GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER   作:OLDTELLER

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4. ヨコシマ、神眼を開く。

 

 

「くそーっ、一緒の部屋でもよかったのに~」

 そうブツブツいいながらコップの底に耳をあて、隣の部屋から何か聞こえないかと壁にへばりついているのは、ヨコシマ・タダオ。

 

 つい数時間前、古き神々の王によって自らが管理する世界に放り込まれたばかりの異世界漂流者である。

 普通ならそんな場合ではないのに、この緊張感のなさと図太さはさすがにヨコシマといったところだろう。

 

(なにをやってるかーっ!!)

 だが、そんなヨコシマも次の瞬間、頭の中に響いた女の声にビクッと小さく跳び上がり、条件反射で土下座する。

「あああっ!! スンマセン、スンマセン──!」

 

 雇い主による調教の成果か、ペコペコと土下座しながら何度も頭を下げるという醜態をさらしていたヨコシマだが、ふとここが異世界だということを思い出し、顔を上げた。

 

「あれ? 今、確かに……」

 誰もいない部屋を見回しながら、美神によく似た女の声がどこから響いたのか探すヨコシマに。

(ここよ。 ここ)

 赤いバンダナに白い光の円のようなものが開いて、そこから声が響く。

 

「バンダナ!?」

 昔していたバンダナに宿った心眼のことを思い出し鏡を探すと。

「よ、よかった眼じゃない!」

 ヨコシマは安堵の吐息を漏らした。

 

 どうやらバンダナにまた不気味な眼がついたんじゃないかと心配したらしい。

 

(わたしは、アテナの加護。 知恵を授けるために貴方のバンダナに宿りました)

 

「ああ、そういえばそんなこと言ってたな」

 神の言葉をそんなこと呼ばわりしながらヨコシマは鏡の中のバンダナに向かって聞く。

「で、おまえ何が出来るんだ?」

 

(おまえではありません。 わたしは神眼。 まず加護の力と念能力の使い方、修行法などを教えましょう。 それと私と話すのなら言葉は必要ありません。 心の中で語りかければ通じます)

 

(ええっと、こうでいいのか? なんかヒャクメみたいじゃな)

 おキヌがヒャクメから与えられた心眼のようなものかと思いながら言葉を形作ると。

(基本的には同じようなものですが、中級神の心眼よりは高位の解析や情報を取得できますよ) 

 神眼は言葉にしなかったイメージまで読み取り、そう答えた。

 

(うーん、よくわからんがなんかすごそーだ!)

 頭の悪い台詞を心の中でつぶやきながらヨコシマは感心した。

 

(では、加護を説明します。あなたのシャツはヘラの加護である神珠が宿り、思い通りの姿をとれます)

 

 Yシャツは、どうやら美神とユニコーンを捕獲にいったときのエクトプラズムスーツによく似た効果を持っているらしい。

 

(Gジャンはヘスティアの加護である神灯が宿り、耐熱耐刃耐弾効果の結界を全身を包みます)

 

 Gジャンは、ハーピーの攻撃を始め様々な攻撃から美神を守ったセラミックアーマーのような結界をはるようだ。

 

(Gパンはアフロディテの加護である神星が宿り、あなたの霊力を湧出を助けます。 そしてスニーカーはデメテルの加護である神宝が宿り、生命力を強めます)

 

 そして、ヨコシマの人格の中心である下半身は、ヨコシマ専用装備らしく、怒涛の性欲と単細胞生物なみの生命力を汲み出す仕組みが組み込まれているらしい。

 

(最後にわたしの司る加護は、破魔札などの霊的アイテムの作成を初めとした霊的知識の授与です)

 

「霊的知識とか念の知識だけか? こっちの一般常識とかは──」

 

(ありません)

 わざわざ口に出して尋ねたヨコシマに神眼は妙に誇らしげにキッパリと答える。

(私は価値のない知恵はあつかいませんから!)

 

 バンダナの情報は、戦の知恵の女神らしい日常生活では役に立たない知識オンリーだった。

 

(ただ……本当はアルテミスの加護でベルトに欲望や霊力の制御を助ける力も組み込まれるはずだったのですが、彼の女神の拒否で行過ぎた真似に注意するなどという不本意な役を仰せつかりました) 

 

 本来の役分から離れた役目が不満らしく冷たい声音のテレパシーがいかにも不本意そうに告げた。

 

(ですので、さっきのような真似は慎み、世話を焼かせないように)

 

「そ、そんなっ! 俺のささやかな楽しみがっ!!」

 

(そんな、腐った楽しみはドブに捨ててしまいなさいっ!! さあ、それじゃあ早速、‘念’の修行を始めるわよ)

 

「い、いや、今日は疲れたし明日から────ッ!!!」

 そういってバンダナを外そうとするが、その途端、神眼から放たれた霊的エネルギー衝撃波が全身を襲い、バリバリという音と共にヨコシマは半コゲで地面に転がった。

 

(わたしの目の黒いうちは怠惰に浸るなどありえないと知りなさい)

 黒目などないくせにそういった神眼の無慈悲な声がピクピクと死にかけの虫のような痙攣を起こすヨコシマの脳裏に響く。

 

 ヨコシマの受難はまだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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