今年も表彰式には出られず終わりました。
いや、いいのです。今年も成績はどうなったとか知りませんし、表彰されても仕方がありませんし。
気が付いたら、貴族院の私の部屋におり、確認したら卒業式も終わってしまっていたようです。
ディートリンデ様の奉納舞は見たかった気もします。エーレンフェストの髪飾りとかどうだったのでしょうか。
結局、卒業式が終わった後に祝福も贈れませんでした。
今、できないことを考えても仕方がないので少しでも早く回復するために薬を飲まなければなりません。
今回は緊急で帰ったので、まだ部屋にストックがありますね。
今更やっても無駄かもしれませんが、簡易的に薬物検査をしてと、問題なし。
さすがに現状で側近連中が仕掛けてくることはないと願いたいですが。
ゲオルギーネ様が関わると何も読めません。彼女はディートリンデ様のお母様なのですから。
次の日は部屋から出て、側近連中に現状を確認します。
領地対抗戦で重要な社交は終わっていたので、そこまで問題にはならなかったようです。
「ローゼマイン、良かったですわ。顔色もよくなったようですわね。」
共有フロアへ行くと、ディートリンデ様がゴージャスな花飾りをして話しかけてくれます。
「ご迷惑をおかけしました。特に問題はなかったようで安心しました。」
「ええ、あなた1人が1日いないくらいで、どうこうなるアーレンスバッハではないわよ。」
アウブの弟夫妻は既に帰られたとのことです。社交界は続きますからね。
かくいう私も帰還準備を進めなければなりません。
最後に髪飾りが素敵ですねと言ったら、
「そうでしょう。奉納舞ではそれはもう注目を集めましたわ。あの場で一番輝いていたのはわたくしですわ!ローゼマインに、わたくしの美しいところを見せられないで残念でしたわ。」
その後、いかに今年の奉納舞が素晴らしくディートリンデ様が美しかったかという話が始まってしまいました。
髪飾りについていろいろ聞けたのでそれはそれでよかったのですが...。
図書館の待ち合わせぎりぎりまで帰還準備を進めます。
シュミル型の魔術具やレッサー君を動員して、手早くまとめます。
さて、では約束の時間になりますので図書館に向かいます。
図書館に着くと、ソランジュ先生とヒルデブラント王子が既におられます。
オルタンシア様はまだしなければならない作業があるとのことで作業中とのことです。
時間にかなり余裕をもって来たつもりでしたが、王族より後に来るとか、もっと早く来ないとまずかったかな。
主催のエグランティーヌ様はまだのようなので良かったです。
先生方と貴族の長い挨拶を終えます。
「ローゼマイン、倒れたと聞いていましたが元気そうでよかったです。」
王子にまでご心配をかけるとか私...。いえ、ヒルでブラント王子はとってもいい人なので知っている方なら純粋に誰でも心配してくださるでしょう。
もしレティーツィアと結婚して婿に来たら、一応義姉となるのですか。そこまでアーレンスバッハにいるつもりはありませんが。
「ご心配ありがとう存じます。ヒルデブラント王子。見ての通り健康面はそこまで問題はございません。」
「今年はもっとローゼマインと話したかったのですが、緊急で帰られてからずっといなかったので残念でした。」
私と話したかった?王族相手にそう言われるということは、レティーツィアについて知りたかったとかですかね。
「ええ、わたくしも。王子との婚約話のあがっているレティーツィアについて、いろいろお話しをしたいと存じておりました。」
あれ、何か間違えたかな。なんだかどこかで見たことのある表情ですが。
「いや、私はローゼマイン自身のことをいろいろ聞きたかったのです。」
私のことなんて、何か王子に関係があるのでしょうか。あ、もしかして。
「差し上げた魔術具の調子が悪くなったのですか。よろしければ見ますけど。」
「いや、あの子は元気に動いています。一度城の者にも見せたのですが素晴らしい魔術具だと絶賛してましたよ。」
えっと、試作品にそこまでの評価をもらえるわけがないと思うのですが。魔王様の落第だと言う声が聞こえてきそうです。
「あら、お世辞でも中央の方にそう言って頂けるとは光栄ですわ。」
その後も色々聞かれます。王族の方とこんなにいろいろ話すことなんてめったにないのでいい経験だと思いましょう。
ヒルデブラント王子は変に領主対抗戦の時のように貴族らしい言葉で探ってきたりするようなことはないので話しやすいです。
レティーツィアの話題も出してみますが、あまり興味がないというか反応が良くありません。
ああ、そこで思い出しました。最初の時の表情は、先日のヴィルフリート様の歯切れの悪い表情にそっくりでした。
