GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER 作:OLDTELLER
「それでは第3次試験の通過時間の早い人から順に下船していただきます! 一人が上陸してから2分後に次の人がスタートする方式をとります!! 滞在期限はちょうど1週間!! その間に6点分のプレートを集めて、またこの場所に戻ってきて下さい それでは1番の方スタート!!」
カラの説明が終わると同時に4次試験が始まるが、ヴェーゼは島の中へ進もうとはせずにヨコシマのほうへと歩いていく。
「あんた2番だったわよね。 一緒に行くわよ」
そういってヴェーゼは受験生の注目を一身に浴びながら堂々とヨコシマに言って、カラをふり返る。
「ルール違反じゃないわよね?」
「えっと……一応、下船してください。 船のそばで待っていただくなら結構です」
カラとヴェーゼのやりとりが受験生の注目を集める中、ヨコシマ達6人の同盟組にくばられたピアスからミューズの声が響く。
「船から下りたら同盟がばれないように森の中に入って東に進みながら5分ほど進んで集合よ」
(なるほど同盟を秘密にするなら、それが一番の手だろう。 先に私たち6人が簡単に集合できる)
クラピカはミューズの指示を聞きながら、改めてヨコシマ達の用意周到さを感じていた。
(このピアスといい対策をたてるのが早い。 よほど試験対策をしていたんだな)
「それでは2番の方スタート!!」
2分後、ヨコシマがスタートを切り、二人は森の中へと向かう。
「でもヴェーゼさん、ホントにプレート足りなさそうだったら、あいつらから獲るんすスか?」
「当然でしょ? 7日目じゃむこうも警戒するから4日目に入ったらそのつもりでいくわよ」
気乗りしない様子のヨコシマにくらべてヴェーゼはあくまでドライだ。
「シ、シビアっスね……!」
高校に入るまでは一般人として過ごしたのだからあたりまえなのだが、根が甘いヨコシマはヴェーゼの態度に少し引いていた。
「……まあ、さっさと集めればいいのよ! ミューズもいるんだから、早めに終わるわよ」
ヨコシマのそんな様子に少しバツが悪かったのかヴェーゼはミューズにふる。
「ええ、まかせてください」
そんなヴェーゼがおかしかったのか、クスリと笑ってミューズはフォローした。
この何ヶ月かのつきあいでミューズにはヴェーゼが口ほど悪い人間でないことが判っていた。
思春期の子供ほど偽悪的なわけでも、自意識過剰に偽善を嫌うわけでもないが、ヴェーゼには人を信じることを怖がっているふしがある。
それが人とはお互いを利用しあっているだけだという意識をヴェーゼに持たせているのだろう。
だが、それもヨコシマとのにぎやかな日々の中で変わりつつあった。
ヨコシマには他人を騙して自分が得をしようとか自分を殊更に良くみせようだとかいうことがない。
お人好しで目先の欲望に流されることは多いが、それがセクハラ以外では悪事につながることはない。
損をしてまで人助けをしたいとまでは思わないが、泣きつかれれば無碍にはできない。
小銭を拾ってもそれを自分のものにすることに罪悪感を覚える小心で善良な一般市民なのだ。
両親亡き後、ずっと裏の世界ばかりを見てきたヴェーゼにとって、そんなヨコシマはいつの間にか心許せる相手になっていた。
だが、当然のことながら他の受験生は同盟を組もうとライバルでしかない。
(まったく、わかってんのかしらね)
ヴェーゼはとことん甘い生き方をしてきたとしか思えないヨコシマがこのさきキチンと仕事をこなせるのか不安になってきていた。
これでヨコシマがホントに生き死にのかかった修羅場を何度もくぐり抜けてきていると知ればまた違っていたのだろうが、ヴェーゼから見れば“ 神や魔がいるうさんくさい世界の大ボラ混じりの武勇談 ”に信憑性など感じられるはずもなく、まったく信用されてないヨコシマだった。
まあそれもヨコシマが、島一つを消滅させるようなビームを連発する大魔王アシュタロスを一撃で叩き潰し、世界の英雄として君臨したなどという、事実を基にしてはいても盛りすぎた話をしたせいなので自業自得なのだが。
「よし、かたっぱしから全員で囲んでボコるぞ!」
そんなヴェーゼの心配をよそにヨコシマはといえば合流してきたゴン達と完全になれあっていた。
「いや、そりゃマズイだろ!」
「そうだな。 後の事を考えればターゲット以外を襲っても──」
「カッコわるすぎだろ、それ!」
「うーん。 それはズルすぎじゃない?」
いや、どうやらなれあっているのではなく、なめられているのかもしれない。
口々にヨコシマの提案に反対意見が続出する。
相手だけでなく己までも追い込む恐ろしい能力だった。
(ふ、不安だわ……)
ヴェーゼの不安はいや増すばかりだったが、それを隠して、彼らの話に割ってはいる。
「はいはい、そこまで。 ハナからそんなことでどうするの」
リーダー役のヴェーゼの仲裁でヨコシマにダメだししていた4人が静まり、タジタジになっていたヨコシマもホッと息をつく。
「ヨコシマくん。 アンタ、はしょりすぎ」
「レオリオは考えてものをいいなさい」
「ゴン、キルア。 チームで動くってことなんだから多対一はあたりまえでしょ。 友達いなかったのアンタ達」
「クラピカのいう事はわかるけど対策は考えてるから心配しないで」
だが、つぎの瞬間、3人と一緒にヴェーゼからのダメ出しを真っ先にくらってしまった。
ミューズの万象の音律が可聴域下でBGMで流れているために、霊能力で念能力の影響をキャンセルしているヨコシマはともかく他の3人は精神ダメージを受けていた。
ヴェーゼの人心掌握術、
そしてミューズの心理操作能力、
二つの能力合体コンボに、念を知らない3人に抵抗の余地はなかった。
「プレートを奪い返しにこれないようにするということか? そんなに簡単にあきらめさせる方法があるとは思えないが」
だが、一人、ダメ出しされなかったクラピカがヴェーゼに聞き返す。
「か、考えなしなのか、オレは……」
「しかたねーよ、あの家族じゃ……」
「ううっ。 島には子供いなかったんだよ……」
残りの3人は、ヴェーゼの心ない言葉とミューズの精神を揺さぶるBGMの旋律で無抵抗状態だった。
「うん。 だからプレート取ったら埋めちゃいましょう」
ヴェーゼはそんな3人をあっさりとスルーして黒い微笑とともにクラピカに答える。
「────ッ!! 無駄な殺生は……」
「人を何だと思ってるの! 大量殺人なんかしないわよ。 埋めるだけよ、物理的に。 首だけ出してスポーツドリンクおいとけば一週間くらいじゃ死なないわ」
戦慄に震えるクラピカの言葉をさえぎってヴェーゼは憤慨したように言う。
普通ならトラウマを刺激され非道と怒りそうなのだが恐怖が先にくるあたり、やはりクラピカもピアスから流れる可聴域下の精神侵食を受けているらしい。
「うーむ。 なんだかなあ」
ヨコシマはぽりぽりと無意味に人指し指一本で頬をかきながら、そんなやりとりを見ていた。
どうやら、かつてのチームヨコシマは