GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER   作:OLDTELLER

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29.  ヴェーゼの危機! 影の軍団の恐怖!! 

 

 

「イモリでしたっけ、198番。 キルアのやつを狙ってたんで捕獲したんで、これで全部で8枚っスね」

 ヨコシマの何かをごまかすときの妙に軽い声が、ピアスから聞こえてくる。

 

「こっちも197番と199番、あと89番は獲ったんで11枚よ。 でも、報告しなくちゃいけないことが他にもあるわよね?」

 クラピカとレオリオがそのアモリにウモリとシシトウを埋めている場所から離れ、ヴェーゼは森の窪地になった場所で一人ヨコシマを問い詰めていた。

 

「え、えーっと……」

 動揺まるだしの声でいいわけを探すヨコシマだが、当然の事だが効果的な言い訳などでて来ない。

 

「まあ、あと2枚手にいれられるならいいけどスパーのターゲットはギタラクルらしいじゃない。 まさかアレを相手にするつもりじゃないわよね」

 おろおろと情けなくうろたえているのが雰囲気だけでも判るヨコシマの様子に、今まで覚えていた苛立ちが収まっていくのを感じて、ため息が出た。

 

 冷静に考えればたいした問題でもないのだ。

 それこそギタラクルを狙うのでもなければ危険はないし、滞在期限は丸一週間残っている。

 

「いや、足りなかったらレオリオのやつに医大に行く金を貸してやるからってことであきらめさせますよ」

 ヴェーゼの態度が軟化したのをいいことにヨコシマは、身もフタもないことを言う。

 

 レオリオが聞いたら、無利子で催促なしだろうなとか、前金でとかいいそうなセリフだ。

 闇のソナタの除霊以来、大口の除霊は入っていなかったが、小口の依頼を受けまくっているので、それくらいの金なら出せない事はないので嘘をつくつもりではないのだろう。

 

 スパーが所属していた組織から足を洗うのに必要な金を用意するのにハンターになるという話を聞いて最初はスパーに金を貸すつもりだったが、金額からしてレオリオの医大費用のほうが安くつくのでそういう話になったらしい。

 

「そう。 アンタが自分のお金をどう使おうと勝手だけど、もめないようにその話は3日目まで伏せておくこと。 いいわね?」

 ヨコシマから、聞くべき事を聴き出して、ヴェーゼは念を押すと通話を打ち切った。

 

「動くな──」

 その瞬間、音量を抑えた声がヴェーゼの後ろで響き、勘違いした外人コスプレーヤーのような忍者コスをしたハゲが現れ、後ろからヴェーゼの首に刃を突きつけた。

 

 受験番号294のハンゾーだ。

 埋められたターゲットのアモリからヴェーゼにプレートが渡った事を聞きつけたのだろう。

 

 右の前腕に巻きつけた布から飛び出した数十センチほどの仕込み刃が、ヴェーゼの左の頚動脈に触れるかどうかの位置に微動だにせず固定されていた。

 刃の中ほどを首にあて逃げようとしてもその瞬間に一薙ぎすれば簡単に致命傷を与えられる位置取りだった。

 

 格好は、うさんくさいが中身は腕のいい忍びのようだ。

 現れる瞬間まで完全に気配を消し、その出現も常人の目にはとまらぬ速さだった。

 

「しばらく様子をみていて正解だったぜ。 あんたらが一枚岩じゃないことは判ってたがなかなか離れないんで一時は失敗かと思ったが」

 

 だが、精神面では修行が足りないのか口が軽いようだ。

 おまけに、あろうことかヴェーゼを見る目が完全に情欲に染まっていた。

 

 どうやら気づかぬうちにヨコシマの滾る煩悩の放散(エロゲシンドローム)に影響を受けまくっていたらしい。

 霊気の性質を持つために霊能を持つ人間以外には気づかれず、エロイ人間ほど影響を受けやすく、衝動をを抑圧している人間ほどそれが爆発しやすくなるのがこのオーラの恐ろしいところだ。

 

 ヒソカの殺人衝動のオーラなどは特異な衝動なので、受けた人間が嫌悪感を覚えるだけですむが、性衝動は誰にでもあり生きている以上、決して切り離せない根源的欲求の一つだ。

 

 長期に渡って浴びれば誰もが色情霊に憑かれたような暴走ヨコシマ状態になるし、稀にこのハンゾーのように抑圧された生活を送っていると短期間で性欲の暴走を引き起こすことがある。

 

 早い話が、ぶっちゃけヴェーゼ貞操の危機であった。

 どうみてもハンゾーはエロイことをする気満々だ。

 

「プレートは持ってるんだろ。 どこに隠してるんだ?」

 ねっとりとした声でハンゾーは耳元に囁きながら、刃を首につけたまま左手でヴェーゼの細い身体を両腕ごと抱きしめるように拘束した。

 

「も、持ってないわ。 ベースの荷物と一緒に置いてあるのよ」

 

「動くなよ。 動いたら……」

 脅えた声で囁くように答えるヴェーゼの声やその儚げな様子に興奮したらしく、ハンゾーは鼻息を荒くして、いい匂いのする首筋に顔を寄せくんかくんかと匂いを堪能した。

 

 そして、そのまま二人の身体が絡まり、片方が崩れ落ちるように地面へと(ひざまず)かせられる。

 

「ああっ! あ~!!」

 悲鳴のような声が響き、地面に四つん這いにされた身体を無慈悲な足が踏みにじった。

 

「ふふふふふふ なんて恥ずかしいカッコかしら。 そんなに踏んで欲しかったの!?」

 さっきまでの声が演技だったかのようなヴェーゼの高慢な声が響き渡り

「もっとお踏みくださいませ!!」

 ぶひぶひとブタのように鼻をならして、ヴェーゼの怖ろしい念能力の虜となったハンゾーは気色の悪い声をあげる。

 

 媚香の首輪(フェロモンズリング)

 体内に貯めたオーラを身体から放たれる媚香に混ぜ吸い込んだものを奴隷と化す念能力だ。

 

 ヴェーゼが初めて手に入れた“念”であり、彼女の最後の一線を今まで守ってきた力だった。

 

 時間をかけてオーラを貯める必要があるので180分の恋奴隷(インスタントラヴァー)を覚えてからは使わなくなった能力だったが、効果はほとんど変わらないのでハンゾーは完全に隷属状態になっている。

 

「うまくいったみたいね」

 ピアス型通信機からほっとしたようなミューズの声が響く。

 

「ええ。 だから言ったでしょ。 こういうのの扱いはなれてるのよ」

 ヴェーゼは、喜んで自らが入る穴を掘っているハンゾーをチラリと流し見ると、嫣然と笑った。

「あなたがこいつが発情してるって教えてくれたせいで簡単に罠にはめられたわ。 ありがとう」

 

 どうやら、初めから全てが罠だったようだ。

 一人でここにきてヨコシマに連絡をいれたのも、そして脅えて見せたのも。

 

 正気になってその事を知り、ハンゾーは穴に埋まったまま心から女に恐怖を抱くようになるのだが、それは少し先の話。

 今は、ただ女王様に仕える喜びで一杯の隠密集団雲隠流の上忍であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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