私はレティーツィアと言います。
大領地ドレヴァンヒェルから春の終わりにアーレンスバッハへ来ることになりました。
本当はもっと早く養子縁組を行い、アーレンスバッハへ行く予定だったのですが、おばあさまの健康の問題もあり私が危険な状態になるのではないかということもあってお母様が猛反対しており、予定より2年以上も延びてしまいました。
正直、行くのが正式に決定してから安定してきたと言ってもそんな状態になるような領地へ行きたくはありませんでした。
お父様とお母様と離れるだけでもつらいのに住み慣れたドレヴァンヒェルから離れたくはありません。
「レティーツィア、ごめんなさい。でも今回はアウブ直々に言われてしまっては逆らえないのよ。ですが、おばあさまの健康も無事に持ち直したし、今までは情勢も危なかったようだけど、もう大丈夫になったから安心して送り出せますわ。」
「お母様、どうにもならないのですか。わたくし不安で仕方がありません。少し前までわたしが行ったら危険な状態だったのでしょう。」
無駄だとはわかっていますが、不安は無くなりません。ドレヴァンヒェルの自慢ではありませんが貴族が危険な状態になるなんて考えられないのです。
「貴方のおばあさまは、健康になりさえすればとっても頼りになる方ですわ。あと、あなたの姉になるローゼマイン様はとても優秀で慈悲深い方とのことですから何かあれば二人を頼りなさい。」
新しくお姉様になるローゼマイン様は、貴族院1年目で最優秀を取られたとのことでとっても優秀なのだそうです。
彼女の魔術具や魔法陣の知識は、一年生でありながら他領であるドレヴァンヒェルでも有名になるほどで、アウブ自らぜひともドレヴァンヒェルに迎えたいと婚約をアーレンスバッハに打診するほどの方なのだそうです。
ただ、神殿より引き取った関係で、貴族院入学前から神殿長として勤めているとのこともあり、基本的には城にはおらず神殿にいる変わり者との評判もあるようです。
神殿なんて親のいないものが行くところで、ドレヴァンヒェルでもいい印象はありません。
他には、体がとても弱いらしく寝込むこともよくあるとのこと。
優秀なのはわかりましたが、そのような変わった方が新しいお姉様になるなんて不安でしょうがありません。
私がアーレンスバッハに行く前にわざわざアウブが訪ねてきました。要件は私への激励とぜひともローゼマイン様について両親を通じて知らせてほしいとのことでした。
姉妹になるので情報を調べやすいと思われたのでしょう。ですがわざわざアウブが会いに来て伝えることではありません。よほどローゼマイン様に来てほしいようです。
そこまでアウブに注目されているのなら悪い方ではなさそうと思うことにしました。
アーレンスバッハにつきました。春から夏に向けて厚くなってくる時期で蒸し暑いです。
お婆様、いえ、これからは養母様になるのですね。養母様を通してローゼマイン様に初めて会うことになりました。
「ローゼマイン様は養母様から見てどんな人ですか。」
噂がいろいろありすぎてどんな人なのかさっぱりわかりません。近くで見ている人に聞くのが一番でしょう。
「前情報を鵜呑みにせず、実際に会って話してみて判断して頂戴な。」
結局会うまで教えてもらえませんでした。どんな人なのだろう。変な人じゃないよね。
緊張だけでなく、期待と不安が入り混じりながらも、初めましての挨拶をします。
「水の女神 フリュートレーネの清らかなる流れに導かれし良き出会いに、祝福を祈ることをお許しください」
「許します。」
初めて会ったローゼマイン様は噂通りあまり表情が動かない方で、それでも少し表情をやわらかくして許可をくれました。
なんというか、お人形さんみたいな方ですね。ものすごくきれいというか作り物めいた方です。
「ローゼマインお姉様、ドレヴァンヒェルでも噂はお聞きしてます。会えるのを楽しみにしてました。」
不安もありましたが楽しみにしていたのは事実です。
「ええ、わたくしも楽しみにしてました。」
