GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER   作:OLDTELLER

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17. 友と男と女と駆け引き

 

(しかし、GS試験もたいがい無茶だったけど、ハンター試験ってのも訳がわからんよな)

 心の中でつぶやきながら、ヨコシマは周囲を見回す。

 

 ブタの丸焼き調達に全員が成功して、ヒソカだけが脱落となった第二次試験の前半だったが、続いてのお題が握り寿司と聞いて、受験生のほとんどが迷走していた。

 

 日本人であるヨコシマは、当然それを知っていたが、作れるかと言えば微妙なところだ。

 

「とりあえず、酢メシは用意してあるから、あとはネタなんだが……」

「まあ、料理なんてアタシはやったことないから、まかせるわ」

 悩むヨコシマに対してヴェーゼは丸投げする気まんまんだった。

 

「ネタって?」

「ああ、ネタっつーのは……ってゴンか?」

 声をかけられて答えそうになったヨコシマは途中でその質問をした相手に気づいた。

 

 気づけば、ゴン、レオリオ、クラピカの三人になぜかキルアまでくわえて、後ろに並んでいる。

 

「どーしたんだ、おまえら?」

「クラピカがヨコシマさんたちなら色々用意してるからスシのことも知ってるだろうって──」 

 ヨコシマの問いにこっちも頼る気まんまんになっているゴンが言うのをさえぎり。

「誰……? この子達」

 ヴェーゼが、いぶかしげな視線を居所なさげな年長二人と、子供ゆえの厚顔さですずしげな年少二人を見回す。

 

「ああ、こいつらはヒソカとやりあったときに一緒だったやつらと……ん? ぼーず、おまえ、誰だ?」

 紹介しかけて、ふと一人見知らぬ相手がいることに気づいたヨコシマがキルアを見る。

 

「ぼーずでもおまえでもないよ。 キルアだ」

 子供あつかいがしゃくにさわったのか、キルアが少し、ムッとしたような顔で言い返す。

 

「だ、そーっス」

 ヨコシマは、子供の背伸びを見ているような生暖かな目でそれを見ていたが、ヨコシマの反応に更に機嫌が悪くなるキルアから視線をそらすとヴェーゼのほうを見て言う。

 

「くあーっ! ムカつく!」

 どこかクールぶっていたキルアは、ヨコシマに毒されたのか、子供っぽく地団太を踏みそうな顔になっていた。

 

「キルアもオレの友達だよ」

 そんなキルアを、まあまあとなだめながら、ゴンがフォローするようにヨコシマ言うと。 

 

「そう。 で、何なの? 取引でもしたいの?」

 ヨコシマがからむとなぜかそうなりやすいグダグダな空気をどうにかしようと、ヴェーゼが話を進めた。

 

「…………」

 取引という言葉に反応して、キルアの顔が急に真面目なものに変わる。

 

「取引といっても私達には出せるものがない」

 クラピカもヴェーゼの言葉に反応して交渉モードに入った。

 

(別にたいした情報でもないし……爆発の件のカモフラージュにもなるかしらね。 他人の妨害をするヤツが無償で他人を助けるとは思わないでしょうし)

 少しの間、そんなことを考えていたヴェーゼだが、ニコリと笑って言う。

「まあ、ヨコシマくんも世話になったみたいだし、いいわよ。 友達なんでしょ? 教えてあげたら」

 

 友達という言葉を大人の女達特有の意味で使い、決して無償ではないと印象付けるとヴェーゼはヨコシマのほうをうながすように見る。

 

「え? はあ。 そースね」

 ヴェーゼのことだから見返りを求めるのかと思ったのか、友達という言葉にぴんとこなかったのか、ヨコシマは曖昧に答えるが、とりあえず教えろということなんだろうと、握り寿司について説明し始めた。

 

 拍子抜けしたような表情を浮かべていたクラピカだったが、直ぐに気を取り直し、ヨコシマの話を聞き始める。

 

(どーも、調子狂うな)

 自分がこうして料理なんかの話を聞いている事に違和感を感じながら、キルアも流されるようにヨコシマのたどたどしい説明から寿司についての情報を吸収していた。

 

