マインオブザデッド   作:dorodoro

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69話 閑話 レティーツィア後半

お姉様が来てくれるということになって、朝から勉強が身に入りません。

 

でも、失望させたくないので頑張って学びます。

 

その後、やっぱり楽しみであまり手につかなくなってしまったので休憩しているとお姉様がやってきました。

 

「今日から臨時で教えることになりましたのでよろしくお願いしますね。」

 

どんなことを教えてくれるのでしょうか、楽しみです!

 

お姉様は教えるための資料とかは持ってきておらず、私の使っている資料をさっと見て私が先ほどまで勉強していたところについて問題を出してきます。

 

私の答えを聞いて、補足等を話してくれて、その後に他の所はどのように勉強しているのか聞いてきました。

 

使っている資料などを出し説明すると、いろいろ質問形式で問題を出してきました。

 

もっと難しいことを聞かれるかと思いましたが、そこまで難しいことは聞かれませんでした。

 

ただ、様々な教科を全体的に聞いてきていたので苦手な科目とかを把握したかったのでしょうか。

 

一通り質問は終わったらしく、何か勉強で分からないことはありますかと聞いてきたので、いろいろ質問しました。

 

お姉様その一つ一つに丁寧に答えてくれます。とってもわかりやすくて驚きました。

 

専属の教育係のお爺さんと同じか、それ以上に分かりやすかったです。

 

その分説明が少し長くなる場合もありましたが。

 

いろいろ聞いた後にお姉様が疲れてきたでしょうと言ってお菓子を出してくれました。

 

素朴な味ですが、香辛料が入っており変わった味がします。

 

まだ、香辛料には慣れきっていないのですがこれは非常においしく感じました。

 

香辛料ってお菓子にも使えるのですね。

 

「香辛料を使ったお菓子とは初めて食べました。」

 

「珍しいでしょう。わたしがお遊びで作っただけなのだけど。」

 

「お姉様が自ら作ったのですか!」

 

驚きました。貴族が厨房に入るなんてことはあり得ないので料理をするなんてことはありえません。

 

お姉様曰く調合の訓練になるからついでに作っているとのことです。

 

魔術具だけでなく作ることがお好きなようです。なんてここまでは穏やかな雰囲気だったのですが。

 

「皆様はやはり止めないのですね。」

 

止めるって何を止めるのでしょうか。お姉様が何について言っているのかすぐには分かりませんでした。

 

なんでも私たちは毒に対する警戒が低すぎるとのことです。

 

なんでも普段から警戒している養父様と養母様も以前は毒を受けていたとのことです。

 

初めて知りました。養母様は毒のせいで常に健康状態が悪かったとのことです。

 

私だけが知らされていないのかと思ったのですが、側近全員とも知らなかったようです。

 

「アーレンスバッハは、ドレヴァンヒェルのように平和で安定している領地ではございません。アウブですら毒を防げない事態に陥るほどです。必要なら毒殺程度どなたでも仕掛けてきます。今までご無事で本当によかったです。」

 

私はとんでもない領地に来てしまったようです。毒を入れられるなんて今まで考えたこともありません。

 

その後、お姉様の話が続きます。

 

「などと偉そうなことを言っていますが、わたくしもできませんので少しづつ身に付けていけばいいと思います。」

 

お姉様でもできないことがあるのですね。少し安心しました。人を見る目を養って、人の意見を聞けるアウブになってほしいということですね。

 

「わたくしのようなものも信頼してはいけませんよ。」

 

え、お姉様は何を言っているのでしょうか。

 

これだけいろいろ良くしていただいているお姉様を信頼できないのなら、ロスヴィータとゼルギウス以外信頼できそうにありません。

 

「あら、わたくしのように経歴の裏もとれないものを、いえ、仮にとれたのならなおさら信じてはいけないということがわかるでしょう。」

 

お姉様の過去には何やら秘密があるようです。

 

そんなことよりも、敬愛するお姉様に信頼するななんて言われるとは夢にも思っていませんでした。

 

