーゲツィール、疾風の女神シュタイフェリーゼと忍耐の女神ドゥルトゼッツェンに祈り祝福を授けます。
祝福をかけると、他にすることと言えば、何とか話し合いに持っていけないですかね。双方共に被害はまだあまりないんだよね。
魔力の奉納の儀式で戦意をはぎ取りますか。いえ、ダメですね。相手は銀の布を身に付けているので効果がない可能性があります。
とそこで相手より、太い少し威厳のある声が聞こえてきます。
「アーレンスバッハのものよ。諦めて道を譲れ。今の五倍以上の援軍が間もなく着く。今なら責任者何名かを魔石にした程度で許してやろう。」
だめですね。これは。やってみなければわかりませんが、交渉の余地がなさそうです。
「五倍もの戦力が来るというのになぜ先走ったのでしょうか。」
「おそらく手柄を焦ったのでは?もちろんはったりの可能性もありますが」
手柄とかくだらないですね。命を懸ける理由にはなりません。やはり相容れない相手のようです。
「皆様、わたくしのことを信じてくださいますか?」
「もちろんです。ここにいる一同ローゼマイン様のためなら何でもする所存です。」
「わかりました。手段は問いません。理由を聞かずに国境門までわたくしを連れて行ってくださいませ。自分達を優先したうえでできるだけ命のやり取りはやめて頂きたいですが」
今のお言葉を聞いたか、あのローゼマイン様が我々に!とかすべてはローゼマイン様のために!とかいろいろな声が聞こえてきます。
理解できないはずの不可解な命令をしているのに士気が上がっているように見えるのはなぜでしょうか。
まあ、ここまで来ては仕方がありません。本当に援軍なんてものがあったら流石に今のアーレンスバッハでは耐えられないでしょう。
この後は、信じられないくらい順調に推移していきます。
何故か来たときよりも戦う前から相手の士気が下がっていたのか足が引いており、こちらは士気がこれでもかというほど上がっているせいもあってか、もはや子供と大人の戦いの様相を呈しています。
銀の粉なども使ってきますが、ウラノの世界の『ますく』的な口に巻く布も用意させましたしユレーヴェも準備させていますので対策は万全です。
相手を倒すまでもなく拘束していくのを横目に見ながら国境門にたどり着きます。
これからやることをしてしまったら、大問題にならないでしょうか。
いえ、今更大問題の一つや二つ増えた所で何も変わらないでしょう。
絶対にしたくありませんが、やるしかありません。
『グルトリスハイト』
国境門には、魔力がほとんど残っていないのでグルトリスハイトを通して魔力を奉納します。ほとんど輝きを失っていた国境門が息を吹き返すかのように輝きだします。
その後、門を閉じる呪文を唱えれば終わりです。
ゆっくりと巨大な門が閉じていく様を見るのは、こんな時でなければさぞかし素晴らしい光景だったでしょうに。
「おい!我々の帰る道が閉じていくぞ」
「そんな、もうすべてがお終いだ。」
「そんなばかな!グルトリスハイトを失われていたという情報は嘘だったのか!」
ランツェナーヴェの者たちの嘆きが戦場に響きます。
ゆっくりと閉じていく国境門にランツェナーヴェの者は絶望したのか、最後まで抵抗していた責任者と思われる方やその側近も武器を放り出し降伏しました。
まあ、帰る道がなくなったら諦めますよね。
諦めてくれてよかったというべきか。
いろいろ失った可能性が高いけど、何とかなりましたと安心して一息つくと伝令の方が焦った様子で私の元に来ました。
「ローゼマイン様!ゲオルギーネ様派の方々が!」
今度は何ですか。これ以上の問題はさすがに起こらないでしょう。
「落ち着いて説明してくださる。」
「失礼しました。それでゲオルギーネ派の方々が領界門の警備の方々を倒してエーレンフェストへ向かったと報告がありました。」
え、領界外に出たのなら礎の間に入る権利のある私ならわかるはずなのに、なにも違和感を感じなかったよ!戦いに意識していたせい?領内で登録のある方の出入りは自由とはいえ、魔力量が多いゲオルギーネ様が出て行ったのなら流石に反応があるはずですが。
それとも貴族院へ行っていた時に、すでに出ていたとか。だとすると少し古い情報となります。
今考えても仕方がないので、これからのことを考えます。
「急いででエーレンフェストに知らせてください。」
私は、城へオルドナンツを飛ばし事情を説明し緊急で連絡を入れるように動いてもらいます。
「騎士団長。この場は一旦任せます。」
一旦城に戻り、もう一度エーレンフェストへ連絡を入れるために動きます。とは言うものの手紙を急いで運んでもらうだけですが。
本当に緊急なので貴族院にいるレティーツィアに連絡を取り、王族の連絡用の魔術具の使用しエーレンフェストへ伝えてもらえるようにお願いします。
私が直接向かえれば...、国境門の転移用の魔法陣ですぐなのに!すぐなのに...?
「手紙を送るのを待ってくださる。一緒についてきてくださいまし!」
現状を詳しく書いた手紙を連絡役の方に持たせ、双方で連絡の取れる魔術具を持たせます。
一か月程度で壊れる急造品ですが今の状況なら十分でしょう。
再度国境門へ行き国境門の上へ上がります。
「ローゼマイン様、この魔法陣は?」
「エーレンフェストの地図はお持ちですね。エーレンフェストの国境門へ送りますのでそこでこの手紙を見せてうまく連絡を取ってくださいまし。」
そう言うと転移に巻き込まれないように、少し魔法陣から離れます。
「では、お願いします。アーレンスバッハの運命はあなたたちにかかっております。」
「は、必ずやローゼマイン様のためにやり遂げる所存です。」
「頼みましたよ。ケーシュルッセル エーレンフェスト」
後は、魔術具に連絡が来るのを待つしかできません。
ランツェナーヴェの後片付けもありますし、のんびり休んでいる時間はないのですが。
その後は、敵味方問わず必要な方に癒しを与えます。
船にもすでに拉致されそうな方がいたらしく助けることができました。
もちろん船はすべて接収です。調べるのが楽しみなんて言っていられる状況ではないですね。
事情聴取は騎士の者たちに任せるとして、アウブの弟君は...。
銀の粉にやられたようです。命に別状はないようですが、すぐには戻れないとのことです。
もうどうしろというのでしょうか。
なぜ、アーレンスバッハに思うところのある私がこの場に残っているのでしょうか。
試練の神 グリュックリテート様、私に望んでいない試練を与えすぎではないでしょうか。