マインオブザデッド   作:dorodoro

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60話 王族の呼び出し×2

不自然な動きをしていた集団の一人に試験薬を飲ませた後、何かハンネローレ様に声をかけられましたが一言謝ってアウブの所へ向かいます。

 

よほど私が青い顔をしていたかは分かりませんが、すんなり行かせてくれました。

 

「お父様!緊急でお話をせねばならないことが。」

 

「トルークの件か?」

 

え、なんて言ったの!知っていて放置していたとか!?

 

「わかっていらっしゃるのなら、どうするのですか。」

 

「何を言っている。トルークは使い方次第だ。誤った使い方をされているだけで我々に責任はない。命令だ、この件については一切口にするな。」

 

そんな、なにを言っているのこの人は。

 

「お父様!」

 

命令されては私には何もできません。

 

「後で話は聞いてやるから今は黙れ、いいな。」

 

そんな...緊急だと思うのだけどアウブにはアウブの事情があるようです。

 

ちなみにトルークとは、幻覚作用など様々な効果を及ぼす薬で、基本的にはランツェナーヴェで取れる花をもと作成されています。アーレンスバッハでも少量育てていますが質はあまりよくないようです。質が悪ければ悪いで使いようがあるのですが。この薬は実際には違いますがウラノの世界の『まやく』のようなものと考えてもらえればいいかもしれません。

 

不自然な行動をしていた人たちは一時拘束され、事情聴取を受けるという話が広がります。当然表彰式は中断中です。

 

私も少しの間観客席に誘導したり周りを落ち着かせたりしようと会場に残りましたが午前のこともあって、体力魔力ともに限界です。トルークの件は命令を受けてしまった以上、手出しはできません。いつ始まるかわからない表彰式は他の方に任せ、寮で休むことにしました。

 

 

 

 

「ローゼマイン、開けなさい!」

 

アウブの少し急いでいるかのような声が聞こえます。

 

私はというと部屋に戻って寝ていたようです。当然私の部屋の安全確保に手抜かりはありません。

 

頭がぼ~とします。起きる気力すらありません。

 

「すぐに開けないと無理やり開けるがいいか?いや、命令した方が早いか...」

 

今すぐに開けます!

 

私は、全く回復しきっていない体を無理やり動かして様々な妨害装置を解除し部屋をでます。

 

「王族より、緊急の呼び出しだ、今から来い。」

 

えっと、もう部屋から出ただけでいろいろ限界なのですが...。

 

「私も無理だとは言ったのだが、今回の件での当事者に直接聞きたいということで無理にでも連れてこいとのことだ。諦めろ。」

 

そこまで言われては仕方がないので、側仕えを呼んで着替えをしたらアウブと一緒に向かいます。

 

頭の魔術具を起動すると低レベルで作動してしまいます。頭にガンガン来ますが王族の前で気を失ったり寝てしまうよりましでしょう。

 

 

 

 

連れて行かれた部屋には、まさかのツェント本人がいます。こんな状態なので粗相がないよう精一杯集中しながら冬の厳しき選別と言う冬の初めましての挨拶をし、祝福を贈ります。

 

「さて、ローゼマインと言ったな。そなたを呼んだのは...、本当に顔色がものすごく悪いな。今聞く必要がないことは後に回そう。」

 

今にも意識が飛びそうです。祝福を送る時にすでに限界です。

 

「明日の成人式だが、中央の神殿長ではなく其方にお願いしたい。やってもらえるな。」

 

王命ですか。この私の状態を見てできると本当に思っているのでしょうか。

 

「アウブからはそのような話をお聞きしておりません。わたくしの一存ではお答えしかねますのでアウブにお願いしてくださいませ。」

 

「では、アウブアーレンスバッハ。其方の所の神殿長に成人式の儀式を依頼する。」

 

「お待ちください、ツェント。見ての通りローゼマインの体調はよろしくありません。お約束してもそもそも明日の卒業式に出られるかも怪しい状態です。」

 

私も補足をしないといけないので一言発言の許可を得てから話します。

 

「わたくしの体調以前に、一日では神事の準備ができません。神殿長として祝福をお送りすること以外は現状ではできないかと存じます。」

 

「中央神殿へのけん制になればいい。準備は中央神殿にさせるから祝福だけでもやってもらいたい。」

 

中央のことなんて知らないよ。というか私が来る前は応援をお願いしていた立場だから今後について考えると、ことを荒立てたくはないのですが。

 

「そもそもなぜ中央神殿へのけん制が必要なのでしょうか。アーレンスバッハの神殿が出ていくこと自体がおかしいかと存じます。」

 

頭が痛すぎますが、聞かないわけにはいきません。

 

ええ、なんでも聖典原理主義者というのが中央神殿ではびこっていて、グルトリスハイトを持っていない王は支持ができないと言っているとのこと。

 

未遂に終わったとはいえ、貴族の中でも同じ主張をするものが出てきたので増長しているとのことです。

 

えっと、持っていないのですかね。私の立場まずくない?言わなきゃわからないからいいよね?