そのあと、エグランティーヌ様がオルタンシア様とヴァイス達と一緒に来ました。
主にオルタンシア様から私に用があるようです。
「あるじ きた」
「じじさまのところへ」
この魔術具たちとも久しぶりな気がします。オルタンシア様がシュバルツ達の反応が気になるようで話しかけてきます。
「シュバルツ達はローゼマイン様のことを主と呼ぶのですね。」
「ソランジュ先生にどうして主と呼ぶようになったのか調べていただくようにお願いしていたのですが何か分かったのでしょうか。」
まあ、たぶんあの訳の分からない称号のせいなわけですが。
「いえ、そちらは分かりませんでした。お聞きしたかったのは図書館にある魔術具についてで、ローゼマイン様は図書館のさまざまな魔術具に魔力を供給していただいていたとお聞きしております。出来ればその魔術具に案内をして頂きたいのです。」
たくさんありすぎて説明しながら回るのは少し大変そうです。
「図書館は大切な魔術具がたくさんありますので、シュバルツ、ヴァイスに案内させましょう。」
「ええ、ではローゼマイン様、お願いします。私がローゼマイン様が魔力を供給していたところに案内して欲しいといっても、シュバルツ達が反応してくれなくて困っていたのです。」
反応しないって、この魔術具達は、ただの命令型じゃないからそこまではわからないですね。
試しにオルタンシア様に命令してもらいました。
「ひめさま けんげんたりない」
「あるじのこと おしえられない」
えっと、これってまずくないですか。主の座を譲ったはずなのに私の方が上ってまだ認識しているみたいなのですが。
「ローゼマイン様が通常と違う方法でシュバルツ達の主となられたのでそのせいかもしれませんが。今のところは問題はないためこのままにしておくしかありませんね。」
よかった。処罰とか言われても原因は...いえ、解決方法がわからないので助かります。
「シュバルツ、ヴァイス、いつも魔力を奉納しているところに案内してくださる。」
「あるじ じじさまのいたところへ」
「さっさといく」
今はそんな時間はありません。神の取得の時の件もありますし行きたくありません。時間がないのだから早くして。
「ローゼマイン様に対してもよくわからないことを言われるのですね。じじさまとは何でしょう。」
「じじさま ふるい」
「じじさま えらい」
いつも通りですね。ふるくてえらい。まあ、神の名を語っていましたからね。ふるくてえらくて当然です。
「もう一度命令します。シュバルツ、ヴァイス、いつも魔力を奉納しているところに案内してくださる。」
「わかった あるじ」
「しかたがない あるじ」
図書館の礎やら、温度調整の魔術具や防音の魔術具など順番に魔力を奉納しながら案内させます。
最後にメスティオノーラの像です。
「あるじ さっさとする」
「じじさまのいたところへいく」
やはりここから行けるそうです。
「じじさまのいた所へとは何でしょうか。」
「ローゼマイン様、何か思いつくことはありまして。」
オルタンシア様、エグランティーヌ様...。はぁ、多少白状しますか。
「実はこの像は、はじまりの庭というシュタープを取得する広場へと繋がっているようなのです。去年に一度だけ行ってしまいました。」
「ローゼマイン、大丈夫だったのですか。図書館にそんな他の場所へ行くような転移陣があるだなんて」
「ええ、ヒルデブラント王子。見ての通り問題は特にはありませんでした。」
あの時は皆様に迷惑かけて大変だったようです。私自身はよくわかっていなかったけど。
「シュバルツ達は気になることを言っていますが、触らない方がよさそうですね。次も同じ所へ飛ばされるかはわかりませんものね。」
まったく同感です。エグランティーヌ様。ヴァイス達から少し離れるようにして、前回のように手を引っ張られないように細心の注意を払いました。
今回は行っている時間はもちろんありません。
このあと、図書館の執務室へ戻り、少しだけ話して解散になります。
「できれば、ローゼマイン様には、ソランジュ先生から報告のあった鍵の管理者になっていただきたかったのですが忙しそうなので諦めますね。」
まあ、もう私には不要なものですからね。いざとなれば勝手には入れますし。
「お気遣いありがとう存じます。アーレンスバッハよりすでに呼び出しを受けておりまして、この件が終わったらすぐ戻る予定です。」
「あら、ではあまり引き留めてはいけませんね。」
ようやく解散です。地下書庫に寄っていきたいですがこの状態では忍び込めないので諦めます。
その後、ディートリンデ様にはゲオルギーネ様の確認をお願いし先に帰らせてもらいました。