GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER   作:OLDTELLER

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3. ヨコシマ、同じ過ちを繰り返す。

 

 

「で、アンタ、なんでこんなとこにとばされたわけ? 噂に聞くグリードアイランドにでも不法侵入したの?」

 日が落ち暗くなって来たため、ヨコシマをつれて、廃ビルから出て近くのファミレスに入ったヴェーゼは、注文した料理を置いてウェイトレスが去ると同時に切り出した。

 

(バカだけど‘念’も覚えたことだし、こんなでも何かの役には立つかもね)

 金がないというヨコシマにおごってやったのはそういうつもりだったが、それがいつもの自分らしくないとヴェーゼ自身、気づいてはいない。

 

 不思議と人の懐に飛び込むのがウマイのは、プライドを捨てることになれたヨコシマならではの身を捨てた処世術だろう。

 しかも、命がかかっていなくても美女の足先なら平気でなめるのがこの男だ。

 

「いや~っ、それが、仕事があるっていうんで、ついてってみたらいきなりここで暮らせなんて言われて、跳ばされたんスよ」

 ヴェーゼの念能力を使われたわけでもないのに、すでにヨコシマは下僕モード全開で、なんの警戒心もなく料理をパクついている。

「く~っ! ひさしぶりの肉ッ!!」

 

「仕事ってアンタ何やってたの?」

 ヴェーゼもいつの間にやらヨコシマのそんなユルイ雰囲気に引きずられ、いつもの緊張感を忘れて久しぶりの安らかさの中で食事を始める。

 

 プロハンターのように敵を多く作る仕事をしてきたわけではなかったが、‘念’を覚えて以来、いつ念能力者に絡まれるかという不安はぬぐえなかった。

 

 それというのも彼女に‘念’を教えた男が彼女に‘念’を教えて直ぐにバトルジャンキーに絡まれて殺されたからだ。

 SMクラブの客と女王様といった関係でとくに情の通った相手ではなかったが、‘念’は危険を招く能力であるという恐怖がヴェーゼに染み込んだのはその時だった。

 

「GSの助手をやってたんスよ」

「GS?」

「ああ、コッチにはないのかな?」

 ヨコシマはそういってステーキ肉を口に放り込みガツガツと飢えた野良犬みたいに食べ。

「ゴーストスィーパー」

 さらにもう一口。

「悪霊退治する仕事なんスよ」

 つぎはライスをかきこむ。

「オレは荷物もちがほとんどでしたけど。 最近じゃ……」

 

「……いいから先に食べなさい」

 ハァとため息をついて、ヴェーゼは、超高速で飯を食べながらしゃべるヨコシマにあきれたような声で言う。

(早食いのために‘念’を使うやつは初めて見たわ)

 

 身をもちくずしてハンター証を売った‘念’を教わった相手を初めに、ヴェーゼは、今までアンダーグラウンドの能力者としかあったことはなかった。

 

 彼らも人間離れした身体能力を使うのは戦闘のときくらいで、普段は一般人の中で悪目立ちしないために日常生活で‘念’を使って何かをするなんてことはしなかった。

 

 しかし、目の前のマヌケはそんなことを考えもせずに、今も早送りのビデオを見ているかのような速度で料理を口に運んでいる。

 

(GSね。 除念師の弟子……じゃなくて小間使い。 この様子じゃろくな給料も貰ってなかったみたいだし、その除念師はこいつに‘念’を教える気はなかったみたいね)

 

 実際は、ヨコシマが守銭奴GSの色香に迷って時給250円でいいからと雇われたのだが、そんなことを知らないヴェーゼはそう結論した。

 

 全てを諦めたような人間やイカれたヤツなら多く見てきたが、そんな連中の暗い歪さがヨコシマになかったせいで、目の前の小者臭いバカが、エロい欲望のために身を削るバカだとは思わなかったのだ。

 

 最近はそれほどの低額ではないが、労働基準法を鼻で笑う低賃金に変わりわない額で命がけの仕事をやらせられることに変わりはないのに、不満さえ感じなくなっているバカさ加減をヴェーゼが知ったらどう思うことだろう。

 

「ふぅ~、食った食った。 いやぁ~っ、この‘念’っての便利ですね」

 そのバカは、久しぶりの御馳走にご機嫌になって大声で秘匿された情報を垂れ流していた。

「すげ~カラダが軽いし、力があふれてるような感じで……」

 

 そこまで言ったところで、びっと目の前にフォークがつきつけられヨコシマはその軽い口を閉じた。

 

「黙りなさい。 ‘念’のことは軽々しくしゃべるもんじゃないって言ったでしょ」

 厳しい目でヴェーゼはヨコシマを睨むとつんつんと鼻をフォークでつつく。

「今度、不用意にしゃべったら……えぐるわよ」

 

「ひぃ~、すんません、すんません!!」

 びびったヨコシマは、ファミレスのカタいソファーにはりついてぶるぶる震えながら条件反射で謝り倒す。

 

「……まあ、いいわ。 アンタ行くアテないんでしょ、しばらくメンドウみてあげるからアタシの下で働きなさい」

 ヨコシマのあまりの情けない様子に調子を狂わされ、ヴェーゼはフォークを下ろした。

 

 SMクラブで女王さまをやっていたくらいだから、強がる男や媚びるブタを従えることには喜びを感じるヴェーゼだが、決して弱いものイジメが好きなわけではない。

 

「えっ! いいんスか? はいッ! 喜んで働かせてもらいます。 ヴェーゼさん」

 今まで脅えていたくせに、途端に喜びの声をあげてヴェーゼの手を握ってくるヨコシマに。

(……あのバカ犬みたいなやつね)

 

 ヴェーゼは、まだ世の中に多くの悪意があふれていることなど知らなかった頃、飼っていた犬の事を思い出していた。

 もっとも幸せで輝いていたそんな子供時代のことを。

 

「ああっ……キレイな手や!」

だが、そんな感傷めいた思いも、息を荒くしたヨコシマが手に頬ずりをしはじめたことで、瞬時にふきとんでしまう。

 

(そういえば、あのバカ犬もアタシの脚に腰ふってたわね!)

 散歩途中に恥ずかしいメにあった思い出まで浮かんできて、ヴェーゼはそのときの恥ずかしさと怒りを思い出し手加減抜きの急所蹴りをテーブルの下で放つ。

 

 やはり、ヨコシマは何処の世界でも所詮ヨコシマでしかないようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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