「私達は姉妹ではありませんか。寂しいときはお姉様に頂いたシュミルや洗礼式の祝福を思い出したりするのが心の支えになっているのですよ。そんなよくしてくれるお姉様を疑えと。お姉様は本気でおっしゃっているのですか。」

 

なかなか土地になれなくてつらい時の支えはいつもお父様とお母様の手紙や声、そしてあの美しい祝福の光景でした。

 

「打算かも知れないでしょう。あなたは次期アウブになるためにアーレンスバッハに連れてこられました。アウブ最有力候補にすり寄ろうとしているだけかも知れませんよ。」

 

打算!?そんなものあるわけがありません。お姉様が私に対してする意味がないのです。仮に打算があったとしてもここまでいろいろしてくれる理由にはなりません。

 

「支持者をたくさん得ていて、なろうと思えばアウブにだってなれるお姉様が、そのようなことをする必要があるのですか。」

 

まったくありません。お姉様が本気になれば次期アウブになることは難しくないと思います。

 

熱狂的な支持を多数の方から受けており、冬の社交場では、そのおかげで妹である私にも皆様いろいろ良くしてくれます。

 

確かに次期アウブの有力候補として接触してきている方もいますが、ほとんどの方はそれだけでは説明が付きません。

 

「私の支持などあってないようなものです。あったとしてもそれは私という人間を知らず勘違いをされているだけでしょう。」

 

少し寂しげにお姉様は言います。その言葉でわかりました。お姉様はどれだけの人が気にかけお姉様のために動こうとしているか全くわかっていないのです。

 

いえ、そうではありません。もしかしたら過去の秘密とやらのせいで、わからないもしくはわかりたくないのかもしれません。

 

この間のリグセーレの解読結果が本当なら他領から来た可能性もあるわけですし、理不尽な契約を結ばされているのなら信頼したくても信頼できないというのもわかる気がします。

 

「お姉様は何をそんなに恐れているのですか。」

 

根底にあるのは、人と深くつながりたくない、迷惑をかけたくないというような気持ではないでしょうか。

 

迷惑をかけたくないという気持ちはわからなくもないのです。わたしがお姉様のことをどこまでわかるかは不明ですが。

 

「私が恐れているですか。レティーツィアは私が何に対して恐れていると思いますか。」

 

「ええ、お姉様は信頼をされるとか、なんというか繋がりを持つことを恐れているように感じます。噂の契約について何か関係があるのですか。」

 

そう言うとお姉様はわずかに驚いた表情になります。すぐにいつもの表情に戻りましたが。

 

「契約についてもう知っているなんて、レティーツィアのご両親からですか。」

 

本当に契約があるようです。リグセーレの解読結果があっていたということですね。

 

「そうです。お姉様のことをわたくしの両親もとても心配しておりました。」

 

心配したからあのような手紙を送ってきたと信じたいです。正確なところはあの手紙からは分かりませんでした。

 

「あら、そんな簡単に教えてはいけませんよ。と言ってもそれが嘘か本当か疑心暗鬼にさせられるくらいなら問題はありませんが。」

 

わたしも初めはお姉様に信頼するなとか言われてショックでしたが、話しているうちに落ち着いてきました。

 

あらためてお姉様を見ると、表情はいつものままあまり変わっていないようですが、どこか悲しそうな雰囲気があるのに気が付きます。

 

「お姉様、他の話へ持っていってごまかさないでください。」

 

どのような契約を結んでいるのでしょうか。領主候補生になっているくらいだからそこまでひどいものとは思えませんが。

 

「ねえ、レティーツァアは本当にこのアーレンスバッハでアウブになることを望みますか。」

 

結局、答えてはくれませんでしたが、先ほどのごまかそうという感じはなく真剣な質問の様です。きっと先ほどの答えに関わってくるのでしょう。

 

「先ほどお姉様が言っていた通り私はアウブになるためにここへ来ました。」

 

