さて、大収穫です、何が大収穫かって、ユストクス様々です。
聖典が全部読めるようになった。しかも記念祭を迎えずに収穫場所を回復させる手立てが手に入ったんですよ。
水の神フリュートレーネ万歳、ついでに聖典も読めるようになったから英知の女神メスティオノーラ万歳。
ちなみにこの動かせる熱は魔力なんだって、やっぱりウラノの世界のファンタジー的な何かだったんだね。
さて、ようやくご飯改造計画です。
「おい、マイン本気でやるのか。」ルッツ他巫女姫として慕ってくれるほかの子たちも半信半疑です。
ふふっふ、細々としたところにもイネ科植物はたくさんあるんですよ。これを見たとたんもうするしかないでしょう。
お米食べよう。
だって、イモ類しかないんですよ、ここ。
というわけでこの便利なお熱様、最近どんどん増えまくって圧縮が間に合っていないのでバンバン使ってやりましょう。
「癒しと変化をもたらす水の女神 フリュートレーネよ
側に仕える眷属たる十二の女神よ
我の祈りを聞き届け 聖なる力を与え給え
魔に属するものの手により 傷つけられし御身が妹
土の女神 ゲドゥルリーヒを 癒す力を我が手に
御身に捧ぐは聖なる調べ
至上の波紋を投げかけて 清らかなる御加護を賜わらん
我が望むところまで 御身が貴色で満たし給え」
うわあ、金色の稲穂ぽいものがたくさん出てきました。
「刈ったけどどうするんだ」
さて困りました。
稲穂の部分を狩る。昔はナイフより切れない半月型の道具でとっていたので調子に乗ってお父さんに作らせたのですが、いざ全部取ってみますと、
とんでもなく手間!しかも精米するのってどうすればいいんだろう。
確か木で組んだ遠心分離機見たいのでやってた記憶はあるけど。
あとは餅つきみたいな道具って、ないよ。そんなもの
とりあえず、手でむいてみると、うん、いつ食べられるのだろうか...。
ついでに、なんか違う。多分これは麦だ、お米が遠いいよぉ...。
いやね、米ってウラノの世界の日本には自生していないんだよ。熱帯の植物なんだよ。知ってるよ。
でもね、この世界じゃウラノの世界の常識は通じないし、期待くらいさせてくれてもいいじゃん。
というわけで労力をかけても何も意味もなく、普段のスープに混ぜられただけでした。
ただ、この地域では食べられるほど取れなかったので久しぶりに食べられたとか感謝はされましたけどね。
他にもいろいろ探してきてもらいましたが、稲にすらたどり着けませんでした。
稲さえたどり着けば氷の渓谷をどうにかすれば水も確保できるしどうにかなるとは思うのですが。
だれか稲を。稲が欲しい。ウラノの世界の『稲をぷりーず』だね。
うう、呪文使いまくって品種改良しておいしいお米をたくさん作りたかったのに。
ちなみに他のみんなは麦で満足して協力までしてくれなくなちゃった。しょぼん。
さて、秋も終わりに呪文を勢いに任せてやらかしたせいで、一週間も風邪をひいてしまいました。
でもこの聖典ちゃんと、熱の圧縮のおかげで何とかなりました。
しかしこの動かせる熱もとい魔力って何なんだろうね。ウラノの世界のファンタジーで出てくるやつより不便すぎない?
