GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER 作:OLDTELLER
「お腹いっぱいになっちゃった。 ここまでね」
24人目の合格者がでたところで、メンチがそう宣言して、第二次試験後半は終了した。
「いやーっ、やっと終わったか! けっこう時間くったな」
なぜかそんなメンチ達の横で、一番に合格してゴン達とヒソカが持っていたトランプでババ抜きをしていたヨコシマが、緩みきった顔でわざとらしく声をあげるのを、落ちた受験者やメンチがギンと睨む。
メンチまで睨んでいるのは寿司を評価している最中に転んだふりをして乳をもむというセクハラをかましたからだ。
しかも、その後もトランプをしながらずっとメンチをエロオーラまじりの視線でねぶるように視姦していたのだから当然の反応だろう。
包丁を突きつけられ土下座していたとこを更にヴェーゼにお仕置きされてワビをいれたので合格は取り消さなかったのだが、その後もゴン達とのトランプを隠れ蓑に、今の今までエロい目でなぶられる様に見続けられたりくんくんと自分の匂いを嗅がれることで、メンチはキレかかっていた。
即退場にならなかったのが不思議なくらいなのに、そんな態度をとっていれば睨まれるのは当然だ。
メンチだけでなく、落ちた受験生全員が怒りを覚えるのも無理はない。
「納得、いかねェな とてもハイそうですかと帰る気にはならねェな」
案の定、そんな一同の気持ちを代表したかのように255番の受験生が声をあげた。
「試験内容はともかく、オレが、コイツより劣ってるとだけは思えねー!!」
「トードーだったか、あいつ?」
マズイことになったというふうにオロオロとするヨコシマにレオリオが声をかける。
「ヒソカ相手にあそこまでやっといてびびるなよ」
「ますます、納得いかねぇ!」
その小者オーラを見た周囲が一斉にその言葉に同意した。
「んー、そうね! あのときはついつい流されちゃったけど、こいつはあたしの乳揉んでくれたし失格でも良かったのよね!!」
メンチまで一緒になってそんなことを言い出すのに。
「おいおい、雲行きがあやしくなってきたぞ」
誘われてトランプを一緒にしていたレオリオはエロ仲間になったヨコシマをかばう気になっている。
(たしかに品性下劣な人間はハンターにふさわしくないが、ヨコシマには借りがある。 しかし……)
かたや、一緒にトランプをしなかったクラピカは、ヨコシマがハンターになったあとでその名を穢しまくる未来を想像して悩んでいた。
誘われてトランプはしたがエロい事に興味をしめさなかった年少組二人といえば、キルアは興味なさげに、ゴンはどうなることかとハラハラしながら様子を見ている。
「よし! ヨコシマだっけ? あんたはこいつら全員相手に生き残ったら合格にして──」
がやがやと騒がしくなるなか、ニヤリと笑ってメンチはそんなことを言い出す。
「ちょっと待った! 一度合格出しといてそりゃねーんじゃねぇか」
レオリオが最後まで言わせるかとメンチのセリフをさえぎるように声を上げる。
「うっさい! あんたも失格にするわよっ!」
当然、一緒になっていやらしい目で見続けてくれたレオリオにメンチの怒りが爆発した。
「ちょっとメンチそれはまずいんじゃ……」
「あんたはだまってな!」
ブハラがたしなめようとするのをメンチは怒鳴って黙らせる。
「だいたい、こいつ全然反省してないじゃない! ハンターってのは未知のものに対する気概がなきゃ意味がないのよ! こいつがハンターになるってなんのハンター? エロハンターなんてものを認めるくらいなら、あたしがここで始末してやったほうが世の中のためよ!!」
至極もっともなことを言っているのだが、殺人鬼だろうが殺し屋だろうが実力があれば合格できる脳筋な試験方針なので、その言葉に説得力はない。
だが、合格者はともかく失格者はその言葉に納得したらしく殺気が膨れ上がってくる。
(イカン! このままでは殺されてしまう! ここは自ら棄権したほうが……)
周りが殺気立つのにびびって失格でいいので勘弁してくれと土下座しようとした瞬間、ヨコシマは天の声に救われることになる。
「それにしても、一度合格にしたものに後から文句をつけるのはマズくはないか?」
「あ あれは!」
「ハンター協会のマーク!!」
「審査委員会か!!」
空に現れた飛行船を見て受験生達がざわめきだす。
次の瞬間、飛行船から一人の老人が飛び降り、地響きと共に着地する。
禿げ上がった頭の天辺に白いちょんまげ一つと長く頬までたれた眉に口髭という天狗めいた容貌の男だ。
服装も一本足の下駄に修験服めいたデザインでどこか天狗を思わせた。
「何者だ、この爺さん」
「とゆうか骨は!? 今ので足の骨は!?」
(やった! なんか判らんが今のうちに!)