そんな気持ちは来た時はありませんでしたが、お姉様がいてくれたおかげでこの地で頑張ろうと思いましたし、来た以上はアウブになるのが私の役目です。

 

「あなたにその意思があるのならいいのです...ディートリンデ様も私の前ではっきりとアウブになると宣言していました。アウブになることは大変ですよ。」

 

ディートリンデ様なら確かにアウブになると言ってもおかしくない気もします。

 

そこでお姉様の雰囲気が柔らかいものへ戻りました。

 

「ふふ、レティーツィア。ごめんなさいね、正直今からでもあなたはドレヴァンヒェルに帰ってあちらで貴族になった方がいいと思うけどあなたの意志が固いようで安心したわ。」

 

お姉様は、やはり私がドレヴァンヒェルから引き離されたことをとっても気にしているようです。

 

お姉様も引き離されるかのようにアーレンスバッハへ来たのでしょうか。聞きたいですが本当に他領にいたのか分かりませんし聞きにくいです。

 

「お姉様、信じるなとか悲しいことを言うのはこれっきりにしてくださいまし。わたくし敬愛するお姉様が自分を卑下するようなことを言うのに対して怒りが収まりません。」

 

私は怒っているのですが、お姉様は少しうれしそうな表情になった気がします。

 

「ありがとう、レティーツィア。疑うことは信頼できる側近がいるのだからある程度任せられるなら任せてしまってもいいですし、この話はやめましょう。わたくしもこういうことには向いていないようです。」

 

やっぱり、無理をしていたようです。無理をしてでも話さなければならなかったということでしょうか。

 

私がもっとしっかりしていればお姉様にこのようなつらい話をさせないですんだのでしょうか。

 

その後両親の話になって、いろいろ話します。

 

「両親とのつながりは大切ですからね。大事にしてくださいませ。」

 

最後に言った時のお姉様の表情はここではない遠くの懐かしいものを見るような目でした。

 

私はお姉様の両親のことを聞きますが、神殿にいたとしか言ってくれないので思い切って聞いてみました。

 

「...お姉様、お聞きしていいですか。お姉様は本当にアーレンスバッハの神殿でずっと生活をしていたのですか。」

 

神殿にずっといたとすると、エーレンフェストの神殿から、アーレンスバッハの神殿へ移されたのではないかと考えました。

 

それなら、エーレンフェストの神殿について詳しいことも説明が付きますし、神殿の者が他領へ交流のためにわざわざ出るというよりも余程説明が付きます。

 

「レティーツィアがアウブになったらその時に嫌でもわかりますから、知りたかったらがんばってアウブになってくださいまし。」

 

やっぱり相当な秘密があるようです。

 

「わかりました、お姉様の秘密を知るためにもわたくしアウブになります!」

 

お姉様がアウブにならないのなら私がアウブになりたいと心から思いました。

 

 

 

 

その後も時間を見つけてはお姉様は教えに来てくれました。

 

お菓子もカステラとか練りきりとか見たことも聞いたこともないお菓子をいろいろ持ってきてくれて、毎回楽しみでした。

 

あのような話は最初の時だけで後はいろいろ教えてくれます。

 

魔術具や薬の調合なども教えて貰いました。

 

 

 

 

後は礎への魔力の奉納も一緒に行いました。今まで以上に魔力を持っていかれ倒れそうになりました。

 

礎は始める前から魔力がかなり満ちているようだったので、礎に魔力がない状態で奉納したらどうなっていたのでしょうか。また、神事を体験していなかったらもっと大変だったでしょう。

 

神事についてもいろいろ教わりました。

 

昔の神殿では、次期アウブになると目されていた領主候補生が神殿長の役職についていたそうです。

 

理由があるのか気になったので聞いてみましたが、理由はありますが、神殿長として言ってはいけないことになっていますのでごめんなさいねと言われてしまいました。

 

わたしも、もっと神事に参加してお姉様の元で神事を学んだ方がいいのではないかと思いました。

 

 

 

 


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