「其方の悪辣な魔術具の数々、あんなものはディッターではない。私は絶対に其方を認めぬぞ。」
「さすがはわたくしの妹ローゼマインですわ、レスティラウトの負け惜しみが心地よいですわ。」
相変わらず、ディートリンデ様はおーほほという感じですね。
「ディートリンデお義姉様、ダンケルフェルガーはすごかったのです。どんな状況になっても心が折れずに攻撃し続けるその気迫には心打たれました。それに対してなんと私の心は弱いことか。」
はぁ、いやね、私は騎士でも何でもないけどやっぱりディッターの領土なんだね。
「勝てばいいのですわ。勝てば!」
まあ、ディートリンデ様らしいと言えばらしいような気もしますが。
「きっとお姉様が、指揮をしていれば護衛騎士の方々はもっと奮起し、レスティラウト様も納得する状態で勝てたかと存じます。やはりわたくしには人の上に立つ才能がないのです。」
うん、もっとちゃんと指揮すれば引き分けに限りなく近い勝ちじゃなくて、普通に勝利だってできたかもしれないしね。
というか、魔術具の実験ができれば勝敗なんてどうでもよかったのだけどね。思っていた以上にテストできなかったけど。
「ところでローゼマイン、フェルディナンドとはなにも関係ないのか?」
ルーフェン先生、なんでここで魔王様が出てくるの?
「あの魔術具、嫌らしさがフェルディナンドにそっくりだ。あやつ以外にあんなもの作ろうと思うものがいるものか。」
うわ、フェルディナンド様ってここでも有名なの?卒業何年前よ...。いや、魔王様だからね?
「あら、わたくしはアーレンスバッハ所属ですのよ。エーレンフェストの有名人と関係があるわけございませんわ。」
まあ、でも魔術具だけなら言い訳としてはあれでいけるかな。
「ただ、わたくしフェルディナンド様の作った設計図を持ってましたの。今でも魔術具の基本はそこから作ってますわ。」
別に納得はいらないよ。普通に考えれば関係なんてあるわけないじゃん。
あ、でも少し昔は結構仲の良い雰囲気だったんだっけ。ヴェローニカ様の時は特にね。
結局アーレンスバッハにいると全然エーレンフェストの情報って入ってこないんだよね。
今どうなっているのだろう。私がいたときは、ここまでアーレンスバッハと険悪な雰囲気はなかったはずなんだけど。
「とにかく、皆様、すばらしいディッターでした。わたくしは魔術具に籠っていただけでしたがいい体験ができましたわ。」
他領の領主候補生にお褒め頂き感激したというようなことなど、ダンケルフェルガーの方がいろいろ言ってきた。
再戦も楽しみにしているだって。まあ、機会があればですね。私は関係ないと思うけど。
「終わったのか、なんだ意外にもアーレンスバッハが勝ったのか。」
アナスタージウス王子、わざわざ見に来たんだね。
「では、アーレンスバッハの主張のとおりででよいな。レスティラウト。」
「神聖なるディッターで負けた以上、ダンケルフェルガーは引き下がります。」
引き下がってくれてよかった。さすがは「そんなことよりもディッターしようぜ」が流行語な領地です。いや本当かは知りませんし関係ないけど。
「だが、必ず今度再戦を申し込む。その時は其方の魔術具も完全に倒して見せよう。」
私の魔術具?何言っているのだろう。私がディッターに出られる機会なんてそんなにあるわけないじゃん。
「あの、レスティラウト様。わたくしは騎士でも何でもないのでディッターには出られませんわ。」
ふん、そうだったなという感じで帰っていきました。その後ルーフェン先生が言ってきたりいろいろありましたが、またうちの寮監につかまっています。
どうして、んまぁ、んまぁだけであんなに話し続けられるのだろう。
そういえば、ハンネローレ様は結局来なかったなぁ。
後日、王子からソランジュ先生と一緒に呼び出しがありました。
ええ、本当に迷惑極まりないあの魔術具についてです。
私もさっさと上級司書を派遣してくださいとかお願いしてみたのですが、人材不足で無理とのことです。
むしろ私を中央に異動させて司書見習いにできればみたいな話も出てきましたが、領主候補生ですと異動は無理とのことです。
司書見習いと、領主候補生、どちらががエーレンフェストに近いかな。まあ考えるだけ無駄ですが。
そのあと、盗聴防止の魔術具を渡してきてエグランティーヌ様にお茶会に誘われる可能性があるからいったら、意向を聞いてきてほしいとのことです。
「アナスタージウス王子、申し訳ございません。まず前提としてわたくしをお誘いいただけるとは思えませんが。」
うーん、もうお茶会はいいよ。するにしてもせめてディートリンデ様と一緒に。
「もしいただけた場合、お聞きする意向とは何のことでしょうか。」
意向って言ってもねぇ。
私はとんでもなく恥ずかしい質問をしたようです。
