GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER   作:OLDTELLER

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10. ハンター試験は事故責任!!

 

 

「いやーっ! 何とか間に合いそうスね」

 念による強化で、どこのシェルパだといいたくなるような大荷物を背負ったまま高速で走るヨコシマが、後ろをふり返ってヴェーゼにいつものヘラヘラとした笑い顔を向ける。

 

「まったく、アンタがヘンなちょっかいをかけるから!」

 ヴェーゼは媚びをうるヨコシマを冷たく睨み返すと掃いて捨てるように言う。

「なんとか、場所を聞き出せたからいいようなものを、ヘタしたらソコまでだったのよ」

 

 余裕を持って試験会場に到着するはずだったのに、例によって例のごとくヨコシマがナビゲーターの女のコにちょっかいを出したせいで、遅れるハメになったのだから、ヴェーゼが怒るのも当然だ。

 

「それは──」

 まだ、何か言い訳をしかかったヨコシマの声を遮り。

「ちょっと! 前──ッ!!」

 ヴェーゼは自分のほうを向いたまま走るヨコシマに警告を発する。

 

「ぐあああああ!!」

「うぎぇええ!!」

 しかし、時すでに遅くヨコシマにハネられ、試験会場の定食屋に入ろうとしていた男二人がゴロゴロと地面を転がりながらふきとばされる。

 

「なんてこった!」

 ただ一人、難をのがれた連れの男があわてて二人にかけよる。

「しっかりしろ! 傷は浅いぞっ!!」

 

「うぅ……かあさん……おれが……必ず……!!」

「ぼ、ぼくが……ぼくがやらなきゃ……みんなが……!」

 

 ピクピクと痙攣しながら、男達は何やらシリアスっぽいうわごとをうめくが、そのまま立ち上がれずにいる。

 

「くうぅっ! せっかくここまでつれてきてやったてのに」

 二人の何やらいわくありげな事情を知っているらしく、連れの男は男泣きしている

 

「お、俺の前方不注意のせいじゃないからなっ……!!」

 依然として起き上がれない様子の男達を見て、おろおろとしながらヨコシマが説得力のない台詞をはいた。

 

「わ、わたしが、声をかけたせいでもないわよ……!!」

 うわごとと心音や血液の流れる音から、念能力で男達のコンディションとその背景を導き出したらしく、つられておろおろとしながらいうヴェーゼに、どこからかミューズの声が告げる。

「大丈夫……命に別状はないわ。 かなり鍛えてたみたいだから。 たぶん受験者ね」

 

 真っ先に責任回避に走ったヨコシマとヴェーゼに、その声は呆れている様子だった。

 どうやら声はヨコシマとヴェーゼが着けているピアスから出ているらしい。

 ヨコシマの荷物に付けられたラジオ型の集音装置と違ってこちらはかなりコンパクトだ。

 

「しっかりしろ! 立て!! ハンターになるんだろ、お前ら!!」

 たいしたケガではないと解ると、その声も悲痛なはずなのにどこか喜劇めいて聞こえるらしく、立ち止まって様子を見ていた通行人も苦笑いをして歩き出す。

 

 誰も気づかないがそれはヨコシマの能力のせいだ。

 暗運祓い/シリアススィーパー。

 神眼が名付け、他に知る者もない強大な霊能力である。

 

 その力は周囲の人間に影響を与え、シリアスな雰囲気を許さないのみならず、ギャグ体質は感染性があり長期に渡ってヨコシマとつきあうと人を喜劇的な性質へと変えていってしまう。

 

 だが神眼も気づいてはいないが、この能力の本質はそんな表面的なものではない。

 運命の流れを暗い方向から明るい方向へと変える魂に染み付いたギャグ体質が生みだした奇跡。

 それが、この能力の本質だ。

 

 宇宙の運命を捻じ曲げて陵辱する強大な魔王の誕生を阻止する為に仕込まれた種の一つがこの能力だった。

 暗い運命に引き込まれていき、明るい方向へと因果律を変えるシリアススィーパー。

 この能力には、抗える人間どころか気づくことができる人間もいない。

 

「……なんだ、ハンター志望者か!」

 暗運祓いの影響なのか、その事実を知った途端、ヴェーゼはころっと態度を変えて、まだ泡を食っているヨコシマを呼ぶ。

「だったら、自己責任よ! ハンター試験中のトラブルなんだから! ほら、行くわよヨコシマくん」

 

「えっ? え? いいんスか」

 ナビゲーターらしき男に聞こえよがしに言って定食屋に入るヴェーゼに、ヨコシマは迷いながらもあわててついていった。

 

 ヴェーゼの言うように受験者同士のトラブルには不干渉が徹底されているのか、ナビゲーターはそのまま二人の男を道の脇によせると受験開始までそこで待つことにしたらしい。

 

 幸い、トラブルはとりあえずそれで仕舞らしく、教えてもらった合言葉を言って案内された部屋ごと地下に運ばれることになったのだが、試験はどうにも幸先の悪い出だしになってしまった。

 

「……まあ、ライバルが減ったんだから結果オーライってことにしときましょう。 まあライバルっていうには役者不足だったけどね」

 柄にもなく見知らぬ男達を傷つけたというだけで動揺してしまった自分を認めたくなくて今まで黙っていたヴェーゼは、ふっとため息をつきながら気分を入れ替えるように言う。

 

「そ、そうっスね。 あんな虚弱体質じゃ、どうせ受からなかっただろうし!」

「確かに、あのまま試験を受けても下手をすれば死んでいたでしょうね」

 ヨコシマとミューズもそれにあわせて彼らが災いを転じたのだと協調した。

 

「でも、ホントにハンター試験は受験者同士のトラブルにはかかわらないんスね」

「ええ。 だからエレベーターが下についたら用心しなさいね」

「でも、逆にいえば相手を潰すチャンスでもあるわ」

 防衛的思考の二人に比べ、さっきの反動でヴェーゼは攻撃的だ。

「いい作戦を思いついたわ。 いい────」

 

 どうやらハンター試験はこのトラブルがきっかけで思わぬ方向へ向かうことになりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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