GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER   作:OLDTELLER

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13. 名探偵ヨコシマ!? 湿原の殺人面猿事件!!

 

 

 

 地下の長いトンネルを抜けると、そこは湿原だった。

 長い長い地下道と地下100階分と高低差分の長い階段の先には広大な自然が広がっていた。

 

 そこは、ヌメーレ湿原。

 別名、詐欺師の塒とも呼ばれる危険地帯だ。

 

 標的である動物を騙して食料とする珍奇な生物が闊歩する独特の生態系が認められ、多くの人間が欺かれて食われたことで一部の魔境マニアに有名となった場所だった。 

 

「ただのマラソンなんて簡単すぎると思ったのよ」

 わずかな時間のバイクの運転と手ぶらでの階段昇りといった軽い運動だけですむかと思っていたヴェーゼは、ふうとため息をついて言う。

 

「そりゃ、ヴェーゼさんは身軽だったんでいースけど、バイクと荷物抱えて階段のぼらされたコッチは楽じゃなかったんスよ」

 そういうヨコシマもゆっくりと昇ってきたのと充分な休憩時間のおかげで、言うほど疲れた様子はない。

 

(おめぇーは、まだイイだろうが!!)

 上半身裸でぜーぜーと息をきらすグラサン男を初めとする多くの受験者達がその声に無言でツッコんだのは言うまでもないだろう。

 

「……レオリオ」

 半脱ぎサングラスの肩を軽く叩き、こっちも民族衣装を脱いで袈裟懸けにしたバッグに入れ身軽な姿になった金髪の少年が首を横に振る。

 

 他人を気にしてもしかたないと途中で話し合った事を忘れた男への注意と、そして気持ちは判るという共感を表したのだ。

 

「クラピカ。 ああ……そうだったな」

 冷静になったレオリオは少年の名を呼び、息を整える事に集中した。

 

 苛立ちや焦りといった負の感情は無駄な体力を使い、危険に対する集中力をも失わせる。

 そうクラピカに諭されたことを思い出して、レオリオはこの地に関する説明を始めた試験官のほうに集中する。

 

「えーっと、虫除けと日焼け止めと──」

 しかし、とうにそんなことは知っているヴェーゼは、気楽に美容対策をしていた。

 

 試験官にぴったりとついていけば動物に対する心配はないと事前調査で判っていたし、ミューズの能力もあるので、危険生物の脅威よりお肌の曲がり角のほうが心配らしい。

 

「な、なんかヤバそースよ、ヴェーゼさん。 やっぱり帰ったほうがイイんじゃないスか?」

 一方、ヨコシマはといえば、今更そんなことを言い出し、サトツをはじめみんなをあきれさせる。

 

 そんなある意味ユルい雰囲気に何か言おうとしたクラピカだったが、今度はレオリオがその肩をつかんで止めた。

 

「……すまない。 他人の覚悟など問う意味はなかったな」

 クラピカが、そう言ってビクビクとしているヨコシマから視線を外した瞬間。

 

「そいつはニセモノだ、試験官じゃない!!」

 大声で叫びながらボロボロになった服を着たケガだらけの男が、シャッターの閉められたトンネルの影から現れた。

 

「ニセ者!? どういうことだ!?」

 レオリオが驚きの声をあげて、

「じゃ、こいつは一体……!?」

 ハゲ忍者が疑いの視線をサトツと名乗った試験官に向ける。

 

「え!? え!?」

 事態を把握できていないヨコシマに。「だまされちゃだめよ。 今あらわれたほうがニセ者、人面猿よ」

 ミューズの声が、危険生物の罠を指摘する。

 

「えっ!? アッチがニセ者なんか!? 人面猿!?」

 あたり一面に響き渡るヨコシマの驚きの声で次のアクションを起こそうとしていたニセ試験官の動きが止まる。

 

「……違う! オレが本物だ! これを見ろ!」

 しかし、一瞬の動揺の後、そういってニセ試験官は右手に引きずっていたサトツそっくりの人面猿を地面に放り出した。

 

 死んでいるのか舌を出してピクリともしない人面猿だが。

「生きてるわよ、あの猿」

 ミューズは、その擬死をアッサリと見破ってのける。

 

「その人面猿、生きてるじゃねーか!!」

 わははははと得意げな笑いをあげて、ヨコシマがそれを自分の手柄のように吹聴してのける。

「謎はすべて解けた! 犯人はオマエだ──ッ!!」

 

「なにっ!?」

「本当かっ!?」

 レオリオとハゲ忍者はそれに驚いたが。

 

「…………」

 大半の受験生は驚きもせず、ピアスで二人のやりとりを聞いていたヴェーゼに至ってはあきれ顔だ。

 

 ただ一人、ヒソカだけがまたも不気味な笑いで周囲をドン引きさせていた。

 退屈になると人を物理的に壊して遊ぶ異常者なので機嫌がいいのは悪いことではないが、楽しそうに人を殺す相手が笑っているのはいい気分ではないようだ。

 

「──そのとおり、私をニセ者あつかいして、受験生を連れ去り捕食するつもりです」

 様子見をしていたサトツがそこでそう断言した事で人面猿は逃げ出し、事件は終息して再びマラソンが始まる事になった。

 

 もちろん、以後、名探偵ヨコシマの名声が広まるなどという事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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