要は卒業式のエスコートのお話だそうです。ご婚約関係じゃん。
「アナスタージウス王子、大変不躾な発言をさせて頂いてよいですか。」
「なんだ、構わぬ。」
「アナスタージウス王子は、その、エグランティーヌ様ご本人に直接お気持ちを伝えられたのでしょうか。」
私ならどうかな、結婚なんて話全くないし体が弱すぎて無理だし、従属状態だし本当に将来の展望がお先真っ暗だ。
「わたくしの場合で申し訳ないのですが、手紙や周りにそれとなく話しても全く通じないのです。加えてさっきの事態のように相手が何を求めているのか分かりません。」
雰囲気で察しろとかウラノの世界のムリゲーだよね。特にアーレンスバッハの方達は。
「周りから見ても、アナスタージウス王子のお気持ちは良くわかるのですが、エグランティーヌ様ご本人は分かっていらっしゃらないかもしれません。ですので私ではなくエグランティーヌ様と同じような状態で直接話すほうが良いかと存じます。」
実際ものすごく大好きだよね。アナスタージウス王子は。でもエグランティーヌ様の方はそういう考えじゃなくてあくまで政略結婚とかそういう認識でしかないんだと思う。
「勇気のいることかと存じますが、同じ女性としては相手を理解しようと直接話を聞き、本当に自分の求めることのために動いてくださる男性は素敵だと思います。」
アナスタージウス王子がなれるかなぁ。基本は命令する側だからなぁ。まあ、いっか。
「そなた本当に不躾な申し出だったな。だが分かった。やってみよう。」
「申し訳ございません、アナスタージウス王子。この間も申し上げた通りわたくしは領主候補生になる予定もありませんでしたし、体も弱く神殿で育ったため、社交について求められても困ります。」
本当に困るよ。起きていきなり神殿改革しろとか言われてとりあえず応急処置したら貴族院への準備。社交の能力なんてそもそも求められていないし。
はぁ、終わった終わった。王族との話し合いは疲れるね。
さて、さて、ようやくちょっと余裕ができたよ。
本日も図書館に一人でこっそりと。
「ソランジェ先生、おはようございます。」
「あら、ローゼマイン様。本日はいつも通りお一人ですね。」
一人の方が気が楽なのです。
「そうだ、ソランジェ先生、シュバルツ、ヴァイスの服のデザインを公募したいのですが張り紙を貼ってもよいですか。」
今持ってきている最後の魔紙です。変なことをされても勝手に燃えるようにしておけばいいし、壁にくっつけるのもこれなら簡単です。
「ええ、ではそこに」
うん、ありがたいね。やっぱりこの魔術具たちの服のデザインは、ここによく来る人に決めてもらいたいものね。
あえて報酬はなし。出してもいいけど純粋な好意のみで応募してほしいしね。
アーレンスバッハでデザインしないのかですか。なんか皆様デザイン自体には興味ないみたい。
完全に専属に丸投げとかになりそうだったから、どうせなら貴族院に在籍している方のほうがいいんじゃないということで私が提案させて頂きました。
まあ、アーレンスバッハの方々に任せると金ピカになったりコテコテな過剰な装飾になったりするのが目に見えるからっていうのもあるのですが。もしこれで集まらなかったら諦めてそうするしかないけど...。
私がデザインしろって?白と黒の無地で魔法陣を縫い込めば魔法陣が装飾になってシンプルでいいじゃんと提案したら即却下されました。
魔術具なんて機能性以外大して意味ないのになんでだろうね。まあいいけど。
最近は良く図書館にいるので側近たちに良く見つかってしまいます。
なので、今日は魔法陣での読み込みをやめて、最低限図書館の魔術具たちに魔力を奉納し久しぶりに外で本を読むことにしました。
ちなみに図書館の本って借りるのって高いんだね。ウラノの世界とは大違いだ。
といっても、エーレンフェストの時みたいにちょうどいいベンチとかないかなぁ、でも寒いし雪があるし日当たりのよいところでレッサー君停めて読むかとか思っているとボロボロの小さな建物、管理小屋のようなものが出てきました。
ちなみにレッサー君を出しているのはこんなところに人が来るわけがないのでばれないだろうし、やっぱりレッサー君が最高だしね。
さて、小屋と言うより神殿みたいですね。ああ、エーレンフェストにいたときの最初の小神殿を思い出すなぁ。
なんかかわいそうだし今日の奉納ノルマはここにしますか。とりあえずきれいにしますかね。
私はシュタープで、広域魔術用の魔法陣を書き
「ヴァッシェン」
うん、ほうきとか雑巾でやっていた時と大違いだね。
お邪魔しますっと。あれ、開かない。って当然カギがかかってますよね。
仕方がないのでレッサー君に戻るかって、あれ、なんか吸い込まれる。どうなっているの!?