なんというか、きれいな声ですね。この方が新しいお姉様なのですね。
「ドレヴァンヒェルとは、文化も考えもまったく違い大変かと存じますが、できるだけお手伝いさせて貰いますのでよろしくお願いしますね。」
少し近寄りがたい雰囲気ですが、仲良くなれるといいと思いました。
この日は、挨拶しないといけない方がたくさんいてこれ以上話せませんでした。
挨拶周りが無事終わると養母様といろいろお話しました。
「レティーツィア、今日はどうでしたか。うまくやって行けそうですか。」
「お姉様がいい人そうで良かったです。うまくやっていけるかは分かりませんが養母様もいますし頑張りたいと思います。」
そう言うと養母様が少しおかしそうに笑いました。
「ローゼマインについて聞きたがっていたわね。実際少ししか話していないでしょうが悪い印象でなくてよかったわ。」
その後、ローゼマインについて聞きたいですかと聞いてきたのでぜひともお願いしますとお願いしました。
「実はあの子あなたをアーレンスバッハに来させるのに反対していたのよ。なんでだと思う?」
「わかりません、アウブを目指す領主候補生が増えると困るからでしょうか。」
私に対し養母様は、苦笑するかのような表情になります。
「それが、やっぱり神殿育ちだからですかね。生み親から引き離し、ドレヴァンヒェルのような平和な領地からアーレンスバッハのような安定していない土地に来させるなんてかわいそうだ。っていうのよ。あの子貴族としての義務とか常識とかには疎いのよ。」
来る前に私が思ったこととまったく同じことで心配してくれるとは思いませんでした。
「見たこともないあなたのことをとっても心配していたわ。私に対して養子に迎えるのはしょうがないですけどお母様はレティーツィアを引き取る以上絶対死んではいけませんと言うのよ。頼れる肉親がいなくなってしまったら大変じゃないかって。」
確かに健康面の不安で引き取るのが延期になっていました。そんなに見ず知らずの私のことを親身に心配してくれていたとは驚きです。
「ねえ、レティーツィア。あの子はいろいろ問題も起こすけど、アーレンスバッハにはもったいないくらい良くできた子なのよ。でも寄る辺を持たない子だから、あなたが仲良くしてくれると嬉しいわ。」
寄る辺を持たない子とは、住んでる地が心のゲドゥルリーヒでないとかそう言う時に使われる言葉だったはずです。
「ローゼマイン様のゲドゥルリーヒはここではないのですか?」
聞いた話だと、生まれてすぐ神殿に入れられ神殿で育ったと聞いていたのですけど。
「レティーツィアへ最初の宿題ね。いつかローゼマイン本人から聞きだせるほど信頼されるよう頑張りなさい。」
結局そのことについては宿題という形となり教えてもらえませんでした。
基本的に神殿に籠っているという噂は本当の様であまり城には来ていないようです。ただ何故か時々養父様の執務室や城の図書室に顔を出すようです。
さすがにアウブの執務室で何をしているのかまでは分かりませんでしたが。
結局次に会えたのは、アウレーリア様の星結びの儀式の時でした。
「レティーツィア、元気にしていましたか。」
神殿長の姿のお姉様も素敵です。ヴェールを被っているおかげもあって神秘的です。
「お姉様、はい、食事にはまだ慣れませんが環境には慣れてきました。」
「ふふ、食事は香辛料の使い方が特徴的ですものね。わたくしも慣れるのには苦労しましたわ。」
あれ、お姉様は生まれも育ちもアーレンスバッハなのに香辛料に慣れるのに苦労したってどういうことでしょう。神殿ではあまり香辛料は使われないのでしょうか。
なんとなく詳しく聞く気も出なかったので、困ったことを話すと親身になって聞いてくれます。
最後に神殿長のお勤め頑張ってくださいというと。
「わたくしの大変お世話になった大事な方の星結びなのですけど、両者のことを考えると成大に祝福を送れないのが悩ましいですわ。」
お姉様の祝福は、はじめてお会いした時に交換した祝福以外見たことがありませんが、祝福に盛大とかあるのでしょうか。
