「ただいま戻りました。」
はぁ、ようやく終わった。貴族院の前半は本当に地獄でした。
さて、なんでもこれから会議とのことです。アウブの弟君の家族も含めて会議だそう。
別に私いらないよね。え、逃げちゃダメ?はぁ、仕方なく案内され会議室へ向かいます。
えっと、他に知らない人は、ゲオルギーネ様の子でディートリンデ様のお姉様とその夫かな。
あと、アウレーリア様の妹さんは別にディートリンデ様の側近だからここではいいか。
まあ、アーレンスバッハの行く先と言っても、ゲオルギーネ様を含め身内だろうと平気で毒殺をしかける人がたくさんいるし、お先真っ暗だね。
ちなみにアウブの弟君とディートリンデ様のお姉様の夫は、神殿の関係者である私を侮蔑した目で見てきて挨拶時も話をしたくもないという感じでした。貴族院でもそういう人は結構いたけど思ったより少なかったな。
ディートリンデ様のお姉様は、何というか、ディートリンデ様の話をずっと聞いている感じだよね。
この人は、神殿に関しては興味がないという感じなのでわたしに対してもあまり興味がなさそうかな。
恐らく夫任せの人なのかな、だとすると余り私は近づかない方がよさそう。
結局側近になったアウレーリアと細々と話していると
「アウレーリアお姉様、ローゼマイン様、少しお話させていただいてもよろしいですか。」
アウレーリアの妹さんね。この方も良くわからない人なのですよね。
なんとなくトゥーリに似ているようなところもある気がするけど、ディートリンデ様に常に追従しているだけだしなぁ。
側近の方達の微妙さなら私も負けないけど。
「ええ、アウレーリアの妹ですもの。貴族院ではあまりお話したことはございませんでしたし。」
他の人の側近とこういった機会でもないと話すことってあまりないからね。
私は側近とすらまともに話してなかった。はぁ。
「ローゼマイン様には、感謝しております。ディートリンデ様があそこまで普通に過ごされた年は側近になってから初めてです。」
普通?え、私は振り回されっぱなしだったけど何かあったのだろうか。
「えっと、この場で話していい内容なのかしら。」
下手したら主批判だよね。私の知ったことじゃないけど。
「ええ、どうせ聞こえません。ここだけの話にしてください。」
まあ、あれだけ夢中になっていればねぇ。大人たちは大人たちで固まって何かやっているし。
私って本当に場違いだよ。そのあと、主批判ぎりぎりの発言で話が続きます。
というか、ディートリンデ様がやけに私に講師させたり、いろいろ動くのを取りまとめていたのは、あんたか!
なんか、ほとんど問題を起こさないで終わって感謝しているとか言っているけどやっぱり侮蔑の色があるんだよね。
トゥーリとは大違いだよ。ものすごく腹黒いね。まあ、ゲオルギーネ様のもとではこのくらいでないと生きていけないんだろうね。
そんなこんなでいろいろ勝手に情報を喋ってくれるので聞いていると、アウブに呼ばれます。
「アウブ、何か御用でしょうか?」
「今回の表彰式で最優秀者だったそうだな。」
「何の話でしょうかアウブ。」
最優秀者?そんな話ありましたっけ。
「聞いていないのか。お主は一年の最優秀者であった。ディートリンデに代わりに出させたが。」
何も聞いていないのですが、成績なんて興味もありませんでしたし。
「それでだな、ローゼマイン、アウブアーレンスバッハになる気はあるか?」
そんなことより帰らせてください...。え、アウブはいきなりこんな大人たちの前で何を言っているのでしょうか。
「知っての通りわたくしはアウブに興味はございませんし、体の関係からアウブのお勤めができるとはとても思えません。」
「とのことだ。当然私もローゼマインをアウブにするつもりはない。」
なんでも、ゲオルギーネ様や他の大人たちが私を警戒しているようです。
侮蔑の対象に警戒とか。一言無駄だからやめてくださいって感じだよね。
少しだけ私に対する話が続き、下がってよいとの言葉をもらったので下がりました。
その後、あまりいる意味のない会議は終わりました。
さて、まだ冬なので神殿に戻る理由がないので、図書室です。
アウレーリアが一緒についてきてくれます。彼女も話していてわかるのですが結構本好きの様です。
なぜ文官にならなかったのかと聞くと、恥ずかしそうに話下手だと言うのです。ウラノの世界の『コミュニケーション』の能力不足です。
仲間です!一層親近感を持ってしまいます。
余りゲオルギーネ様の派閥だから近づきすぎてはいけないのですが...。
さて、今、稲を見つけるのにできることは貿易しかありません。
他にも素材回収に行かないと、まったく魔王様の薬の素材は高いものばかりです。
少しでも汎用的な材料で、素材が耐えられるぎりぎりまで魔力を注入することで何とか賄っていますが、城で分けてもらうのも限界ですし何とかしないといけません。
ユレーヴェも何とかしないといけないし、図書館の魔術具も護衛のため作らなければなりません。
幸い洗礼式までまだ時間がありますし、計画的に行わなくてはって...。
「あの、アウレーリア様。エーレンフェストの本をそんなに広げてどうしたのですか。」
こっち来てからエーレンフェストについて調べている人初めて見た。
「ええ、エーレンフェストに興味がありまして...。」
なんですと!アウレーリア様に対する好感度がって...仮想敵国だからとか言わないよね?
