アウレーリアと申します。
短い間でしたが、ローゼマイン様の側近として働いておりました。
ローゼマイン様についてですか?
なんと言っていいものでしょうか。
私がエーレンフェストに嫁げたのはローゼマイン様のお力添えもあってできたことなので、とても感謝しています。
はじめの出会いは、冬の社交場でした。
その時はランプレヒト様との結婚について魔力差があり、両親から反対をされていたので、お流れになることが決まっておりました。
そのためしばらく手が空くということとゲオルギーネ派であるということが重なり、主に城でローゼマイン様の側近として護衛することになりました。
ローゼマイン様は、以前から話を聞いていた通り人形みたいな方で、初めは会話にしても、少し警戒されているような緊張感が漂っていたのですが、図書室でお見かけした話をしたら一気に空気が和らぎました。
この時は私も話下手でローゼマイン様も話好きではないようで、余り話が進みませんでした。ですが、この方なら仕えてもうまくいきそうだと思いました。
おそらく家では可愛いげがないと疎まれ、愛情は妹へいきゲオルギーネ様ともうまくいっていないということもあって居場所がない私と、同じく信頼できる側近がいないローゼマイン様とは失礼ですが、似たような立場だったということが大きかったと思います。
城でのローゼマイン様は、図書室によく行きます。以前は側近もつけずに一人でも行くほどで、よほど難しいことを調べているか本がお好きなのでしょう。
私もせっかくなのでエーレンフェストについて調べていました。
やはり諦めたつもりでも、ランプレヒト様とのことにまだ未練があったようです。
ローゼマイン様は、一度本を読み出すと読み終わるまでは脇目も降らずに読み続ける方なので調べものがあれば自由にしていいと言われていたこともあって、この時はお隣で調べていたのですが。
「エーレンフェストについて興味があるのですか。」
繰り返しになりますが、ローゼマイン様は積み上げた本を全部読むまでこちらから言わない限り中断することはまずありません。
ですがこの時は違いました。私が「ええ」と曖昧に返事をするとすぐに立ち上がり、困惑と期待がこもっているような目でこちらを見てきました。
「アウレーリア、わたくしの部屋で話ませんか。」
ちなみにローゼマイン様は使用人以外は側近でもめったに部屋には入れません。
よほどエーレンフェストについて何かあったのか心配になりました。
ローゼマイン様が部屋につくと使用人にお茶を準備させて退室させると正面に座るよう促してかました。
ローゼマイン様の部屋は飾りっ気がなく領主候補生の部屋として必要最低限のものしか置いていないようです。
聞きたいことは、やはりエーレンフェストについてなぜ調べているのかということでした。
答えにくいです。なんと答えようか迷っていると、ローゼマイン様がうなずいたようにした後、ものすごい勢いでエーレンフェストについて話し出しました。
歴史や文化、各地方の特性やアーレンスバッハとの違いなど、一通り喋りきったのか満足そうな感じです。
余り表情が変わらないので断言はできませんがこの方もきっと私と同じく誤解を受けやすい方なのでしょう。
きっとこれだけエーレンフェストについて詳しく熱心に話してくれる方なら、もしランプレヒト様のいるエーレンフェストに嫁ぎたいという話をしても問題はないでしょう。
思いきって話そうと思ったのですが、急に恥ずかしくなって領主一族のことをとりあえず聞きます。
次々と話してくれるのですがランプレヒト様の話がなかなか出てきません。
思いきって聞いてみたのですが、余り詳しくないとのことです。
ランプレヒト様について詳しくないのは残念でしたが、私のお付き合いについて思いきって相談してみますと。
すごい勢いで身を乗り出すようにして話を聞いてくれます。
今までアーレンスバッハの方に話しても誰も歓迎してくれなかったのですが、この方だけは違いました。
「わたくしとしてはエーレンフェストに嫁ぐのはとってもお勧めできますけど、家族とはしばらく会えなくなる覚悟はあるのですか。」
ローゼマイン様は私がエーレンフェストに嫁ぐことは大歓迎とのことです。
エーレンフェストとの友誼を切に望んでいるとも言ってくれます。
