GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER 作:OLDTELLER
「ぬかるんできたわね」
バイクの運転席でヴェーゼがそういったのは湿原に入って少ししてからだ。
高速で走っていくのなら問題ないのだろうが荷物とヨコシマの重みでバイクはかなり進みにくくなっている。
しかたないので高速をだしてサトツに先行して止まり、待ってから高速で移動ということを繰り返して進んでいたのだが、しばらくするとまた問題が出てきた。
問題とは霧だ。
わざと霧の出やすいルートに変更したのか、それとも偶然なのか、初めは薄かった霧だが、それは徐々に濃くなっていた。
「というわけで、降りてヨコシマくん」
何がというわけでなのか、説明もせずヴェーゼはにっこりと笑いながら宣告した。
「荷物は固定してね。 ワンタッチ式だから簡単でしょ。 あと受信機を渡しとくから迷ったらこれで追いかけて来るのよ」
「──って、なんで降りなきゃならんのですか!!」
すらすらとヨコシマが降りて走ることを前提に話を進めるヴェーゼに、抗議の声が上がった。
「まだ、バッテリーは充分あるじゃないスか。 何もこんなあぶないとこ──」
「霧が出てきたからよ。 これはもっと濃くなるわ」
ヨコシマの声をさえぎって、ヴェーゼはききわけのわるい子供を諭すような声で言う。
「そうなったら試験官にくっついてなきゃいけないけど、低速じゃぬかるみにハマるでしょ?」
言っていることは正解なのだが、階段ではヨコシマが苦労したのだから今度は自分が走るという選択はモトから存在していないらしい。
「いや、だいじょうぶっスよ、きっと! 霧も晴れるかもしれないし」
そう言っているうちにもまた少し濃くなった霧に受験生たちは急いでサトツの周りに集まり始めている。
「男の子でしょ、頑張りなさい。 ね♥ あとでマッサージしてあげるから」
ヴェーゼはそれを指摘し、それでも抵抗するヨコシマに、最後の手を使った。
「ま、マッサージ! 大人のマッサージ!!」
もんもんと妄想をはじめたヨコシマが正気を失っているうちに、そそくさとバイクを止めヨコシマを降ろすとその背中からリュックを取り、底の金具をバイクの荷台に固定する。
「それじゃ頑張ってね、ヨコシマくん」
そして、荷物のポケットから取り出したレーダー型のケイタイ受信機を渡すと、追いついてきたサトツについてサッサと行ってしまう。
ヨコシマといえば、つぎつぎと受験生が通りすぎていくなか、ピンク色の妄想にひたっていた。
「ふふふ……どさくさにまぎれれば、イケるッ!!」
「なにが、イケルんだい♥」
ヴェーゼの甘い声で夢の世界に誘われたヨコシマを現実にもどしたのは、変態の甘い声だった。
「うおおおおーッ!?」
目の前に現れたピエロメイクの奇術師にヨコシマはビクリととびあがって奇声をあげるとズザザっとあとずさった。
「くくくく♦ 試験官ごっこをしようと思ったけどキミ達3人だけか、少しさびしいね♥」
そういったヒソカの声に、ヨコシマは自分以外の受験生がクラピカとレオリオを残して既にみんなサトツといっしょに霧の彼方へと去っていった事に気づいた。
「てめぇ! なんのつもりだ!?」
ヒソカの不穏な殺気に気づいたレオリオが怒鳴り。
「………………」
気圧されながらもクラピカがヌンチャクのように柄の部分で繋がれた二本の木刀を構える。
「ヨコシマさん、逃げて! 誰でもいいから殺す気よ!」
ピアスからミューズの声がそう響いたと同時にヒソカの手から数枚のトランプが放たれ、3人を襲う。
「くっ!」
クラピカは何枚かのトランプを弾いたが、足にかすり傷を負い。
「ってーっ!」
レオリオは左腕にかなり深くまでトランプが刺さって悲鳴をあげる。
「ひえええええ!!」
そして、ヨコシマは情けない悲鳴をあげながら、ゴキブリのように四つん這いで走ってトランプを避ける。
みっともない姿だがケガ一つないのはヨコシマ故だろう。
「へえ♥ 避けるんだ、今の♣ あのときといい勘はいいみたいだね、君にしようかな♥」
そして、それで目をつけられてしまうのもヨコシマだ。
悪運強化/フォーチュンコンバーター。
神眼によって名付けられたその能力は、絶体絶命の危機において全身体能力と顕在オーラを50%増加する。
加えて幸運を呼び、致命的な攻撃が偶然によって回避しやすくなる代わりに、こういう場面で必ず選ばれる不運をも呼ぶという危険にとびこませることで死線を切り抜けさせる本末転倒の能力だった。
「ひーっ!! 俺なんかよりそっちの強そうな人達のほうが──ッ!!」
刺すようなヒソカの視線に、ヨコシマはガタガタ震えながら、人として問題のある台詞を吐いてレオリオのほうを四つん這いのまま指差す。
「なっ!? てめぇ! ……ちっ、いいぜ! 俺もやられっぱなしで逃げれるほど……」
一瞬怒りそうになったレオリオだが、あまりに小者っぽく命乞いをしているヨコシマの姿に憐れみをおぼえ、その怒りをヒソカへとぶつける。
「気ィ長くねーんだよォオ──!!」
「レオリオ!」
クラピカの制止の声があがるのと同時にレオリオが殴りかかり、ヒソカがそっちを向くと同時にヨコシマが動いた。
「今じゃ、くらえぇーい!」
しかし、当然のようにそれを察知したヒソカはオーラを両手にまとったヨコシマの攻撃を余裕で一歩さがってかわす。
しかし、ヨコシマの攻撃はもとよりヒソカを狙ったものではなかった。
「サイキック、猫だましっ!!」
両手が打ち合わされ、光と音がヒソカの目をくらます。
サイキック、猫だましとは!?
両手に霊波を放出しながら相手の鼻先で手をたたき、目をくらませる栄光の手と呼ばれる能力の応用技の一つだ。
「うおおっ!?」
「くっ!?」
‘念’を覚えたせいか出力を増した光は指向性のある閃光手榴弾のようにヒソカを包み、その向こうにいたレオリオとクラピカまで煽りをくらって顔を覆う。
「今のうちに逃げるぞっ! すぐ回復──」
ヨコシマが叫んで、大回りにヒソカの横を通り過ぎようとしたとき、悲劇は起こる。
「んー、残念♦ もうちょっとだったけど不合格♠」
そういったヒソカの手から放たれた無数のトランプがヨコシマを襲った。
「さよなら、ヨコシマくん♦」
それが、短い戦闘とゲームの終わりを告げる最後の言葉だった。