GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER 作:OLDTELLER
「全員分のプレートが揃ってるっていうのにどこいったのよ、あいつは?」
まだ、初日だというのに堂々とスタート地点に戻ってきたヴェーゼが、合流したチームヨコシマを見回して、新しく加入したスパーがいるのに、リーダー役のはずのヨコシマの姿だけがないのを見て尋ねる。
「あいつなら、何とかって女を仲間にするとか言って、どっかに行ったぜ」
おれ達は面倒だったんでパスしたけどなと、ヨコシマの行動自体には違和感を覚えていないのか、キルアがさらりと突拍子もないことを言った。
「はあ!? 何でこれ以上、仲間をふやさなきゃならねーんだよ!?」
案の定、その意味のないどころか面倒を増やしかねない行動に、レオリオが異議をとなえる。某裁判ゲームなら逆転のために激しくボタンを叩くような勢いだ。
「せっかく、全員分そろってんのに、これで足りなくなったら──」
「それなら、ポンズって
ムダにチームワークを破壊しそうなセリフを言いかけたレオリオを制して、ゴンが意外と気の利くところをみせた。
野生少年と思われがちなゴンだが、ゴン以外は女所帯で育ったせいか、それともハンターだという親父譲りなのか、人の感情を無意識で読む勘のよさがある。
まあ、一度ならずも二度までも無駄どころかトラブルのタネになりそうなチーム数の増加を図ったのだから、直情型のレオリオが激昂しそうになるのもムリはない。
だが、ゴンの言葉であたりにはどうしようもないやつにあきれるようなムードが、漂い始めた。
あまりにもヨコシマの動機があけすけで、ハンター試験の最中であるのに緊張感というものがない能天気さに加え、無意識で発動されるヨコシマの念能力の影響が、この空気をつくっていた。
「あいつ……」
頭痛がしそうな頭を押さえてヴェーゼがポツリとつぶやいた。
かつてヨコシマの上司だった美神が、同じ悩みを抱えていたのだと知れば、共感を覚えただろうが、彼女がそれを知ることはない。
で、その相変わらずのギャグ担当は、妄想によって増幅された霊力を使って、‘円’で島中を探索してポンズを見つけ出していた。
(こやつ、いつのまに‘円’を……)
ついさっきまで使えなかったはずの‘円’を使い出したヨコシマに呆れて神眼もあきれたような思念を発する。
(暴走していたほうが優秀なのか、こいつは)
「うおおおおおっ びしょうぢょおおおお」
ヨコシマはといえば、神眼の思念になど気づかず、鼻息を荒くして、煩悩全開でポンズのほうへと、念で強化された驚異的な身体能力で、爆走し始める。
精神、肉体、技術と三拍子揃った、まさに若さゆえの暴走というやつだった。
霊能力の進化に割り振られて、一時は収まっていた
いくら人間的に成長しようが、霊能者としてトップクラスの実力を得ようが、親譲りの経営の才能を開花させようが、最大の欠点が全てを覆い隠すほど巨大だとどうしようもないという見本だった。
ドドドドドという音が聞こえてきそうな勢いで、駆け続けるヨコシマを見ている者は、受験生を監視する試験官だけだが、霊能力を開眼したものしかオーラとして感知できない霊能力オーラの‘円’を感知できないせいで、ヨコシマの爆走が能力の暴走だと気づいているのは神眼のみ。
試験官が感知しているのは霊能力に変換される前のわずかなオーラのみだった。
そのせいでヨコシマの評価は相変わらず過去最低レベルだが、それもしかたのないことのようだ。
「ちちしりふとももーっ」
なにしろ、とうとう頭の中でポンズを裸に近い格好にしてしまったらしく、変質者めいた叫びをあげているのだから。
(‘念’の修行の効果が薄いと思ったが、まさか煩悩が強化されているとは……)
あらゆる能力の強化を図った結果がこれでは、目もあてられない話だ。
(しかし、暴走とともに全ての系統の能力が爆発的に成長している。 これは霊能力の性質なのかそれともヨコシマゆえなのか)
「ううおおおっ! ポンズうううう」
神眼がそんな思索をしている間に、ヨコシマはポンズを発見してしまったようだ。
今、一人の乙女が危機を迎えていた。
「なっ!!」
ポンズとヨコシマの間に立っていたターバン男がその姿に気づき身構えようとしたときにはもう遅く、次の瞬間、
「きゃあああああああああっ!」
それを見ていたポンズの目が、ヨコシマの血走った目とあい、身の危険を感じたポンズの悲鳴が響き渡る。
それが
何度もさされれば、アナフィラキシーショックによるショック死を起こすような、強い毒をもったハチだ。
「ふははははっ きかん! きかんぞーっ」
しかし無数のハチも、かつて西条が撃った銀の銃弾すら叩き落した
女がらみで暴走しているときだけは、ムダに達人めいた動きをするヨコシマだった。
それを影で監視する試験官達が見ていれば、少しはヨコシマの評価も上がったのだろう。
だが、見通しの利かない森の中をムチャクチャに暴走するヨコシマに、見つかるのを警戒して、監視は遠巻きになっていて、その光景を見るのはポンズだけだった。
「がおーっ!! もらったーっ!!」
「い、いやああーっ!!」
そして、とうとうその魔の手が無力となったポンズへと襲い掛かり。
(やめいっ!!)
神眼の霊力放出により叩き落とされた。
「はっ! ここは!?」
少し我に返ったのか、それとも神眼のことを思い出しマズイと思ったのか、地面に突っ伏していたヨコシマは、何事もなかったかのように、ベタな記憶喪失のふりをしながら起き上がる。
「…………」
そして、
「やあ、こんにちは、キレイなお嬢さん。 ぼくは横島忠夫、通りすがりのゴーストスィーパーです」
ムダに爽やかな声でそう自己紹介するとキョロキョロとあたりを見回し、地面に転がったままピクピクと痙攣するバーボンを見て白々しく言った。
「ひょっとして、あれがあなたのターゲットですか? あいつのプレートは差し上げますので僕と仲間になりましょう」
目は血走りハアハアと鼻息を荒くして
あらかじめ練習していたセリフにしては、実に残念なさそい文句だったが、完全に脅えているポンズにはうなずく以外に道はなかった。
念能力者でも耐えられないような暴走する
なすすべもなく、殻のように心を護るために固まった、警戒心や自負や自身といった心の表層を剥ぎ取られ、彼女は陥落した。
ポンズのみを狙いすましてぶつけられたような
まさに強制的な超吊橋効果で、ポンズの死の運命が塗り替えられ始めた瞬間であった。
(おまえというやつは……)
神眼のあきれたような思念が響き渡る。
人間の倫理とは異なる行動規範を持つ古き神々の神器にさえ呆れられるヨコシマだった。
かくして4次試験はヨコシマの二度目の人身事故により、事実上の終わりを告げた。
この類の試験にしては記録的な早さだったが、当然のことながらそのことでヨコシマが評価されることはなく、エロハンターの悪評は留まる事をしらない。