お姉様が壇上に立って祝詞を読み上げ祝福を結婚する二組へ送られます。
星結びでの祝福は初めてみましたがとてもきれいなものなのですね。
しばらく、あまりに奇麗な祝福にうっとりと余韻に浸っていると突然ローゼマイン様がアウレーリア様について話し出しました。
そしてシュタープを出し魔法陣を書き出します。
魔法陣について見たことは少しだけあっても、まだ学んでいないので、なにをしているのか全く分かりませんでした。
ですが周りの方から聞こえてくる話から推測するととんでもない魔法陣の様です。
魔法陣が曇天模様な空へ吸い込まれるように上っていき上ではじけたように美しい光を発するとランプレヒト様とアウレーリア様を中心に木漏れ日のように優しい暖かみのある太陽と祝福の混じった光が差し出し、やがて雲が晴れていき、いいお天気になります。
そう言えば、お姉様が始まる前に言っていました。盛大な祝福ができないと。
お姉様の言う盛大な祝福とは想像をはるかに超えてすごいものだと認識しました。
改めて、こんなすごい方が私のお姉様だなんて誇らしくなりました。
この後、ランツェナーヴェの使者をもてなす宴でも少しだけ話せましたが、顔色が少し青白く悪いように見えて、とても気になりました。
この時に本人は大丈夫と話していたのですが、案の定、この後お姉様が倒れずっと寝込んでいるという話になり長い間表に出てくることはありませんでした。
お父様とお母様にも手紙で連絡は取っており祝福の件から寝込んでいる件まで伝えると心配しているようでした。
私もとっても心配でしたが、勉強などいろいろやることがたくさんあるので手一杯です。
でも、あまりに寝込んでいる期間が長くなると更に心配になったので養母様に聞いても寝込んでいるとしか教えてもらえませんし、ロスヴィータ達に調べてもらいましたが全く分からないとのことでした。
まさかとは思いますが、あの祝福のせいではるか高みに上ったとかありませんよね。
そのような心配も洗礼式のお披露目会で顔色の良くなったお姉様に会えたことで晴れました。
「ローゼマインお姉様、倒れたと聞いてとても心配してました。」
お姉様と再開の挨拶をした後に伝えます。本当にとっても心配したのですから。
「ありがとう存じます。レティーツィア。倒れたわけでなくユレーヴェは前から浸からないといけない状態だったのを引き伸ばしていただけなのです。」
ユレーヴェに浸かっていたって、ユレーヴェに浸かれば何日かでよほどの重症でない限り起きられるものなのに半年も浸かっていたなんて聞いたことがありません。
「半年近くもユレーヴェに浸からないといけない状態で今まで大変なお仕事を。」
なんでお姉様はそこまで無理をして神殿長としてのお勤めをはたしていたのでしょうか。
普通の方でしたら、そのような状態なら動くだけでも大変なはずなのに。
半年も寝ていた割には、普通に動かれていました。筋肉とかも落ちているはずなのに何も変わりません。
もしかしたらものすごく無理をしているのかもしれませんが表情からは読めませんでいた。
「星結びの祝福は凄かったです。今回もあのような祝福を行うのでしょうか。」
「さすがに最後のは無理ですよ。わたくし自身が現象を見ていないので断言できませんが、そこまでは期待しないでくださいね。」
お姉様は見ていないとのことです。見ていないってことはもしかして儀式直後に何かあったってことでしょうか。
この場で聞くことでもないのでこの日のために頑張ってきた私を見てもらいたくて宣言します。
「お姉様の祝福に負けないよう頑張ります。」
お姉様は、少し驚いた表情になった後、なんといいますかここではないとても遠くを見ているような目になりました。
「ええ、わたくしもお勤め頑張りますね。」
お姉様は、やっぱりよくわからない不思議な方です。
その後は圧巻でした。
洗礼式は両親のもとで受けた後アーレンスバッハに来たのですが私の場合は本当に小さな祝福を受け祝福返しをしただけで終わったのですが...。
