さて、アウレーリアの星結びのためにやって来ました境界門です。
境界門があるところを境にエーレンフェスト側は青々とした木々に囲まれているのに対して、アーレンスバッハ側は成長途中の若木が目立ちます。
以前来ていた側と反対から行くとは、なんとも感慨深いものがあります。
結婚式場は、まるでエーレンフェストとアーレンスバッハの関係を示すかのような、曇天模様です。まったく、私の心まで曇天模様になりそうです。なぜこのようなおめでたい日に晴れてくれないのでしょうか。
さてと、非常に危険なのですが、境界門の境に手を出してみます。
弾かれる様な現象は起きませんでしたが、透明な壁があるみたいな感じで不思議です。
思い出すのは、最初の小神殿のルッツが入れなかった壁です。きっと似たような物なのだろうね。
構造の解析を魔力から追えないかと頑張ってみようとしますが、さすがに解析はできませんでした。
せっかく危険を冒してまで触ってはみたものの...危険を冒した意味はなかったなぁ。残念です。
星結びの儀式が始まる前にアウブや、お母様、レティーツィアなどと軽く話してから結婚関係の待機場所へ向かいます。
準備は全部エーレンフェストがやってくれるとのことです。
楽でいいですね。まあ、魔王様が単純に邪魔されたくないだけな気もしますが。
ちなみにエーレンフェストとアーレンスバッハの神殿長の服は夏服ということもあって全然違うので、ヴェールさえ被ってしまえばわかりません。
魔王様にはバレバレでしょうが。
回りを見ると懐かしい顔ばかりです。ライゼガングの方々はまさかと思うけど暴走しないよね?
さて、結局、準備の後に挨拶も打ち合わせもろくにせずに星結びの儀式が始まってしまいました。
一応はじめましてなのですがいいのでしょうか。
魔王様は今でも神官長らしく先に式台に出て聖典の説明などをしてくれます。
私はというと、アウレーリアや、ランプレヒト様に挨拶をして出番を待ちます。
まあ、何度もやってますしね。見ていれば、どのタイミングで入ればいいのかなんてすぐにわかります。
「神殿長、ご入場ください」
何度も聞いた掛け声が聞こえたので、さてと、行きますか。
私が式台へ上がると、うん、すごく注目を浴びています。出席者のほとんどが私に目を向けているのではないかと錯覚しそうなほどです。
私が式台にあがった後、結婚に関する契約書の履行を終えれば、最後に私が祝福するだけです。
指示しないで祝福するだけでいいとは本当に楽ですね。
最高神である闇と光の夫婦神に祈りを捧げ今回結婚する2組の新しい夫婦に祝福を送ります。
本当は盛大に送りたいけど、エーレンフェストでも私は何度も盛大にやっているので、少しでも誤魔化せるよう普通の祝福を送ります。
ああ、我慢できません。
もうごまかすとかどうでもいいですよね。命令は神殿長として祝福しろと以外言われていませんし。ヴェールを被っていて顔が見られないようにしていますし。
いろいろ頭の中で言い訳が浮かびます。なぜ、大切な方々の祝福を抑える必要があるのでしょうか、いやないはずです。
回りは祝福が終わり儀式終了に向けて動き出そうとしていますが...。
「ランプレヒト様、アウレーリア様」
回りが静かになったところで私の声が響きます。
「アウレーリア様はわたくしにとって側近中の側近でした。」
本当に短い間だったけどこういうのは時間は関係ないものね。
「これから行うのはあくまでアウブアーレンスバッハの子ローゼマイン個人として祝福を送らせていただきます。」
シュタープで、天空を司る最高神たる夫婦神用の魔法陣と、大地を司る五柱の大神用の魔法陣と、眷属用の魔法陣を横に描きそれらを全部繋ぐよう縦に魔法陣を描きます。
「天空を司る最高神たる夫婦、またそれを導く大地を司る五柱の大神、または導かれる大神の眷属」
二人と両領地が幸せで平和になりますように。
「新しき夫婦と両者の母たる大地が健やかに導かれるよう祝福を。」
