新しく領主の養女になったローゼマイン様の側近になった。
親であるギーベからは、必ず契約に関する条件があるはずだからそれを探せと指令を受け、場合によっては、無理やりでもその条件を破らせ処分しろといわれている。
なぜならローゼマイン様は他の領地のものでアウブに手段を選ばず取り入り、アーレンスバッハに仇をなすものだというのだ。
今回ローゼマイン様の側近になったものは全員親がゲオルギーネ様に名捧げしている者なので、第一夫人の養女であるローゼマイン様が邪魔に思っているだけだろうと思う。
名捧げした親の表情は異常だ。ゲオルギーネ様に忠誠を示せとばっかり言ってくる。
でもなぁ、正直貴族院に入る前の方がどうやったら取り入りアーレンスバッハに仇をなせるんだってその時は思ったさ。
むしろ、その姫様の情報が出だしてからおかしくなっていたアーレンスバッハの空気が良くなって来たのだ。
城下町だけでなく城まで魔力が足りないのか以前は輝くように綺麗だった城が色あせ見るからに魔力不足だったのが領地全体に魔力が行き渡りだしたのだ。
更に祈念式が終わってしばらく経つというのに食物の生産量があがりだし食糧問題の解決の兆しが見え出したのだ。
しかし、授与式前の洗礼式から見る目が変わった。
まず、紹介からおかしかった。聞いてはいたが神殿長とはいえ神殿の関係者であることがおかしい。
神殿は魔力の無いやつらが行くはきため場で侮蔑の対象だ。
紹介自体もとても簡素にアウブと第一婦人の養女になった。これで終わりだ。普通は経緯とかいろいろある。
次に洗礼式からおかしかった。
洗礼式なんて普通は小さな魔力を子供にだけ贈って終わりだ。
ところがローゼマイン様は親と共にここまで来たことを祝福するかのように祝福を親と子に降らせた。
というか、洗礼式は本来一人一人神官を呼べない場合にのみ冬のお披露目と同じ日に行う。
また、10名を超えたら略式でまとめておこなって終わりとするのに一組一組丁寧に儀式をおこなっていた。
そもそも、10名もこれほどの魔力を降らせたら普通は魔力が切れるはずだ...。
その後のお披露目もおかしかった。
なんと今度は祝福を会場にいる全員にやりだしたのだ。
いくら舞台の主役の子の祝福が一番多いとはいえ、いや、こんな祝福を送ることすらおかしいのだが、細く儚いような微量の魔力とはいえ会場全員にだ。
会場全部なんて見渡しきれないので実際はわからないが、たぶん周りに聞いた限り間違いないはずだ。
最後に、音楽の奉納が終わった後、午前の閉めの挨拶をしたかと思うと会場全体に祝福が舞った。
もはやそこにいるのは人ではなく天の遣いに見えた。
気がついたらいなくなっていたがもはや天使のような何かが残っているような気がした。
だからだろう、授与式で我慢しているが疲労を隠しきれていないのを見て人間であるということがわかり少し安心した。
というか、お父様方、本当にこの方を害せというのだろうか。これからのことを考えると目の前が暗くなった。
今年の貴族院は異常だ。何が異常って旧ベルケシュトックのやつらが特におかしいのだ。
今貴族院に在籍しているものは一学年30名程度だが、そのうち10名ほどが旧ベルケシュトックのやつらなのだがとにかくおかしいのだ。
いや、この間の洗礼式とお披露目を見て信望者が増えたのはわかる。
だが「新しく来る姫様のために!」とか言って、新入生を迎える準備に余念がなく、作業が終わった後も寝る間も惜しんで鍛錬や勉強に励んでいるのだ。
彼らの表情が親とかぶり、ひょっとしたら親の言っていることは本当で最悪の事態を想定しなければならないのかもなどと心配で怖くなってきた。