次の日もなんだかんだで周りの方に教えつつ講義も合格し、午後の実技です。
音楽なのですが、うん、ユレーヴェ明けほどではありませんが魔力のコントロールが大変になっています。
課題曲も昔にやったことのある曲ですし、自由曲はウラノの世界の『民謡』をアレンジし、ヴィーゲンミッヒェ様など子供を守る神々に捧げる曲を作りました。
祝福が止まりませんが少し魔力を放出しておいた方がいいので気にしません。少し使えば今回も制御だけなら問題なさそうです。
そもそも、グルリトスハイトを得ているのにこのような状態になるのが異常なわけですが、そんなことを言っても仕方がありませんね。
その後も何も問題なく講義や実技が進んでいきます。
なんて順調なのでしょうか。ここまで問題のない年は初めてではないでしょうか。
などと思っていたら、土の日に図書館より呼出です。あんなことがあった後なので、なんだか図書館には行きにくくなってしまって行っていませんでした。時間も当然ありませんでしたしね。
図書館へ向かう途中で、ハンネローレ様に出くわします。なんでも、ハンネローレ様も呼ばれたとのことです。
向う途中で話を聞いてみると、よくシュバルツとヴァイスに魔力供給をしてくれていたためのようです。
「新しい司書が来られたとのことで、良かったですね。」
「ええ、でもシュバルツとヴァイスに触れなくなるかもしれないと思うと少し残念ですね。」
私としてはさっさと変わってもらって問題ありませんし、ソランジェ先生が困らないようになるのなら全く構いません。
ちなみにディートリンデ様にも一緒に来ますかと聞いたのですが。
「今の寮にはローゼマインが作ってくれたこの子たちがいますし、王族の魔術具関係なのですから、呼ばれていませんし、めんどくさい方々が来そうなのでやめておきますわ。ローゼマインも気を付けるのよ。」
とのことです。特にシュバルツとヴァイスについてそこまで興味がないようで良かったです。
ええ、本当に新しく寮専用にシュミルの魔術具を作っておいてよかったです。
「ローゼマイン様、ハンネローレ様、図書館までご足労いただき、ありがとう存じます」
「あるじひめさま きた。」
「あるじひめさま ひさしぶり」
何か気になることを言っていますが無視して、図書館に着き、ソランジュ先生と長ったらしい挨拶が終われば、ソランジュ先生の執務室へ向かいます。
「ローゼマイン様のことですから、お一人でふらっとお越しになるかと思ったのですがお越しになられなかったので」
なんでも、やはり図書館の魔術具を貴族院の学生に頼っている状況はよろしくないとのことで早めに交代したかったようです。
確かに以前なら、ふらっと寄ったりする可能性もないことはなかったのでしょうが。行かなかったおかげで、シュバルツ達の関係者であるハンネローレ様と一緒に来られたからよかったです。
執務室の中に入るとずいぶん沢山の人がいます。これはディートリンデ様の言葉が正しかったのですかね。
エグランティーヌ様とヒルデブラント王子ですね。
ハンネローレ様と一緒にエグランティーヌ様さまにお久しぶりの挨拶をします。
エグランティーヌ様がここにいるのは、領主候補生の講義を担当するためだそうです。
あの妻大好き王子ことアナスタージウス王子が良く許可しましたね。
この御二方が図書館にいるのは王族の魔術具の登録変更になるので、王族が立ち会うことになるとのことです。
それならヒルデブラント王子だけでいいのではと思っていると、ヒルデブラント王子がほんの少し不満そうに、言ってきました。
「立ち合いは私だけでいいと言ったのですが、エグランティーヌ様が同席を希望されたのです。」
お目付け役が付くのは不満ですよね。わかります。私も同じなので勝手に単独行動をとっているわけで。
新しく来た上級司書はオルタンシアというそうです。初めましての挨拶をし、あるじの権限を移すためにシュバルツとヴァイスに命令します。
「シュバルツ、ヴァイス。オルタンシアに主の権限を移します。」
「わかった あるじ」
「オルタンシア ひめさまけんげんをふよした」
えっと、姫さま権限の付与?よくわかりませんが主の交代ということでいいんだよね。
「やはり、前回とは違いますね。前回は、きょかでた、とうろくする。と言っていたはずなのですが。」
そのあと、前回と同じならしばらく私が魔力供給をしなければ主の座が変わるとのことです。
「ではわたくしも供給しない方がいいのですね。」
ハンネローレ様が少し寂しそうです。
「ええ、よろしければ主が交代した後にまた協力をお願いしますね。」
私一人では大変ですからとオルタンシアが言います。協力者の権限がとられないでよかったですね。その後、貸し出していた魔石が不要になったので返してもらいます。
ヒルデブラント王子が魔石について気になったようで質問し、ソランジュ先生が魔術具を動かすために私から借りていた旨を話します。
「春から秋にかけては動かなくても問題はなさそうですが...。」
まあ、あまり問題はないけど。この魔術具は私には変な態度をとるけど、他の人には愛嬌を振りまいているから動いている方がいいのです。