冬は、私がやらかした分と魔獣の肉でこんなに食材が豊富なのはいつぶりか思い出せないとのことです。
みんなで冬の館へ移動しました。
ただ、冬の館から神殿までは家よりは少し遠く往復がつらいです。基本的には行けるときに行くくらいです。
魔力のコントロールはきついですが仕方ありません。
ああ、そういえば最近は行くたびに通路が開くので槍とかその他もろもろ熱を吸い取ってもらってきました。
なんか無茶苦茶神秘的に変わったのですがまあ、どうでもいいですか。でかい杯?あれって聖杯らしいですね。小さいやつと一緒で放っておくと勝手に放出されるみたいです。
さて、そういえば神事について教わりましたし正しい、ええ、正しい祈り方について教わりましたので...。
グリコグリコグリコ...。失礼ウラノの知識が暴走しました。
みんなこの地では祈るなんて習慣はなくなってしまったらしくウラノの手を合わせたやり方でやっていたのですが、グリコグリコグリコ...。
冬の空いている間は、内職に薬作り、どうにも私は薬作りに才能があるようでいろいろ長老のおばあちゃんに教わったりしました。
子供たちは寒い日でも木の実を取りに行くといって外へ行ったり遊んだりしているようです。木の実を分けてもらいましたがおいしかったなぁ。
毎日何して遊んだとか、夜に聞くのが楽しみでした。
さて、春と行っても周りは雪に氷だらけですが聖典より得た知識で洗礼式を行います。
といっても聖典に記載されている住民登録用の道具とかはないので、適当に祝詞をあげて、聖典を利用して祝福を送るだけですが、もう何年も行われていなかったらしくお年寄りのなかには涙を流して感動している人もいました。
いつも迷惑かけてばかりなので感動してもらえるとうれしいものです。最後はグリコから土下座ですが。みんな一斉にやると息が苦しくなりますよね。体勢的に...。
住民登録は結局できていませんがまあ、みんな所詮は村なので家族経営で、基本的に物々交換なので困ったことにはなりませんしね。
大人とか働きはじめとかそれぞれに合わせてできることやっているという感じですし。
そうして祈念式です。
聖典によれば雪解けを願い、水の女神を呼び込む歌とのことですが、言い伝えでは狩猟の始まりを示す儀式とのこと。
まあ、聖典の条件に合いそうな演説台のようなもののある広場も教会前にあるし、とりあえず聖典通りに小聖杯を置いてやれば問題ないかな。
「姫巫女様、このような儀式ができてワシらもとてもうれしい。ぜひとも狩りの始まりの儀式を。」
冬の間みんなで共同生活をしていたので、以前のようによそよそしさはなくなってきましたがおじいちゃん方からの姫巫女様って未だに慣れないな。
冬の館から出る儀式も兼ねているのでお祭り状態であるのはありがたいけど。
「では、お話に聞いていた通り最初は男性中心に儀式をお願いしますね。そのあとで聖典にある通り女性陣だけでも儀式を行ってみますので。」
男性側の儀式も私の一声から始まることになりました。
「我は世界を創り給いし神々に祈りと感謝を捧げる者なり」
みんなで地面に跪いてから歌います。みんなそれぞれの場所からゆっくりと立ち上がります。この何とも言えない一体感はいいですよね。
「では、巫女姫様ご提案の女性だけで行うという儀式に移ろうかと思うのだがいかがかな。」
まわりは賛成のようなので私は再度跪いてから地面にぴったりと手を合わせ歌います。
「我は世界を創り給いし神々に祈りと感謝を捧げる者なり」
「深い、深い白の世界に終焉を。全てを排する硬い氷を打ち砕き、我らの土の女神を救い出さん……」
繰り返しばかりなので簡単です。ですが、どう聞いてもなんで狩の儀式と首をひねりたくなる内容です。
うん、それよりも地面が私の手を中心にうっすらと魔法陣のようなものが浮かんできているのですがどうしたらいいでしょうか。
周りは歌に夢中で気が付く気配もないし。
「皆の祈りを届けましょう」
この村の長老のおばあちゃんが言ったので。
「神に祈りを!」とみんなで祈りを捧げると。
私を中心にさっきまでうっすらと光っていた魔法陣が浮かびだし私からごっそり魔力を持っていきます。
そして小聖杯に向かって飛んでいきました。
と、そこで周りの女性がバタバタと倒れていきました。当然お母さんも倒れていたのを見て私は真っ蒼になりました。
急いで男性が女性を救護します。ただ、寝てるだけのようなので特に問題はない模様でしたが当然祈念式は終了しました。
幸い私はこの時は特に問題はなかったのですが儀式疲れか5日も寝込むことになりました。
周りのみんなはぐっすり寝れたとか言って次の日には私の見舞いに来てくれるほど元気でした。
さて、儀式が終わった後の話です。毎日雷と突風がすごく冬の館での共同生活は継続しました。
なんといっても雷だけでなく、まるで山が崩れたようなとんでもない音が鳴ったり外はひどい有様の様です。
誰も外に出ることはできず一週間もそのような状態が続きました。
うん、何と言ったらいいんだろうね。夢じゃないかほっぺをつねってしまいました。
だってねぇ。儀式前は周りは雪だらけだったのに青々とした芝が生え水が川に豊富に流れており、一年中凍っていた氷の渓谷は消滅していました。
