GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER 作:OLDTELLER
「くそォ、待つしかねーか」
レオリオは、しょーがないと自分を納得させるように心の中でつぶやくと石造りのトリックタワーの床に座り込む。
焦りを抑えられない様子のレオリオと違いあとの三人は、まだそれほど焦った様子はない。
キルアは涼しげな調子で。
ゴンは運命を信じて。
クラピカは内心の焦りを表さず。
ただ、残りの一人が現れるのを待っていた。
そんな中、レオリオだけがただ無闇に過ぎていく時間を惜しんでいる。
彼が動揺しているのは室内に掲げられた試験内容にあった。
多数決の道。
君達、5人は、ここからゴールまでの道のりを多数決で乗り越えねばならない。
そう記されたボードの下に置かれた○×ボタンがついた5つのタイマーに、5人揃わなければこの部屋は閉ざされたままではないのかとクラピカが指摘したのは、ついさっきのことだ。
71:19:10。
タイマーは初めて見つけた時、残り時間をそう示していた。
クラピカが口にした疑問に対して、部屋の片隅に設置されたスピーカーからの声は、是と答え。
試験官のものらしいその声が消えた後には、ただ沈黙が残り。
そうして彼ら4人はただ待つことになる。
この時点でトリックタワー内に入っていない人間が、ヨコシマとヴェーゼだけだと知っていれば、レオリオだけでなく他の三人ももっと焦っていたかもしれない。
ヨコシマ達が外壁ルートを行くつもりだと予想して、隠し扉へと誘うのを止めたキルアも。
ヨコシマが女性と別れて自分達と行動するわけがないとそれに賛成したクラピカも。
それならしょうがないよと簡単にあきらめたゴンも。
彼らは知らない。
ヴェーゼは既にパラシュートで一階まで降下したことも、今、この瞬間ヨコシマを襲っている運命も。
だから、タイマーはただ静かに時をを刻んでいく。
ただ無為に待つだけの時間は、無常に過ぎ去っていく。
数分。
頭上で起こっている戦闘も知らず。
数十分。
天井一枚隔てた地獄も知らず。
チッ チッ チッ。
ただタイマーからでる音だけが静かな部屋の中で響いていた。
やがて、床に座り貧乏ゆすりをしていたレオリオは何回目かの時間確認をする。
69:22:01。
72時間会った残り時間は既にそこまで減っていた。
「う゛~~~、あれから二時間か」
うなりながら立ち上がって、レオリオはそれだけの時間の後に、そうとも知らず正解を口にする。
「もしかして、もう全員、別のルートで行っちまったんじゃねーのか いまごろ上に残っているのはよっぽどのマヌケだぜ」
ここで来るはずだったそんなマヌケは、もういない。
彼らの運命は捻じ曲がり、ゴンが信じた未来はもう既にそこにはなかった。
こうして、彼らのハンター試験は幕を閉じる。
決してこない残りの一人を待ち続けて────
などということは当然なく、次の瞬間、来るはずだったマヌケに代わり、大マヌケが隠し扉を踏み抜き、現れた。
ズガガガガッというけたたましい銃の連射音とともに。
そして、うきーっという意味不明の奇声と、こわかったこわかったよーうわごとのような声をあげて。
「逃げる奴ぁ妖怪だ──!! 逃げねー奴は訓練された妖怪だ────!!」
パニックになって泣きながらマシンガンを上空に連射するヨコシマが、隠し扉に引っ掛かって喚いていた。
狭い隠し扉に背中に背負った馬鹿でかいリュックが引っ掛かっているのだ。
部屋の中には天井から生えたヨコシマの下半身だけがぶらさがっている。
ヨコシマが扉に落ちる少し前には、怪鳥どもはあきらめて引き上げていくところだったのだが、ヨコシマはただただ無限に弾を吐き出すマシンガンを撃ち続けていた。
もちろん、ゲームでもないのに無限に撃てる銃などあるわけがない。
このマシンガンは文珠によってライフルを変化させたものだ。
使った文珠は‘無’‘限’。
願ったものはゲームにあるような銃。
これで再現されるのだから文珠というものの汎用性は凄まじい。
現象自体は銃の九十九神化なのだが長い年月をかけて行われる妖怪化を霊力で促進するなど、文珠以外での再現は難しいだろう。
神眼に鍛えられた成果はちゃんとでているらしい。
ただ、そんな努力の成果も傍からみれば、ただのバカ騒ぎにしか見えないのがこの男の哀しいところだ。
「………………」
マシンガンを乱射するサルにしか見えないヨコシマの狂態を、4人はただ呆気にとられて見ていた。