「まあ、ローゼマイン。よくやりましたわ。流石は私の妹です。」
はい、ディートリンデ様?わたくし何かしましたっけ。
「いままで、皆さん苦手だった神学があなたが用意した資料のおかげで皆さん好成績だったそうですわ。」
はぁ、正直命のかかっていない他人の面倒まで見られるほど人ができてはいませんし。
「一二年生のみなさん、的確にローゼマインに指示した私に感謝なさい。」
まあ、実際私は動く気なかったから手柄はディートリンデ様のものだしなぁ。
それより魔紙の補給したいなぁ。お守りの媒体にも使えるし、思った以上に便利なんだよね。
「ローゼマイン、あなた歴史にも詳しいのよね。歴史についても同様に指導しなさいな。」
え、歴史に詳しいなんて話したことないけど。
確かにアーレンスバッハについては礎のせいで少し詳しいけど。
「だって、あんな分厚いアーレンスバッハの歴史の本をわざわざ持ち込むなんて一二年生の歴史ぐらいできて当然ですわよね。」
「あの、ディートリンデお義姉さま。わたくしそこまで得意ではございませんわ。あの本を持ち込んだのもアーレンスバッハにうと...。住んでいる地域の歴史を知りたかったと言う知的好奇心ですわ。」
うといって、一応ここが出身地ということなんだから、まあ本当は礎と歴史書がどのくらい整合性があるか興味があるだけなんだけど。
「ローゼマイン、あなたはできる子です。それで私がうまくやったことにしてヴィルフリートに自慢してやるのです。」
え、ディートリンデ様そんなにヴィルフリート様にぞっこんだったの。
エーレンフェストのこと考えると別にヴィルフリート様はでても問題ないんだよね。後継者候補は結構いるし。
むしろアーレンスバッハより後継者に関しては恵まれているんだよねエーレンフェストは。
まあ、次期アウブにほぼ確定が出ているヴィルフリート様を出すとは思えないけど。
「ごめんなさいディートリンデお義姉さま、わたくしには荷が重いです。」
「だいじょうぶです。やるだけやって御覧なさい。」
任せましたわよ!って、どうしたらいいのでしょうか。
「とりあえず集まっていただき、ありがとう存じます。一二年生の皆様。」
側近達使って共有フロアの端を占拠します。
スピーカーの魔法陣を応用したウラノの世界のプロジェクターの魔術具を用意します。
まあ、反射させて魔力で光を当てて拡大するだけなのですが。
板を手元に置き金粉と粘土を混ぜたもので書き込み魔力の反射を調整します。
はぁ、素材の無駄だね。魔王様の元にいたときは素材集めに苦労はほとんどしなかったけどやっぱり魔王様は次元が違う人なんだね。魔王だけに。
半分意識を遠くにやりながら講義します。
ちなみにやるのは歴史で一二年生に共通し且つ複雑な所です。
よって基本的に知っている人は聞かないでくださいといってあります。
ああ、制御が難しすぎる。普通に書字版、いや、ウラノの世界の学校の黒板でも用意したほうがよさそうです。
やっぱり旧ベルケシュトックの方たちが血眼になって一言も聞き漏らすかという気迫で聞いています。
正直怖いです。
基本この世界の参考書は字ばっかりで絵とか図があまりないので年表や図を中心に説明していきます。
ああ、歴史なんて一ヶ所やっても当たる可能性少ないのに。でも過去の出題傾向を見ると結構ここの時代から出題されているらしくやって欲しいと言われちゃったんだよね。
というか2年の方も結構聞いてくれているけど領主候補生であるとはいえ1年に講師させて聞いて意味あるのかな。
そのときの一般生活や裏話を加えて話していきます。
何でそんなこと知っているかって、魔王がその当時の本を所持していたからに決まっていますよね。
また行きたいですね、あの図書館。全部読んだと思ったらまた本が増えているという夢のような図書館です。
つかれました、主に精神力が。魔力は余裕あるけど、繊細に操作する能力はまだまだです。
特にこれは操作が難しいのです。後材料ケチったからたぶん、あと二時間くらいで壊れます。
「ローゼマイン様、ここについてもお願いします。」
だからなんでそんなにやる気があるのですか。旧ベルケシュトックの方々。
そろそろ寝る準備しましょうよ。
結局付き合いましたよ。ええ、最後まで。旧ベルケシュトックの方々が魔術具が壊れた後も質問攻めなんですもの。
なぜか三年生が神学について聞いてきたり四年生の方まで調合のコツとか聞いてきて...本当に最悪の気分です。
側近?当然止めるわけございませんわ。彼らにとって本当の主はゲオルギーネ様唯一人ですから。
断れない状況を作り、作業させるディートリンデ様はきっとジルベスター様のようにうまく人を使うアウブになるに違いありません。
まあ、もしアウブになるのならですが。
でも、ディートリンデ様が夫人、うーんあんまり想像できません。
案外、第三夫人くらいのほうがかえってディートリンデ様にとっては幸せになれるかもしれませんが。
わたくしですか?なるとしたら第三夫人がいいですわね。
今日は歴史、地理、音楽です。
少しの時間を寝れば回復する薬を増量して飲み無理やり起きました。
うふふ、私のせいで村のみんなが避難しなければならなくなった夢を見ました。
まったく冗談じゃありません。夢の中ででも会えるのは幸せな一時なのに。
貴族院に来てからは睡眠の薬は使っていませんでしたが、まさかここで使うとは思いませんでした。
さて、翌朝は皆さん眠そうですね。側近連中は交代して寝てましたもの。
旧ベルケシュトックの方々は何でそんなに幸せそうなの。彼らの体力はどうなっているの。
ウラノの世界のヨーロッパという地域の一部に暮らしているという特殊な人種なの?
