ライデンシャフトの季節の終わりに、ディートリンデ様から連絡が来ました。
何でもエーレンフェストへ行くのであなたもついていらっしゃい。とのことです。
断らざるを得ないと思いますがダメもとでアウブへお伺いします。
「お父様、ディートリンデ様よりエーレンフェストへ一緒に行かないかとお誘いが来たのですが。」
「行かせられるわけないだろう。エーレンフェストとは最近あんなことになったというのに。」
ですよね。いや、ダメもとだし。アウブの許可がでないと領界線から出られないので無理ですし。
「名目上は両者の仲違いを憂いたゲオルギーネ様が親善もかねて行くそうなのでそうそう問題は起こせないかと存じますが。」
「それで、問題が起きないという話にはならん。お主が起こさないという保証もないだろう。」
相変わらず社交に関しては信頼されていません。当然ですが。まあ、無理ですよね。しょんぼりです。
アウブの許可がでないので残念ですが行けませんという内容の返事をディートリンデ様へ送りました。
数日後、神殿経営についてや孤児院の子供達に教えて子供達とたわむれて自己満足にひたっていると城から呼び出しがかかります。
城へいってみるとお父様とお母様、ゲオルギーネ様とディートリンデ様、レティーツィアを除いた領主一族が揃っています。
「ローゼマイン、エーレンフェストが是非とも貴方を招待したいと言ってきていますがどうします。」
ゲオルギーネ様が直接誘って来るとか余り嬉しくない事態ですが、行けるならいきたいですね。
「あの様な事態となって当事者としては行きたい気持ちはございますがアウブのご指示に従います。」
いずれにせよアウブ次第ですからね。
「...わかった、許可する。」
え、今何て言ったの、お父様!?
「良かったですわね。ヴィルフリートが是非にとうるさかったのでちょうどよいですわ。」
ええっと、複雑です。うれしいことはとってもうれしいのですが。ゲオルギーネ様はいったい何をしたのでしょうか。
その後は、アーレンスバッハの不利になることをしなければ好きにしろとのこと。
本当にいいのでしょうか。
そうと決まれば準備してゲオルギーネ様ご一行としてエーレンフェストへ向かいます。
「火の神 ライデンシャフトの威光輝く良き日、神々のお導きによる出会いに、祝福を祈ることをお許しください」
「許します」
ボニファティウス様など夫人の方々とはエーレンフェストにいた時も余り関わりがなかったため初めましての挨拶も今までよりも違和感が少なくてありがたいです。
領主一族の子供たちは子供たちで集まっての懇談会です。
知らない顔はメルヒオール様かな。全く情報はないのでどんな方かは全く知りません。
「シャルロッテ様、よろしければそちらの方を紹介してくださる?」
「ええ、メルヒオール。ローゼマイン様に挨拶なさい。」
「火の神 ライデンシャフトの威光輝く良き日、神々のお導きによる出会いに、祝福を祈ることをお許しください」
「許します」
ちなみにヴィルフリート様は完全にディートリンデ様に捕まっています。
こっちはこっちでシャルロッテ様やメルヒオール様と話しているといろいろ面白い情報が出てきます。
「メルヒオール様は今の神殿長なのですか。」
この年で正式な神殿長とは、エーレンフェストでの私は仮の神殿長でしたので驚きです。
「ええ、まだ何もできないので名目上だけですが。以前に私と同じくらいの年で神殿長になった方は立派に神殿長として職務をこなしていたと聞いているので私も頑張らなければなりません。」
「さすがはエーレンフェストですわね。ここまで神事を大事に守っている領地は他にはございません。素晴らしいことですね。アーレンスバッハもだいぶ変わってきましたがまだまだエーレンフェストには敵いませんわ。」
だいぶ変わってはきたんだよ。ですが、さすがに私みたいに特殊な例以外は好んで領主候補生を神殿に入れる雰囲気ではないですからやはりすごいよね。
「あら、アーレンスバッハでは神事は軽く見られているとお聞きしていましたが変わってきたのですか。」
驚くよね。私も最初の酷い雰囲気には驚いたもの。
「ええ、少しずつですけど貴族も神事にかかわってくださったり変わってきてますわ。まだ、わたくしが抜けるわけにはいかない状況に変わりはありませんが少しずつ改革を進めてますわ。」
「ローゼマイン様は神殿長と聞いていますが、いつから神殿におられるのですか。」
メルヒオール様は私のことを情報でも全く知らないんだね。そういう意味では話しやすいのかな。
「物心ついた時から神殿での生活ですわ。神殿長になったのは10歳になってからですので洗礼式を終えたばかりでもう神殿長の職務をされているメルヒオール様のことは尊敬しますわ。」