「ヒルデブラント王子は、お一人で作業をされることがないのでわからないかもしれませんが、このような魔術具でも動いていると救われることがあるかと存じます。」
一人でずっと作業は寂しいですからね。研究に没頭する場合は違いますし、一人が好きですがやはりずっと一人だと寂しいものがあります。
「ヒルデブラント王子もわたくしが差し上げたシュミルの魔術具が壊れてずっと動かなくなったらふとさみしくなる時が来るかと存じます。」
「確かに動かなくなったら嫌ですね。あの子にはずいぶん癒されました。」
そう言っていただけると、あげた側としてはうれしいですね。
「ローゼマイン様、シュミルの魔術具とは何のことですか。」
エグランティーヌ様が気になるようです。エグランティーヌ様がいたときには作っていなかったですからね。
「背中にしょっているこの子たちのことですわ。」
そう言うと私は背中のシュミルの魔術具を降ろし迷彩を解除します。2代目アインには、ただの布に見えるよう迷彩機能を追加しました。
実はツヴァイがいたお隣はレッサー君2匹を引っ付かせているのですがそちらは隠したままにしておきます。
「これは...。驚きました。大きさは小さいですがシュバルツとヴァイスにそっくりですね。」
「ええ、参考にさせて頂きました。機能としては足元にも及びませんが持ち物を運んでくれるだけでもわたくしとしてはありがたいです。」
「ええ、ローゼマインが作ったこの子たちは、とてもすごいのですよ。今は私の部屋にいますが、一緒にいると気が付いたら欲しいものを言わないうちに運んでくれたり成長するようです。」
しまった!ツヴァイは魔剣に意志を持たせる原理を利用した実験していたのですが、その機能を切り忘れていたようです。
まあ、悪い方向に作用しないでしょうから放っておきますか。ほとんどおもちゃみたいなものですし。
「ローゼマイン様、触ってもいいですか。実は去年からずっと気になっていて。この子たちも動くのですね!」
「ええ、どうぞ。ハンネローレ様。」
気になっていたのなら言ってくれればいくらでも触らせてあげたのに。
一緒に来ていた王族の関係者も興味津々のようです。あとでヒルデブラント王子に頼んで調べようとか話している声が聞こえます。
その後は、簡単なお茶会的なものになって本の話や、去年の私の研究の話などになって無事に終わりました。
週明けに領主候補生の専門講義が始まります。
講師は図書館で言っていた通りエグランティーヌ様です。王族が講師ってよく考えたらすごいですね。
お隣は...わあい、ハンネローレ様ですね。
「ハンネローレ様、ごきげんよう」
「ローゼマイン様、ごきげんよう。」
講義は礎の魔術の扱いだそうです。領地を模して小型化した魔術具ですね。魔術具にたくさんついている魔石に魔力を通せばいいそうです。
「エグランティーヌ先生、終わりました」
この程度の魔力なら、何度かやるのを手伝わされたエントヴィッケルンと比較にもなりません。
「もう終わったのですか。まさかこの短時間で染めてしまうなんて...。」
さっさと次の課題へ入らせてもらいます。
「次はこの流れですと金粉と設計図でしょうか。よろしければ次へ進みたいのですけど。」
「ええ、それにしても手馴れていますね。まるで何度もエントヴィッケルンをやったことがあるかのようですね。」
まあ、準備はしたことがあります。設計図以外はほぼ一人で...。この後、金粉の準備と設計図を作り、次へ進みたかったのですが...。
「闇の神と光の女神の名を教えるための準備ができていないのでここまでですね。次回は実際に色々と行いましょうね」
準備が大変でしょうから仕方がありません。諦めます。
ちなみに私の設計図は神殿を中心に研究所とか図書館とか農地用の敷地を設定したり用水路なども設計しています。知識の集積と、おいしいお米を作ることを目的とした研究都市のようなものですね。
午後は奉納舞です。
始まる前にダンケルフェルガー御一行が私のもとに来ます。
お茶会の予定などを話し合っていると、ディートリンデ様と話していたレスティラウト様がこちらに来ます。
「其方、面白い髪飾りをしているな。ちょっと見せてみろ。」
「お兄様、女性の飾り物をそのように見るのは失礼ですよ!」
あはは、私は別に気にしなけどね。
「飾りに見せた魔術具ですわ。図書館のシュミルの技術を利用応用して魔法陣も糸で刻んであるのですよ。」
「エーレンフェストの髪飾りとそっくりだな。試しにヴィルフリートに頼んで注文してみたがどうなることやら。」
わあお、もしトゥーリにお願いされてたら大変だね。頑張れとしか言えないけど。
「あら、ローゼマインは貴族院へ上がってすぐ同じような髪飾りをしていてよ。どちらが真似たとかそういう話ではないですわよ。」
ディートリンデ様も来ました。
「わたくしもエーレンフェストに髪飾りを頼んだので今度のお茶会が楽しみですわ。」
「ほう、其方も考案したのか。」
「ええ、どちらが頼んだ髪飾りが素晴らしいか。楽しみですわね。」
「ああ、楽しみだな。」
なんか、ははは、うふふという暗い笑い声が聞こえてきそうです。