まずいです。魔法陣は魔力さえ足りればいけると思いますが、祝詞はむちゃくちゃです。
せめて、この暗い雰囲気を生み出している曇天模様を何とかしたかっただけなのですが。
想定外にとんでもない魔力が持っていかれただけで、なにかが起こっているように見えません。まさかの失敗でしょうか。
あう、他の世界の神も含めて祈りを捧げたのは失敗だったのでしょうか。
魔力を使いすぎたのか意識が保てません。
あうち、どのくらい寝ていたでしょうか。
頭の魔術具が起動したおかげでそこまで長い時間、意識が落ちていなかったはずです。
周りを見渡すと、控え室で横にされていたようです。
誰もいなかったので、とりあえず状況を確認しようと異常に重い体を無理やり起こして、控え室から出ようとします。
入り口を開けると、まさかの、魔王様が仁王立ちしていました。
「最後のは何をおこなった。いや、いい。」
聞きたいことは遠慮なく聞いてくる魔王様にしては珍しいですね。少し首をかしげたくなりますが、そのような簡単な行動でも体がきついです。
「あいさつは今さらいりませんよね。エーレンフェストの魔王様、くれぐれもアウレーリアのことをお願いしますね。大切な方なので...」
す...。あ、まずい。私は言いたいことを言えたから安心して気が抜けてしまったのか一気に目の前が真っ暗になりました。
星結びで目の前が真っ暗になった後、目を覚ますとそこはもうアーレンスバッハの城でした。
その後、エーレンフェストより届け物があるということで私の所に贈り物が届きました。
何でも素晴らしい祝福のお礼ということで、わたし個人への贈り物だそうです。
送られた物を見てみると、手紙が一通添えられていて、以前にエーレンフェストで作ったユレーヴェと素材がいくつかありました。
手紙を開くと、とても懐かしい美しさと力強さを兼ねそろえた几帳面な字で、一言だけ入っていました。
『給料未払い分』
保管する場所の無駄だとか言って渡してくれるフェルディナンド様を想像してしまい、懐かしさがこみ上げ小さな笑みと他のものがこぼれました。
さて、城に戻ってもからも安心はできません。
お守りが発動していないところを見ると丁重には扱ってもらえたようです。毒とかも大丈夫そうです。
体調が体調なので、アーレンスバッハ内の星結びの儀式は出席せず、その後のランツェナーヴェの使者をもてなす宴に参加します。
すべてのギーベが出揃い盛大な宴が行われます。
まあ、出されているものは輸入した品物を元とした物ばかりのようですが。
使者の方々は12名で、民族もバラバラの模様です。
「火の神 ライデンシャフトの威光輝く良き日、神々のお導きによる出会いに、祝福を賜らんことを」
ランツェナーヴェでもライデンシャフト様に祈るのかな。
返答と祝福を返してあげたら、とても驚かれました。
「ローゼマイン様に火の神 ライデンシャフトの祝福を」
最初は、結構傲慢な態度だったのだけど、祝福をあげただけで態度が一変しました。本当は挨拶だけの予定でしたが相手が話しかけてくる以上対応します。ついでに少しランツェナーヴェについて聞いてみます。
「ところで、ランツェナーヴェではどう言ったものを主食にしているのですか?」
「ローゼマイン様、基本的にはこちらと同じ麦です。」
ああ、分かってはいましたが残念です。輸入も期待うすかな。
「基本的と言いますと他にもあるのですか?例えば『水耕栽培』のものとか?」
「すいこうさいばいですか?」
「ええ、畑で作る物もあるのですが、基本的には水を土地にためてそこに種もしくは発芽させ少し育てた状態で植えていくのですが。」
うん、あと他に特徴と言えば...。
「種を食べるもので皮を剥くと白っぽく、この香辛料くらいの大きさです。」
相手の方は考えている様子でしたが。
「もしよろしければ明日見に来ませんか。もしかしたらあれかもしれません。」
え、あるの!?
アウブに許可を取り行ってきました。
ありましたよ、それっぽいものが!
