マインオブザデッド   作:dorodoro

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74話 緊急帰還命令で緊急事態

「緊急帰還命令ですか。ディートリンデお義姉様?」

 

「ええ、ローゼマインに。何か心当たりがありまして。」

 

ディートリンデ様も困惑気味です。

 

「いえ、まったく心当たりが存じません。」

 

何やら心当たりのない命令が飛んできました。

 

今年は順調に講義は必要最低限であれば既に取り終わり、時間があれば文官コースと側仕え、さらに無理だとは思いますが騎士コースとかいろいろ見てこようかと思っていたのですが。

 

ちなみに座学は学年が同じならコースに関係なくても授業に出るのは自由のようです。さらに余裕があれば他のコースも取得してもいいとのことです。

 

「おそらく今戻ったら、奉納式が終わるまでは貴族院に戻れないかと存じますので後のことはよろしくお願いします。」

 

「ええ、何かあれば手紙で伝えてちょうだいね。」

 

急いで、ハンネローレ様やソランジュ先生に緊急帰還の旨をオルドナンツで伝え帰還します。

 

 

 

 

「ただいま戻りました。」

 

「ローゼマイン様!お待ちしておりました。」

 

何やら本当に緊急の様ですぐにこちらへと案内されます。

 

こちらはお父様やお母様の私室だったはずなのですが...。お父様の私室と思われるところに通されます。初めてきましたね。

 

「おお...、ローゼマイン来たか...。」

 

「お姉様、来てくれたのですね!」

 

弱弱しく起き上がれないアウブとレティーツィアがそこにいました。

 

「これは何があったのですか!?」

 

「以前にローゼマインが言っていた銀の粉に...やられた。」

 

は、え。銀の粉!?ランツェナーヴェが攻めて来たというわけでもございませんし。とりあえずユレーヴェですぐに処置をすれば問題ないはずなのですが

 

「お母様はどうされたのですか?」

 

「お姉様、養母様も銀の粉というものにやられたそうで養父様の隠し部屋でユレーヴェに浸かっています。」

 

とりあえず無事なようで良かったのですが、せっかくよくなって回復の兆しが見えてきたところだったので残念でなりません。これでは今度起きたときにどのような状態か想像もつきません。

 

「お父様も、なぜまだそのような酷い状態でユレーヴェに浸かっていないのですか。一刻も早く浸からないと後遺症が酷くなりますよ。」

 

アウブが今抜けるのはまずいとか、いろいろ言っていますが最後に苦しそうに言ってきました。

 

「そこにあるのが最後のユレーヴェだ。体調を崩してから作れていなかったのでな。浸かるほどは残ってない。」

 

なんでそんな大切な準備できていないの!そんなところまでゲオルギーネ様の妨害が効いているなんて...。アーレンスバッハでは他の領地よりもユレーヴェの消費が激しいのは確かですがそれにしてもアウブが用意できないはずはありません。

 

少し落ち着いて考えてみれば、私がアーレンスバッハで起きてから魔力器官が損傷状態だったのですから、貴重な材料を使うにもかかわらず作るのにかなりの魔力を消費するユレーヴェ作りには不安が残ります。そのせいで後回しにしていた可能性も十分考えられます。

 

どうしよう、ユレーヴェなんて基本的に個人用(オンリーワン)の品物ですし。

 

「お姉様、養父様は大丈夫なのでしょうか...。」

 

「レティーツィア、大丈夫です。何とかします。」

 

とは言うものの、良い方法なんてすぐには思いつかないので、とりあえずお父様の残りのユレーヴェを見せてもらいます。

 

この品質なら...。取りたくない方法の一つでしたが緊急事態です。仕方がありません。

 

「お父様、わたくしのユレーヴェをお使いください。」

 

「何を言っておるのだ。他人のユレーヴェに浸かったところでほとんど効果がないではないか。」

 