喧嘩ばっかりだよね。この二人が闇と光の神の役とか大丈夫なのでしょうか。
そんななんだか腹の探り合いのような話にハンネローレ様と一緒に疲れてきたころに先生方がやってきました。
エグランティーヌ様がお手本を見せてくれるとのことです。
一つ一つの仕草がきれいですよね。アナスタージウス王子もエグランティーヌ様のお相手は大変だっただろうな。
所作からして明らかに飛びぬけてきれいです。
舞もきれいですね。指先まで完璧に神経を研ぎ澄ませて動かしているようです。
ディートリンデ様は、エグランティーヌ様の舞が好きではないようです。
「すでに卒業している方が舞うなんて冬の神の後押しをする混沌の女神のようですわね。ローゼマインもそう思いませんこと」
とか言っています。
「ディートリンデお義姉、エグランティーヌ様は先生としてのお勤めをはたしているだけです。」
お勤め大事だよね。わたしなんてほとんど契約で動いているだけだものね。
「今はエグランティーヌ様のことよりも、これからやるディートリンデお義姉様の舞を期待しておりますね。」
おーほほ、見てなさいと言った感じで学年別の練習場所へ向かっていきました。
さてと、祝福飛び散らせるのは確定しているので、地面に魔法陣を書いたシートをひかせてもらってと。
「ローゼマイン様、その地面の魔法陣は何ですか。」
「エグランティーヌ先生、祝福対策です。周りに迷惑をかけるわけにはいきませんので。」
この魔法陣は、貴族院の魔力を吸収する魔法陣に連結しており、祝福が出たそばから吸収する魔法陣です。
これをひいておけば、建物中に祝福を飛び散らすという過去の過ちは起こさないでしょう。
ハンネローレ様の我は世界を創り給いし神々に祈りと感謝を捧げる者なりから奉納舞が始まります。
そもそも奉納舞って神々に魔力を奉納するために生まれたのに魔力を奉納しないで踊ることが正しいのでしょうか。つまり、私のように祝福を出して踊るのが正しいなんてことは言えません。
今回はいい感じです。ゆったりとした服を着ていますから足元が光っていますが以前ほど目立ちませんね。
何とか今年は無事に終わりました。まったく目立ってなかったとは言えませんが以前ほど祝福が飛び散ったわけではないので問題はありません。
周りも慣れたのかそこまで注目されていない気がします。結果も無事に合格をもらえて良かったです。
次の日は領主候補生の最後の講義です。
お隣のハンネローレ様と話しながら始まるのを待ちます。
「ローゼマイン様、オルタンシア様からシュヴァルツとヴァイスの主を変えることができたと連絡をいただきました。」
「もう変更できたのですね。それは良かったです。」
「ええ、今日は無理だと思うでしょうけど、明日時間があれば行ってこようかと思います。」
そんな話をしているとエグランティーヌ様がやってきて講義が始まります。
私は奥の魔法陣がある小部屋に通されます。おお、最高神の真名を授かる魔法陣ですね。最高神の名前はみんな違うので教えてはいけないなど注意を受けます。
最高神の真名は、一人一人の魂に紐づいた神の加護を受け取るため、誰かに教えてしまうとその紐が切れてしまうようです。光の神様と闇の神様はとっても恥ずかしがりやですね。
「我は世界を創り給いし神々に祈りと感謝を捧げる者なり」
魔法陣を一気に満たします。なんだか感触が悪いので魔力を一気に大量に通していきます。
頭の中に直接闇と光の神の名前が刻み込まれるのですが、うまく言語化できません。
基本的に神の名は魂に紐づくので言えない言葉がなるなんてありえません。
かすれているというか、以前のグルトリスハイトの取得時にあったウラノの世界のラジオの電波がうまく受信できていないような音が混ざります。
何度か、闇と光の神の名前を言いなおし更に魔力を注入して魔法陣を起動させます。
起動した後に、シュタープが勝手に出てきて薄い透明な黒と金色の光がシュタープに吸い込まれます。グルトリスハイトを得たときに回った祠の現象に似ていますね。
ここまでやって、やっと変な音がなくなり頭にはっきりと名前が思い浮かびますがやはり異常に発音しにくい名前です。
シュタープは少し変わった気がしますが以前の祠で回った時のように変わったという感じはありませんでした。
その後は、戻ってからエントヴィッケルンを行い街を作りエグランティーヌ先生の箱庭とくっつけて領界門を作ります。
あ、まずい。と思ったときにはグルトリスハイトの知識で相手の領地に強制介入をやってしまいました。本当は境界門を作るには両者の許可が必要なのですが、勝手にこじ開けるかのように設置してしまいました。
実際の門では使う魔力量が違うので簡単にはできませんがこの程度の規模なら簡単ですね。
「あら、許可を出しましたっけ。まあいいでしょう。これほどの魔力をこの魔術具に込められたことはないので確かめてみなければなりませんね。」
とりあえず問題になることはなくあっさりと合格できました。ここまでは、すべてが順調ですね。
ようやく私にも幸運の女神グライフェシャーンと時の女神ドレッファングーアのご加護が少し効いてきたのでしょうか。