GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER 作:OLDTELLER
「これでよし!と」
最終面接の後、大きな筆を片手に白いボードに何やら書き記しながら、そう言うと、ネテロは第287期ハンター試験の試験官達を呼び寄せた。
「おい、みんな見てみィ。組み合わせができたぞえ」
悪い笑みを浮かべてボードを手渡すネテロに、妙だなという顔をして、組み合わせ表を見たブハラの顔に、困惑と焦りの表情が浮かぶ。
「会長、これ本気ですか?」
ブハラの問いにサトツやメンチなど他の試験官もゆるキャラ豆男達も同調して、ネテロを見返すが。
「大マジじゃ」
ネテロは静かな口調でそう断言した。
(たしかに本気の目だ)
試験官一同の心の声が重なる中、ネテロは試験の概要につき語りだした。
それから数間後、4次試験終了からは、3日後。
「さて、諸君。ゆっくり休めたかな? ここは委員会が経営するホテルじゃが、決勝が終了するまで、君達の貸し切りとなっておる」
百畳を優に超える広さのフロアを持つ中央アジア風の高い天井を持った試験場に、集められた受験生9名と14名の委員会関係者を前に、ネテロの声が響いた。
「最終試験は1対1のトーナメント形式で行う」
ネテロは、傍らに置かれたありふれたホワイトボードに掛けられた白い布をつまむと。
「その組み合わせは、こうじゃ」
スルとその覆いを外して、安っぽい演出たっぷりに言い放つ。
覆いの中から現れたそれは、トーナメント表にしては、やけに奇妙な組み合わせが、書かれた勝ち抜き表だった。
「…………」
その表の意味することを考え、ほとんどの受験生が無言の緊張を高める中、ヨコシマただ一人が、緊張感のカケラもなく、訳がわからんという顔で、受験番号の組み合わせで成り立つ表を見ながら、突っ立っていた。
「さて、最終試験のクリア条件だが、いたって明確」
その表の意味を考えるより先に、ネテロの説明が続き、トーナメント表の意味を語る。
「たった一勝で合格である!!」
「いや、それはオカシイん──」
ずーん!! と一本指をたて堂々と宣言をするネテロに、ヨコシマが何かを言いかけたが、それに被せるように、完全無視でネテロは続けた。
「つまり、このトーナメントは、勝った者が次々とぬけていき、
と、その途端、ヨコシマは更に訳が解らなくなったという顔になり、他の受験生も奇妙な事を言われているといった顔になった。
「この表の頂点は不合格を意味するわけだ。 もうおわかりかな?」
「つーと、不合格は一人だけってことっスか?」
「さよう。 なにか質問は?」
「えーっと、じゃあ、なんで俺の番号が一回戦で全員の番号の横に並んでるんスか?」
そう言って、ヨコシマが指した変則トーナメント表の一番下に並べられた全員の番号の横に、402の番号が8つ並んでいる。
これが逆勝ち抜きなら、ヨコシマが絶対的優位に感じるが、それならただ全員と当たる配置にすればいいのに、何故8つも数字が並んでいるのか?
「それは、おぬしだけは、特別じゃからのう」
その答えをいかにも詐欺師然とした飄々さで、ネテロは語った。
ほとんど新興宗教の教祖かカルト組織の主宰だ。
まあ、ハンター協会という組織が、政党を牛耳る宗教団体のようにファシズム的影響力を持ち、サリンでテロを行った宗教テロ組織のようにイカれた、利権政党や暴力団以上のカルトなのだから、当然といえば当然だろう。
「え? 俺ってそんなに──」
ごく普通の一般人の感性しか持たないヨコシマは、そんなネテロのカルト指導者特有の
「うむ。 おぬしだけは一敗すると一勝分が取り消される」
しかし、次のセリフにそれが逆の意味であるということに気づかされる。
「…………ちょっと待て! それじゃあ、俺だけ5勝しないと合格できんのじゃないか!? なんでそんな不公平なんじゃ!?」
「この取り組みは今まで行われた試験の成績をもとに決められている。 簡単にいえば、成績のいい者にチャンスが多く与えられているということ」
「納得できん!! 詳しい点数のつけかたを説明しろっ!!」
「ダメじゃ」
独裁者としての貫禄で、ずどーん とネテロは断言した。
「って、なんでじゃ!!」
「採点内容は極秘事項でな。全てを言うわけにはいかん。じゃが──おぬしはそれ以前に桁違いに成績や素行が悪かったんじゃ。 これがその結果じゃな」
そういってわざとらしく周囲に視線を配ると、メンチがうむうむとうなずいてジロリとヨコシマを睨む。
すっとメンチから視線をそらすと、キョロキョロと自分を助けてくれそうな相手を探すが────
ゴンは困ったような顔で笑ってごまかし。
キルアは鼻で笑って楽しそうにとーぜんだねと返し。
クラピカは同情の眼差しで哀れみ。
レオリオは半笑いを噛み殺して首を横にふり。
ヴェーゼやスパーは冷たい目でセクハラヤロー自業自得と無言で語り。
未だ自分を取り戻せないポンズが頬を染めて目をそらす。
そして、残ったギラタクルは、何かを考えるように自分の世界に入っていた。
「審査基準は大きく3つ。 身体能力値、精神能力値、印象値。これらから成る。 おぬしは飛びぬけて印象値がのう」
ネテロは、そんなヨコシマの様子をあえて無視するように説明を続けると止めの一言を告げた。
「これはハンターの資質評価といったようなもんでな。ぶっちゃけ、おぬしはハンターに向いとらん……というより万一受かってもハンターの品位を下げるだけ。というのがまあ審査委員会の結論じゃ」
そのセリフに、どうせ、どうせ俺なんかーっ!! と持ち前の劣等感を刺激されて地面を叩くヨコシマから、他の受験生に目を移すとネテロは、本来の説明を続ける。
「戦い方も単純明快。 武器OK。反則なし。相手に“ まいった ”と言わせれば勝ち! ただし相手を死に至らしめてしまった者は、即失格! その時点で残りの者が合格。 試験は終了じゃ、よいな」
そこまで言ってネテロは、ふと思い出したように続ける。
「あと、試験場であるホテルから抜け出た場合も即失格で、残りの者が合格じゃ。試験を受けるのがムダと思ったら、そうするのもテじゃな」
どうやら最終試験は、ただヨコシマを確実に排除するためにだけ、仕組まれたもののようだった。
自分にとってハンター協会にとってヨコシマはそれだけ害になると、無意識で感じ取ったネテロの勘。
そして、メンチを怒らせた
ヨコシマの最終試験は、かつて受けたGS試験と同様に、割と絶望的に始まった。