 ヨコシマの知識はたいしたものではなく直ぐに話は終わる。

 しかし、わずかとはいえその情報は料理を始めるには充分なもので、男達はニギリズシ対策をたてていった。

 

「では、ここは海の魚以外で使われるウナギを獲るべきだな」

 そして、クラピカがそう決断して、一行はまず協力してウナギ探しにいくということで話はまとまった。

 

「じゃあ、アタシはちょっと試験官に確かめたいことがあるんで、アンタ達は急いで行ってらっしゃい」

 ヴェーゼは川の中で泥だらけになってウナギ獲りなどする気がないのか、話が決まるととさっさとその場を離れていく。 

 

 そんな仕事は男達がするのが当然であるとでもいうかのように、あまりにも自然に高慢な態度だった。

 

(おまえはやらねーのかよ) 

 ただ一人、女性を特別視する風習に縁がないキルアは心の中で悪態をつき。

 

(イイ女と一緒に受験だなんてうらやましいと思ってたが、おまえも苦労してるな……)

一方、当然のようにヴェーゼに従順な返事を返すヨコシマを、レオリオは尻にしかれた男をなぐさめる目で見ていた。

 

(さて、どうせ連中じゃろくなもの作れないだろうし保険はかけときゃないとね)

 そんなふうにワガママ女あつかいされていることを知らずに、ヴェーゼはといえば自分の事を棚に上げてそんなことを考えながら、メンチ達の前までやってくる。

 

「ん? 何? これいじょうヒントはださないわよ」

 ブハラに採点が甘すぎるんじゃないかと文句をつけていたメンチはヴェーゼの気配に気づいて、ふり返ると言う。

 

「ヒントが欲しいんじゃなくて確認よ」

 そんなメンチににっこりと笑い返してヴェーゼは応えた。

 

「確認?」

 

「ええ、そちらのブハラさんが、味じゃなくてグレートスタンプを狩れる注意力と身体能力を基準に合格を決めていたようなので、今度もニギリズシと呼ばれる料理を再現できる推理力や情報収集力を判断するのがこの試験の目的だと考えていいのかという確認よ」

 

「…………」

 メンチは無表情に長々とした台詞を聞きながら、無言でヴェーゼの顔を見返している。

 

「味という意味で美食ハンターを満足させるなんて、一流の料理人じゃないと無理でしょう? だから、安全でキチンとした形をとっていて、吐き出すほどまずいようなものでなければいいという確認」

 

 ヴェーゼはそこまで言うと、これで全部よというようにメンチとブハラを見る。

 

「うん、それで正解」

 そこまで解っているのなら答えてもいいだろうと、メンチではなくブハラが言ったのに。

 

「ちょっと、勝手に答えないでよ……!」

 メンチは一言かみつくが、、すぐに思い直したようにヴェーゼに向き直った。

「まあ、いいわ。 それが最初の話だったし──。 予想外に受験生が優秀だったんで少し欲張りそうになったけどそれで手を打つわ」

 

「ありがとう。 ダメなときはダメな部分を指摘してもらえれば、みんなも納得するわ」

 ヴェーゼはそう言って去り、試験官二人はその後ろ姿を見送ると、彼女の批評を始める。

 

「ホントに優秀みたいだね、今年の新人達は」

「あの女、使えるみたいだしね。 あたしらの言質をとりにきたのも油断ならないわ。 おかげで料理人として判断できなくなったわ」

「……いや、それがあたりまえだと思うけど」

「なに!? あんたどっちの味方なのよ!」

「どっちの味方って……まあ、わざわざ最後に釘を刺していくトコとかはアレだよね」

「そうよ! まったく気に食わないわ、あの女」

「…………」

 

 それって、近親憎悪じゃないかという言葉を危うく飲み込んで、ブハラはなぜかプリプリと怒るメンチの機嫌取りを始めることになってしまった。

 

 受験生だろうと試験官だろうと変わらず、女は理不尽でしたたかで、男はふりまわされるものらしい。

 

 第二次試験後半参加者数61名。

 死亡者0。

 波乱とドタバタ騒動の割りに、287期ハンター試験は平和に過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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