何なのでしょうか、いえ、あのような祝福を送るお姉様にとっては普通のことなのでしょう。
両親と子供に祝福を振らせていました。
それだけでも驚きなのに貴族のメダル登録を行う儀式では、会場全体に祝福を降らしだしました。
ええ、初めは何が起こっているのか分かりませんでした。周りの大人たちは慣れているのか普通に見えました。
お姉様が行うとこれが普通なのでしょう。いえ、私が知らないだけでもしかしたら他領ではこれが普通で祝福とは本来こういうものなのかもしれませんが。
何人もいるのに全員に同様の祝福を送っています。私が仮にやろうとしたら一回すらできないかもしれません。
最後に私の番になります。うっすらとお姉様がほほ笑んでいるように見えます。
祝福を出す前に小さくうなずいているように見えます。方角からして養父様に何か確認を取ったのでしょうか。
その後、今までの中で一番大きな祝福が吹き乱れました。冬の貴色を中心に七色の祝福が降り注ぎます。
終わった後、あまりの光景に驚きましたが何とか祝福を返すことができました。
その後は音楽の奉納になるのですがこっそりお姉様が神官長と思われる方を手招きをしていました。
何やら危なげな足取りで戻っていったので少し心配になりました。結局この後お姉様は戻ってくることはありませんでした。
演奏は頑張ったのですが見てもらえないでとても残念です。
お披露目会にはお父様とお母様が来てくださって、帰る前に会うことができました。
「ローゼマイン様があなたの演奏がとてもよかったと伝えてほしいと言っていましたよ。祝福も素晴らしかったですしアウブが絶対に欲しいというのもよく分かりました。」
お姉様は表にいなかったようですが近くで聞いてくれていたようです。
真剣に演奏しておいてよかったです。
「あとこれはローゼマイン様から、こんなものを作れるのにまだ貴族院一年生とか信じられないわね。うちの者たちでもこれほど効率よく小型化した声を封入する魔術具なんて作れる者がいるのかしら。」
そう言って、シュミルの人形のおなかの魔石にてを当てるとお母様の声が出てきます。
「すごいです。これをお姉様が作ったのですか。」
「本人はだれが作ったとか言ってませんでしたけど、魔術具について詳しく話してくれたのでおそらく作ったのはローゼマイン様だと思うわ。」
お姉様はすごすぎます。いったいどのように勉強したらこのような魔術具を作れるようになるのでしょうか。
「ちょっと気になるところもあるけど、あなたの為にこのような魔術具を用意してくれるなんて、よほどあなたのことを気にかけてくれているようね。あのような子がいるのならあなたを安心してアーレンスバッハに預けられるわ。」
久しぶりに会えた両親と離れるのは悲しいし、ドレヴァンヒェルへの懐かしさもあるけど、お姉様に少しでも近づけるようにこの地で頑張ろうと改めて思いました。
お姉様に少しでも近づきたくて勉強に力が入ります。
冬の館で、初めて顔を合わせる人たちばかりでしたが領主候補生として恥ずかしくないように頑張ってみんなの名前を覚えました。
側近もロスヴィータとゼルギウス以外にもたくさん増えて性格とか把握するのが大変です。
でも皆様いい人ばかりなので大丈夫そうです。
冬の館でお姉様に会えるかもと期待していましたが行く前に少し会えただけですぐに貴族院へ行ってしまいました。もっといろいろお話したかったです。
私の知識は他の子達よりもかなり進んでいるようで、勉強は別授業になることも多くなりました。
そんな時にお姉様が先に貴族院から戻って来たとの知らせが入ります。
貴族院での勉強もこなして神殿では神殿長としての儀式もこなしてお姉様は体がそんなに強くないはずなのに大丈夫なのでしょうか。
何か私にもできることがあればいいのですが、と相談すると。
「今は勉強して少しでも成長することが優先ですよ。」
とゼルギウスに言われてしまいます。