「まだまだお飾りですので、ですが既に神殿長として立派に職務をされていて改革まで乗り出しているローゼマイン様にそう言っていただけるのはうれしいですね。」
ああ、いいよね。年下の子って。どこか私やカミルに似た感じがあるので親近感がわいてしまいます。
「そうやって話していると、ローゼマイン様とメルヒオールは本当の兄弟に見えますね。」
シャルロッテ様がクスクス笑いながらそう言ってきます。
「それはいいですわね。わたくしも弟が欲しかったですわ。同じ神殿長として仲良くしましょう。」
「もちろんです。年の近い同じ神殿長の方がいて私もうれしいです。」
そのあとも三人で神殿について話が盛り上がります。
シャルロッテ様やヴィルフリート様も神事に積極的に参加しているらしく神事のことをよく知っています。
「あら、ローゼマイン珍しくエーレンフェストの方と普通に話してますわね。」
ディートリンデ様がそういうと、シャルロッテ様がしまったという感じで少し顔が青くなります。
「ディートリンデ様のおかげで約束事は厳しく言われてませんので。」
契約の効果は薄いよと伝えます。シャルロッテ様も気にしてくれていたようで安心した表情になります。
「ふふ、良かったですわね。ところで皆さんこの後の食事はどうされます。大人達は話し合いがあるそうでご一緒できないようなので、ヴィルフリートが招待してくださるとのことですけど。」
「うむ、たまには親睦を深めるためにみんなで食べようではないか。」
ディートリンデ様の相手に疲れたと、顔に書いてありますよヴィルフリート様...。
この二人あまり相性良くないのかなぁ。ディートリンデ様は大好きみたいだけどヴィルフリート様はあんまりみたいだしね。
そもそも次期アウブ最有力のヴィルフリート様の婿入りはとても難しい気がするけどね。
この後、ヴィルフリート様主催の食事会になります。あまり話しながら食べるのはなれていませんね。貴族院でも側近たちとはあまり話しませんし。
側近たちとも二年目になって慣れてきたのか私は側近連中が話しているのを聞くだけですが、少しは和やかな雰囲気になってきましたしね。一年目が酷かっただけですが...。
一年目は普通に毒が混じったり、食べられない香辛料の物が出てきたりいろいろありましたが、二年目は食事に関しては最後まで何もありませんでしたし。
食事が終わり、食後のティータイムになります。
「そういえば、アウレーリアはどうしていますか。わたくしや側近ともども気になっていて。ローゼマインも気になるでしょう。」
「わたくしは、アウレーリアが元気ならばそれでいいのです。便りを送れないほどエーレンフェストで頑張っているのなら元気な証拠ではないですか。」
私とは逆とはいえアーレンスバッハからエーレンフェストへ行ったのですから、慣れるまでどのくらい苦労をするのかを考えただけでも大変そうです。
「ディートリンデ、アウレーリアは元気です。今は事情があってここには来ていませんが、事情が許せばぜひ来たかったと言っておりましたよ。」
ヴィルフリート様が元気であると伝えてくれます。ぜひ来たかったということは子供関係かね。あとでこっそりランプレヒト様に会えたら聞いてみますか。
「そうだ、ヴィルフリート様、以前の髪飾りの職人にぜひ会いに行きたいのですがご許可を頂けますか。」
「あら、わざわざ向かわなくても呼び出してもらえばいいではないの。」
「ディートリンデ様、今回の職人は領界近くに住んでいるということで貴族との関係は薄いと考えます。そんなマナーもできていない者を呼び出してはかわいそうではないですか。ついでにわたくしぜひともその作っている工房も見たいのでどなたか案内してくださらない。」
うふふん、けっこういい理由じゃない。もう一言加えておきましょうか。
「相手を驚かせたくはないので、裕福な商人に見せかけて会いましょう。他領からの取引もそこそこあるとお聞きしていますしそれなら問題は少ないですよね。」
「ローゼマイン、ヴィルフリートも他領の領主候補生にそんな格好をさせたなんてことになったら困ってしまいますわ。」
「いえ、わかりました。城に出入りしている商人が明日来る予定なので聞いてみましょう。近く注文した髪飾りを取りに行かせる予定でしたし。」
「ありがとう存じます。ディートリンデお義姉様はどうしますか。」
「私は遠慮しますわ。まったくあなたも困った子ね。まあ、あなたの作ることに関する情熱を考えれば仕方がないわね。ヴィルフリート、こちらから平民の村に出せる騎士がいないのでエーレンフェストから出してもらうことになるけど構わないかしら。」
「ええ、任せてください。」
やったね。ついに村へ向かえるよ!