「何か聞きたいことがありまして、わたくし結構エーレンフェストについて詳しいですよ。」
他の人にエーレンフェストに聞かれるのもあまりよくないので、城の私の部屋へ移動します。
「それで、エーレンフェストについてはどうして調べていますの?」
少し困り顔です。まあ、何か訳ありだよね。
「何か言えない理由でも?まあ、悲しいですが今の情勢では、エーレンフェストとはお世辞にも仲がいいとは言えませんからね。」
うん、じゃあ私が勝手にしゃべっちゃうよ。
「よろしければ、私が知っていることを適当に話しますのでお聞きしたいことがあったら、その都度聞いてくださる?」
エーレンフェストの歴史から、食べ物とか地域のこととかアーレンスバッハとの違いについて話していきます。
ああ、私こんなにもエーレンフェストのこと話したかったんだなと勝手に救われた気になりました。
アウレーリア様は、どの話も興味深そうに聞いてくれます。
「よろしければ、領主一族について知っていることをお聞かせ願いますか。」
おっと、来たね。質問が。領主一族と言えば...。
まず、ジルヴェスター様かな。
「アウブであるジルヴェスター様は、何というか身内にお優しい方で争いを好まない方ですね。」
魔力量に関係なくヴィルフリート様を次期アウブに確定させたり身内には甘くなるという話など、私の知る限りの話をしていきます。
「ランプレヒト様についてですか?」
うーん、困った。あまり記憶にありません。
「特に難点はなくエーレンフェストの人材の関係から次期騎士団長になるのではないかと目されている方ですが、そこまで詳しく存じ上げません。」
「実はわたくし...その、ランプレヒト様より...私の水の女神になってくれと...。」
え、本当に!結婚を前提に付き合っているの!すごく恥ずかしそう。
どんなところが好きなのかいろいろ聞き出しちゃいました。
「わたくし的にはエーレンフェストに嫁ぐのはとってもお勧めできますけど、家族とはしばらく会えなくなる覚悟はあるのですか。」
「もちろん、覚悟しております。」
あるそうです。すごいそんなに好きなんだ。
「アウレーリア様は、言うまでもなくエーレンフェストよりも上位領地より嫁ぐことになりますのでそんな方が夫をたてる態度を見せるだけでもだいぶ違うかと思います。」
その後に苦手でも頑張って最低限社交に出るだけでも違うよと伝える。
「あと先ほど話した通りジルヴェスター様はとっても人情家なので内側に入ってさえしまえば守ってくださるでしょう。」
うん、争い嫌いな感じだしね。身内を切れないアウブなんてライゼガングの方々はけなしていたし。
「後は、神殿に拒否感がなければ、神殿より支援を得られるように手配します。」
魔王様は話をつける材料さえあれば動いてくれる方だし。
「あそこの神殿にいる方はアウブとある意味で同等の権力を持っている方がいますのでその方に話をつけられるようにいたします。」
うん、切れるカードは全部切らなきゃだけどこのためならば惜しくないよね。
「ローゼマイン様は、なぜ、そこまでエーレンフェストについてくわしいのですか?」
うん、まあ、暮らしていたからとはいえないよね。
「エーレンフェストはユンゲルシュミットの中でも昔の神殿文化が残っている数少ない領地ですの。以前に少し連絡を取っていた時期がありましてそこでできた伝手なのです。」
うーん、なんか納得いかない感じかな?
