GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER 作:OLDTELLER
「そう。 アンタが自分のお金をどう使おうと勝手だけど、もめないようにその話は3日目まで伏せておくこと。 いいわね?」
それだけいってヴェーゼからの通信が打ち切られる。
「ふーっ、なんとかやりすごせたか」
怒られるかと緊張していたヨコシマが気を抜いたその瞬間、一本の矢がヨコシマを襲った。
完全に気配を絶って近づき機をうかがっていたポックルの弓から放たれたその矢は、狙い違わずヨコシマの背へと向かう。
これが撃つ瞬間の殺気を感じ取れるような達人ならともかく、霊能力を持つとはいえただの高校生だったヨコシマに避けられるわけがなく、矢は狙い通りに当たった。
気配を隠す事に長けた狩人の完全にして完璧な狙撃。
ポックルにとっても、それは生涯に一度といえるような無駄に最高の一撃だった。
完璧な
もし、ミューズがヴェーゼの作戦でハンゾーのほうに能力を使っていなければ、近づくポックルに気づいたのだろうが、間が悪いとしかいえないタイミングだった。
「ぐっ……」
次の瞬間、呻き声がしてドサリと地面に人が倒れこむ音が響く。
(矢には即効性の痺れ薬が塗ってある。 一週間はまともに歩くこともできないわ)
そして、ヨコシマの脳裏に美神そっくりの神眼の声が響いた。
「えっ!? え?」
未だに事態を理解していないヨコシマは戸惑いながら、地面に倒れて軽く痙攣しているポックルを見下ろしていた。
その腕には神眼に跳ね返された矢がつけたかすり傷がついている。
ヨコシマからすれば、何があったか判らないのだろう。
いきなり、後ろで音がして、振り返ればポックルがピクピクと痙攣していた。
そしてそれを神眼が説明する声が、次の瞬間、頭の中で響いたのだから。
(情けないわね、あれくらい私の手を借りないで倒して見せなさい)
背中に当たってGジャンに込められた耐熱耐刃耐弾効果の結界で阻まれた矢を弾き返した神眼が、ようやく事態を理解したらしくキョロキョロと他に自分を狙うものがないか見回しているヨコシマを叱咤する。
「音一つたてずに近寄ってきたぞ、こいつ。 こんなもん、どうせいっちゅーんじゃ!」
動揺しているのか関西なまりになってヨコシマはドキドキと脈打つ心臓の上に手をあてる。
(だから‘円’を覚えろとあれほど言ったでしょう)
ヨコシマがこの世界に来てからほとんど毎夜、夢の中でヨコシマを鍛えている神眼だが、ヨコシマは未だ心源流でいう四体行の基礎しか修めていない。
‘発’こそ霊能力として顕現しているがオーラを自分の周囲に留める‘纏’は不安定で初心者レベル。
‘練’は危険を感じたときこそ瞬時に無意識で発動するが、意識的に使おうとすると数十秒で発動という御粗末さだ。
‘凝’というオーラを自在に移動させる技術を基にした空気中にオーラを薄く広げる‘円’や物質の周りにオーラを凝集させる‘周’といった応用技術はもとより、‘絶’というオーラを体外に出さない技術すらまともに扱えないのだから、どうやらヨコシマという男は女が絡まないと修行ですら実力を発揮できないらしい。
前の世界では小竜姫や斉天大聖といった神々に鍛えられ霊能力を高めてきたヨコシマだが、能力を爆発的に成長させたのは何れも女がらみだ。
それはやはりこの世界でも同じなのだろう。
(これからは訓練メニューを倍にしますよ)
しかし、ヨコシマを鍛える事を目的として知識と戦いの神アテナに創られた神眼にそんな事など関係はないらしい。
そもそもいくらヨコシマが油断していたとはいえ、家庭の守護神ヘスティア謹製のGジャンの周囲を覆う結界を貫く攻撃を‘念’を使えないポックルが放てるわけがない。
第一、わざわざ神眼が矢を弾き返したのは、矢が結界で止められた後のことだ。
どう考えても訓練時間を増やすために介入したとしか思えなかった。
「ったく、驚かせおって! しかし、これでで全員分か……」
そんな神眼の思惑を知ってか知らずか、ヨコシマはポックルから痺れ薬の解毒薬とプレートを取り上げながら、神眼の台詞など聞こえないかのようにニヤついている。
「あとは、あの娘とバーボンとかいう蛇使いのおっさんだけ。 これはお近づきになれるチャンス! やれる! これはヤレルぞ!!」
やがてヨコシマのニヤニヤ笑いはワハハハという笑い声になり、森に響き渡っていった。
喉元すぎればというには早過ぎるカケラも警戒心のない大笑いだ。
いくらチーム外の受験生があと二人で、そのどちらも待ち受け型の戦闘を得意とすることが判っているとはいえ、油断が過ぎる話だ。
(こら、聞いているのか!?)
スキだらけで何やら妄想しているヨコシマに呼びかける神眼だが、ヨコシマがそれに気づくのは、大笑いに気づいたキルアがやって来て、ヨコシマの頭を殴って笑いを止めた後の事になる。
遠くから受験生について観察していた試験官の一人がそれを見てヨコシマを減点していたのだが、もともと
ヨコシマ・タダオ。
見る者に小者と思わせる能力のあるなしに係らず、その本質は