「私の場合は、魔力が特殊で魔力の特性が透明に近いのでほとんどの方が効き目をあまり落とさずに効果を発揮できるはずです。少なくとも今飲まれているユレーヴェより品質が高いもののため効果を期待できます。」

 

アウブが持っているユレーヴェより品質が高いとか、ディッターの褒章で素材を贈って下さったダンケルフェルガーの方々には感謝をしないといけませんね。

 

「だが、アウブが今いなくなるわけには。」

 

「そのようなお体で何ができるというのですか。今はるか高みに上られる方がはるかに迷惑かと存じます。」

 

「養父様、ご自愛ください。わたくしも養母様も養父様にいられなくなられては困ります。」

 

レティーツィアの言葉が効いたのかは知りませんが、苦しそうに言葉を絞りだすかのようにアウブが言います。

 

「わかった。ローゼマインのユレーヴェをもらう。」

 

 

 

 

急いで神殿にユレーヴェを取りに行き、お父様の隠し部屋にレティーツィアと私を登録してもらい、準備をします。

 

少し飲んでもらい、効果を確認すると問題はなさそうです。お母様の用意は側近にさせたとのことでしたが、お父様の隠し部屋で浸かっていました。

 

「準備ができました。」

 

少しの間なら身体強化で何とか運べます。結局レティーツィアにも最後は手伝ってもらいましたが。

 

「ローゼマイン、命令し追加した契約条項を一時解除する。くれぐれもレティーツィアとアーレンスバッハのことを頼む。」

 

「わかりました。お父様。ごゆっくりお休みください。夢の神シュラートラウムよ、心地良き眠りと幸せな夢を」

 

 

 

 

ユレーヴェに浸かったアウブはとても疲れていたようですが、穏やかな顔をしています。

 

なんで、契約さえなければ裏切るかもしれないと思われているはずの私がわかりましたと言っただけでそんなに安心したような顔をするの。

 

さっきから悪魔のささやきが強くなってきていてつらいのです。いっそのこと最後に命令でいろいろ縛ってくれればよかったのに...。

 

今なら念願だった契約破棄も以前の状態と比べれば簡単にできるでしょう。

 

とはいえ従属契約は契約の中でも最上級に厄介な契約なので、呪い返しのような凶悪な解除方法でしか解けません。

 

やれ、やるんだ。例え相手がはるか高みに上る可能性があるとはいえ、絶対ではないし、それだけのことはされてきただろうと悪魔の声が聞こえてきます。

 

耳をふさぎたくても心の声なのでふさげません。一度その可能性を思いつくと、心が抑えられなくなっていきます。思わず、グルトリスハイトを呼び出し、契約破棄の呪文を唱えそうになりました。

 

「お姉様、そんな怖い顔をされてどうなさいました。もしかしてお父様のユレーヴェの作用がうまくいっていないのですか?」

 

レティーツィアの声ではっとしました。私は今何をしようとした。そんなことをして村のみんなの前に胸を張って帰れるのか。

 

加えて、レティーツィアをこんな状態で置いていくなんてできません。出来るだけのことはすると彼女の両親にも約束をしてしまいました。

 

ここで、もしアウブがはるか高みに上ったら彼女は確実に大変なことになるのは目に見えています。何もかも投げ出しすべてを捨てたくなります。レティーツィアのことがなければなんて思ってはいけません。

 

絶対にいけないのです。もう嫌だよ。全部投げ捨てようよという私の本心を、なけなしの精神力を振り絞ってふたをします。

 

いろいろ危なかったです。危うくお父さんとのわずかに残っている繋がりの一つである約束、『私の魔力は他の人のために正しく使う』ということも守れなくなるところでした。

 

ごめん、お父さん、お母さん、トゥーリ、カミル、村のみんな。わたしはまだ帰れません。

 

「何でもないのですよ、レティーツィア。それよりもこれからが大変です。ゲオルギーネ様にこちらへ来てもらい協力してもらわなければなりませんし。」

 

