マインオブザデッド   作:dorodoro

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53話 シュバルツ達のお着替え会

さて、本日はシュバルツ、ヴァイスのお着替え会です。朝の図書館の開館後に行うとのことになっているのですが...。

 

「ディートリンデ様が遅れるのですか。」

 

何でも朝一から緊急の用事が入ってしまったとのことです。

 

ディートリンデ様がいないといっても警備についてや着替えをさせるのは、他のアーレンスバッハの方々なので希望者にお願いするだけですし、着替えさせるだけなら問題はありません。

 

現状では着替えさせる部屋を整えれば後は私が触れる許可を出すだけでいいので事前にしておかないといけないことはもうありません。

 

「では、皆様図書館へ向かいましょう。」

 

図書館へ着くと執務室の奥の応接室でエーレンフェストの方を迎える準備をします。

 

「本日はローゼマイン様のお供の方が多くてようございます。」

 

ソランジュ先生は去年の私が頭の魔術具兼魔法陣を起動させてふらふらしているのを見ているのでよく心配してくれます。

 

「あら、これでもずいぶん元気になったのですよ。去年とは違いますわ。」

 

「それでも去年の状況を知っている以上、心配にもなりますわ。」

 

純粋なご心配とご迷惑をおかけして申し訳ないのですがしばらく続くことになりそうです。

 

「エーレンフェストのヴィルフリート様、シャルロッテ様がいらっしゃいました。」

 

ディートリンデ様がまだ来ないけどどうしよう。準備が終わっても開始の予定時刻になってもまだこちらに来られません。

 

ちょっとお茶会で時間を稼ぎますか。あれほど気に入っていたヴァイス達のお着替えに参加できないなんて申し訳ないですから。

 

エーレンフェストの制約についてもヴァイス達についてならある程度自由に話せるし。

 

...他の話題になったら、契約がどう反応するのか全く読めないけど。

 

「ようこそお越しくださいましたヴィルフリート様、シャルロッテ様。」

 

「お招きいただきありがとう存じます。」

 

貴族の長い挨拶を終えた後、側近達に席へ案内してもらいます。

 

「申し訳ございません、本日はディートリンデ様が所用のため遅れるとのことなのでわたくしがしばらくの間対応いたしますね。」

 

はぁ、話題に気を付けろって、基本ボッチ属性の私には無理難題すぎます。

 

挨拶くらいなら、今のところ指輪に反応はありません。さて、どこまでがヴァイス達の話題になるのでしょうか。

 

「それにしてもローゼマイン様が我々とこのようにお話しするのは初めてのことではございませんか。」

 

うん、だって、はるか高みに上るくらいなら諦めますよね。

 

「アウブであるお父様より、エーレンフェストとの情勢はお世辞にもよろしくないので接触の禁止を受けておりますわ。」

 

うん、この程度の話題ですらだめですか。指輪が反応しちゃうなぁ。

 

「お父様は私に対してとても過保護と言っていい状態ですが、シュバルツ、ヴァイスの服が余りに見事でしたので今回に限り許可をいただいたのですわ。」

 

ここまで言えば通じるよね。魔王様と接触しているのならたぶん何かしらの制約を受けていることは推測してくれていると思うけど。

 

「うむ、なかなかのデザインだろう。リーゼレータは本当にシュミルが大好きなのだ。リーゼレータ、説明を任せる。」

 

リーゼレータが前に出てきていろいろ説明をしてくれます。

 

「この髪飾りはハイデンツェルというクラッセンブルクとの国境近くの村の名物でして、珍しい魔木や薬で有名な村で作られています。」

 

うん、完全に狙ってやっているよね。

 

「わたくし、ローゼマイン様の髪飾りを見たときに同じ様な発想をする方がいることにとても驚きました。」

 

出所が同じだろうとでも言いたいのでしょうか。その通りですが。

 

「わたくしの頭の髪飾りは魔術具の上に魔法陣を描くのに都合がいいから使っているだけですわ。リーゼレータ、素晴らしい服を作ってくださりありがとう存じます。」

 

本当に白と黒でシンプルでいいよね。髪飾りなど糸で作った花がついていて見事に私の好みと合致しています。あ、そういえば、魔法陣の関係で少しだけデザインを変えてしまったのでそのことを話しておかないと。

 

「少し魔法陣の関係でデザインを変えてしまっていますが、素晴らしさが損なわれることはないかと存じます。」

 

