マインオブザデッド   作:dorodoro

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77話 王族へ現状報告

貴族院から戻ってきても、アウブ夫妻の意識は戻りません。

 

魔力器官の回復も兼ねているので、まだまだ時間がかかりそうです。

 

お二方がいないので、レティーツィアも私も冬の社交界に引っ張り出されます。

 

ディートリンデ様とは、貴族院から戻ってきてすぐの時は連絡を取れたのですが、連絡がつかなくなってしまいました。

 

次の社交界の時に領主の仕事について話し合うことになっていた直後のことでしたのでとても困りました。

 

オルドナンツを飛ばしても飛んではいくのですが返答がありません。

 

ゲオルギーネ様については最後にディートリンデ様の伝えてくれた内容が確かなら本当に悪い状態らしく、娘であるディートリンデ様ですら会わせてもらえないとのことでした。

 

娘ですら会えないって、嫌な予感しかしません。

 

ゲオルギーネ派の方々が社交界から少しずつ減っているのも気になります。

 

 

 

 

「ローゼマイン、いい加減隠し通すのも限界だ。一度ツェントに連絡を入れる他あるまい。」

 

冬の社交界も終わり、領主会議へ向けての準備をしなければなりませんが、これから本格化する執務に加えて祈念式など確かに限界です。

 

アウブがここまで起きることができないとはさすがに予想がつきませんでした。

 

逆を言えば本当に危ない状態だったということです。

 

お父様もお母様も、いろいろ限界を超えていたのでしょう。

 

「ええ、そうですね。」

 

礎に入れるのもゲオルギーネ様とディートリンデ様がいない今となってはレティーツィアと私だけです。

 

非常にまずいなんてものではありません。

 

「ではレティーツィアと連名で文を送ります。」

 

「まったく、あのエーレンフェストのカメーヴァレインめ、なにをしておるのだ。」

 

アウレーリアの妹さんとも連絡が取れないらしく、アウブの弟君は苛立っています。

 

娘の状態が心配なのは当然なので仕方がありません。

 

「では、レティーツィア。一緒にお手紙を書きましょう。」

 

報告書という名のお手紙です。王族にはできるだけ関わりたくないのですが仕方がありません。

 

「はい、お姉様」

 

アーレンスバッハの状態は以前の政変の負け組領地と同じくらい酷い状態ではないでしょうか。

 

もうここまでくれば、隠すことはありません。現状をすべて記しツェントへ報告を上げます。

 

領地順位は格下げでも仕方がないでしょう。

 

でも、アーレンスバッハは腐っても大領地です。

 

取りつぶすなど絶対にできませんし、アウブが起きて復帰できれば今ある問題の大体のことはことは解決できます。

 

ディートリンデ様とも未だ連絡が取れず、ここまで来ると本当に心配です。ついにオルドナンツも届かなくなってしまいました。

 

いくらゲオルギーネ様でも実の娘をはるか高みに上らせるということはないと願いたいのですが。

 

やる理由もないはずです。いくら身内だろうが容赦をしない人だといっても...。

 

もう、何が起こるか分かりません。誰が抜けてもアーレンスバッハは回らないところまで来ています。

 

私に何があってもいいように神殿に大量の魔石を送っておきます。

 

私が祈念式に行けなくなる事態があっても魔石の力を借りれば今年は何とかなるでしょう。

 

ツェントより私とレティーツィアに召集令状が届いたのは、報告を送ってすぐのことでした。

 

 

 

 

着いてから、とても長い時間待たされます。王族も忙しいようです。

 

今回はアナスタージウス王子一人が事情を聴いてくださるそうです。

 

「まったく、この忙しい時に!何度も言うが、アーレンスバッハはどうなっておるのだ。この報告書は本当なのだな。初めに聞いたときはリーベスクヒルフェがまたドレッファングーアの糸に手を出したのかと目を疑ったものだ。」

 

いたずらなんて失敬な。まあ、そう思われても仕方がないけど。もちろん迷惑をかけているのはこちらなのでそんなことは言えませんけど。

 

「それで、貴族院より早く帰ったのは其方が執務を手伝うためだったと。やけに体調が悪そうだと思ったが其方、貴族院低学年の身で執務をほぼ代行していたとは本当なのか。」

 

私がそのことに口を開こうとするよりも早く、レティーツィアが口をはさみます。

 

「ええ、ローゼマインお姉様は、以前からアウブの補佐をしておりましたので他に適任がおりませんでした。」

 

いや、補佐って、ただの手伝いだよ。そんなに大げさに言わなくてもよいのに。

 

「今の状況は、アーレンスバッハを支える最高神と五柱の大神がほとんど全て倒れた状態です。その残った柱がしっかりしていたため何とかやってこれましたがそれも限界を迎えています。」

 

「ふむ、其方らも苦労しているようだな。」

 

あの、レティーツィア。五柱って誰のこと?残った柱は誰のことを言っているの?アウブの弟君は柱に入れていいのかな。

 

レティーツィアがいろいろ対応してくれてとても頼もしいことを喜ぶべきか、私の無能を嘆くべきか。

 

「ふむ、ツェントに緊急で報告するが、どうしたものか。アウブが起きれば解決しそうであるが。領主会議までには起きられそうなのか。」

 

「正直分かりません。当初の予定では社交界が終わるまでには起きている予定でした。ですが現状としては回復が遅くまだまだ時間がかかりそうなのです。起きるのは恐らく領主会議が終わったころになるかと。」

 

領主会議の時までに起きるかもしれないし、起きられないかもしれないし全く読めません。

 

とそこでいきなり騎士がこちらに入ってきて言います。

 

「王子、緊急です。」

 

「なにごとだ!」

 

その騎士が王子の脇まで行って耳打ちします。

 

「本当なのか。いや、わかった。ローゼマイン、レティーツィア。すぐに一度もどれ。いや、こっちにいさせた方がいいのか。」

 

「何があったのかお聞きしていいでしょうか。」

 

この慌てようは相当です。

 

「ランツェナーヴェの軍と思われる集団がアーレンスバッハに攻め入って来たとのことだ。」

 

は、攻めてきた?このタイミングで!?

