マインオブザデッド   作:dorodoro

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58話 和解とお茶会×2

貴族院に戻ってきました。ディートリンデ様よりすぐにお呼び出しです。

 

いつもの多目的に使う共有フロアではなく、今回は小部屋に呼ばれます。

 

「よく戻りました。ローゼマイン」

 

「はい、ただいま戻りました」

 

この方とは、久しぶりに普通に話をした気がします。いえ、正確には戻る前のお茶会でも話しているのですが。

 

「ローゼマインが急にいなくなってから戻る前のことについては、お父様から聞いてますわ。図書館の魔術具に魔力を入れた後は覚えておらず、気がついたらあの状態だったと」

 

「その通りです。わたくしも何がなんだかわからない状態でした」

 

何がなんだかわからないと言うのは嘘ではないしね。

 

結局この件は隠し通すことで決定したため、危険だから近づかないことにしようとか、そういう話はありません。

 

「なんにせよ、あなたが無事で良かったと言ってあげらられれば良かったのだけど...」

 

そこで、ディートリンデ様はため息をつき盗聴防止用の魔術具を私に渡してきました。

 

「ねえ、わたくし、あなたのことをとっても気に入っていますわ」

 

躊躇いがちに言ってきましたが、え、うん?何の話。

 

「あなた、アウブであるお父様達とずいぶんな契約を結んでいるそうね」

 

...今さら契約の話を出すとはディートリンデ様は何が言いたいのでしょうか。

 

「ローゼマイン、わたくしは必ずアウブになるわ。だからあなたも協力しなさい」

 

協力しろといわれても、私が協力したところでなにも意味がないと思うけど。

 

「協力と言われましても、契約をご存じなら、わたくしはアウブに対してのみしか動けないことをご存じですよね」

 

「協力できる限りでいいわ。わたくしは、わたくしの妹であるあなたと敵対したくないのですわ。それに、契約を結んでいると言うことはそれ以上の忠誠はアウブにもあなたのお母様にも持っていないのでしょう」

 

「申し訳ございません、ディートリンデお義姉様。わたくし個人としては、アウブの後継者争いに首を突っ込むつもりはございません。もちろんディートリンデお義姉様と敵対するなんてことは考えたくもありません。ですが、契約を受けている身としては、命令次第でどうなるかわからないのです」

 

後継者争いなんて考えたくもないよね。私は無関係を貫き通したいけど、場合によっては同じ母ということになっているレティーツィアにいろいろしてあげないといけませんし、こればかりはどうしようもありません。

 

「心情的には協力したくても、ディートリンデお義姉様のアウブになるためのご協力の約束はできません」

 

私が一気にそう言うと、ディートリンデ様はふっと薄く笑ったような表情にになり、

 

「まあ、しょうがないわね。敵対したくないと言う言葉をとれただけよしとしますわ」

 

この方とは絶対敵対したくないのは事実だし。

 

「ローゼマイン、ここだけの話ですよ」

 

その後、緊張感をはらんだ非常に真剣な表情に変わったのですが、まだ何かあるのでしょうか。

 

「お母様よりあなたを手懐けられないなら手に終えなくなる前に処分しなさいと言われています」

 

そんなことを私に言って大丈夫なのでしょうか。

 

「わたくしは、あなたの先ほどの言葉を信じますので裏切らないでちょうだいね」

 

ここまで言って下さって裏切りたくはないのですが、約束はできないのが心苦しいです。

 

「さて、つまらない話は終わりですわ」

 

先ほどまでの緊張感を持った声から切り替えるかのようにそう言って、さっと盗聴防止用の魔術具を回収します。

 

「ローゼマインにはお茶会のお誘いがダンケルフェルガーより来てますわ」

 

ディートリンデ様は行きたくないので任せると言うことです。ハンネローレ様がわざわざだしてくれたんだ。

 

「あとは、ルーフェン先生より、神殿の神事の関係で相談があるから来てほしいとのことですわ」

 

神殿のことってなんだろう。思い当たる節がありません。

 

「他には、上位領地のお茶会がドレヴァンヒェル主催でありますから一緒に出席しますわよ。相手側は是非ローゼマインに来てほしいと言うことで後半に回したそうよ」

 

そんな気の使い方はいりませんなんて言えないですね。この後は、領地対抗戦の話などをしました。

 