 

結局、体調が許せば今回に限り成人式の祝詞だけやることになってしまいました。

 

今回に限りと言っても、所詮は口約束で契約を結んでいるわけではないので今後どうなるかは知りませんが...。

 

 

 

 

貴族院の成人式なんて言ってもやることは一緒の様です。神官長が神事のお話をして、その後祝詞を読み上げ祝福するだけの様です。

 

中央神殿の神殿長レリギオンは、なんというか権力へ固執している感じですが、話が通じないわけではないので神官長のイヌマエルよりは話しやすいです。

 

「ローゼマイン様も、王族との軋轢で大変そうですな。」

 

「王命とあっては仕方がありません。神殿長、わたくしはアーレンスバッハの神殿関係者として中央と仲を悪くしたくないと思っていることだけはご承知ください。」

 

「いつでも、体調を崩されたら変わりますのでご相談ください。」

 

「その時はよろしくお願いします。」

 

いや、レリギオンは体調を崩してほしいと思っているのでしょうが、私は今本当に調子が悪いのです。

 

祝福に関してもきっちり調整しないと貴族院の選別の魔法陣が起動しかねないし考えただけでも憂鬱です。

 

イヌマエルに「神殿長の入場です」と言われ入場します。王族もすでに入場しておりエスコート相手と組んだたくさんの卒業生が私を見ているようです。

 

「土の神ゲドゥルリーヒ 命の神エーヴィリーべよ。」

 

新しき成人の誕生に祝福を与え、聖なるご加護を与えんという内容の祝詞を読み上げていきます。

 

最後にゲドゥルリーヒの貴色である赤とエーヴィリーの貴色である白の祝福を新成人に与えて終了です。

 

魔法陣が起動しないぎりぎりまで祝福を絞ったのでほんのわずかに光ったかなというくらいで何とか終わることができました。

 

「すばらしい祝福であった。礼を言うぞローゼマイン。」

 

ツェントからお言葉を賜り「大変恐縮です。」と事務的に答えて退場します。

 

そんな言葉より、こんな仕事をさせないでほしかったのですが。

 

神官長イヌマエルとは、話したくないので神殿長レリギオンに準備等のお礼を言ってさっさと離れます。

 

お世辞なのか、レリギオンは見事な祝福でしたと言ってくれました。

 

あの嫌な感じの目をしている神官長よりは、神殿長の方がましですね。

 

 

 

 

さて、そんな異例中の異例な成人式が終われば剣舞や奉納舞ですが、私は着替えなければいけません。と言っても脱いで一枚着れば着替えが終わるようにしてきたのですが。

 

この後は、なんとなく見ているのかいないのか。頭に霞がかかったような状態が続きます。そんな状態でも会場の上に魔法陣が浮かびあがっているのが気になりますね。どうせならあの魔法陣に魔力を奉納してツェント候補でも何でも出てくれればいいのに。

 

魔力を通していないので他の人は見えていないようです。グルトリスハイトの知識と照らし合わせても資格がある人しか見えない魔法陣の様です。

 

まあ、そんなことよりも全く回復しきっていないので寮へ戻りたいのですが、アウブの所へ行くのも億劫ですし、このような場で側近連中が周りにいないのも問題です。

 

不自然に見えない程度に休み、少し回復したらアウブへ報告し寮へ戻りました。

 

 

 

 

夕方再度王族より呼び出しです。まったくもってご遠慮したいですがそうもいきません。

 

加えて今日はアウブはなく、私一人の呼び出しだったようです。

 

しかも人払いまでさせて、ツェントがいないのでまだいいですが、アナスタージウス王子とエグランティーヌ様ですね。

 

「さて、まずツェントが話しやすいようにとわたくしたちが聞くことになりました。」

 

私は話しやすいとはとても思えないのですが。その後にあらためて成人式のお礼が言われます。

 

「成人式での祝福は今回限りのことですから、必ず守ってくださいませ。」

 

無駄かもしれないけど、念を押しておきます。

 

ええ、わかっていますわ。と言ってくれるもさてさてどうなることやら。

 

