はあ、憂鬱です。なぜならこれから進級式で、終われば親睦会です。
ヴィルフリート様、まあ、あれから三年も経っているし、絡んでこないよね。
命に直結するだけに心配になります。
私はアウブアーレンスバッハの子、私はアーレンスバッハの子。よし、きっと大丈夫。
暗示でもかけなければやっていられません。
講堂で生徒が一堂に会します。私は小さすぎてまったく見えませんが...。
まあ、エーレンフェストの方と不慮の事故の可能性が限りなく減るので良いのです。
「今年もまたユルゲンシュミットの将来を担う子等の研鑽の場が開かれた。」
ふーん、ウラノの世界の校長先生と同じだね。初めての私は興味深いけど回りはうんざりしているなぁ。
来年はどう変えるのかな。まったく同じということはないだろうし。
進級の祝いと注意事項、よく聞いておかないと。従属契約にどうかかわってくるかまったく読めないから気が抜けない。
あ、あの魔術具、魔法陣でおお、音を爆発させるように拡散するのか。でもそれだと音が変になっちゃうからどうやって収束させているんだろう。
魔術具がたくさんあって見ているだけで楽しい。他の人はつまらなそうだけど。
さて、ああ、嫌だな体調崩したとかで今から引きこもれないかな。
はい、恐怖の親睦会です。きっとお母様とゲオルギーネ様の様なバチバチやらなきゃいけない所なのかなぁ。
「6位アーレンスバッハより、ディートリンデ様とローゼマイン様がいらっしゃいました」
さて、いきますわよ。なんてディートリンデ様は余裕そうだ。頼りにさせてもらいます。
頼りすぎると命の危険にさらされかねない劇薬のような方ですが...。
まあ、私が小さすぎるから、注目されるよね。一部嘲笑。
でも思っていたより少ない。表面上見せていないだけだろうけど。
さて、エーレンフェストも入ってきて。まあ、変に気にしないほうがいいよね。エーレンフェストには目を極力向けないように意識しながら開始を待ちます。
仮にも上位の領地なので早めに王族へ通され向かいます。
はあ、椅子に乗せてもらったり降ろされたり、ディートリンデ様は余り周りの視線を気にしていないようです。
「ローゼマイン、あなたは大領地の領主候補生で私の妹なのですから、余計な視線は気にする必要は無いですわ。」
うん、流石に場慣れしているね。
あっさりディートリンデ様が王子に挨拶の許可を得て祝福を送ります。当然コントロールして、ディートリンデ様より僅かに祝福を小さくなるように気をつけなきゃ。
ディートリンデ様が仕草で促してきたので私は初めてなので以後お見知りおきをということで挨拶をし、祝福を贈りました。うまくいってよかったです。
「顔を上げよ」
うん、どうでもいいけどウラノの世界の『せんごく』だね。あれ、なんか私を王子が注目している。じっくり観察されている気がするけど。
「そなたの噂はいろいろ聞いている。天使や女神のような風貌でその豊富な魔力でアーレンスバッハの改革を手伝い慈愛に満ちた心の持ち主だという噂だったが...どこがだ?」
「ローゼマインは、女神ではございませんが、わたくしのかわいい妹ですわ。どなたが流されたか知りませんけどわたくしの噂と混じっているのではなくて。」
流石はディートリンデ様です。少し悪くなった空気が完全に吹き飛びました。
「わたくし、そんな噂初めて聞きました。きっと優秀なアウブとディートリンデ様の思し召しがそのような事態を作り出したのでしょう。」
「ふむ、大領地アーレンスバッハともあろうものが魔力が多いくらいで領主候補生に迎えねばならんとは。」
「わたくしは領主候補生としては予備のようなものなのです。アウブにとって都合が良かったので引き上げて頂いたにすぎません。」
ふん、まあそんなものだろうと言って下がれといわれた。
ディートリンデ様の横顔を見ると、おーほほ、私は美しいという感じ。
途中から話に加わらなくなったのは、私を試したのかな。まさか自分を女神にたとえられて満足とかないよね。
まあ、無難に無難に。無事一つ終わったけどもう一つの問題がまだ残っています、きっと大丈夫だよね。
こっそりディートリンデ様にお願いしておくか。
「ディートリンデお義姉様、少し調子が悪くなってきましたの。調子のせいで余り会話に加われないかもしれませんので御頼りしてよろしいですか。」
