GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER 作:OLDTELLER
そこは多数決の道の最後にある、長く困難な道最後の部屋。
暗がりの中、一人の男が待っていた。
中世の蛮族か山賊を思わせる男だった。
無造作に伸びた髪、左右の眼から頬へ走る傷。
筋骨隆々とした上半身は、素肌に毛皮を纏い、更にその上をオーラが覆っている。
念能力者なのだろう。
それなりの実力と自負を持つ男だったのだろう。
だが、今の男にはどこか鬱屈とした影がある。
それは1年前、ヒソカという男につけられた顔の傷を見るたびに疼く心の傷からきていた。
試験官だった自分を痛めつけ雑魚呼ばわりしたヒソカが今年も試験を受けたという情報を知り、男はここにやってきていた。
だが、事もあろうにヒソカは既に脱落したという。
それも、‘念’も使えない子供にやられ再起不能の状態だったという。
信じられない、いや信じたくないことだった。
この1年、ヒソカを倒すためだけに男は修行を続けていた。
無限四刀流。
男がヒソカを倒すために編み出した技だ。
4つの特殊な形状の曲刀を投げブーメランのように戻ってきた刀を受け止めて再び投げる事を繰り返し相手を切り裂く技だ。
半年をかけて高速回転する刃を受けれるようになり、後の半年で様々な軌道を描く攻撃を鍛えてきた必殺技だった。
その技であの殺人鬼を殺す。
それだけを考えていた一年だった。
それが、呆気なく潰えた。
納得できるわけがない。
ヒソカに半殺しにされたことや雑魚よばわりされた怒りだけなら、しょせんヒソカもその程度のやつだったのだと嘲笑ってすませられただろう。
だがヒソカに対する敗北は、男の強者であるという自信だけでなく、ハンターとして生きていく上で大事な挑戦心や勇気を男から奪っていた。
それを取り戻さなければ、その一心で過ごした一年だったのだ。
だから男は待っていた。
自分にない何がヒソカを倒した少年にはあったのか?
強さではない何かがそこにあるのなら、それを見てみたい。
それを見たときこそ、自分は再びハンターとして立つ事ができる。
男はそう信じて待つ。
ゴンとキルアにクラピカとレオリオ、そしてヒソカ以上の道化を。
「……教えてやったほうがいいんじゃないか? リッポー所長」
トリックタワーの監視室で男の様子を見ていたハゲの大男が、椅子に座ったサイドスキンのメガネチビにそう話しかけた。
「必要ないよ」
笑っているかのような三日月の眼を更に細めてクククと笑いながら、第三次試験の試験官であり、賞金首ハンターの刑務所長は答える。
リッポーが教える必要がないと言ったのは、ヨコシマ達5人が短く簡単な道に侵入したことだ。
ヨコシマ達は扉をプラスチック爆弾で吹き飛ばして○×スイッチすら押さずに一階に辿り着いていた。
(おまえに足りないのは、考える頭だよ)
リッポーは、来るはずのないヨコシマ達をただ待ち続ける男を見ながら笑っていた。
リッポーからすれば、残り時間がたっぷりあるからと長く困難な道の部屋で待つというのがもうダメだ。
あれだけ反則的手法で試練を超えた男達が、そんなまともなことを考えるわけがない。
「あの金髪のクルタ族くらいの頭があれば考えつくだろーに」
リッポーは、5人の中で参謀役をやっているだろうと思ったクラピカを賞賛しながら男をこきおろす。
「たぶん、この突破法はアノ男の考えだ。 いや、実に素晴らしい」
実際はここにいないミューズ発案ヨコシマ主導の計画なのだが、ヨコシマの小者オーラと反則手法にリッポーもまた完全に欺かれている。
そんなことも知らずにリッポーは、ただクラピカを評価していた。
「方法には納得いかないが、ここまでこれたのは君のおかげだ感謝している」
一方、そのクラピカはといえば素直にヨコシマの功をねぎらっていた。
今まで、不信感があってヨコシマには近寄らなかったクラピカだが、この試験がヨコシマのおかげでクリアできたことは評価するべきだと、初めて真っ直ぐにヨコシマを見て感謝を伝えたのだ。
神の創りし美の結晶と緋の眼こみで謳われたため、その悲劇を招いたクルタ族の美がそこにはあった。
「…………」
ヨコシマは、初めて間近に見たクラピカの美少年っぷりに、不公平だ~と神を呪ってどこからか取り出した藁人形を壁に打ち付ける。
「ちくしょー!! なんだかとてもちくしょー!!」
かってダンピールの人外の美を持ったピートと初めてあったときにも似た、強烈な嫉妬が彼をそんな奇行に走らせていた。
そんなヨコシマを見る周囲の目が道化を見る目であったのは言うまでもない。
もっとも、その道化が‘道化の形をした恐怖’を壊し尽くした脅威とは誰も思わないからこその視線なのだが。
かくして、そんな道化のせいでマヌケをさらしたことを知らない試験官たちをよそに時はすぎ、72時間を待たずして24名全員通過で第三次試験は終わりを告げた。
それを聞いたネテロが、この試験いらなかったんじゃねとつぶやいたらしいが、それはまだ少し先のお話。