昔にあった山道と思われる道が復活しており、お隣の町まで普通に行けそうです。
さらに山では様々な木々がすごい勢いで成長を始めました。
みんなが急いで畑仕事を始めました。
いままで狩猟をしていたものは狩猟に加え山菜や、木の実を取ってくるようになりました。特にブレンリュースという木の実がとてもおいしく、本来あまり生えていない木らしいのですがかなりの本数が育っており異常な状態だそうです。
おとうさんはここ何年も閉ざされていたせいで行けていなかったギーベのいる町に報告に行くといって若者数人連れて出かけていきました。
ギーベというのは一帯をまとめている貴族のことだそうです。
私も、神殿のお祈りがすんだ後は畑仕事に精を出したといいたいですが体力がなさ過ぎて無理でした。
まあ、こんな所に来る人も少ないでしょうし。冬に習った薬作りや次の儀式の準備でもして待ちますかね。
次の儀式といえば成人式だけど村じゃ成人する人いないし今まで成人式を開けなかった人にまとめて行ったほうがいいのかな。
聖典の祝詞を読んで祝福を上げるだけだし大したことないな。もう聖典の中身は見なくてもすべて頭に入っているし。
まあ、あの魔法陣は解せないけど。王になりたい人なんてたくさんいそうなのに祈ればかなうとか変なの。
そんなこんな考えながら数日たったら、お父さんが帰ってきました。
「ただいま帰ったぞ。」
「おかえりなさい、あなた、外はどんな感じでしたか。」
「昔と変わらんで安心した。山超えたらまだ雪景色でこっちとは大違いだがな。」
そとかぁ、どうなっているのかなぁ。まあ、近くにしか出歩けない私には関係のない話なわけだけど。
今まで閉ざされていたということは、村そのものが忘れられていた可能性があるわけで報告された人は混乱しないのかな。
閉鎖した村に外から人が来るとよく混乱のもとともいうしいやな予感がするなぁ。
トゥーリは夢中でお父さんに聞いているのを私がボーとしながら聞いていると
「それでだな、なんとギーベ直々に数日後視察に来るらしい。基本は大人達で対応するから特にマインは外へは出ないように。」
まあ、そうするのが無難だよね。
この村では私が儀式で利益を出しているからなんでもないけど、お父さん曰く教会は孤児が働くのが一般的で外ではよく思われていないらしいからね。
それに私中心に儀式したらこんな状態になったなんてマインの記憶のある限り氷の渓谷だったのにそれが様変わりしたわけだからやっぱり異常事態なんだろうね。
ギーベが来るまでまだ、一週間かかるということなのでそれまでは自由となった。
神殿に魔力を奉納し、まだまだ魔力があるのでうちの畑に呪文をかけたりしました。あっという間に野菜が育っていくのを見るのは楽しい。
今までおなか一杯食べるなんて考えられなかったけどフリュートレーネさま、ゲドゥルリーヒさまに神に祈りを!という感じだね。
魔獣もなんかたくさん出ているらしく、毎日のようにルングシュメールの癒しと武勇の神アングリーフの祝福を使いまくっているけど回復するほうが多いとか。
魔石も倉庫にものすごい量になっているそうで領主に献上しようかという話になっているらしい。
順調にいい方向に向かっているなぁ。去年は餓死するなんて言っていたのがウソのようだ。
そんなこんなでお父さんが帰ってきてから四日ほどたったある日、日課である神殿の掃除をしていると珍しく人が入ってきました。
最近朝一でお祈りは皆さんでやれるときにやろうという、私以外は緩い感じになっていますが、昼近くにもなって人が入ってくるのはとても珍しいのです。
さて、見た感じいい布を使った旅人らしくない格好です。そもそも外から人が来ればすぐ騒ぎになりますしここまでどうやって入ってきたのでしょうか。
ギーベという人が来るには一人というのはおかしいですし。
「この神殿を管理しているのは君か?」
なんていろいろ考えているとさっきまで入り口にいた人がいつの間にか目の前にいます。心臓に悪いです。
「旅人さんですか、長老に御用でしたら案内しますけど。」
ふう、びっくりした。外の人は神殿を疎んでいるって言っていたから興味ないと思っていたのだけど。
「もう一度だけ聞く、この神殿を管理しているのは君か?」
何なんだろこの人、さっきより少し高圧的に聞いてきた。どう答えたらいいのだろうか。万が一お偉いさんだったら怒らせたら村ごと処分とかないよね。
「掃除などは私が基本的にしています。」
うん、嘘は言っていない、掃除はしている。とりあえずへりくだっておいたほうがいいのかな?でも余計なことは言わないほうがいいと思うし。
「掃除も終わりましたのでどうしますか、中を見ていくということでしたら入り口の椅子で待たせてもらいますが。」
嘘ではない、もう地下室の奉納も終わったし、神殿の掃除もほぼ終わった。そもそも奇麗なだけで全然大きくはないしね。
周りの植物は勝手に適正な大きさになるのか剪定とか一切必要ないし、いろいろな種類の植物が実をつけたりして見た目もきれいでおいしいしね。
実が再度つくサイクルがものすごく早いのはまあ、きっと魔力のせいだよね?