どうしよう。切り替えないと。時間の余裕はあまりありませんが、一度目をつぶり深呼吸をして心を落ち着かせます。

 

さて、文官仕事の取りまとめや領地の経営、礎の魔力供給に関しては私が補助すれば何とかなるでしょうが、すでに始まっている社交界の取り仕切りなど、冬の行事は不可能です。

 

とりあえず、代表代行としてゲオルギーネ様を...。今回の実行犯最有力候補に頼まないといけないなんて...。

 

 

 

 

緊急なのでオルドナンツを飛ばすも飛んでいきません。

 

なんで!?

 

「他の方も試しているのですが、なぜか届かないようです。」

 

残ったお父様の側近やレティーツィア達もすでに試したとのことですが届かなかったとのことです。

 

とりあえず、手紙をしたため急いで持って行ってもらいます。次点としてアウブの弟君に連絡を取ります。

 

「お呼び出しして申し訳ございません。すぐ来てくださるとは助かります。ゲオルギーネ様と連絡が全く取れずにわたくし達も困っておりまして」

 

「いや、いい、それよりも兄上は無事なのだな。」

 

「ええ、ユレーヴェに浸かっておりしばらく時間はかかるかと存じますが、はるか高みに上る心配はございません。」

 

「ならばよい。こちらからも連絡を入れてみるが期待しないでもらいたい。」

 

「連絡が付かない場合は、社交界での説明と貴族の取りまとめをお願いいたします。城の管理はわたくし達が引き受けます。」

 

「できるのか。いや、兄上から話は聞いている。わかった。今の季節は執務よりも社交界の方が大変だな。社交界での取りまとめは任されよう。」

 

「ありがとう存じます。」

 

冬は貴族院関係を除き、執務がかなり減るので私達でも問題はないでしょう。

 

これで、最悪の場合でもしばらくは奉納式と執務に専念できます。

 

後は、ゲオルギーネ様が無事に捕まるといいのですが。

 

ディートリンデ様にもこの旨を報告し連絡を入れてもらいます。

 

後日、ディートリンデ様はそれなりの連絡ルートを持っているらしく、何とか連絡はついたのですが...。

 

ゲオルギーネ様も臥せっていて、私とアウブの弟君に采配を任せるって。

 

本当に悪いのでしょうか。いやな予感しかしませんがゲオルギーネ様に関わっている余裕はありません。

 

 

 

 

神殿と、城を往復しながら奉納式を終わらせます。いくら執務の関係が普段より少ないと言ってもないわけではありません。

 

私が一人でやるのは後のことを考えると良くないので、レティーツィアに教えながらになります。

 

緊急の案件は私の責任で決裁をして、問題ない案件は後回しです。緊急の案件ですら本当は決裁をしたくないのですが仕方ありません。

 

現状として城へ来られる者で、ゲオルギーネ様を除けば、領主一族で、領主候補生である私とレティーツィアにしかできないことです。

 

将来アウブになるレティーツィアに決裁をさせるのも考えましたが、ここで失敗すると後々まで尾を引く可能性があるのでアウブになる予定のない私がやった方がいいのです。

 

奉納式に関してはこんな状態にもかかわらず以前の半分で終わってしまいました。無理をしたわけではもちろんありません。

 

これまで実感がなかった、加護を得たことによって、魔力量は増えていると言いますか、他の弊害が起こり出しました。

 

あえて言うなら体よりも魔力の方が動かしやすい状態です。普通に体を動かそうとするとうまく動かないのです。

 

私の体はどうなってしまっているのでしょうか。身体強化の魔術を応用し魔力で体を動かせば何も問題ない訳ですが、操り人形になってしまったようで気持ちが悪いです。

 

食欲もあまりわかなくなってきており、以前より風邪は引きにくくなっているようなのですが不安になります。原因が一切わかりませんし、周りにもばれてはいないと思うので今は無理やり考えないようにしています。

 

 

 

 


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