「さて、其方には婉曲に言っても伝わらないから単刀直入に言うぞ。領主対抗戦での謀反を防いだ儀式、あれは何だ。」

 

アナスタージウス王子も、そんなに真剣で怖い目を向けないで頂きたいものです。

 

はぁ、まずは言われたとおりに儀式から説明しないといけませんね。

 

「ディッターが終わった後に、祝福や加護の魔力を奉納する儀式です。もともと鎮静化させる作用があるのですが、少し手を加えて鎮静化の効果を強くした儀式を行いました。」

 

鎮静化作用のある儀式か...。とつぶやいています。

 

「あの後に光の柱のようなものが立ちましたがあれは何だかわかりますか。」

 

エグランティーヌ様...分からないわけではないのですが、どう答えたら良いでしょうか。

 

「わたくしの領地対抗戦の研究成果を見ていただけていればわかるかと存じますが、貴族院で一定の出力を超える魔力を感知すると魔力の一部を自動で貴族院の施設へ奉納する仕組みがあるようなのです。今回の光の柱はその機能によるものかと。」

 

「あの研究成果か。ずいぶんもめたそうだぞ。結果として研究成果の優秀賞として3位だったが実態は4割の審査員が最優秀に押したが他の審査員は結論のでていない論文など認められないということだ。彼らは優秀賞すら認められないと強弁に言い放っていたらしいからな。」

 

「ええ、加えて、最優秀を取ったヒルシュール先生の図書館の魔術具の研究で共同研究者としてローゼマイン様の名前が載っていてずいぶん両領地でもめたそうではないですか。」

 

なにそれ、全く知らないのだけど。

 

「ヒルシュール先生についてはどのような研究をしていたのかということを含めて全く存じ上げておりません。」

 

「研究を発表しているにもかかわらずその研究成果の説明をできる者を配置していなかったり、知らぬ間に名前を使われているなど、いったい其方はどうなっておるのだ。」

 

どうなっておるのだって、あんなスペースが空いていたからとりあえず埋めるために発表した論文がそんな騒ぎになるなんて思うわけないじゃん。

 

「まったく、ディートリンデが3回も表彰に出てきて...。」

 

「あら、そんなことを言ってはいけませんよ。でもせっかく表彰を受ける機会でしたのにローゼマイン様は残念でしたね。」

 

アナスタージウス王子、ディートリンデ様のこと嫌いすぎじゃない?王族の覚えが良くないとかまずいことではないでしょうか。ここまでくると相性の問題なのでしょうが...。

 

「アーレンスバッハの代表ですし、対象者が出られない以上当然のことかと。」

 

「だが、あれはどうにかならんのか。領主候補生としてどうなのだ。」

 

うん?確かに問題行動も多いのかもしれないけど優秀だと思うのだけど。

 

「優秀なディートリンデ様に何かご不満でも。」

 

「其方、本気で言っているなら考え直した方がよいぞ。」

 

アナスタージウス王子は呆れたように言って来るけど、主体的に動けないし他の人を率いることができない私なんかよりも、よほど優秀です。

 

「考え直すも何も、わたくし程度では全くかなう気のしない方を優秀と称さずなんと言えばいいのでしょうか。」

 

「もはや手遅れのようだな。其方は其方で問題行動も多いし、所詮はアーレンスバッハの者ということか。」

 

アナスタージウス王子が首を振ってやれやれと言った感じで言うのには少し苛立ちを感じますが相手は王族なので余計なことは言いません。

 

「ローゼマイン様は、ディートリンデ様と仲がよろしいようですね」

 

そう言って、エグランティーヌ様はおかしそうに笑っています。私とディートリンデ様が仲が良いかは知りません。悪くはないと信じたいですが。

 

そろそろ話すこともなくなり終わりという雰囲気になってきました。

 

「アナスタージウス王子、折り入ってご相談が。」

 

「なんだ、申してみよ。」

 

私は、とある状態に効く解毒薬を出します。

 

「これは、とある薬の解毒薬なのですがよろしければ王族の方々で飲んでください」

 

「我々が毒を受けていると?」

 

まあ、ツェントはほぼ確定なのだけど。

 

「いきなり信頼されても困りますので、信頼できるものに調べさせてからで結構です。これ以上は確信があるわけではないのであくまで念のためということを念頭に置いて頂ければ幸いかと存じます。」

 

「まあ、いいだろう。詳しくは聞かないでおいてやる。其方も疲れが取れていないようだし、ここまでだな」

 

ようやく話し合いは終わりです。契約で直接話すのは禁止にされていてもこのくらいなら大丈夫なんだね。

 

 

 

 


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