家族に疎まれている私としては家族と離れることに何も感じません。
そもそもそれ以前に貴族の方で家族について言及する方は初めて見ましたが。
その後はエーレンフェストに嫁いだ場合の注意事項や、嫁ぐことが決定したら向こうで暮らしやすいよう手配をしてくれると言うのです。
何でも今は全く繋がりはありませんが、以前は神殿の関係で、できた伝手があるそうです。
ローゼマイン様が乗り気になっているところ申し訳なくなり、この話は魔力の差があり、ほぼ流れることが決定していて、すでに諦めているということを最後にお話しました。
それを聞いたローゼマイン様は、一瞬ためらうような仕草をした後、少し不安そうな目を私に向けて言ってきました。
「アウレーリア、貴方がわたくしのことを主と思ってくれているかはわかりませんが、一度主として会わせてくれませんか。」
もちろんこの話をしたのは主として心から認めているということもありますので、ちょうど数日後に城に来ると言うこともあって会って頂くことになりました。
ランプレヒトが、アーレンスバッハの城に着いて早々にその事を伝えると、
「アウレーリアの主が変わったのか。」
ローゼマイン様についてまだお話していませんでした。
今の主はエーレンフェストとの友誼を切に望んでいる話をするとすぐに会いたいと言う話になりました。
ローゼマイン様と会ったランプレヒト様は少し驚いた様子でしたが、その後ローゼマイン様から挨拶をさせて貰いたいと言われたときは更に驚いていました。
身分差はそこまで大きくはありませんが、大領地とあって逆になることはあり得ません。
それだけエーレンフェストとの友誼を望んでいると言うことなのでしょう。
その後も驚きの連続でした。
成人後も魔力が伸ばせると言って聞いたこともない魔力圧縮方法を提案したのです。
しかも同調薬なしに他人の魔力に干渉するなんてできるはずのないことまでやりだしました。ローゼマイン様ができると言ってやりだしたことですが、後で本当に魔力を誘導されたのかランプレヒトに確認してしまいました。
そのお陰もあってランプレヒト様はこの後かなり魔力を伸ばし結婚の話がまとまりました。
やはりローゼマイン様は常識では計れない方なのでしょう。
その後は、ローゼマイン様の素材の回収に何度もつれていかれました。
お守り程度にしか使っていなかった魔剣の件もありますがそれより何よりも、
アウレーリアだけが頼りなのです。
と言う言葉を何度頂いたでしょうか。
それほどまでに私を必要とし、心に響くお言葉を今まで家族からも貰ったことがありません。
素材の回収に行っては寝込んでしまうので心配なのですが、アウレーリアがいる間にできるだけ集めておきたいと頼まれては断れません。
そこまで頼って下さるなら結婚を取り止めると言う話もしたのですが、ローゼマイン様らしくない力のこもった声で言われてしまいました。
「絶対になりません。」
とても怒られました。
愛し合っていて、私にもローゼマイン様にも利があるのだからと言うのです。
ローゼマイン様が怒っても、身長と見た目のせいか怖い雰囲気が出ないのですがローゼマイン様が私を思って言ってくださっていることは良くわかります。
後にも先にもローゼマイン様が怒っているところを見たのはこれが最後でした。
この後、素材回収に一緒に行ったり、城や神殿での護衛は領主会議が終わるまで続きました。
危ない場面も何度かありましたが、この方となら例えどんな状況であっても何でもやり遂げられる気持ちになるので不思議です。
領主会議が終わり、結婚が正式に決まり忙しくなってきたある日、ローゼマイン様が時間を取ってくれと言ってきました。
そこで以前から気にしていたつり目について少しはごまかせる方法があると言って『めいくぐっず』なるものをもってきました。
言われた通りに使ってみると驚くほど印象が変わりました。
渡した本人は毒に対する中和作用についてしきりに説明してきたのは気になりますが。
作るのに少し手間がかかるらしく、神殿の伝手を使って作ってもらって欲しいと言う話があり、魔紙と言う魔木でできた紙の作成方法とサンプルを渡してきて、困ったときに助けてもらえるよう図書館の魔術具の設計図なるものを渡してきました。