「では、なぜわたくしの為にそこまでしてくださるのですか。」
あ、まずい。これでは私がエーレンフェストの関係者だって言っているようなもの?まあいいや。
「アーレンスバッハにとって必要なことであるなら領主候補生として支援は惜しみませんわ。」
うんうん、魔王様と対立なんて考えただけで恐ろしい。
「エーレンフェストとの友誼をわたくしが望んでいるからでは駄目でしょうか。」
さてと、どうしよっかなぁ。昔の伝手が使えれば...無理すぎる。
最悪ゲオルギーネ様と取引するか。
なんでも、数日後にランプレヒト様が来るとのことなので主として会わせてもらうことになった。
冬のエーレンフェストから来るの大変だろうに。南側だからまだ楽だけど。
ランプレヒト様と城で会うことになりました。
お父様に言って、アーレンスバッハの領内にいる間はエーレンフェスト関連の制約は解除してもらいました。
アウレーリア様とランプレヒト様とお付きの方だけだ。
「ランプレヒト様、領主候補生である私の方が上位かもしれませんけどわたくしから挨拶させていただきますね。」
ランプレヒト様は少し慌てた感じだけど少しくらいウラノの世界の『むちゃぶり』をさせてもらいたい。
実際のところ微妙な差だから、どちらからやってもそこまで問題ないよね、きっと。
「命の神 エーヴィリーベの厳しき選別を受けた類稀なる出会いに、祝福を祈ることをお許しください」
「許します」
「ランプレヒトに命の神 エーヴィリーベの祝福を」
一連の決まり文句と祝福の交換をします。うん、まあ昔の関係ならこれが普通なんだけどね。
さて、会うといっても、あまり話している時間はありません。
「さて、ランプレヒト様。アウレーリアのどういったところを気に入ったのか教えてくださいまし。」
この方はほとんど関わったことがないんだよね。きっと向こうも私のことはほとんどわからないはず。
この後に、ランプレヒト様からのろけ話を聞きます。うわぁ、初めのイメージとのギャップがすごいですね。
アウレーリアはランプレヒト様が好きなのは確かによくわかるのですが、恥ずかしがってなかなか話してくれませんし、お相手の方から聞くというのも面白いですね。
いえ、本当にこの二人らぶらぶだね。ちゃんと思いあっているようで良かった。
「ランプレヒト様におかれましては、どうにも魔力量の差でアウブの弟君より反対されているとお聞きしています。」
「ええ、その通りです。ローゼマイン様。」
「もし今から魔力量を増やすことができると言ったらどんなことでもしますか。」
「そんなことが可能なのですか!」
相手から了承を得たので、まず、いつも通りに魔力圧縮をしてもらいます。
うーん、詰め込んでいるだけだね。それも漠然と。
「まず、服をこのようにきれいに畳むよう意識してくださいませ。」
うん、あまりイメージができないみたい。実際に服を畳んでもらって、苦戦しそうだな。
「ちょっと失礼しますね。」
魔力機関のある体の中心近くに私は指をあてる。
「それでは今言ったように意識してくださいませ。」
うん、無理やり誘導しちゃうよ。
やっぱり一度経験しちゃえば簡単だね。すぐコツをつかんだみたい。
この魔力誘導は魔力の色がほぼ無色の私だからできる技でほとんどの人はできないらしいです。
もちろん相手が受け入れてくれなければ誘導なんてとてもできるものではありませんし、きっかけ程度でしかないので使い道はないに等しいのですが。
「驚きました、いつもより魔力の圧縮度合いが上がったのがすぐにわかります。」
まだまだ、夏の初めまでに何とかしないといけないから...。
「ランプレヒト様、いつもシュタープの武器で全力で攻撃するときにどういった意識をしておりますか?」
「私の場合は剣ですが、剣に魔力をできるだけ詰め込むよう魔力を圧縮させて一気に放つ意識ですね。」
ふーん、なんだできているんじゃん。
「ではその意識を、さっきの圧縮した魔力に加えてくださいませ。」
ちょっと折りたたむのを誘導し直して、そのあと一気に詰め込む。やっぱりイメージできているだけ簡単にできますね。
とっても苦しそうだけど。
「今の意識で少しずつ増やせば、夏までにはアウブの弟君に認めていただけるだけの魔力量になるかと存じます。」
今回助言してみて思うことは、魔王様はこの結婚反対なんだろうな。そうでなかったら魔力圧縮のアドバイス程度するだろうし。
「もしわからないことがあるのなら、神殿にいると思われますエーレンフェストの魔王様にでもお聞きくださいませ。」
「魔王様とは...。」
ランプレヒト様も少し苦笑いです。やっぱり魔王様で通じるんだね。
「さて、アウレーリアの主として聞きたいことは聞けましたので失礼しますね。後はごゆっくり。」
この方なら大丈夫そうだ。せっかく得た信頼できそうな人を失うのは痛いけど。
後はどうするかだなぁ。エーレンフェストは反対と見るべきだろうし。
最初はアウブの弟君や、アウレーリアの妹マルティナさんやブラージウス、アルステーデ夫妻を出したかっただけです。
アーレンスバッハはアウレーリアとマルティナさんやディートリンデ様とアルステーデのように姉妹だと正反対の性格になるという決まりがあるのでしょうか。