そのあと、教会の周りから盛大に見送られました。
待機していた護衛騎士や、連れてきた灰色神官は交代の時期だったらしく一部別の灰色神官が乗っています。
恐れ多いから馬車で帰るとか、いろいろごねたので
「わたくしが、そんなに信頼できないのですか。」
うん、半分命令しました。なんでレッサー君は、こんなにかわいいのに不人気なのだろう。
荷物を置くため城へ行く前に神殿へ寄ります。
以前は絶対入ってこようとしなかった騎士の方々が率先して灰色神官の荷物の運び出しを手伝っていたのは印象的でした。
神殿の悪印象を少しでも払えたのならよかったのかな。
神殿長代理や神官長にお断りを一言入れて、城へ向かいます。
アウブ優先、絶対だね。
お取次ぎの手紙を出してもらうとすぐに会うと言う報告が届いた。
すぐに会えるほど忙しくないわけがないのだけど。
「ただいま戻りました。アウブ。」
「ああ、よく戻ったローゼマインよ。」
以前は青白い顔をしていたけど、顔に血行が戻り少し疲れは見えるけど健康のようだ。
「まず報告をさせていただきとう存じます。旧ベルケシュトックの領地は、余りにひどく植えられている作物はほとんど枯れ人が暮らせる地ではありませんでした。」
そのあと、騎士たちと協力して旧ベルケシュトック全体を必要な分だけ癒していった話をした。
「税収は増えないでしょうけど、来年以降は期待できるだけの状態になったかと存じます。」
ひとまず報告は以上かな。
「他のものからも報告は受けている。して、旧ベルケシュトックのギーベたちより支持を取り付けたという話だが。」
「ええ、お喜びください。必ずアウブとお母様を支持するとお約束をいただきましたわ。」
「名捧げ等はあったか。当然支持を確定させるために何名かさせたのだろう。」
やばい、契約魔術の用意もなかったし名捧げなんて冗談じゃないと受けていない。
「申し訳ございません、何名かそういう申し出はありましたが健康に不安のある私が受けるのはアーレンスバッハにとって不利益にしかなりませんと考えまして。」
「では次から名捧げを希望してきたものがいたら必ず受けるように。」
なんでもない受けて当たり前のような顔で言ってきた。
冗談じゃない。他の人の命なんて背負えるか。
「それは、命令ですか?」
「何を悩むことがあるか。領主の養女として当然のことだ。誉れではないか。当然命令だ。今回は仕方がないが次からは必ず受けろ。」
もうダメだ、これは覚悟を決めるしかない。少しはこの人とつながれたと思ったけど文化の違いは大きいとあきらめるしかないのか。
「撤回していただけませんか?」
「撤回はせぬ。」
「わかりました、わたくしは一応アウブの娘として契約しておりますが、アウブにとって必要なのは道具としてのわたくしだというのはわかっております。」
「ローゼマイン、そなた何を言っておる。一生命を懸けてくれる仲間が得られるということだぞ。そなたにとっていいことはあれど悪いことなどないではないか。」
うん、為政者としては正しいのでしょう。
「申し訳ございません、アウブ。わたくしはこの脆弱な体のため常に命の危機にさらされてきました。そのためわたくし一人の命でも重いのです。他の人の命まで背負えません。」
ああ、これからやることは痛いんだろうな。やだな。でも他の人の命を背負うのはもっとイヤだ。
「撤回はしていただけませんか。」
「くどい、それが領主の娘となったそなたの義務であると同時にまったく基盤を持たぬそなたを守るためでもあるのだぞ。」
まあ、保険で持っておいてよかったのかなぁ。
「わかりました、では使えない道具は必要ありません。今までありがとうございました。」
あーあ、終わったかな。ごめん、村のみんな、せめて最後にカミル抱きたかったなぁ。
「命令に関しましては拒否させていただきとう存じます。」
訳のわからぬ事態となった。
名捧げを受けるという行為は、もっとも名誉なことであり申し出があれば受けるのは至極当然のことだ。
ところがローゼマインは、受けたくないという。
何を馬鹿なことを、冗談を言わぬローゼマインが冗談を言う余裕も出てきたのかと楽観しながら命令にすると
ほとんど動かない表情の中に深い悲しみを浮かべるようになった。
しきりに命令の撤回を求めてくる。
これに関しては上位者の命令を撤回するなんてありえない。まして娘になったとはいえ従属契約があるのだ。
無理やり娘にさせられたにもかかわらず、私の体調をよくするために提案までしてきて実際にものすごくよくなった。
更には今回の働きだ。
叶えられることなら叶えるべきだろう。しかしこと名捧げについてはアーレンスバッハでは忠誠心を試すのに当然の行為だ。
まして相手から求められたのなら受けるのは当然の義務だ。
いままで従属契約があるとはいえ順従だったローゼマインが理解できないことで初めて逆らってきたこともあり意地になって撤回しなかったところ
ローゼマインがナイフを出して
「命令に関しましては拒否させていただきとう存じます。」
というと同時に腹に突き刺した。