これらの価値は私にはわかりませんが、かなりの物なのでしょう。
今まで短い間とはいえ、良くしていただいたこともあって、遠慮をしたい気持ちもありましたが、アウレーリアの為に個人的にしたかったなんて言われては何も言えないでしょう。
星結びの当日は、まるで両国の関係を示すかのような曇天模様と言うこともあり、嫌な感じはありましたが、星結びの儀式はつつがなく進みました。
ローゼマイン様からは、今話している神官長がフェルディナンド様とのことなどの話を受けます。
フェルディナンド様と言うのは、エーレンフェストを実質的に支えている裏の支配者とのとこです。
ローゼマイン様は神殿長として、祝福を与えるだけとのことで、非常に楽だと出ていくまではゆったりとしていました。
無事に普通の祝福を受け、終わりの雰囲気が出てきたところで私とランプレヒトが呼ばれます。
あくまでローゼマイン様が個人的に祝福を贈りたいと言いだされて魔法陣を展開します。
横に三つの魔法陣に、重なるように縦の魔法陣を書きます。
ローゼマイン様以外だったらそのようなむちゃくちゃな魔法陣がうまく行くはずもありません。
いったんローゼマインの目の前から魔法陣が空気に溶けるかのように消えたかと思ったら、空の高い所に再度姿を表し、魔法陣同士が反発しあうかのように更に上っていきます。
その後、まるで空に雲の壁があるかのように魔法陣が弾かれたかのような動きをして、雲の壁を突き破り上ろうと何度か弾かれては上る現象が続き、最後になにか飲み込むような魔力の渦となり、空に吸い込まれていくかのように弾けました。
私とランプレヒトを中心に曇天模様を生み出していた雲に穴が開き、徐々にその穴が広がり晴天に代わっていきます。
太陽の光が徐々に入ってきて、太陽の光に合わさるかのように祝福のような輝く魔力が降り注ぎだします。光と魔力が広がっていき会場全体が祝福で包み込まれていくようでした。
これを、ただの祝福と呼んでいいのかはわかりませんでしたがローゼマイン様の両国を思う心が痛いほど伝わってきました。
ほとんどの方はしばらく何が目の前で起こったのかわからずに固まっていました。
私もしばらく美しい光景に目を奪われ気がついたときにはローゼマイン様は、すでに戻られていたようでさっきの場所からいなくなられていました。
星結びも終わり、エーレンフェストに着いてから引っ越し作業の忙しさも少し治まってきた頃にフェルディナンド様はやって来ました。
ローゼマイン様に言われていた通りに魔紙を出して『めいくぐっず』について交渉します。
大変結構とつぶやいたように聞こえた後、
「あの馬鹿のことだから、もう1つくらい緊急用の何かがあるだろう?」
支援を約束するからさっさと出せと言うのです。
馬鹿と言うのは、ローゼマイン様のことでしょうか?
少し親近感があるような感じだったので諦めて図書館の魔術具の設計図も渡します。
今度は愚かすぎると聞こえたような気がします。
「アウレーリアはずいぶんとあの馬鹿に信頼されていたようだな。」
短い間でしたがとてもお世話になったと言う話をします。
「これらの価値が解っていないように聞こえる。」
どれ程なのでしょうか?
「私がアウブアーレンスバッハなら、これ程のものをこの程度の目的で流出させたなら即メダルを破棄する。」
なにやら本当にとんでもないものを私に渡したようです。
「結局あの愚か者はどこへ行っても治らないということか。」
まるでこっちに住んでいたことがあるかの言い方です。
その事を質問すると呆れたように、本人から聞いていないのなら話すことではないと言われます。
こちらに住んでいたのならばあれほどエーレンフェストに詳しく、エーレンフェストの友誼を望んでも不思議ではありません。
それならば、なぜ経歴不明でアーレンスバッハにいるのかはさっぱりわかりませんが...。
この雰囲気で、ここでお聞きしても答えてはもらえないでしょう。
「ところであの愚か者はどのくらいアーレンスバッハを掌握した。」
掌握、支持を取り付けたと言う意味でしょうか?
... あの方が求める、もしくはあの方に何かがあればアーレンスバッハ内の四割の方は即座に立ちあがり行動を起こすのではないでしょうか。