GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER 作:OLDTELLER
「9人中、8人が
受験生を乗せて最終試験の会場に向かう飛行船の一室に、ほっほっほとネテロの笑い声が響いた。
「じゃが、豊作なんかのう? これは」
その笑い声に食事中だった試験官達の目がネテロに向いた。
心なしかネテロの笑いに苦いものが含まれているのは、気のせいでもないだろう。
4次試験で受験生についた点数が軒並み低かったのだ。
ヨコシマ達の参入で個人の実力がほぼ見られなかったせいだ。
数の暴力とえげつない道具の使い方と恐らく外部からのサポートも受けているという報告が、試験官から上がっていた。
当然、ネテロとしては面白くないところだろう。
結果、ネテロの機嫌を慮って試験官たちの間に微妙な空気が流れる。
「たまにあるんですか? こんなことって」
その空気をを察して、見た目の割りには気配りのできる巨デブ男、ブハラがいかにもその事を話題にしたそうなネテロに話を振る。
「うむ 10年くらい新人の合格者が一人もでない時期が続いた後に、有望な
そこまで言ってネテロはうーむと唸りながら腕組みをする。
「じゃが、今回は……あいつら有望なんかのう?」
今回の試験はネテロの長い会長暦から見ても異例続きだった。
まず、最終試験まで死者が出なかったこと。
そんな事など、長いハンター協会の歴史でも初めてだろう。
次に、大規模な試験中の妨害。
これは、まあわりとよくある事だが、それで死者がでなかったのは珍しい。
そして、極めつけは戦闘力なら一流ハンターを超えるのではないかという危険人物が、念能力も持たない
いくら数人がかりでも、よほどの幸運でも起きねばないはずのことが起き、その結果、最終試験に残った者達が徒党を組むという流れができたのだ。
そのせいで、4次試験は予定より数日早く終了を宣言するはめになっていた。
それはともかく、なんとも緩い雰囲気が受験生の間に流れているのが、ネテロには気になっていた。
他の試験官はそんなハンター試験にあるまじき雰囲気にたいした違和感をもっていないようだったが、ネテロにはそれが妙にひっかかるのだ。
ネテロはヨコシマの
悪意や害意には敏感なハンター達も、そういったことには人並みの感性しか働かない。
だが、他のハンターと違い、その本性に
「会長って年いくつなの?」
気づくことができないパンク女、メンチはといえば、そんなネテロの様子はそっちのけで、自分の興味を優先していた。
「20年くらい前から約百歳とか言ってますけど」
メンチに尋ねられ、何やら考え込んでいるネテロを気にしながらも、律儀に答えるのは豆のような顔のハンター協会職員だ。
年齢不詳のゆるキャラのくせに20年以上ハンター協会にいる古株らしい。
「ところで、最終試験は一体何をするのでしょう?」
場の空気を換えようとしたのは、違いの判るエロ紳士、サトツだった。
「…………」
さすが、触らぬ神に祟りなしを決め込んで無言で食事を続ける内弁慶、リッポーとは訳が違う。
「あ、そうそう まだぼくらも聞いてないね」
すかさず、それに乗ったブハラが明るい声をだして言いながらそっとメンチに目配せする。
「
さすがに長いつきあいでブラハの考えを察したメンチは、まだ
「……
しかし、最後に小さくつけくわえたのは、よっぽどヨコシマのセクハラが腹に据えかねたらしい。
「うむ。 それだが……
メンチのつぶやきが聞こえたのか、今まで考え込んでいたネテロが少し笑って言う。
「そのための準備として、まず9人それぞれと話がしたいのォ」
「どーゆーことだろ?」
「さあ。 会長の考えは私にゃさっぱり」
「まあ、アタシは
腹に一物を抱えたネテロの様子に
「ここまでこれたのもヨコシマのおかげだ」
で、その頃、その
「……ヨコシマ、4次試験中に何かあったのか?」
いつもにもまして自分に嫌味な態度をとるヨコシマに、クラピカは嫌な顔をせず、案じるように声をかけた。
「合流した時の様子が少しおかしかったのが、気になってな」
心の広さでも完全にヨコシマに勝っている──のではなく、こういった嫌味な態度をとっていても、底の浅さからか、
そうでなければ、ヨコシマがあまりに哀れだ。
合流した時のヨコシマは少しなどというものではなく荒れていた。
要は、色じかけをしてきたスパーには手のひらを返され、ポンズには完全に脅えられ、いつもどおりにふられたというだけの話だったのだが。
どこから持ち込んだのかちゃぶ台に酒ビンを並べ、ヤケ酒をぐびぐびとあおりながら、うおおおおおおうぅつとぼたぼたと涙をこぼして意味もなく叫び。てやんでえっちくしょーっなどと時折誰にともなくクダをまいて。 酒が切れれば、酒や酒やあっ!! 酒買うてこ~い!! とわめき。 誰にも相手にされないと判ると、うっくうっくとしゃくりあげながら、ちくしょーどいつもこいつもおっ!!とちゃぶ台に伏して泣き崩れる。
まさに醜態としかいいようのない典型的なヤケ酒をあおるオヤジのような姿だった。
おキヌと別れた後、人間に化けたワルキューレに邪な期待を裏切られ襲いかかったはいいがあっさりぶちのめされて美神の除霊事務所を追い出されて以来の荒れ様であった。
その後、アシュタロス事件などで成長したかに見えたのだが、RPGのゲームキャラと違い成長もすれば堕落もするのが人間というものだという証明なのだろう。
まあ、ゲームの経験値も本来は人に力を与える不思議エネルギーなどではなく実体験での成長を象徴したものなのだが、要はデジタルゲームのデータと違い血の通った存在。
よくも悪くもヨコシマという
「うるせーっ! イケメンは敵じゃっ!!」
つまり、高校生にもなると、それくらいで心を開いて悩みを語り始めるほど素直でもウブでもないということだ。
ヨコシマ×クラピカもクラピカ×ヨコシマのフラグも、立ちそうな雰囲気などなく、それどころか友情の絆すら結べそうもない二人であった。
(あの人をみてるとドキドキがとまらない……これが恋!?)
そんなヨコシマを廊下の角からそっと覗き見ているのは、暴走ヨコシマのオーラに
もっとも、ヨコシマのほうは自分を避けるポンズにそれが脅えだと気持ちを誤解して、結果的に当を得た判断をしているというややこしい事態になっているのだが。
そのおかげでヨコシマは人としても霊能者としても踏み外してはならない一線を越えずに今日も性犯罪者にも悪徳教祖にもならず、
人間万事塞翁が馬。
今日もヨコシマは平常運転だった。