マインオブザデッド   作:dorodoro

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65話 閑話 エーレンフェストの夜の一部屋

「しかし、なんであんなことになったのだ。」

 

私はジルヴェスター。用がなければ滅多に神殿から出てこない異母弟(フェルディナンド)を無理やり誘い酒を飲んでいるところだ。

 

今回のことの顛末は再度考え直してもなぜそうなったのかわからないことも多い。

 

まず、領主会議にてエーレンフェストの聖女について議題にあげたのは、ライゼガングがあまりに求めるからで形だけでもやったと言う風に見せるためだ。

 

もともとアーレンスバッハとは貿易等繋がりは今現在ほとんどなく多少のことではこれ以上悪化しないと読んだ上での行動だったのだが...。

 

もちろんマインを取り戻せるのなら取り戻したいというのは言うまでもないし議題にあげた以上は全く勝算がなかったわけではない。他領の領主候補生に近い上級貴族を拉致したと証明できれば大問題だ。うまくやればアーレンスバッハの順位に関わる話にまで持っていけるかもしれない。

 

フェルディナンドがその方法はお勧めしないと言っていたのが気になりはしたが、少し苦労したが議題にあげるところまでは問題なかったのだが...。

 

「王族に関わる制度を利用してくるとまではさすがに想像できないぞ。」

 

「相手は仮にも大領地なのだ、これだけ堂々と表に出しておいて対策を全くしていないなど考えられないだろう。」

 

う、ほんの少しばかにするようなフェルディナンドに少しだけムッとするが言い返せる要素がない。

 

「だが、その後のライゼガングの暴走も解せん。まったく、なにがあったのだ。」

 

「ゲオルギーネのせいだろう。まだ隠れた支持者を抱えていることは間違いない。正確な情報を伝えていなかった領主会議の話の内容を知っていたのだからそういうことなのだろう。」

 

「そうだな、結局ディッターが流れてくれたから良かったものの今回はさすがに肝が冷えたぞ。」

 

ライゼガングの老人達が押し掛けてきて圧力をかけてきたので対応している間に、勝手に私の名を語ってディッターを申し込んだり、受諾されたりしており散々だ。

 

「どうせアーレンスバッハなど、どうでもいいのだから、会ったときに事実を言えばよかっただけではないか。」

 

既にフェルディナンドにとっては終わったことで全く興味がないといった感じだ。

 

「そんな醜聞を広められたらエーレンフェストは信頼をなくし終わるぞ。」

 

「仲が悪いのは周知の事実だ。相手の間者が勝手にやったとでもしておけばいい。アーレンスバッハとエーレンフェストが今更お互いに悪く言い合ったところで真に受ける領地などあるまい。」

 

いくらなんでもそれは投げやりすぎないかフェルディナンドよ。

 

「まあ、そうかもしれないが。それはいくらなんでも不味いだろう。」

 

「終わったことを今更蒸し返したところで仕方があるまい。」

 

まあ、そうだな。他にもいろいろ聞かねばならんしな。

 

「それで結局見ていた側としてよくわからなかったが、あの戦いは何があったのだ。」

 

あれは、もはや神の戦と言われても信じてしまいそうな戦いだったがそれだけ派手にやられると見ていた側としては何が起こっていたのかさっぱりわからなかったのだ。

 

マインはマインで地面からいきなり門のようなものが現れたり、七色のグリュンが出てきたり。

 

フェルディナンドはフェルディナンドで、シュミルを大量に率いていたり神具でやりたい放題だった。

 

フェルディナンドは、簡単に説明はしてくれるが詳しい話をするつもりはないようだ。

 

「しかしあれは本当にライゼガングの姫だったのか。かつてフェルディナンドの弟子であった。」

 

「愚かな弟子であるのは間違いない。そもそも祝福と広範囲の癒しなど直接戦闘しないところで最大の力を発揮するあれが一対一で私に挑んでくる愚かさが最大の証拠だ。」

 

「そのお陰でディッターが流れて助かったがな。」

 

本当に助かった。マインが裏方に回りあの莫大な魔力で祝福をかけ、倒してもすぐに癒しをかけて戻ってくる集団を敵に回すとか悪夢でしかない。

 

「争いを止めるためにいろいろ動いていたのだろうが、もっとやりようがあっただろうに...。愚かすぎて話しにならん。」

 