えーと、中に入ってしまったのかな。なんか幻想的と言いますかどこか小神殿を思い出す懐かしい感じだけど何だろうここは。
ライデンシャフトと眷属に祈りを捧げろ?かなぁ。火の属性のみの石像が並んでいるとは珍しいなぁ。
「神に祈りを!」
特定の神ではなく特に限定せず魔力を奉納してみます。
少し青く光る石が輝きを増したような気がするけど気のせいかな。
というか、ここ本を読むのにちょうどいいね。
外からも入りにくそうだから人に見つかる心配もないし、暖かいし。
うーん、あれから農業の本も見ているけどなんでか小麦ばっかりなんだよね。
ウラノの世界では、小麦、稲、トウモロコシが三大穀物で両方や全種類食べている民族もたくさんいたはずだからあるはずなんだけど。
まあ、その三大穀物の中では稲が一番生産量が少ないらしいけどさぁ。
やっぱりランツェナーヴェ王国とか外国に期待するしかなさそうだね。
欲を言えばジャポニカ種に近い品種があるといいのだけど。
そういえば、ここってどうやったら出られるのだろう。
入り口も出口もないし、もしかしてライデンシャフト様に祈らないと出してもらえないとか。
うーん、まだまだ魔力に余裕はあるけど、どうしよう。
「火の神 ライデンシャフト、鍛冶の神ヴァルカニフト、武勇の神アングリーフ...。」
神々それぞれにお祈りを捧げます。
青い石から「祈りが足らぬ」という字が出ます。
えーと普通の祠なら十分な魔力を奉納したつもりでしたがまだ欲しいそうです。
私はただ出たいだけなんだけど出してくれませんかね?
「信心が足りぬ、真剣さが足りぬ。」
真剣さと言われるとつらい、エーレンフェストにいたときは祈れば祈るだけいい方向に向かっていたのに最近ときたら。
試練の神 グリュックリテートのご加護が強くなっているのでしょうか。ウラノの世界でいう神の試練で、祈りに俗物的なものを求めてはならないだよね。
まあ、ここはとっても気持ちがいいからもう少しいようかな。この本が読み終わるまでは。
うん、読み終わっちゃった。出してもらえないよぉ。相当長くいたはずなのに。
青く光る石は、「祈りが足らぬ、信心が足りぬ、真剣さが足りぬ。」
変わる前のお言葉も加わったんだね...。
なんか変な意思を感じるけど悪いものでもなさそうだなぁ。
魔法陣は全然ないし何なのだろうね。本当にここは。おっとまた文字が変わる。
「さっさと真剣に祈れ、迷惑だ。」
迷惑ってひどくない。静かに読書しているだけじゃん。
何だか知らないけど、ここも結構わがままちゃんなのはわかった。
もう一度、祈りなおします。
ただし、ここから出してくださいという言葉を最後に付け加えて眷属を含めて火の属性の神全部にまとめて一気に魔力を奉納します。
「其方の祈りはようやく我に届いた。認めたくないがライデンシャフトよりメスティオノーラの書を手に入れるための言葉を与える。」
認めたくないんだ。やっぱり何度も真剣に祈れと言われたのを無視したのがいけなかったのかなぁ。
気が付いたら大きくなった青い光る石に、次期ツェント候補がどうとか出ているけど、どうでもいいね。知識としてだけ入れておいて後は、すべての神々よりお言葉を得よねぇ。他にも似たような場所があるってことかな。まあ、後回しだね。
メスティオノーラの書に関する記述だけは気になるなぁ。
ツェントなんかになっちゃたらまた村の家族が遠のくからいらないけど、メスティオノーラの書だけは切実に欲しいです。
契約の強制破棄の方法とか載っていないかな。
合言葉をもらい石がシュタープに飛んできてようやく強制退場。
ここを出入り自由にしてもらえませんかねライデンシャフト様?
読書にちょうどいいフロアから出たら、日の上り方からあまり時間がたっていない!
素晴らしいですね。読書し放題。本気で祈ったらまた入れるかな。また来よう。
この後、また来ましたがライデンシャフト様は中に入れてくれませんでした。
ひどいよ。入れてよ。魔力なら奉納してあげるから。
せっかく素晴らしい空間だったのに。
ちなみにこの後2日ほど寝込む羽目になりました。やんなっちゃうよね。体が弱くて。
寝込んだ後の日はジャガイモっぽいイモ類と、大根っぽい根菜類で水あめもどきが作れないかと思い、食堂へ行って実験をお願いしたり、図書館へ行ったりしました。
うん、お茶会の予定もないし後は、期日までお祈りとか調べものとか好きなことをいろいろやるだけだね。
そう、完全に忘れていたんですよね。あんなに必死になって手紙書いたのに...。