GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER   作:OLDTELLER

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12. 殺人鬼に御用心!?

 

 

 死者がいないのが不思議なくらいの惨状の中、ハンター試験の開始を告げたカイゼル髯の執事といった容貌の男は、改めてハンター試験の危険性を認識させ、受験者同士の争いを容認する事を宣言した後、それでもかまわないもののみついてこいといって歩き出した。

 

「第一次試験……62名。 参加ですね」

 ‘円’と呼ばれる自分のオーラをレーダーのように使って周囲を把握する技術で、正確についてきている人数を数えて言うと男はそこで初めて名乗った。

「申し遅れましたが、私、一次試験官のサトツと申します」

 

 その後説明された試験内容はサトツについていき二次試験会場に到着するだけという単純なものだった。

 だが、当然ながら受験者達の間にそんな簡単なことかという雰囲気はなかった。

 始まる前から爆発騒ぎで受験者の大半が脱落という状況で油断できるほうがどうかしている。

 

 結果、ピリピリとした雰囲気に耐えられず、ヨコシマはキョロキョロと辺りを見回し、いかにも小心者っぽい挙動不審さを全身で表していた。

 

 本人は自分がやったことがバレないかとビクビクしているのだが、小者オーラのせいで周りに脅えているように見え、誰もヨコシマが爆破事件の犯人だとは思っていない。

 

(ヒソカだな)

(ヒソカだ)

(ヒソカよね、きっと)

(あの奇術師野郎、ろくなことしねぇ)

(44番でしょうか? 少しやりかたが違うようですが……)

 

 最有力候補は快楽殺人者と周囲に認識されている戦闘狂だった。

 そのヒソカはというと、無実の罪をきせられているというのに、何が楽しいのか走りながらクスクスと笑い声を上げ、周囲の疑いを深めている。

 

 どうやら、この成り行きが笑いのツボに入ったらしい。

 本当に変態というのは解らないものだ。

 その周囲を恐怖へと誘うトリッキーな非理解が、ヒソカの武器であり本質なのだろう。

 

 そうして先へと走り出す集団とは別に、ヨコシマとヴェーゼは走り出しもせず、立ち止まって地面に下ろした巨大なリュックサックを囲んでいた。

 

「だいじょうぶ。 あなたを疑ってる人はいないと思うわ」

 バレてないバレてないとぶつぶつ自分に言い聞かしているヨコシマに、ミューズが安心させようと言う。

 

 さすがに読心能力ではないので疑いを持たれていないと確信しているわけではないが、このヨコシマのていたらくを見れば、そんな大それたことができるヤツではないと思われていることくらいは推測できたので、決して単なる気休めという訳ではない。

 

「そ、そうですよね。 俺も──」 

 荷物を降ろしたはいいが、そんな感じでモタモタしているヨコシマにヴェーゼの叱責がとぶ。

「ほら、ヨコシマくん。 いつまでもビクビクしてないで、荷物出しなさい!」

「あ、はい。 今、出しますっ!」

 あいかわらず下僕根性の染み込んだヨコシマは、命令されると反射的に従い、そそくさと荷物を解き始めた。

 

 この下僕根性がなければ、さっきの事件は起こらなかっただろうが、その爆破がこの地下道の先にある湿原で命を落とすはずだった多くの受験者達の命を救うことになったのだから、暗運祓いという能力は人知を外れている。

 

 ヨコシマ達が走りもせず用意したのは一台の折りたたみ式電動スクーターだった。

 積載重量200キロまでなら最高時速80キロで5時間強走れるスグレものだ。

 バッテリーの予備はあるので二人乗りでも充分な計算だ。

 

 数分たらずで組み立て終わったスクーターのハンドルをヴェーゼが握り、後ろのシートに残りの荷物が入ったリュックを背負ったヨコシマが座る。

 

「よしっ! じゃあ、行くわよっ! つかまって」

 しかし、そういって出発しようとした途端、ヨコシマはお約束のようにヴェーゼの乳につかまり、あげくのはてにモミモミとこね回すというセクハラをかました。

 

「どこにつかまってんのよっ!!」

 

 当然のように、ハンター試験に向けて修行したことで威力を高めたヴェーゼの鉄拳がヨコシマを地面に叩き落すとついでオーラを集中させたケリをゲシゲシとみまう。

 

 女王様のお仕置き/クィーンズヒール。

 ハイヒールのように狭い部分にピンポイントでオーラを集中させた蹴り技だ。

 

 鋼鉄の板にも穴を穿つヴェーゼの新必殺は、なぜか敵ではなく、一応は味方のはずのヨコシマにふるわれることになった。

 

「うわーっ! スンマセン、スンマセン!」

 しかし、声だけは反省しているようだが、蹴られながら満足そうな笑みを浮かべるヨコシマに堪えている様子はない。

 

 ‘纏’のみの防御だというのに‘硬’と呼ばれるオーラの破壊力を集中させた技術まで使った必殺の踏みつけは完全に防がれていた。

 

 どうやら、ヨコシマのほうも毎日の強制修行の成果はでているようだ。

 もっとも、その成果のせいで性質の悪い進化をしているようだが。

 

(こりてないようね)

 そんなヨコシマの頭に、神眼の冷たい意志が断罪の響きをもって伝わってくる。

 

「うぎゃあああッ!!」

 とたんに体外にでていたオーラが皮下部分にまで引いていき、ヨコシマはヴェーゼの蹴りで流血しながら痛みに叫ぶことになった。

 

 神罰覿面とはまさにこのことだろう。

 セクハラ男は、こうしてふさわしい報いを受けたのであった。

 

「まったく! 今度やったら置いていくわよっ!」

 セッカンの後、無駄なオーラの消費で、はあはあと色っぽく息を荒げているヴェーゼと。

「ヨコシマさん。 いくらなんでも気の抜きすぎよ」

 ピアスからのミューズのあきれたような声に責められて、ヨコシマはペコペコとあやまりながら、今度はちゃんとヴェーゼの腰に組んだ手を回し出発することになったが、その時既にあたりには人影一つなかった。

 

「あーっ! てめえら! いくらなんでもそりゃ汚ねーだろ」

 それでも十分もすれば追いつくことになり、黒のスーツに黒メガネのオッサンっぽい受験生にそう非難されることになる。

 横を走る青地に金の刺繍が入った民族衣装の少年が止めなければ罵詈雑言を放ちそうな勢いだ。

 

 口に出して言ったのはその男だけだったが、受験生の大半が同意見だったらしく、多くの非難するような目線がバイクに乗る二人に集まる。

 二人を乗せたバイクはそんな視線をスルーして、先導のサトツすら追い越して、サッサと地下道を走っていった。

 

「ついてこいって言ったけど、あれもありなの?」

 サトツの直ぐ後ろを走っていた銀髪の少年が、擦れ違っていくバイクを見ながら聞く。

「最終的に試験会場についていれば、かまいません」

 内心はどうなのかわからないが、そうサトツはポーカーフェイスで答えた。

 

「ふーん。 オレも先に行こうかな」

 そういった少年の横で黒髪の少年が首をかしげる。

「でも、サトツさんはついてこいって言ったよ」

「そうだな。 横道とか隠し通路とかあったらイヤだしな」

「おー、キルア頭いいね!」

「ゴンはゲームとかやらないのか?」

 

 この二人はヨコシマ達を非難する気はないらしく、のんびりとそんな会話をしながら走っている。

 ヨコシマと少年達の初めての出会いは、こうして文字通りのスルーと擦れ違いですぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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