お礼終了でいいかな。そこでリーゼレータが少し期待しているようなそわそわした感じで話してきます。

 

「不躾なお願いで申し訳ないのですが、よろしければわたくしにもシュバルツ達に触れる許可を頂けないでしょうか。」

 

「どうして接触許可が必要なのでしょうか。」

 

「他にも動きを妨げないような飾りを作らせていただいたので是非とも直接着けさせていただきたいのですわ。」

 

うん、個人的には接触許可をだしてあげたいけど私の独断じゃ無理だなぁ。

 

「ディートリンデ様がその飾りを気に入れば許可を出せるかと存じますのでお待ちくださいませ。」

 

そこで部屋の入り口に人が来る音がすると、ディートリンデ様がこちらへ来ます。切りのいいところで来てくれて良かったです。

 

「お待たせしてごめんなさい。ヴィルフリート、シャルロッテよく来てくれましたね。」

 

「ディートリンデお義姉様、お待ちしておりました。早速着替えさせますか。」

 

「あら、ローゼマイン。わたくしも少しヴィルフリート達と話したいですわ。」

 

お茶会では余り変わらないのですね。

 

ディートリンデ様が入ってきてこちらを見たときにどこかほっとした表情だったのが気になるけど。私がほっとしただけなのかな。

 

この方の行動は全くわからないから、流されるなかで何とかするしかないのですが。

 

その後は話し好きのディートリンデ様がとにかく話し続けます。前言撤回です。相槌を打つだけでいいなんて楽だなぁ。

 

「では、そろそろ着替えさせましょうか。」

 

「ディートリンデお義姉様、そこにいるリーゼレータが素晴らしい飾りを持ってきてくださったとのことなので接触の許可を出したいのですが。」

 

「見せていただいてよろしくて。」

 

装飾品を見ているディートリンデ様の表情が和らいでいたので接触許可は出せそうですね。

 

「いいですわね。わたくしもこの髪飾りや装飾品がほしいわ。ヴィルフリート都合をつけられなくて。」

 

「エーレンフェストとアーレンスバッハの現状では難しいかと。以前お話しした条件を呑んでいただけるなら融通はしますよ。」

 

「まあ、あれだけ嫌われててまだ諦めていなかったの。ヴィルフリート、余りしつこいと嫌われますわよ。」

 

「...久しぶりに普通に話せた気がします。」

 

「久しぶりも何もあなたとまともに話せたところを見たことがなくてよ。」

 

なんの話だろう。条件ね。ヴァイス達の話じゃないから加わることはできませんけど。

 

「ではローゼマイン、リーゼレータに接触許可を出してあげなさい。」

 

「シュバルツ、ヴァイス、リーゼレータに接触許可を。」

 

「わかった あるじ」

「リーゼレータ せっしょくきょか」

 

図書館の称号を得てから素直に言うことを聞いてくれることが増えたなぁ。

 

とそこで非常に困った表情をしたソランジュ先生が、ノックをして入ってきました。

 

「ヒルデブラント王子がシュバルツとヴァイスを見にいらっしゃったのですが。」

 

「あら、大したおもてなしは出来ないことを伝えて入ってもらえばよろしくて。ヴィルフリートとシャルロッテもそれでいいわよね。」

 

アーレンスバッハの素晴らしさを見せるいい機会ですわ、なんて言ってます。個人的には王族と関わりたくないのですが。

 

「ええ、王族の頼みでしたら構いません。」

 

はぁ、断れるわけないよね。ディートリンデ様がいるときで良かった。

 

そんなこんなで王族が部屋に来ると回りに伝え、ヒルデブラント王子が執務室に入ってきます。

 

全員で跪いてお出迎えです。王子が一通り回りを見た後に笑顔で手を振って促します。

 

「続けてください。」

 

「王子、よろしければこちらの席へ。」

 

私たちが座っている席へ案内してもらいます。まあ、領主候補生で固まって話しているからここに案内するしかないよね。

 

改めてヒルデブラント王子を見るとレティーツィアと同じ年の王子と身長がほとんど変わらないとか嫌になりますよね。

 

まあ、寝ていた時間差し引けばそんなものなのでしょうがと心の中だけで言い訳をつぶやきます。

 

ヒルデブラント王子は、本日もシュバルツ、ヴァイスを見に来たそうで、いなくなっていたので驚いたとのことです。そこでソランジュ先生に聞いて見た所お着替えをしているということでこちらにお見えになったということだそうです。

 

「シュバルツとヴァイスはこのような着替えをするのですね」

 