「ええ、あなたの虚弱さはわかってますわ。お姉様に任せなさい。」
うん、これで最低限に。頼りになるけど任せきれないのが不安な所ですが。
その後もあいさつ回りですが、大領地なのでさっさと上位領地を回って、席に戻って一休みできます。
視界の隅にエーレンフェストの方々が写ってしまいます。ヴィルフリート様一人で大変そうだな。
ワンパクそうな顔は消え、たしかに領主候補生にふさわしい面構えになっています。
おっといけない。懐かしい顔がありますが契約契約。
ディートリンデ様の話すのに適当に相槌を打つだけなので楽なのですが、ときどき、いやかなり傲慢で危ない発言をするので丁寧に補足していきます。
はあ、そろそろ来ますよね。しばらくディートリンデ様のフォローで疲れてきた所でエーレンフェストの方々はやってきました。
始めましての挨拶くらいしないとダメだよね。わたしはたとえ不敬に見えたとしても仕方が無いとあきらめて目もあわせずヴィルフリート様に挨拶の許可を出します。
「許します。」
はぁ、本来なら仕える筈だった領地の領主候補生に許します。なんだか気持ち悪くなるよね。
祝福返しをし、後はお姉さまに任せます。
申し訳ございませんが、どんな状態の話になっても会話に加わることは...。
「この夏にはエーレンフェストに遊びに行けるかしら?わたくし、ヴィルフリートともっと仲良くなりたいと思っておりますのよ。お似合いでしょうローゼマイン。」
「ええ、よくお似合いかと存じます。ですが、エーレンフェストにも都合があるのですから無理なお願いは控えた方がよいかと存じます。」
お願いします。ディートリンデ様。私に話を振らないで。
「なにを言っているのですか、ローゼマインあなたもその時は一緒に行くのですよ。」
ちょ、もうやだ、この人暗に私に死ねというの?従属の指輪も、ひぃ、反応が強くなってきた。回避の努力しているのにどうして反応するの?
「わたくしは、体のこともありますし、長旅は無理ですの。ディートリンデお義姉さま、次がつかえておりますのでお楽しみの所なんですがそろそろ。」
「いや、わたしもローゼマインと話したい、そなた目もあわせてくれぬし。同じ年なのだからこれからいろいろ授業も一緒になるであろう。」
あははは、よろしくお願いしますねで駄目とか言わないよね。まだ大丈夫そうだけど最終手段使うか。
「もうヴィルフリートったら、唯でさえ引っ込み思案なローゼマインがそんな情熱的な目で殿方に話しかけられては困ってしまいますよ。」
はぁ、とりあえず切り抜けられそう。もうわかんないよ。わたしを揺さぶって楽しんでいるの?この人は何考えているの。
「お気持ちだけで結構です、わたくしの事よりもディートリンデお義姉さまのことよろしくお願いしますね。」
うーん、ぎりぎりなのかな?
「あらいけないローゼマイン、体調が悪くなってきたと申してましたわね。顔が真っ青でしてよ。こっちはいいから休んでらっしゃい。」
「ありがとう存じます。お言葉に甘えて席をはずさせてもらいますね。」
あぶなかった。今までで一番危ない反応していたよ。どこまで行くとダメなんだろう。ひどいよ。わたしがんばっているよね?
側の控え室で休ませてもらう。基本的に従属の指輪は契約違反すると軽い痛みが来た後に熱を出しながら輝きだし両方が最大になるとはるか高みに上るらしい。
ただね、痛みって結構当てにならなくて体が弱すぎるのか感覚が麻痺しているのか、この指輪が特殊なのか私の場合は痛みをほとんど感じないのです。
あ、今の話はウラノの世界でいう『ぐれーぞーん』、判断が微妙な場合ね。具体的に命令されてそれに当てはまれば当然すぐにはるか高みへ、ウラノの世界の『いっぱつあうと』ね。
契約怖い。ディートリンデ様もどこまで計算しているのかわからないから怖すぎる。
やっぱりお願いしますねって言っておいたのに話をふってきたということはそういうことなんだよね。
最後のやさしさは、きっと私が苦しむのを見て楽しんでいるのかな。
それともウラノの世界の釣り橋効果を狙って、完全にわたしを制御下に置こうとか。もうわかんないよ。
しばらく思考を放棄して休むと、ああ、良かった、ちょっと置けば戻るからありがたいよね。
でも、精神的にも体力的にも限界。ディートリンデ様にお断りを入れて寮に戻りました。