師も師なら弟子も弟子か。

 

だが、悪態をつきながらも、それなりに弟子の成長を喜んでいる師の姿にしか見えんぞ。そのことを意地悪く指摘してやると。

 

「想定の範囲内だ。むしろその程度でしかなかったのだからアーレンスバッハでは余程窮屈な状態なのだろう。」

 

「おい、あれが想定の範囲内だと!いくらなんでもそれはないだろう。」

 

「ジルヴェスター、私もあれの魔術具等、知識の成長については多少評価している、だがあれは自分のためとか言いながら結局最後には他人のためにしか動けん愚か者だ。その他人を利用せず、一人でやろうとするから今回のような結果になる。」

 

そうは言っても今のマインを真正面から止められるのは、うちではボニファティウス伯父上とフェルディナンドくらいではないのか。

 

しかもそれが本領ですらないという。まったくこの異母弟といい、その弟子といいおかしいのではないのか。

 

「仮にそうだとしてもだ。以前領地にいてそれなりに関わりがあった者という点を除いても私は絶対に戦いたくないぞ。」

 

マインがフェルディナンドに倒された後にフェルディナンドへ向かって行った貴族もかなりの数がいた。

 

マインを抱えてたこともあって手こそ出してこなかったが、フェルディナンドの威圧を受けても少し震えているように見えたものの目を離さずに必死になって助けようとしているのがわかった。

 

もともと他領の貴族でありながら、あそこまでたくさんの貴族に本物の忠誠を誓われているものは少ないだろう。恐らく一部からは名捧げでも受けているのだろうがそれだけでは説明がつかない。

 

いざ、ディッターとなれば、あれらに祝福が加わるとか寒気がする。

 

「...あれは、それなりにアーレンスバッハを掌握しているようだから人を使うことを覚えれば少しは手を煩わせられるだろうが、それだけだ。」

 

直接見たフェルディナンドが少し煩わしいと言うのだからそういうものだろう。だが、この異母弟は弱みを他の者に見せることがないため、少しという言葉をそのまま捉えてしまっていいかは分からないが。

 

どの道、マインの様に規格外になってしまったものの対処はフェルディナンドのような規格外の者に任せるしかないということだな。

 

はは、それにしても他人を頼ることの知らない師が弟子にそれを求めるとはな。

 

「何がおかしい。」

 

「いや、マインについて人に頼れといっているが、フェルディナンドこそもっと他の人を、いや私を頼ってもよいのだぞ。」

 

「そういうことは普段の行いを見てから言ってほしいものだな」

 

珍しく嫌なところを突かれたという感じで眉間にしわを寄せて指を額に当てながら答えてきた。

 

だが私もなんでもできるように見えて実は不器用な弟に頼られる兄になりたいのだ。

 

私のそんな思いが通じているかはわからないが、私が言いたいことは言い終わった。

 

その後しばらくお互い無言で酒を飲んでいると、ポツリとフェルディナンドがつぶやいた。

 

「しかし、あの襲撃から4年以上の時が過ぎたのか」

 

「そうだな、早いものだ。あの時は本当に大変だった。」

 

お互い言葉少なく飲みながらしみじみと当時のことを思い出していた。

 

領地はただでさえ足りていない貴族が粛清などで減り魔力不足でいろいろ工面するのが大変だった。

 

フェルディナンドもあの時ばかりは自ら積極的に動いてくれたので何とか安定するところまでは持っていけたが...

 

フェルディナンドも恐らくあの襲撃に対しては思うところがあるのだろう。

 

それはそうだ、以前は弟子を取っても毎回厳しい指導についていけずに数日でいなくなり、ようやく弟子としてついていけるものができたと思ったら他領に無理やり連れて行かれて...

 

まったく、多少の愚痴くらい聞いてやるというのにこの異母弟と来たら。

 

だが、その経験のおかげか神殿に向かえばヴィルフリートの教育もしてくれているし、他の者にも多少の手加減ができるようになったようだ。

 

もし拉致をされずにマインがそのままエーレンフェストに残っていたのなら今頃どうなっていただろうか。

 

アウブエーレンフェストとして他領の領主候補生になってしまったマインを心配する資格などないが、連れて行かれた状況が状況なのに、最初に騎獣で運んだ時の体の弱さなどを考えるとアーレンスバッハではよほど苦労をしたのだろうなと思った。

 

 

 

 


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