「主を交換するたびに行うそうですわ。この服はエーレンフェストがデザインし機能の中心となる魔法陣はアーレンスバッハで設計作成したものですわ。」

 

ディートリンデ様はすごいでしょうといった感じでご機嫌です。王族に売り込める機会なんて余りありませんしね。ヒルデブラント王子は他の王子と違って話しやすいですし。

 

話の中心がディートリンデ様に移ったので、相変わらず私は相槌を打っていただけなのですが、シャルロッテ様が私に興味があるような目を向けて話しかけてきました。

 

「あの、先程シュバルツ、ヴァイスはローゼマイン様のことを主と呼んでいましたが、ひめさまと呼ぶとお聞きしていたのですが変わったのですか?」

 

そういえばシャルロッテ様とは挨拶以外ではほとんどお話したことがないなぁ。

 

「この間、ちょっとした事件がありまして呼び方が変わってしまったようなのです。」

 

「事件ですか、お聞きしてもよろしいですか。わたくし、ヴァイスたちがあまりに可愛らしいので、とても興味があります。ローゼマイン様もシュミルがお好きなのですよね。背中にいつも背負われているくらいですから。」

 

シャルロッテ様、ごめんなさい。これはただの護衛用の魔術具です。レッサー君だといろいろ言われるからシュミル型にしているだけで...。

 

「背中のこれらは荷物運びに困ったときのお手伝いをしてくれる魔術具達なのですよ。」

 

私はサービスとばかりに起動してあげます。

 

「わぁ、可愛らしいですね。ヴァイス達とも違う小さいゆえの可愛らしさがありますね。」

 

契約についても同じ魔術具を元としているからヴァイス達の話の範囲内になるようです。そこでディートリンデ様の話が一区切りついたのかヒルデブラント王子が話に入ってきました。

 

「そういえばこの間の本を借りるときも動かしてましたね。」

 

ヒルデブラント王子には見られてますからね。毎日なぜか来るから隠しておくとか無理ですし。

 

「ただの試作品ですわ。戻りなさいアイン、ツヴァイ」

 

少しだけ動かしてあげましたが背中に戻します。回りから小さなため息が聞こえてきて、少し残念そうです。

 

「ローゼマイン、それはなんですの。」

 

ディートリンデ様、今聞いてくるのですか。

 

「ディートリンデお義姉様が以前寮にシュバルツ、ヴァイスを置いておきたいとおっしゃっていたので試作しただけですわ。ただ、今の段階では稼働時間が短すぎて実用に耐えられるようなものではございません。」

 

別に実態は私のただの護衛ですが...。名目はあった方がいいですよね。

 

ローゼマインと少し感動したようなつぶやきが聞こえた気がしましたが、ちょうどそこで着替えが終わったようです。

 

 

 

 

さて、着替え終わったシュバルツ達のお披露目です。どうしたら、このようなかわいい衣装って思い付くのでしょうか。

 

黒と白で男の子と女の子かな。

 

花飾りや魔法陣ばかりに目がいっていたのは事実ですが、改めて着替えさせてからシュバルツ達を見てみるとこの魔術具のためだけにデザインしたことがよくわかります。

 

落ち着いた雰囲気でまるで以前からこの服をずっと身に付けていたかのように錯覚するほど違和感がありません。

 

「魔法陣も見事ですね。ボタンの魔石もいいものを使われているようですね。」

 

それは、アウレーリアと旧ベルケシュトックで魔獣をたくさん狩りましたから。

 

事前に魔力与えてできるだけ強化して、最後は器を耐えきれなくしてから倒して、最高級の魔石を産み出すのは少し大変だったんですよ。私一人ではとても無理でした。

 

「ヴィルフリート様、先程のディートリンデお義姉様の髪飾りの件なのですがヴァイス達が身に付けていた服と交換でいかがですか。わたくしにも普段使い用の髪飾りが一つ欲しいです。」

 

この服は、既に解析し尽くしたから私は持っている必要はありませんし、アーレンスバッハには明らかに不要なものだしね。あえて言うのなら魔石ぐらいですかね惜しいのは。

 

「それはいいですわね。ヴィルフリートどうですか。」

 

「それはさすがにこちらが貰いすぎではないか。」

 

ヴィルフリート様の言う通りさすがに価値が合わないか。

 

「それでしたら加えて、今後のアーレンスバッハ領主一族の装飾関係の注文優先権とだったらいかがですか。飽きたらそれまでですし、そこまでお互い負担にはならないかと存じますけど。」