その後私の祈りが届いたのかわかりませんが、奉納式に参加しなさいという養父様より通知が来ました。
ロズヴィータ達は、領主候補生である姫様を神事に参加させるのですかとまどっていたけど、私はそんなことよりもお姉様に会える楽しみの方が上回っていました。
お姉様からも服装から儀式当日の確認の知らせが入りました。
儀式の約束の日の当日、お姉様はわざわざ冬の館まで迎えに来てくれました。
お姉様の騎獣はとっても変わった形で中に乗り込めるようになっており私とロスヴィータとゼルギウスを中に乗せます。
他の方は護衛として自分たちの騎獣に乗ってローゼマイン様の周りを警戒します。
お姉様が神殿に思うところがないのかいろいろ聞いてきます。
確かに以前でしたら絶対嫌でしたがお姉様がいて大事にしているところが悪い場所なわけがありません。
ただ、とっても気になることを言っていました。
今のアーレンスバッハはエーレンフェストとアウレーリア様の星結びで多少は改善したと言っても、とても仲が悪いのですが以前は神殿に限って言うと、とても仲が良かったようなのです。
仲がいいもの同士が政治で裂かれるなんて悲しいですね。
お姉様は交流の関係でエーレンフェストの神殿に行ったことがあるらしく、如何にエーレンフェストの神殿文化がすごいか説明してくれました。
あれほどの祝福を送るお姉様がすごいというのですから、きっとエーレンフェストの神殿はとんでもないところなのでしょう。
移動しだすと、あっという間に神殿に着きます。神殿に入ろうとすると最初に目についたのが入り口あるかわいらしい像でした。
気になってお姉様に聞いてみるも、何の神か分からないようです。
神殿長で話や噂などで聞いている限りではとても詳しいはずのお姉様でも知らない神がいるのですね。
お姉様は、他領や外国の一部でのみ信仰されている神かも知れないけど調べてもわからないのですと、困った顔で言います。もしレティーツィアが知っていたら是非教えてほしいとのことです。
見た瞬間から何か引っ掛かりを覚える像でしたが私が改めて像を良く見直すといきなり閃きました。
たぶんそういうことだろうなということは分かりましたが断言はできないのでお姉様にはわからないと言っておきます。
私の推測があっているのなら、お姉様には絶対に分からないと思います。
神殿には思った以上に人がおり青色神官だけではなく、貴族の方達まで青色神官の服を着て儀式を行っているのに私達は驚きました。
神殿に出入りしているなんて、ドレヴァンヒェルでは何か訳ありなのだろうとか疑われてもしょうがない行動です。
アーレンスバッハでは、思った以上に神事が浸透しているようです。
その後、初めての神殿の儀式に参加しました。
奉納式では儀式をしている方全員が繋がっているような一体感が生まれ魔力が小聖杯に満たされいき、その魔力が美しい光景を作ります。
お姉様がなぜここまで神殿にこだわるのか少しだけわかった気がします。
そのことを伝えると、お姉様は少しうれしそうなやわらかい表情になりました。
ただ、神殿の印象はまだ悪いものが多いそうで外で話すときは気をつけなさいと注意を受けました。
お姉様とこのような一体感を感じる儀式に参加できたのにみんなに自慢できないなんて少し悔しいです。儀式が終わると颯爽とお姉様は貴族院へ戻っていきました。
冬の社交界でも挨拶ができていなかった方への挨拶のためなど、たまに出席をしました。
お姉様はほとんど社交界へ出てこないようですが、話題が出ない日はありませんでした。
中には神殿の関係や倒れていた関係で陰で悪く言う方もいるようですがいい評判の方が多いです。
領主候補生なのに神殿に入れられてかわいそうだとか言っている人もいましたがお姉様はきっと城よりも神殿の方が落ち着くのでしょう。
奉納式の時に見た光景や感覚が忘れられなくて神殿の儀式に興味がわいてきました。
私の側近にリグセーレという少し神事に詳しい女性の護衛騎士がいていろいろ教えてくれます。
