GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER 作:OLDTELLER
「え──、これより会長が面談を行います。 番号を呼ばれた方は2階の第1応接室までおこし下さい」
ハンター協会の飛行船内に流れた放送で、船内に集まった受験者達の間にざわめきがおこる。
「受験番号401番の方、401番の方おこし下さい」
「面談? つーことは最終試験は面接試験か? わりと普通だな」
ヨコシマのつぶやきを神眼のあきれたような思念が否定する。
(そんなわけないでしょう。 気を引き締めなさい。 何か裏があるのかもしれません)
「裏って──」
(声を出さずに思念で語りなさい。 聞かれていますよ)
「えっ──!?」
神眼の指摘にヨコシマはキョロキョロと辺りを見回す。
どれだけ死線を掻い潜っても警戒心のカケラもないのは、この男の特性故なのだろう。
そんなゆるいヨコシマと視線があったポンズが真っ赤になって逃げ出す。
どうやら勘違いから始まった恋心は少女の中で定着してしまったようだ。
魔族や一部の特異な人間を惹きつけるヨコシマの性質は世界が変わっても有効らしい。
「あー、相変わらず避けられとるな」
しかし自分がモテないことを知り尽くしたヨコシマは肝心のところでいつもの行動力を発揮せずに、なにもそんなに怯えんでもなどとブツブツ文句を言っている。
無限に煩悩を霊力に変換する
なまじ念自体の効果ではなく、それによって副次的に生じた恋心なので解除できないぶん性質が悪いが、それでもヨコシマの毒牙にかからないぶん幸運だと、かつての雇い主兼監督者なら言っただろう。
(そんなことより今は呼び出しの事を考えなさい)
現監督者の神眼はといえば、ヨコシマの女好きはもう諦めているのかネテロのほうが気になるらしい。
本来、神眼はヨコシマがこの世界で簡単に死んだりしないようにと修行を強制するために与えられた神器の仮想神格だ。
ヨコシマに念の全ての知識と基礎技術を憶えさせれば消えるはずの存在だ。
予定ではとっくにその役目を終えているはずだったのだが、予想外に物覚えが悪いヨコシマのせいで長く存在しすぎたためか、九十九神化に近い現象なのか、感情のようなものが芽生えている。
(面談ということは見定めるための行いです。 ネテロという人間がヨコシマを正しく見定められたのなら、きっと不倶戴天の敵となることでしょう)
だから神眼は監督者としてヨコシマの身を心配するようになっていた。
つくづく人間以外にはモテる男である。
(これは面談などではなく対決と知りなさい)
まあ、モテたからといって、それが本人の喜ぶ方向に働かないのもいつものこと。
こっちは
(いや、そんな大袈裟な……ってほんとに?)
本気にしないヨコシマに神眼は、殺人や拷問といった手段を平気で使い、ハンター協会を纏め上げた最強ハンターとしてのネテロの裏の顔について直接テレパシーで理解させる。
「ひ、ひぇええ~!!」
結果、直接ネテロの恐怖を魂に刻みつけられたヨコシマは情けない悲鳴をあげることになった。
(怖れることはありません。 いかに凶悪な魔人であれ神ではない身。 神器の護りを貫けはしません)
怖がらせておいてその恐怖を乗り越えて当然という神眼の愛は、千尋の谷に我が子を突き落とすという間違ったライオン伝説のようだ。
「ま、魔人!? ノ~~!!」
ヨコシマはといえばライオンではなく、まるで“ タイガー ”のように神眼の叱咤激励にコメリカ人化して叫んだ。
もちろんタイガーはヨコシマのもと友人っぽい男のことでホンモノではないし、ドクイツの戦車でもない。
どうやらヨコシマには、世界最強の軍事力を誇る第三ローマ帝国の威勢を借りて精神的ショックを和らげようという心理が働いたらしい。
ハンター協会サノバビッチとかコメリカイズナンバーワーンなどと、どこかのファシストのように叫んでいたが、そのうち六千年の歴史がとか偉大なる将軍様がとか全ての起源は我が国にとか万世一系サイキョーだとかだんだん訳の解らない世迷言まで叫び出す。
どうにもコメリカだろうが特定アジアだろうが日本だろうがファシストは見苦しいという見本になっていた。
(えーい、落ち着かんかっ! うっとーしい!)
「ハッ……今までなにを?」
正気にかえったのか性質の悪い電波を受信していたヨコシマがつぶやく。
まるでギャグなのだが、周りのヨコシマを見る目が
「くっ! ……視線がイタイっ」
それに気づいたヨコシマは、イヤな汗を流しながらこそこそとその場を後にする。
「どうしたんだ? ヨコシマのやつ」
レオリオの問いにクラピカが無言で首を横にふる。
「まさか最終試験の緊張で壊れたか?」
自分でもあまり信じていない調子で冗談っぽく言うレオリオに、クラピカは真面目な顔で答えた。
「……恩人だが私にはヨコシマという男が解らない。
「ああ、たぶん戦えば簡単に勝てるんだろうが、アイツとやるのは借りだなんだを抜きにしてもイヤだな」
「簡単には勝てない気がするしスゴくイヤなメにあいそうだよね」
いきなりゴンの声がその会話に割り込み、レオリオが驚いた声を出し、いつのまにと問うのにクラピカが気づかなかったのかと自分は気づいていたと暗に知らせ、いつの間にかヨコシマの特異性から話はそれていった。