愛しい娘がボーゼンとした顔をしている。
当然だ。いきなりこんなところに連れて来られ、親と暮らせなくなるなんて言われたら飲み込めないのは当然だ。
「マインすまない。お父さんの力がないせいで。」
実はここ最近、子供たちには心配かけないように話してはいなかったが、魔獣だけでなく怪しい賊が襲いかかってきたりという事件が散発していたのだ。
幸いまだ死人は出ていないがマインの祝福がなければ確実に死人が出ていただろう。貴族と思われるものまで襲ってくる中で唯でさえ人が少ない村で今後どうなるか分からない状態だった。
妻のエーファは、ごめんねマインとしきりに行っている。
「マイン、どこか行っちゃうの。やっぱりダメだよ。離れたくないよ。」
「私だって、絶対いやだ。でも私が行かなきゃみんながひどい目にあうかもしれないなら私は行くよ。でも今生の別れじゃないし、年に神殿の行事は何回もあるから何度も会えるよ。だから大丈夫だよ。」
マイン、言葉と表情があってないぞ。
お父さんは悔しい、町ごと守ると言ったにもかかわらず、エーレンフェストからハイデンツェルのほとんど人が住めない所に連れて行く羽目になってしまった。
さらにそこで今度は娘を守れないのだから死にたくなるほど悔しい。何も力のない私が許せない。
その日はみんなで抱き合って同じ布団で寝た。
次の日、マインが言うには春を呼ぶ儀式らしい。
本来は貴族の女性が総出でやるものだったらしくやり方そのものは伝えたがうまくいかなかったらしい。
マインがいろいろ指示している。楽器とかも用意させいろいろ準備し、音楽を奉納し立派に神事の中心を努めていた。
きっちり今回は初めから女性だけで儀式を行ったのだが村で行ったものより美しくとても大きな魔法陣が大人の女性ほどの高さになると一気に光が小聖杯に吸い込まれた。
前回と同じくバタバタと女性が倒れる中、事前に言ってあったにもかかわらず余りの神秘的な光景に目を奪われ介護が遅れるという事態となった。
あの時は、ゆっくり見る余裕はなかったが、やはりマインは神に愛されており、あの村で暮らしていける子ではなかったのだと唇をかみ締めた。
せめて、ギーベにも伝えたがその力は正しく使ってほしい。
マインなら心配いらないとは思うが周り次第ではどうなるかは分からない。
その点実直なライゼガングの方たちならうまくやってくれるだろう。
マインにその力は他の人のために正しく使いなさいという話は何度もした。
そのあと、初夏の訪れを示す雷が来る前に村へ帰ることになった。