GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER 作:OLDTELLER
「ルーキーがいいですね。 今年は」
三次試験会場に向かう飛行船の一室で試験官だけで集まり食事をとっていたサトツが話をふられてそう言うと。
「あ、やっぱりー!? あたし294番がいいと思うのよね──ハゲだけど」
メンチはたのしげに言ってスパゲティをフォークにからめとる。
(一番にスシもってきたからね)
ブハラは、メンチのことだからあまり本人の資質と関係ないことでいっているだろうと考えながら骨付き肉を無言で食べていた。
「私は断然、99番ですな。 彼はいい」
一次試験で一番近くで見ることのできたキルアをサトツは推した。
「アイツ、あのバカとトランプなんかしてたのよ! ワガママでナマイキそうだし。 きっとそのうちムッツリスケベになるわね!」
メンチは、いかにも判っているという調子でキルアにとんでもない濡れ衣を着せる。
さんざんセッカンしたせいで、もう怒ってはいなようだが、坊主憎けりゃの理屈でヨコシマの同類呼ばわりだ。
キルアに着せられた濡れ衣は袈裟だったのだろう。
そーゆー問題じゃ……という顔で論旨がずれまくっているメンチを見ているブハラだが、それを指摘してもムダだということは経験で判っているので口に出そうとはしない。
「ブハラは?」
「そうだね──やっぱ402番かな」
ヨコシマの番号を聞いてメンチがムッとした顔になる。
「メンチも蹴ってたけど、401番が血が出るほど蹴ってたのに402番ピンピンしてたんだよね」
「そりゃ、ケルわ。 あんなことされちゃ、抑え切れないわよ」
やはり、どこかズレた答えを返して、メンチはヨコシマをこきおろす。
「でも、ブハラ知ってる? あいつ最初からああだったのよ! あたしの姿みたときからずーっと!」
「ホント──?」
「そ。 あたしがイライラしてたのも、全部そのせい! あいつ、あたしにずーっとセクハラしてんだもん!」
「わたしのときもそうでしたよ。 バイクで401番の後ろに乗って鼻の下を伸ばしてました。 男のサガでしようかね」
ふうとサトツがため息をついて自嘲するように続ける。
「認めたくありませんが、彼も我々と同じ穴のムジナです。 ただ我々より彼はずっとあけすけだ」
ブハラがなんとなく解るという顔をして、メンチがどういっていいのか解らないというような表情を浮かべる中、サトツは淡々と語った。
「我々、男というものは心のどこかで女性を求めています。 認め合い愛し合える相手を。 ハンター試験はそんな場所ではありませんが、いるんですねぇあんな異端児が。 我々がブレーキをかけるところでためらいもなくアクセルをふみこめるような」
その声にどこか尊敬めいたものが混じっているのも、ブハラがなにやら納得しているようなのも気のせいだ、そう自分に言い聞かせながらメンチは一人、彼らの中にあるヨコシマの影にげんなりとしていた。
で、そのヨコシマはといえば──。
ヴェーゼが入っている飛行船のシャワー室の前で、せめて音だけでもとドアに張り付いていた。
文珠を使えば簡単に覗きもできるのだが流石にそれをやってはGSとしておしまいだという意識があるのか、それはしていない。
ただ、セクハラ自体が一社会人として終わっている行為だと気づかないのがヨコシマだ。
「くうっ! こんなとき俺にもミューズさんみたいな能力があれば……」
思わず口に出してつぶやいたのにピアスから呆れたような声が応える。
「……どういう状況だか手に取るように判るのが、こんなにイヤなのは初めてだわ」
「…………」
びくっと身を縮こまらせキョロキョロと辺りを見回していたヨコシマだが、それがピアスからの声だということに気づいてほっと息をつく。
「もう! みっともないことしないで、ちゃんと休息をとって! 試験はまだ続くのよ」
しかし、ミューズにすべてバレているとわかると、すごすごとシャワー室から離れて飛行船の窓のそばに置かれた平椅子に座って白々しいセリフでとぼけようとした。
「え? いや、今、飛行船の窓から夜景を見てたんスよ。 ほら、シャワー室に入ってる間に襲われたりしないように」
「………………」
「……スンマセン」
結局、無言の圧力に負けてあやまるヨコシマに。
「なにあやまってるの?」
ゴンが後ろから無邪気な声をかけた。
「うおおっ!?」
ふりかえれば、とびあがって窓に張り付いたヨコシマをゴンとキルアが驚いたように見ていた。
ゴンはどうしたのかと目を丸くして、キルアはこんなバカがいるのかという目をして。
「びっくりした!」
「びっくりしたんはこっちじゃ!」
そういってお互い驚きあった後、聞けばゴン達は夜景を見に来たらしい。
ちょうどここらの窓が一番外が見やすいというので、二人はヨコシマのとなりに座って外を見始めた。
ヴェーゼが出てくるまで暇なヨコシマは、ぼーっと聞くとは無しに子供二人の会話を聞きながら時間をつぶすことになる。
キルアの家が代々殺し屋稼業だとか、それに反発して刃傷沙汰のうえに家出してきただとか、ハンターになって家族を捕まえるだとか、どこまで本当か判らない話を語るキルアとそれを素直に信じるゴン。
ヨコシマはそんな二人の会話の合間に、ヒソカとかオマエの兄ちゃんの友達かもなとか、そんなもんチャームポイントになるかとか、逃げ出しといて捕まえられるのかとか、チャチャをいれてキルアを怒らせていた。
「くーっ! こいつムカつく!」
今までこんなバカ話をする相手がいなかったのか、そう言いながらもどこか楽しげに怒っているキルアを、まあままあとゴンがなだめていた時。
「────!!」
ふいに二人がバッとなにかに弾かれるようにふり返りながら立ち上がる。
「なんじゃ、おまえら──? 何かあるんか?」
ヨコシマだけが何も感じていないのかノンビリと二人がふり向いたほうを眺めるが、もうそこには何の影もない。
「どうかしたかの?」
殺気をとばすと同時に三人の背後に回りこんだネテロはそう問いながら現れる。
飄々とした態度をくずさないネテロだったが、内心ではヨコシマが殺気に反応しなかったことを不思議がっていた。
(素人でもわかるように殺気に念をこめたんじゃがなあ?)
そう思いながら、ちらりとボケ顔のヨコシマを見る。
普通ならここでヨコシマの特異性に思いやるところなのだが、ヨコシマの小者オーラがそれをどうしようもない鈍いやつだと判断させてしまう。
「だめだぜ、じーさん。 こいつは鈍いから」
その思いを敏感に察知したキルアも当然のようにヨコシマを無能と思い込んでいる。
二つの能力は、かつて最強と歌われた念能力者であろうと、稀代の天才暗殺者だろうと、容赦なくその人格を侵食しているようだった。