今日こそは早く寝るんだ。そして夢の中で家族に褒めてもらうんだぁ。ほめて貰うような事余りしてないけど...。
もう現実逃避はあきらめて最後の復習です。まあ、もういっか。
アーレンスバッハの歴史を読みます。
やっぱりぜんぜん一致しない。あの記憶はこの時代かな。うーん。
さてそんなわけで試験です。といっても簡単ですね。
昨日やった所も出ましたし...。絶対でないと思ったよ。
地理も問題はありません。
流石に希少な植物(素材)の植生までは把握していませんがそんな知識まで求められませんし。
はぁ、ここまで旧ベルケシュトックの方々は初日合格ですって。
まあ、あれだけやっていれば当然でしょう。
午後の音楽はフェシュピールの授業です。
どうしましょう。眠いです。というか体の調子が良くありません。
領地順に弾いていくので先生とまわりに断ってアーレンスバッハで初めにしてもらいます。
眠いので、熱く目が覚める曲がいいですわね。
フェルディナンド様に編曲していただいた曲ってまずいかな。
ちょっと更にアレンジ加えればいっか。なにかエーレンフェストがらみでどこかで聞いたことがあるとでも言い訳しよう。
なんか熱くなってきましたしさっさとやって退席させて頂きましょう。
ライデンシャフトに捧げる夏の歌を少しアレンジし弾いていきます。
祝福が飛びまくってますがもうどうでもいいです。
最近簡易的な祈りばかりで魔力の圧縮し直し等詰め込む作業が疎かになったせいで制御が追いつきません。
もういいや、後はフィーリングで。音符無視、ああ、集中できない再試験かなぁ。
音楽は授業のたびに採点されてダメだと同じ授業をもう一度受けなければなりません。
終わった後に待ちますが、教師の方達が何も言ってくれません。もう無理です。
「申し訳ございません、体調がひどく悪いため退席させていただきます。試験結果は再試験で結構です。」
ああ、ふらふらする。さっさと退席して寝るとしましょう。
私は最初にアーレンスバッハでフェシュピールを弾く予定だったものです。
わずかにとろんとした目をした唯の幼女にしかみえないローゼマイン様、非常に珍しい表情です。
いつもどこか気を張り詰めたような気配を漂わせ、普段は表情を余り変えません。
こちらでは余りいない白くすき通った肌。夜空色の美しい髪に金色の目。正直はじめてみたときは人形ではないかと疑いました。
そんなローゼマイン様が曲を弾き出した。
最初は真夏の太陽のようにとても暑い速いテンポでその曲は始まった。
祝福も暑さを表現しているように少し赤黄色く降り注ぎます。
まるで暑さから逃れるかのように早く早く、その後次第に落ち着き穏やかなスローテンポに変わっていく。
まるで心温まる心地よい音楽が流れるます。
祝福もゆっくりとても暖かな木漏れ日のような祝福に変わります。
そして再度テンポが上がっていきます。階段をスキップするかのように軽快とした音がつむぎだされる。たまに急に落ちたり戻ったり。
でも確かな幸せが表現されていましたが突然争いのような激しい音に変わります。
祝福も激しく赤色に変わります。
しばらく争いの激しい曲が流れましたが次第にものすごくさびしい音をつむぎだします。
まるで、争いで大切なものを失ってしまったような。永遠に手に入らない遠くへ行ってしまったかのような。
とてもとても悲しい音色が綴られます。
その後は僅かに浮かんだりまた沈んだり。ずっとさびしい曲です。
祝福も細く僅かに青みがかった色になっていました。
そして、最後に盛り上がってきそうな音が流れますが突如そこで終わってしまいます。
最後の最後の祝福は青みがかったままでしたが僅かに暖かい祝福でした。
なんと言ったらいいのでしょう。これには教師陣も困るでしょう。
そしてなぜ私は泣いているのでしょう。
曲そのもので評価するなら聞いたことのない曲で最後の終わりもあって評価できないでしょう。
しかし、演奏そのものに関しては祝福の幻想的な光景を除いてもこれ以上の音をつむぎだせる人がユンゲルシュミット全体を探してもどれだけいるかというほど美しいものでした。
そして感動させるものでした。
周りもかなりの方が感化されたかのように泣いています。
ひょっとしたら神殿にいたこと以外、経歴不明なローゼマイン様の過去にまつわる曲なのかもしれません。
そんな曲を弾いた本人はどこかどうでもよさそうなトロンとした目をし、少し教師の評価を待っていましたが、不合格で結構ですといって、本当にものすごく体調が悪いようでふらふらしながら出て行ってしまいました。
というかあれで不合格を出されたらここにいる生徒全員不合格でしょう。
なかなか次なのにフェシピールを弾くことができなくて...そんな人が続出して授業は大幅に伸びました。
そのあと、旧ベルケシュトック大領地改革を一人でおこなったと言う噂が流れて、彼女の経歴があいまって処刑されていなくなったベルケシュトック領主一族直系の最後の姫ではないかという噂が流れました。