「そういえば、シュバルツ、ヴァイスを手伝い機能に限定したシュミルを作ったのですが共有フロアに置いてもいいですか」

 

「まあ、早速できたのですか!さすがはわたくの妹ローゼマインですわ。もちろんいいですわよ。早速置きにいきましょう」

 

出力は弱く手伝いに限定することでどの属性の魔力でも動かせるし、かなり魔力効率がよい魔術具となったので、なかなかの自信作です。

 

図書館関係で迷惑をかけることも減るでしょうしいいことだよね。

 

最近アーレンスバッハの方がシュバルツ、ヴァイスを離さないから業務が滞りそうなんて話もお聞きしていますし。

 

ちなみにこのお手伝いの二匹は、最初は白と黒い無地の服を着せていたのですが、気がつけば金ピカなどド派手な衣装になっていました。やはり感覚がついていけません。

 

 

 

 

さて、まずルーフェン先生の呼出から対応することになりました。神殿関係とはいえ、なにも関係ないはずの私がなぜ呼び出されなければならないのでしょうか...。

 

今回はエーレンフェストの関係でターニスベファレンについて私にも聞きたいとのこと。

 

なんのことでしたっけ?いろいろありすぎて全く覚えていません。

 

参加者は、ヒルデブラント王子とルーフェン先生、ヒルシュール先生、うちの寮監、中央の騎士団長と中央神殿の神官長イヌマエルとのことです。

 

「失礼ですが、なぜ今回の件でわたくしが呼ばれたのか皆目見当がつかないのですが教えてくださいますか」

 

「んまぁ!全くですわ。エーレンフェストの問題になぜ栄えあるアーレンスバッハが関わらなければならないのですか!」

 

相変わらず、うちの寮監はキンキンうるさい声です。

 

「エーレンフェストの事情聴取を終えてローゼマイン様にお聞きしなければならないことができたためです」

 

「なんでしょうか」

 

「まず、ターニスベファレンをローゼマイン様が倒したとのことですが、本当ですか」

 

そういえば、そんなことって、エーレンフェストの方々、何で報告しちゃったの...。

 

口止め料を払うべきだった?でも、制約がある以上難しいし。

 

場を濁して退散したいけど、ここには王子がいるから嘘はつけないしなぁ。

 

「ええ、ターニスベファレンは何度も倒したことがございますわ」

 

「ローゼマイン様ご自身が戦いの場に出ると?」

 

ルーフェン先生の目がキラリと光っているかのように見えます。相変わらずディッターの関係のせいか興味津々ですね。

 

「神殿長として土地を癒すだけでなく、護衛騎士と共に素材の回収のため出ることはございますわ」

 

まあ、一人でも出ますけどね。

 

「では、ローゼマイン様は黒の武器を使用できると?王命より許可を得たもの以外呪文の使用は禁止されていますが」

 

へぇ、黒の武器の呪文は禁止ね。だったら祝詞でやればいいのではとか言うのもやめておいた方が無難かな。

 

「他の領地ではどうか知りませんが、ターニスベファレンは旧ベルケシュトック大領地に行けば一度や二度ではすまないほど出会う魔獣ですわ。当然対処法としていろいろ確立しておりますわ」

 

「なんですと!黒の武器を使わず倒すことが可能だと言うのですか」

 

驚くことなんだ。たかだかターニちゃんが持っている魔力量の6倍の魔力をぶつけてあげるだけなのにね。

 

「これについては我々の騎士団がいろいろ命懸けで試した結果ですので、どうしても知りたければアウブにでも問い合わせてくださいませ」

 

まあ、アウブも知らないかもしれませんが...。とりあえずターニちゃんの件はこれでお終いのようです。なら帰っていいですよね。え、まだあるのですか。中央神殿の神官長からって何のお話でしょうか。

 

「ターニスベファレンの件はわかりましたが採集場の件です。今回の件で様々な領地の採集場が被害を受けてまして、その中でアーレンスバッハの採集場だけ無事だったのはなんででしょうか」

 

「なんででしょうかと言われましてもわたくしは神殿長なので定期的に癒してますし、今回の被害を受けていない採集場もあるんでしたら被害を受けなかっただけではないのでしょうか」

 

そんなこと知りませんよ。神殿長として普通の行動をとっているだけですし。

 

