GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER 作:OLDTELLER
「わはははは。 カイチョー、カイチョーッ!!」
ザクザクと‘周’でオーラを纏わせたスコップで、気絶したポドロとリュウを埋める穴を掘りながらヨコシマは調子に乗った笑い声をあげていた。
それというのも初日だというのに、既にこの二人を含めて8つのプレートを手に入れていたせいだ。
ターゲットではないプレートは、191ポドロ、34リュウ、105キュウ、384ゲレタ。
ターゲットプレートは、ヨコシマの118ソミー、ゴンの281アゴン、クラピカの362ケンミ。
そして、あとの一つは、371ゴズで、速攻ギタラクルに渡し、最大の懸念は回避されている。
ギタラクルは受け取って直ぐに地面の下にもぐるという妖怪めいた隠れ方をしていた。
つまり、危険人物の隔離にも成功したというわけだ。
万事快調に進む4次試験にヨコシマは例によって調子に乗りまくっていた。
根がお調子者の性格は何があっても変わらないらしい。
そんなヨコシマを見て、やれやれという調子でキルアは首を振る。
そうしていながらも周囲への警戒を怠らないのは暗殺者教育のたまものだろう。
ゴンのほうもミューズの指示通り、油断なく周囲の様子を警戒しながら見ていた。
ヴェーゼの子供嫌いのせいで決められたヨコシマと年少組、ヴェーゼと年長組という一見偏って見える割り振りは、それなりにうまく機能しているようだ。
「よし! ゴン、キルア。 固めちまえ」
穴を掘り終わったヨコシマがリュックの中から2ℓ入りの瞬間接着剤のボトルと速乾性のセメント袋を取り出しながら、縛られた二人の捕虜を見て言う。
二つを混合させて使うことで衣服を性質の悪い拘束具にしたうえで首まで地面に埋めて、止めにコンクリートで密封するというつもりなのだ。
既に他の六人は栄養ドリンクと水をくわえさせられて生き埋めにされている。
剥離剤と工具がなければ、まず助け出すことはできないだろう。
もちろん試験終了までそのままなので、試験終了後の救出はハンター協会まかせだ。
そのとき彼らがどんな状態なのかは想像に難くない。
「うん」
「命令すんな」
ヨコシマの指示に対照的な返事を返した二人だが、体のほうはほぼ同時に動いている。
初めはまさに鬼畜の所業と怯えていたヨコシマ達だったが、今ではすっかり慣れてしまいルーチンワークと化した作業を軽口まじりでこなしていた。
人間とはどんな非道な行いでも馴れるイキモノなのだ。
「じゃあ、足からいくね」
「おう」
作業するゴンとキルア、その横でいい汗をかいたと爽やかな気分で額の汗をぬぐうヨコシマ。
そんな三人にミューズの声が警告した。
「南から誰か近づいてくるわ。 一人ね、敵意はない。 この足音は────いけないっ! 逃げて!!」
「逃げろって、そんなヤバイ相手いたんスか?」
しかし、ヨコシマはキョトンとした顔で聞き返し、そこでハッと表情を引き締める。
「まさか、あの針男、ギラタクルが──!?」
せいいっぱいシリアスな顔をしているのだが、名前を間違えているあたりまだまだ余裕そうだ。
いくら男の名など覚えたくないヨコシマでも本当にビビっている相手の名前を間違えたりはすまい。
「違うわ! もっとタチが──とにかく、一時そこから離れて」
何かを言いかけて、時間がないと思ったのかミューズは口を閉じ指示を繰り返す。
「逃げんのはいーけど、こいつらどーすんだよ」
それを聞いたキルアが穴の中のポドロとリュウを指しながら言う。
「そうだね。 このままじゃ目を覚ましたら逃げられちゃうよ」
ゴンもキルアに賛同して、どうすればいいのか暗に指示を求めた。
確かに放っておいたら二人は戦線復帰してくるだろう。
そうすれば、下手をすると今度は一度に二人以上を相手にしないといけなくなる。
二人が争ってるところを横から不意打ちしたから、さっきは簡単に倒せたが、そうなると色々面倒だ。
「だったら、ヨコシマさんだけでもソコを離れて。 ゴンくんとキルアくんは作業が終わったら──」
少し考えてミューズが指示を出すが。
「イヤ、なんで戦力を分散させなきゃなんねーんだよ!」
また、キルアがそれに否を唱えた。
「……ヨコシマさんが大きな音を立てながら移動して……いえ、それじゃあダメね」
ミューズはあわてた様子で何か考えているようで、新しい案をだすが、直ぐに自分でそれを否定する。
「え、えーっと、じゃあ……どうするんスか?」
ミューズのあわてた様子にヨコシマもようやく危機感を覚えたのか、キョロキョロとあたりを見回すとおどおどした声を出す。
「…………」
いざとなったらけっこう頼りになるのにどうして普段はこうなのだろうと思いながら、ゴンはそんな平常運転で情けないヨコシマを見てため息をつくと、キルアの方へと視線を移す。
「…………」
キルアはといえば、どうしようかと無言で訴えかけるゴンに、ダメだこいつと無言で首を振りながら、諦めモードに入っていた。
煩悩を力に変えるという性質上しかたないのかもしれないが、やはりヨコシマという男は女が絡まないとこんなもののようだ。
ついさっきまでの調子の乗りようとは裏腹に安定の役立たずぶりをみせている。
それでも彼らの間にあんまり危機感がないのは、なんやかやいいながらもヨコシマが信頼されているからだろう。
だが、そのせいでトラブルに遭い易くなるというのも確かだ。
「ダメ! もう間に合わない!!」
とうとうミューズの悲鳴のような声と同時に、彼女の想定していた最悪の可能性が人の姿をとって現れる。
長い金髪を後ろに束ね、顔の半ばを覆う大きなウェリントン型の真っ黒なサングラスをかけた女が、そこに現れた。
受験番号80のスパーという女だとヨコシマ達は気づく。
白い発水性のサファリジャケットの肩にはライフルが架けられているが、戦意はないようで銃身は背中のほうで縦に吊られていた。
「あんた達、組んでるのよね。 どうワタシも仲間にしない?」
そういってサングラスを取ると、そこにはスラブ系のとんでもない美女が現れた。
「もちろん大歓迎です! おねーさま!」
潤んだようなブルーアイの誘惑に当然のようにヨコシマがひっかかった。
「ああ……!」
ピアスからミューズのため息が聞こえる。 痛む頭を抑えているのが目に浮かぶようだった。
確かにこれは最悪の相手だった。
敵ならば迎え撃てばいいだけの話だが、味方ではそうはいかない。
この状況でまだ味方が増えるというのは仲間割れの危険性が高くなるのでマズイのだが、ヨコシマはもう受け入れてしまっている。
足音でスパーが敵意を見せずに近づいていることを知って、この事態を予期したミューズの努力の甲斐もなく、チームヨコシマは過剰人員を抱え込むことになりそうだった。
ヨコシマのエロハンターぶりは広く知られているので、スパーがヨコシマを味方に引き入れる気なら防ぐ手立ては接触を避けるしかないのだ。
「よろしく。 オレはゴン」
ハンターだという父親ゆずりなのか、何気に懐の深さをだしてゴンのほうもスパーを受け入れている。
「ダメだ、こりゃ」
キルアは諦めモードのまま、今度こそ口にだしてつぶやいた。
スパーの思惑が通り、事実上チームヨコシマの敗北が決定した瞬間であった。