商人から服を買って、商人を馬車ごとレッサー君に積んで出発です。しきりに遠慮してきましたがこちらのお願いを聞いてくださらないのですかと言ったら黙って乗ってくれました。
エーレンフェストの森です。懐かしいです。初めて村を出て来た時にここらへんで襲われましたっけ。
ハイデンツェルは相変わらずです。村より手前で降りて馬車に乗り換えます。
「ローゼマイン様の騎獣は素晴らしいですね。馬車ごと運べるとは驚きました。乗り込み型とは便利なものですね。」
うん、思いっきり親戚をつけてくれましたよ。
「他領の貴族であるわたくしのわがままに付き合ってくれてありがとう、ハルトムート。事情を知っている方についてもらえるとはうれしい誤算でしたわ。」
「お礼でしたら、後でわたくしめに祝福を頂きたいですね。」
「あら、わたくしの祝福程度でいいのでしたら、いくらでも差し上げますわ。」
「本当ですか!約束ですよ。」
祝福程度でいいのなら安すぎる。まあ、返せるものなんてないからどうしようもないけどね。
以前とは違って、きれいに整備されている山道を抜ければ故郷の村です。
「では、ローゼマイン様。ご一緒に管理している貴族の所へ行きましたら私は徴税の関係の話し合いへ村長宅へ行ってきます。明日の三の鐘のころに迎えにあがりますのでそれまでごゆるりと過ごしてください。」
村に帰ってこれたことはとっても嬉しいけど、みんな私のこと忘れちゃったとかないよね。だってもう何年振り?五年以上たってるってことだよね。いきなり行って迷惑じゃないかな。まあ、うちの家族なら迷惑でも笑って許してくれるよね。
以前とは違い景観はかなり変わってしまっていたけど小神殿は相変わらずですし家の場所はすぐにわかります。
まず管理している下級貴族に会いに行き、時間があったら小神殿に寄っていいかと聞いたら、鍵を貸してくれました。
その後、ハルトムートが家の前まで送ってくれます。
「では、ローゼマイン様、私は村長宅へ向かいますのでまた後でお会いましょう。」
ハルトムートがにこやかにそう言って別れますが緊張してろくに返事ができませんでした。
家は全く変わっていませんでした。周りは増改築したりきれいになっているのにうちだけ取り残された感じで少し心配になります。
とりあえず、入り口に以前はなかった物品を売っているお店であるマークがついているのでノックして入れば問題ないよね。
私は控えめにノックして、少し開けて中を見ると誰も見当たりません。
「ごめんください。」
中へ入って2回ほど言いましたが、反応はありません。
もう、懐かしすぎます。誰もいないのかもしれませんが懐かしすぎて動けなくなります。
ああ、家の香りだ。さすがにこれ以上入るのはまずいので入り口近くにあるテーブルにでも座らせてもらおうとすると
「だれだ、ってお客様?お母さんならいないからそこへ座ってまってて。」
うわぁ!カミルだ。間違いなくカミルだ。
思わず抱き着きたくなりますがその時に、後ろで物を落とした音がします。
私がびっくりして振り向くと、
「マインなの...!」
お母さん!
なにか言おうとしますが、声になりません。
「マイン!本当にマインなのね!」
どちらともなく抱き着きます。
「お母さん、ただいま!」
「ああ、お帰りマイン!全く連絡もないし聞いても答えてくれる人はいないし心配していたのよ。ああ、こうしちゃいられないわ、カミルのことお願いしていい?すぐにトゥーリとギュンターを呼んでくるから。」
えっと、カミルのことお願いしていいということはカミルのことギュッとしていていいってこと?