「明らかに採集場の周りだけ荒らされている状態と言うのはおかしいですし、アーレンスバッハの生徒に聞いてみればローゼマイン様の奇跡だとおっしゃっていましたが」

 

うん...。誰が暴走したかなんて言わないよ?嘘をつくのは、王子の前では不味いよね。

 

「先程から申し上げて言う通りですわ。わたくしが定期的に癒しておりますので、回復していただけかと思われますわ」

 

「それではおかしい。ターニスベファレンが現れた次の日には回復していたのですから」

 

先生方も余計なこと言わないで。

 

「わたくし仮にも大領地アーレンスバッハの領主候補生ですのよ。魔力量もちがいますし、回復薬の知識も違いますわ」

 

「そうですな。魔力量と回復薬の有り無しは重要ですな」

 

まあ、回復薬なんて使わないけどね。適当に嘘にならない所でごまかせる言い訳を考えないと。

 

「なぜアーレンスバッハはあのような青色神官ではなくローゼマイン様を送ってくださらなかったのか」

 

うん、まあ、中央神殿行きもちょっとありかなとも思うんだよ。エーレンフェストに寄れる可能性があるし。無理だけどね。

 

「んまあ!領主候補生を勝手に中央へ動かせるわけないでしょう。非常識ですわ!」

 

「まず、なぜ大領地の領主候補生が神殿長になっているのかということを考えていただきたいのです。アーレンスバッハの神殿は何度も中央に応援をお願いしたのですがご考慮いただけたことがないことについてはどうお考えですか」

 

それは我々もとかモゴモゴ言っていますが、ようやく黙ってくれました。

 

なぜ中央神殿が貴族院から移動しているのとか聞きたいことはたくさんありますがこの様子だと明確な答えが来るのは期待薄でしょう。

 

「神殿の神事についてはアーレンスバッハもエーレンフェストの後追いにすぎません。今回の件はエーレンフェストの案件ですし、詳しく知りたいのならエーレンフェストにお聞きくださいませ」

 

よし、エーレンフェストに再度押し付け完了。ふう、ヒルデブラント王子もとても何か言いたそうにしていたけど、こちらの事を考えてくれたのか特に何も言わず静観してくれましたし良かったです。

 

この日はこれで無事にお開きとなり解放されました。

 

 

 

次の日は、ドレヴァンヒェルとのお茶会です。と言っても上位領地との合同でのお茶会なのであまりかかわる必要はないでしょう。

 

ディートリンデ様が勝手にいろいろ喋ってくれますし、まずそうな話なら別の話を少しだけすれば、話題はすぐに移ってくれますし。

 

ディートリンデ様の陰に隠れて話していれば安心なんて思っていた時もあったのですが...。

 

ドレヴァンヒェルのオルトヴィーン様がやけに私に話しかけてきます。私自身のことや魔術具の話など熱心に聞いてきます。

 

背中に積んでいる魔術具についても聞いてきたり、ええ、私からも色々聞けばいいのでしょうが、何を聞いていいのか分かりませんし困ります。魔術具のことは話せますが、私自身のこととなるとどう話してよいか分からなくなるのも困りものです。

 

「ところでローゼマイン様、アウブが打診している私との婚約については考えていただけているのでしょうか」

 

えっと、こんやくとかいいった?こんやくってなんですか。こんわくですね?

 

「...婚約とは何のことでしょうか」

 

「アウブドレヴァンヒェルより、私とローゼマイン様との婚約を打診しているのですが、全くご存じないのですか」

 

えっと、何も聞いていないのだけど。

 

「わたくしはお聞きしていないのでアウブに何かお考えがあるのでしょう。ただ、今のところはわたくしを外の領地へ出す予定はないと伺っております」

 

出せるわけないよね。現状で婚約とか問題になる前に処分される運命しか見えない。

 

「そうなのですか。婚約は関係あるなしにせよ、アウブアーレンスバッハの夫人との関係もありますし、これからも繋がりの深い領地同士仲良くしていきたいと思っております」

 

「ええ、わたくしも両領地間の友好をこれまで通り続けていけることを願っております」

 

ずっと絡まれたせいで他の領地とあまり話せなかったよ。まあ、別にいいんだけどね。

 

しかしやけに絡んでくると思ったけど婚約ね。レティーツィアの両親もやけに私の婚約について話を聞いてきたしよほど興味があるのかな。こんな人見知りで話してもお面白みのない私に目をつけるなんてよっぽどだよね。魔力量目的かな。多少他の人より多いみたいだしね。