さて、この人反応ないし、疲れたので入り口付近の椅子でボーっとする。近くで案内などしたほうがいいのでしょうが体力が持ちません。
最近は聖典パワーで魔力を体中に回して肉体を無理やり強化してこのありさまだしね。
それにしても熱心に見ているなぁ。まあ、そこまで危険そうな人ではないし、ゆっくり待ちますか。
そのままゆっくりしていたかったのでけど、
「おーい、マイン急患だ。また魔獣にやられちゃったみたいでやばいんだ。すぐ来てくれないと困るから背中に乗ってくれ。」
おう、ルッツタイミングが悪いよ。旅人様どうしよう。仕方ない、
「旅人様、ちょっと用事があるので席を外しますね。」
聞こえているのやらいないのやら。どのみち時間がないので急いでルッツのところまで行き背負ってもらいます。
「ルングシュメールの癒しを」
どうやら山の近くで遊んでいた子供たちが大けがを負わされたそうです。
聖典ちゃんを通して癒しの祝詞を捧げます。
大人たちも何名かかなりのケガを負って戻ってきました。子供たちをかばったのでしょう。
「巫女姫様、敵が強すぎます。」
祝福は重ね掛け出来るのでしょうか。別の祝詞にしたほうがよさそうですね。
「炎の神 ライデンシャフトが眷属 狩猟の神 シュラーゲツィールの御加護がありますように」
アングリーフ様の祝福が消えたりしないよね。うん、大丈夫だよねきっと。
「風の女神 シュツェーリアが眷属 疾風の女神 シュタイフェリーゼと忍耐の女神 ドゥルトゼッツェンの御加護がありますように」
こっちは正直プラシーボ効果でしょうが。まあ、祝福の事実があればいいでしょう。ケガはしにくくなるはず。
「ありがとうございます、これでまだ戦えます。」
子供たちと一緒に戻ってきた若者たちは急いで戻っていきました。
お父さん無事だといいけど。所詮戦う力がない私は無事を祈ることしかできません。
と、後ろから旅人さまが来ました。
ちょうどよかったと、残ったおじいちゃん集に旅人さんの案内をお願いしたのですが、
「いや、結構。知りたいことはわかった。失礼する。」
というと、魔石を取り出し、魔石が獅子のような動物に変化しました。そして何も言わず乗って飛んで行ってしまいました。
何だったんだろうねほんと。
結局そのあとも戻ってきたけが人の対応に追われて疲れました。これは三日間コースだな...。
すっかり寝込んだせいでこの時の旅人様は記憶の彼方へ行ってしまいました。
何とか体調が戻ったのがギーベの訪れる日とのことで周りがバタバタしていました。
窓から見るとずいぶん大所帯ですね。いろいろな動物に乗って空からたくさんの人が来るのが見えました。
そういえば、あの旅人様も獅子のような動物に乗って空飛んでいたし外では普通の乗り物なのですかね。
まあ、体調も戻り切っていませんし、朝イチで最低限の魔力の奉納を終えましたし、お母さんも今日くらいはゆっくりしましょうという話になったので布団で聖典片手に横になります。
うふふん、何度読み返したか分からないけど本はいいなぁ。
小難しい話はおじいちゃん方が勝手にやってくれるだろうし、体力のない私は無関係。
なんて思っていたときも私にはありました。