なぜそんなに神事に詳しいのか聞いてみると、ローゼマイン様に返しきれないほどの恩があるため、何か少しでも役に立ちたいと思い必死に調べたとのことです。
お姉様の側近にはなれなかったのですかというと、言葉を濁されます。
「ローゼマイン様のためにもローゼマイン様が大切にされているレティーツィア様のお役に立たなければなりません。」
私はお姉様に大切にされているとのことです。あまり会えないのは残念ですがいろいろ便宜を図ってくれているようです。
春になり祈念式という儀式があるとのことでぜひとも参加したいと養父様にお願いの手紙を出しました。
すると領主一族として動いていると分かる格好で参加するなら構わないとの返事をもらいました。
奉納式は隠す方向でおこなったのに今度は隠さなくていいのでしょうか。
そのことをお姉様に知らせるとアウブに事情は伝えておくので汚れてもいい動きやすい格好を優先してくださいとのことです。
向かってみればわかりました。貴族街と違って石畳や芝生のない地面は沈む所も多く、石に足を取られたり散々です。
お姉様の忠告に従って正装して来なくてよかったです。
祈念式では、人がたくさん集まっていました。服はみずぼらしい者が多いのですがみんな目が輝いており活気に満ちています。
お姉様が最初に聖杯に魔力をある程度満たし、その後一緒に再度魔力を奉納します。
お姉様は次の所へ向かうとのことで、私もついていきたかったのですが護衛や私の体の負担も考えて一日一回までになっています。
次の日に、ほかの所で合流し儀式を行います。今度は最初に込める量を減らしたようで少しきつかったです。
ですが、一回だけなら最初からお姉様と一緒に奉納しても大丈夫そうです。
私の顔の色があまり良くないように見えたのか、念のため一日開けて奉納を行うことになりました。
私はできると言ったのですが、無理するところではありませんとお姉様に言われては仕方がありません。
お姉様は、魔力の奉納をしなければならない一番大変な直轄地を一人で担当して回っているので大変そうです。一日3から4カ所回っているようです。
お姉様に言わせれば素材回収のついでに魔力を奉納しているだけだと言いますが、お勤めに加えて他の作業も行うとか、いったいどれだけの魔力を持っているのでしょうか。
城から直接日帰りで行ける範囲を考えると最後になりそうです。
最後なら、最初から一緒にやってみたいとお姉様に言うとちょっと困った顔をされました。
確かに体に負担がかかるのはわかりますが、お姉様は私のことを心配しすぎだと思うのです。
それならせっかくだから側近の者と一緒にやりましょうということになります。
私は護衛がおろそかになっては困りますしやっぱり今まで通りでいいですと言おうとすると。
側近のリグセーレがぜひ手伝わさせていただきますと言ってくれて周りも手伝ってくれる流れになりました。
お姉様を独占できなくて少し残念だったとは思っていません。
無事聖杯への魔力の奉納を終えると、初めての方ばかりでしたので皆さん疲れた表情の方が多かったです。
私は7人でやったおかげか慣れてきたおかげかわかりませんが疲れはしましたけど前回ほどではありませんでした。
お姉様は二人の護衛を連れて次の村へ向かわれました。
帰り道で、真っ先に儀式に参加したそうにしていたリグセーレが儀式の参加にためらっていたのが気になって
「なぜすぐに参加すると言わなかったのですか?」
と聞いてみました。そうすると彼女は
「ローゼマイン様に近づき一緒に作業できるかと考えたら急に畏れ多くなってしまって...。」
...リグセーレは騎士なのですが文官の仕事もある程度できるという本当に優秀な方なのですけど、お姉様が関わったとたんに使えなくなるようです。
お姉様の役に立ちたいという思いがとっても強いだけに非常に残念な方だということが分かりました。
きっとそのせいでお姉様の側近になることができなかったのでしょう。