 

ちなみにレティーツィアについて聞かれるかと思いましたがまったく聞かれませんでした。洗礼式とほぼ同時にアーレンスバッハへ来たということもあってか面識がないのかもしれません。

 

 

 

 

 

さて、面倒ごとは終わってのダンケルフェルガーとのお茶会です。

 

うん、前回は気分、ウラノの世界の『てんしょん』が上がりすぎて、よく見ていなかったけど、質実剛健という感じでこれはこれで落ち着きますね。

 

アーレンスバッハの寮はもう慣れましたが、みなさん見栄っ張りと言いますか...。

 

「ふむ、アーレンスバッハの歴史もなかなか面白かったぞ。」

 

レスティラウト様、なぜ当然のようにいるのでしょうか。

 

この時期のお茶会は女性のみの方が多く男性はめったに顔を出さないと聞いていましたが。

 

「ローゼマイン様、お兄様がお時間があるので参加したいと申されまして...。」

 

いきなりで申し訳ないという感じです。ハンネローレ様も大変そうだね。

 

「だが、歴史書にしては作り物めいているな。話としては面白かったが歴史書としてはどうなのだ。」

 

やはりあそこまでごまかしているとちょっと読めばわかるよね。

 

「アーレンスバッハの歴史書は常に編纂されているのでそのようなものなのです。ちなみに領主には編纂されていない歴史書もあるそうですがわたくしは見たことがございません。ダンケルフェルガーの歴史書は、余計な編纂もしていないようで実直にかかれているようですばらしいかと存じます。」

 

全くされていないということはないだろうけど、ほとんど真実そのまま書けるってすばらしいよね。

 

アーレンスバッハなんてウラノの世界の『ぶらっでぃかーにばる』の歴史ばっかりだし。

 

なんでまだこの領地が存続できているのか不思議でなりません。

 

「ダンケルフェルガーに隠したいようなやましい歴史などないからな。アーレンスバッハは違うようだが。」

 

「領地が違えば、歴史も文化も違うように歴史書に対する心も違いますわ。ただ、正直に申し上げますと隠し事をせずに歴史書を作れるダンケルフェルガーはうらやましいです。」

 

その後、互いの歴史書についてとかいろいろ話します。

 

ダンケルフェルガーの歴史書と言っても、ディッターの歴史ととらえておけば大体間違いないのだけどね。

 

あれ、そう言えばこの人は私のこと卑怯とか嫌いだとか言っていなかったかな?まあいいですけど。

 

「ハンネローレ様、そう言えばダンケルフェルガーの歴史書を現代語訳したので見てもらえますか。初代の方ではダンケルフェルガーの領主候補生よりツェントがたっていたり面白かったですわ。」

 

「ダンケルフェルガーの歴史書まで現代語訳されたのですか。ぜひとも確認させていただきますね。」

 

「ふむ、そなたはアーレンスバッハの歴史書だけではなくダンケルフェルガーの歴史書まで現代語訳するとは...。」

 

魔紙の消費がひどいことになっているけどね。魔紙は大量生産しているし、個人で楽しむ用だからどうとでもなるけど。

 

ようやくレスティラウト様が離れてくれたのでハンネローレ様に相談です。

 

「ハンネローレ様に是非ともしたいご相談があるのですがお聞きくださいますか。」

 

「何でしょうか。」

 

「ハンネローレ様は、ダンケルフェルガーの皆様を率いていらっしゃるわけですが、皆様をどのようにまとめているのか以前からお聞きしたいと思っていましたの。旧ベルケシュトックの方々はダンケルフェルガーの方に近いのか、一度動き出すと、その...。」

 

「わかります!ローゼマイン様!動き出すとお兄様もそうなのですがこっちの言うことを全然聞いてくれないのですよ。」

 

やはり、ハンネローレ様でも無理ですか。

 

まだ、命令すれば聞いてくれる方もいるので私の方が楽なんて思ってしまったりします。まあ、聞きたくない命令は聞いてくれないわけですが。

 

周りの方々と少しだけ言い争いになったり、いろいろありましたが概ね楽しいお茶会でした。

 

ハンネローレ様は心の友だとあらためて思いました。

 

 

 

 


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