これはおそらくウラノの世界の『インディカ種』の系統ですね。
『タイ米』ってやつです。細長いお米ですね。
大量の水で茹でてから蒸さないと臭みがとれず食べにくい品種ですね。
せっかく香辛料があるのですから...。
コリアンダーと
後は、お芋類をいれてもらえば勝手にとろみが出るので
ウラノの世界の『かれーらいす』へ近づきます。
カレーぽいものは、すでに何度か作ってもらってて上記の基本的な香辛料の組み合わせから他の香辛料を加えたりしてもらったりしていますが、美味しいけど変な食べ物として全然広がりません。
インディカ米があるのなら、次はできればジャポニカ種が欲しくなりますね。
同じ品種で例えばもっと縦の長さが短いものがないか聞いてみましたが、ないとのこと。
ならば、儀式用とかのために黒とか緑とか赤っぽいものが栽培されていないか聞いてみるとランツェナーヴェにはないとのことです。
ただ、他の国にあるかもしれないとのことです。
ウラノの世界でもインディカ種が、お米の生産の8割とのことなので見つけるのは厳しいかもしれませんが、より源種に近い有色米ならジャポニカ種に近い可能性が高まります。
お米的にはジャポニカ種の方が原種に近いから...。
美味しいジャポニカ種のうるち米にするまでとっても時間がかかりそうです。
ちなみに粘り気のないウルチ種か粘り気の強いモチ種か聞いてみたら、さらさらしているとのことなのでうるち米で良さそう。圧倒的にウルチ種の方が多いのでそこはあまり心配していませんでしたが。
しかし聞いてみるとこのお米も売るつもりで持ってきていないとのこと。
育て方を聞くと陸稲で畑で行けるとのこと。
種を交渉してわけて貰いさっそく孤児院で生産です!
といきたかったのですが、ウラノの世界の無念なりというやつですね。
せっかくユレーヴェが意図せずに手に入りましたので効果を上げるために今まで集めてきた材料を加えて、更に効き目を強めてからアウブに相談です。
さすがに命よりお米を優先できません。
いや、命の危険でも...。
手に入ったお米がジャポニカ種だったら暴走してたかもしれません。
残念ながら今はお預けです。しょんぼりです。
お父様に連絡を取り時間を取ってもらいます。
ユレーヴェに浸かるなら魔術具類はとらないといけません。
いえ、とらなくてもいけるかも知れないけど不安要素は少しでも取り除かないと。
特にこの指輪については危険なことが起こる感じしかないので、交渉しないといけません。
「というわけで5ヶ月ほどユレーヴェに浸かりますので外していただけませんかお父様。」
こちらの条件としては私の隠し部屋にお父様とお母様の一時的な入室許可。
ユレーヴェに浸かったところで外して貰う形で構わない。このくらいしか出せません。
後は、薬を余分に作っておいて渡すくらいでしょうか。
「今必要なのか。」
「今しか時間がありません。今から浸かれば洗礼式のお披露目会までに間に合います。」
結構渋られましたが了承を貰います。
お父様に関しては多少政務を手伝っているだけです。私がいなくてもほとんど影響はないと思うのですが、なぜ渋られたのでしょうか。
基本的な健康管理にしても信頼できる方に引き継いでいますし、念のためたまに見るくらいで問題はありません。
魔力器官が壊れかけてしまっていたので、回復には長い時間がかかりそうですが。
私に関しても、神殿長として魔力を大量に使う行事については、この後しばらくありませんので問題はないはずです。
神殿長として最低限の引き継ぎを終え、魔術具や薬関連等の整理をして、貴族院へすぐ行ける準備を終えます。最後に礎に魔力を念のためたっぷり奉納して、ではおやすみなさい、「夢の神シュラートラウムよ、心地良き眠りと幸せな夢を」ですね。
いつもお読みいただきありがとうございます。誤字脱字報告等も頂けて本当に助かっております。
お米についてですが、自生しているやつを他領や海外まで探す話にしようかとも考えましたが諦めました。いつまでたっても話が進まなくなってしまいましたので。