 

これにはヴィルフリート様も苦笑いです。そこまでして欲しいのかと顔に書いてありますよ。

 

「お兄様いいのではないですか。女性にとって気に入った装飾品の価値は男性にはわからないものですわ。」

 

「わかった、エーレンフェストに戻り次第検討させてもらうことにする。」

 

一通り終わりだなと思ったところでヴァイスとシュバルツがやって来ます。

 

「あるじ がんばった」

「ほめて ほめて」

 

態度が軟化したことはいいことですよねって、この魔術具たちは着替えさせてもらっただけじゃん。

 

いつものことなので額より魔力を流してやります。

 

あれ、ヒルデブラント王子も触りたそう?

 

「シュバルツ、ヴァイス、ヒルデブラント王子に接触許可を。」

 

「わかった あるじ」

「ヒルデブラント せっしょくきょか」

 

今にも触りそうでしたので間に合って良かったです。

 

疲れました。エーレンフェストだけでも気を使うのに、まさか王族まで関わってくるとは。

 

王子は触って満足そうにしているので、大丈夫ですよね。

 

まあ、回りに気を使ってもらっているから形になっているだけのような気もしますが。

 

ようやく終わりだなと思ったところで油断していたのがいけなかったのでしょう。

 

「ところでローゼマイン、よろしければその背中のシュミルを頂けませんか。」

 

そんな好奇心旺盛で期待を込めた目で見つめられても困ります。

 

ヒルデブラント王子の側近連中に視線を向けますが申し訳なさそうに首を降るのみです。

 

「あら、ローゼマイン。ヒルデブラント王子が欲しがっているのなら差し上げなさいな。」

 

ディートリンデ様がそう言うのは珍しいですね。ヒルデブラント王子とは相性が悪くないようです。

 

「...王族への献上品となりますが、私が使っているものでよろしいのでしょうか。」

 

「もちろん、新しく作って頂いてもいいですが、できればその背中の子が欲しいです。」

 

王子は今すぐに欲しいと言うことですかね。それともこの子達のどちらかが気に入ったとかかな。

 

私もレッサー君軍団を作るにあたって目の位置とか大きさとかいろいろ変えるけど、とっても気に入る子もいれば少し違うだけで失敗したかなと思う子もいます。どの子もみんなかわいいですが。

 

王子の側近たちを見ても頷くだけですので贈ること事態は問題ないようです。

 

確かに王子なのに部屋から出られないというのは、気が滅入るかもしれませんので、1体くらい諦めますか。

 

小型レッサー君でも代用できますし。レッサー君タイプは荷物の持ち運びが苦手なのが難点ですが。

 

「ヒルデブラント王子は、闇と光の属性をお持ちですか?」

 

「持っています。」

 

ヒルデブラント王子にどちらの子が欲しいかと聞くと、どちらでも構わないとのことです。ここまできて遠慮をするとは思えないので、すぐに欲しい方だったようです。

 

「分かりました。この子達は服ではなく名前を欲するよう設定してありますので後で決めてあげてくださいね。ツヴァイ、ヒルデブラント王子へ主変更。機能も魔力節約設定に変更。」

 

「あるじへんこう ヒルデブラント。」

 

ツヴァイはそういうとトコトコとヒルデブラント王子の脇に行きました。

 

「ありがとうございます。ローゼマイン様。」

 

後ろの側近たちも、申し訳なさそうにお礼を言ってきました。

 

まあ、節約モードなら荷物運びぐらいしかしないし魔力圧縮をしていないヒルデブラント王子でも十分に魔力が足りるよね。

 

ヒルデブラント王子がとっても嬉しそうなので、もういいです。

 

今回のシュバルツ達のお着替え会は、非常に疲れ失ったものもありますが得たものもあります。

 

やはり一番の収穫は、ヴィルフリート様、もしくはシャルロッテ様が、魔王様とそこそこ深い関係を持っている可能性が高いのがわかったということですね。

 

ディートリンデ様については保留です。

 

私程度が理解できる方ではありません。思った以上に延びたヴァイス達の着替えもなんとか無事に終わり解散となりました。

 

対応で疲れきりましたので、貴族院内の祠や像を軽く巡り部屋に戻って休みました。

 

薬の鍵とかは、ばれていないようで無くなったりせず順調ですが、汎用素材がまた盗まれだしたようです。

 

致命的ではないのでもう諦めていますが。

 

 

 

 


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