「え、え、だれだよ。」
「うんうん、わからないよね。わたしマインっていうんだよ。お母さんに聞いていないかな。」
「わ、ちょっとやめろよ。え、いなくなったっていうお姉ちゃん?」
カミルは文句言っているけど、知らない。
「うんうん、ああ、カミルだ。以前に抱いたときはまだ小っちゃかったのに大きくなったねぇ。」
「マインが帰って来たって!」
おお、ルッツだ。でっかくなったね。
「ルッツ助けて」
「カミル...諦めて満足するまで抱かせてやれ。」
「ルッツ、お久しぶり!ものすごく大きくなってびっくりだよ。」
「そういうマインも背が伸びたな。懐かしいなぁ。いったいどうしていたんだ。お貴族様の事件に巻き込まれたとかいろいろ噂になっていたから心配していたんだぞ。」
「あはは、まあ、とんでもないことに巻き込まれていたのは事実だけど後でみんな戻ってきてからね。何度も話したい話じゃないし。それよりもルッツのこと聞かせてよ。あれからみんなどうしていたの。何の仕事をしているの。」
なんとルッツは、村の商品を売る商人になったんだって。他の所にいることも多く偶然今は村にいたけど本当にたまたまだったみたい。ラッキーだね。
「マイン!おお、マインだ。よく帰ってきたなぁ。」
「お父さん、お父さん!」
その後、トゥーリも帰ってきていろいろ話します。
拉致されたということは濁したけど今は事情があって他国の貴族をしていることなど話します。
「他国のお貴族様かぁ。なんでそうなったかは詳しく聞かない方がいいんだな。」
「ごめんお父さん。あまり話したくはない。今日はかなり無理言ってここにきているの。ヴィルフリート様がいろいろ便宜を図ってくれてね。でもね、必ずちゃんと帰ってくるからね。」
「マイン、他国の貴族がそんなに帰ってこれるのか。お前の元気な姿を見れただけで十分だ。無理だけはするな。」
「ありがとうお父さん、大丈夫、いざとなれば貴族の位を捨てれば何とかなると思うんだ。今は無理だけど時期が来たら何とかなると思う。」
「おい、貴族を捨てるって大丈夫なのか?そもそも身を守るためにも貴族になる必要があったからわざわざ村から出て行ったんだろう。」
「うん、正直うまくいく保証はないけど、魔力で貢献さえすれば何とかなると思う。だから大丈夫だよ。」
そのあと、カミルやトゥーリやルッツ分を十分に補給し、現状等いろいろ話したりしました。
後はお土産とか、ディートリンデ様達に髪飾りを買って帰らなきゃ。
他の髪飾りとは明らかに違う美しい髪飾りができており、私にと言ってくれるけど、どういうタイミングで使っていいかわからないので困ります。
無くしたくないけど場合によっては無くなってしまうかもしれないから残念だけど置いていくねというと、また作ればいいんだからと言って強引に持たされました。
私からはお守りを大量に持ってきたので渡します。
うふふん、とっても高性能化したんだよ。後は戦闘用シュミルも置いていきます。少し性能は落ちますが魔力漏れを極限まで無くしたタイプで放っておいて動かさなければ何年も持ちます。
いろいろ話しているだけで、あっという間に時間が過ぎてしまいます。
みんなで一緒のところで寝て、城へ戻る前に小神殿に寄って魔力を奉納します。後は神具とか聖典ちゃんとか確認すると、やっぱりちゃんと帰ってきていました。
やっぱり帰りたくないね。ずっとここにいたいと思うもそうはいきません。
ハルトムートが迎えに来ます。
「マイン、もう行くのか。」
「ただでさえ体が弱いのですから気を付けるのですよ。」
「お父さん、お母さん、トゥーリ、カミル、ルッツ...。うん、私帰れるように頑張るね。絶対帰ってくるから待っててね。」
「ああ、村はどんなことがあっても絶対にお父さんが守るから安心して帰って来い。」
「じゃあ、みんなまたね。必ず帰ってくるからね!」