ざわめく周りの視線が老人に集まっているうちにと、ヨコシマはこそこそとメンチのほうへと近づいていく。
「ネテロ会長。 ハンター試験の最高責任者よ」
緊張した様子でメンチがつぶやき、いつの間にかあたりはネテロの持つカリスマに支配されていた。
「あのー、メンチさん。 俺の合格なんスけど──」
ただ一人、命惜しさに今のうちに棄権しようと必死で、空気が読めなくなっているヨコシマをのぞいて。
「ちょっと、こっちに来なさい!」
しかし、そんなヨコシマもヴェーゼに耳を引っ張られて去っていくことになる。
「ふむ、諸君よろしいかな?」
ネテロは、そんなヨコシマを興味深げに見て、よく通る声で言った。
「彼にハンターとしての資格があるかどうかはさておき、他人の合否をうんぬん言っても諸君の合否の結果が変わることはない」
密かにメンチの乳がでかいなどと考えているとは思えないマジメな顔でそう言いながら、ネテロは受験生を見回すとメンチに視線を移し続けた。
「メンチくん。 彼にたいして合否を覆すのは私情ではなく、試験官としてかね?」
「……いえ。 セクハラをされてついカッとなってしまい、その際、周りの受験生も批難していたので頭に血が昇っているうちに空気に流されてですね……」
「つまり、自分でも私情で合否を覆そうとしたとわかっとるんじゃな?」
「…………ハイ。 スイマセン。 こんなふうにあからさまにセクハラされたの初めてだったんです。 審査員失格ですね」
メンチが殊勝になればなるほどヨコシマの悪行が際立つようで微妙な空気の中ではあったが、こうしてヨコシマは無事に試験通過する事になる。
「この、この!! 恥さらしッ! アタシまで一緒の目で見られるじゃないのっ!!」
しょんぼりとしたメンチから引き離されたヨコシマはといえば、エロすぎるカッコが悪いんやなどとこの期におよんで涙まじりにほざきながら、ヴェーゼのセッカンを受けていた。
その声に再びキレそうになったメンチに、合否は覆さなくても泣き寝入りする必要はないとネテロの許可がでたのは言うまでもない。
(エロハンターのう。 面白いかも……いやいや、んなもんいらんわ!)
嬉々としてリンチに向かうメンチのちちしりふとももをを見ながら、ネテロは一瞬エロオヤジ化しそうになる自分を引き戻す。
イイ女を連れて試験に来たあげく、試験官の乳をもんだうえに視姦しまくるというセクハラ三昧。
確かに面白い男だったが、ハンターの美学や矜持をとことん踏みにじるヨコシマを認めることは、ハンター協会を道化の集団に変えかねない。
恐るべきその能力の影響を受けて尚、己を律せるのはネテロ故のことだろう。
しかし、その真の恐ろしさは能力の影響に誰も気づけず、知らされたとしても恐ろしいと感じられないところにある。
そう、それはまさに、世界を侵食する能力。
「ぐぼっ! スイマセン、ゴメンナサイ……スンマセン、スンマセン!!」
その恐るべき能力の持ち主は、神眼にオーラを死なない程度に制限されて、血まみれになっていた。
ヴェーゼにメンチの二人がかりのセッカンを受けたヨコシマの命がはかなく散ったかどうか──それは定かではない。