その後、エーレンフェストがらみで周りがうるさくなります。何やら本物のディッターが行われるという話まで出てきましたが、夏の初めには噂すらなくなってしまいました。
そのことを聞いても誰もが口を開かず教えてもらえませんでした。
とりあえず、エーレンフェストとはこれまで通り細々と取引を行うという関係を維持することで落ち着いたようです。
ロスヴィータ達からも聞き出そうとしましたが、本当のところはどうなったのか分からないようで、聞いても教えてもらえませんでした。
お姉様はあれほどエーレンフェストへのあこがれと友誼を望んでいたのにその結果が争いでは悲しすぎます。
何事もなかったのなら良かったと思うことにしました。
領主会議の後手紙が届きます。今回の手紙は私ではあまりに難解で解読できないのでロズヴィータたちに手伝ってもらっていると、
「これは本当のことですか」
いつのまにか後ろにリグセーレが立っていました。
「難解すぎて解読に時間がかかっているのですがリグセーレにはもうわかったのですか。」
「すべて解読できたわけではありませんがだいたいは分かりました。なんてことでしょう...。」
何やら慌てているというか混乱しているというかとっても落ち着かない感じになります。
リグセーレが落ち着くのをまって、解読結果を聞こうとしますが、断言できないので話したくありませんと言ってきます。
それでもいいから聞かせてくださいというと、しぶしぶ答えが返ってきました。
全文は解析できていないとのことですが、一部分にはお姉様について書いてあるそうで、お姉様は他領のもので何かしらの契約を結ばさせられてアーレンスバッハにいると読めるとのことです。
彼女はその内容であると確信しているようでしたが、他の読み方もできるとのことで断定はできないとのことです。
こんな内容を確信も持てない状態で広められても困るのでここにいるものだけの秘密とするようみんなに約束させました。
わざわざ他領の者に契約を結ばさせてまで領主候補生にさせるなんてことがありえるのでしょうか。
いえ、お姉様ほどの方ならどんな手段を使っても領地に縛り付けたいというのもわかる気がします。
お姉様が寄る辺のないものであるということが関係しているのでしょうか。
夏のランツェナーヴァを迎える宴ではお姉様はディートリンデ様と話していて少ししかお話しできませんでした。
ディートリンデ様は余り私のことを相手にしていないような感じですがお姉様とはそれなりに親しいようです。
養子とはいえ同じ母を持つ姉妹であるわたしとお姉様ほどではないと思いますが。
挨拶だけをして終わりだとか言われていたのですが、お姉様は相手と去年もお話をしたらしく挨拶にしては少し長い間、話しをしていました。
相手から話される以上対応しなければならないのはわかりますが、なぜそういう流れになったのでしょうか。
お姉様は相変わらず、すごいのですがよくわからない方です。
夏も終わりに近づき気候が変わってきた所為か、こちらに来てから大変お世話になっていた専属の教育係のお爺さんが急に体調を崩してしまい、今後教えることが難しくなってしまったようなのです。
養父様も大変信頼されている方で、これまでいろいろ教えてもらえましたがいなくなった後の後任探しに困っているようです。
その後は専門の教科を代わる代わる複数の先生に見てもらっていましたが、教え方が明らかにお爺さんより劣ります。
加えて教師の方もまた一人また一人と教えることがありませんと言って来ることがなくなりました。
そんな時です。養母様がお姉様に教わってはどうかと言ってきました。
うれしいですし、楽しみです。お姉様はどういうことを教えてくれるのか楽しみでなりません。
ですが、始めの授業では悪い方向に期待を裏切られてしまいました。
長くなりすぎたのでいったん切ります。
実はベルケの方々とか皆さん名前をつけていたのですが、わざと出してきませんでした。理由は作品を読んでいただければ分かるといいなと言うことで書きません。
彼女も名前はレティーツィアの話以外では出しません。