 

まるでアーレンスバッハが混乱状態であるのを知っているかのように!

 

当然、ランツェナーヴェの館には今は人がいませんし、ランツェナーヴェの者は、アーレンスバッハにいないため彼らが現状を知る手段はないはずです。

 

いずれにせよ、真偽の確認のためにも戻らなければなりません。

 

「レティーツィア、連絡役としてこちらに残ってくれますね。わたくしは真偽の確認のために一度戻ります。」

 

「そんな、お姉様。私も行きます。」

 

そんなこといっても、私とレティーツィアどちらがアーレンスバッハについて重要かは言うまでもありません。

 

「レティーツィア、これは次期アウブ最有力候補であるあなたにしかできないことなのです。引き受けてくれますね。」

 

王族の連絡役として重要な役職にあるものが残るべきでしょう。

 

「アナスタージウス王子、ランツェナーヴェについて簡単ですが調べた資料を置いていきます。ご参考にしてください。」

 

私は、魔紙を出しイメージで銀の粉や銀の糸の情報などを写し出していきます。

 

「わかった。言うまでもないと思うが気をつけろ。危ないと思ったらこちらに避難することも検討に入れろ。」

 

「お心遣いありがとう存じます。では行ってまいります。」

 

神殿の方々など、みんな無事だといいのですが。

 

 

 

 

急いでアーレンスバッハに戻ると、転移陣の担当の方が驚いた様子で言ってきました。

 

「ローゼマイン様!戻られたのですか!」

 

「ええ、レティーツィアは連絡役として残してきました。それで現状を教えてくださる。」

 

「はい、ですがその必要はございません。ローゼマイン様御覚悟を!」

 

そう言うと手に持っている袋の中身をを私に向けて広げて飛ばしてきます。

 

銀色の粉が見えます。これはちょっと回避するには間に合わないなと思い被害を減らすためとっさに魔術具を起動させると...。

 

「ローゼマイン様危ない!」

 

誰かに着き飛ばされ、複数の方に覆いかぶせられました。

 

銀色の粉についてはとっさに突き飛ばしてくれたおかげで、私には、ほとんど影響がありませんでした。

 

犯人をシュタープで拘束した後、状況を確認します。

 

「ローゼマイン様...ご無事で何よりです...。」

 

「大丈夫か、おい、しっかりしろ。」

 

見たところ、まだ大丈夫です。被害を受けたのは、私に忠誠を誓うと言ってくれたあの側近の子です。

 

「助けてくれてありがとう存じます。早くユレーヴェを。皆さん持つように言っておきましたよね。」

 

「それが、まだ作っていないようで。」

 

しまった。貴族院の学生では持っていない人も多いんだった。

 

「では、これを。飲めますか。」

 

私のユレーヴェでも十分いけるはずです。お父様の回復の様子を見る限り自信がなくなりますが。

 

念のため少しだけ取っておいて本当によかった。

 

まあ、これで私の分も完全になくなってしまいましたが。

 

とりあえず、はるか高みに上る心配はなさそうです。周りも安心しています。

 

「私はこの現場の後片付けに残ります。ローゼマイン様は他の者と現場へ向かってください。」

 

側近の一人がそう言ってくれます。彼女のことも面倒を見てくれるということでしょう。

 

「あら、あなた達も協力してくれるのですか。わたくしを害すなら最高の機会だったかと存じますが。」

 

「ローゼマイン様、冗談でも怒りますよ。現状でアーレンスバッハで唯一立っている一柱であるローゼマイン様が倒れたら我々の領地が崩壊してしまいます。」

 

そんな大げさな。一人の力なんて大したことはないのは私が一番よく知っています。

 

ですが、協力してくれるというのなら協力してもらいましょう。

 

「まったくです。我々は今までローゼマイン様を一番側で見てきました。ローゼマイン様がアーレンスバッハのことを思い動かれていたことを我々が一番よく知っているつもりです。そんな方を害すだなんていわないでいただきたい。」

 

そこまで言われるほどの事をしたつもりはありません。契約を履行しているだけで思いなんて...。

 

「我々全員が信じられなくても、とっさに動いた彼女達を信頼していただきたい。彼女達の行動を見てもまだ信じられませんか」

 

そう言われてしまっては、何も言えません。

 

「わかりました。ありがとう存じます。皆様行きますよ。」

 

なんだか、胸が熱くなります。本当に信頼してもいいのでしょうか。

 

こんな捨てていくことしか考えていない私が。

 

今だけでも信じてもいいかな、なんて思うのはやっぱり自分勝手かな。

 

 

 

 


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