GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER 作:OLDTELLER
いつの間にか参加が決まっていたハンター試験の対策を練ると言われたのは、ヨコシマがエロ猿よばわりされて落ち込んだ次の日のことだった。
試験は来年、つまり1999年の一月七日。
試験会場は一般参加者には秘密にされているが、コネを使えばけっこう簡単に見つかるらしく、ぎりぎりまで準備をしていくという話になった。
「対策としては三つ。 その第一が念能力の強化ね」
ヴェーゼはそう言うと、教本らしい飾り気のない白い和とじの本を取り出す。
「これで、‘念’について学んで実践で鍛えるのよ」
「それって、やっぱ、俺もやるんスよね?」
ヨコシマはスッカリやる気になっているヴェーゼにおずおずと切り出す。
(ただでさえ神眼に毎日夢でシゴかれているというのにこれ以上やってられるか! しかし、そう言ったらまたキチガイあつかいされるし……)
言いながら、そう心の中で考えたヨコシマに。
(それ以前に神に関する話題は禁忌だと言ったはずだけど?)
基本ヨコシマが一人きりのときか、話しかけられたときしか口を開かないはずの神眼のツッコミと。
「あたりまえでしょ? アンタがやらないでどうすんのよ」
ヴェーゼの無情なダメ出しが同時に応えた。
「第二に試験は持ち込み自由なので、試験に役立ちそうなツールの調達」
はかない希望を打ち砕かれてヘコんでいるヨコシマをさらりと無視してヴェーゼは続けた。
「これは、三人で集めましょう。 特にミューズは頼りにしてるわよ。 現役ハンターだから試験の傾向がわかるでしょ?」
ここで相手をしてやると、うっとうしいうえにセクハラをかましてくるのが判っているからだ。
もっとも、今なら神眼のセッキョーが頭の中で響いているので大丈夫なのだが。
「ええ。 例の物以外にも色々と用意してあるわよ」
ミューズも、普段ならついついヨコシマのフォローをしてしまうのだが、今日はマジメに試験対策にとりこんでいるせいでスルーだ。
「そして最後に三人の試験現場での役割分担とチームワークの徹底。 これもミューズの役割が大きいけど頼むわね」
「あれ? ミューズさんは試験受けられないんじゃ……あっ、わかった! 姿が変わったんで判らないだろうし、ハンター証をもう一つとって売っぱらうんスね!」
七生は遊んで暮らせる値段がつくと聞いていたので、ヨコシマは美神に毒された発想をする。
もちろん、それに賛成するつもりではなく、それはマズイと美神に違法行為を止めさせようという、いつものノリが出たのだ。
なにせ、銃刀法違反に脱税にとダーティーなことも平気でする美神の助手をしていたので、荒事を平気でやる女というのは、それくらいはやるという間違った常識が刷り込まれているのだ。
もちろん、いくら裏家業を生業にしていたヴェーゼやハンターのミューズでも美神ほどではない。
「するわけないでしょ!」
と二人の声が揃ってヨコシマの発言を否定し。
「──そんな恐ろしいこと」
ヴェーゼはそう続け。
「──そんな卑怯なこと」
ミューズはそう断言した。
結果、ヴェーゼからはハンター協会を敵に回すことの恐ろしさと、ミューズからは人の道とはなんなのかをミッチリと叩き込まれることになり、試験対策は脇道にそれていってしまう。
「まったく、アンタにつきあってるとムダに時間がかかるわね」
数十分の間、ヨコシマをこきおろしてスッキリしたのか、ヴェーゼは晴れやかな顔でそうもらし。
「ホントに、どうしたらあんな発想がでてくるのかしらね」
こちらも呆れたようにいいながらもどこか楽しげな雰囲気のミューズが言う。
ヨコシマへのセッキョーで、Sっ気と教師意識がそれなりに満たされたらしい。
ヨコシマときたら、はいとすいませんとわかりましたを、繰り返すだけだったのだが。
「すいません……ああ、じゃあ、さっきのはどういうことなんスかね」
二人の顔色をみて、止めようとした俺がなんでやばいこと考えてるってことになってるんだという疑問を押し殺し、ヨコシマはセッキョーが再燃しないように話を戻そうと試みる。
女が思い込んだら頭が冷えるまでどうしようもないということは、文字通り血と涙を流しながらカラダに叩き込まれているので、誤解を解くのは後に回したのだ。
根本的なところが判っていないのに、そういうところで小器用に振舞おうというのがマチガイなのだが、ヨコシマは自分の不器用さに自覚がないようだ。
「三人で試験を受けるっていってもミューズは直接参加するんじゃなくサポートとして参加してもらうのよ」
「あたしの能力は知ってるでしょう? 通信機を通しての情報収集で危険な相手に近づかないようにできるわ」
これ以上、別のことに気をとられてもしかたないと思ったのか、二人は打ち合わせしていたらしい策をヨコシマにも披露した。
本来ならヨコシマもその話を聞いていたはずだったのだが、コンプレックスを刺激されたせいで、それどころではなかったのだ。
二人が機嫌が悪かった理由には、今日の対策会議が二度手間だったということもあるのだろう。
「アタシは、作戦指揮と状況判断の担当。 このなかで一番、修羅場をくぐってるからね」
ヴェーゼは、次いで役割分担について話を進める。
実際に一番多く生死のかかった場面を、かいくぐってきているのはヨコシマなのだが、あまりの小者オーラとユルイ雰囲気のせいで、ヴェーゼもミューズもそれには気づかなかったからの判断だ。
これは、神眼が、盛者必衰/モブラブフレーバーと名付けた能力のせいだった。
この能力は、自分のオーラを見る者に小者で脅威になるような大した存在ではないと思わせ、どんな活躍をしても、まぐれだと感じさせ疑いを抱かせないようにするものだ。
強者の油断を誘うための能力だが、本人の自覚がないので味方にも発動するのでタチが悪い。
「えっと、じゃあ、俺は何するんすか」
そんなアツカイに疑問も持たず、ヨコシマもあっさりとヴェーゼの言葉を受け入れる。
コンプレックスのせいもあり、味方に頼りにされない境遇に馴れきっているのがアレで、またなんとも使い勝手の悪い能力なのだが、そんな能力を無意識で創りだすのがヨコシマという男なのだろう。
「荷物持ちと……前衛要員ね」
一瞬、肉の盾という呪いが専門のGSのような台詞をもらしそうになったヴェーゼはそう言い直す。
「今、捨て駒とか思いませんでしたか? ヴェーゼさん」
それより、荷物持ちのほうが先にきていることのほうが余計に問題なのだが、妙な方向に勘を働かせたヨコシマは一瞬の間の意味にツッコんだ。
「さすがにそこまでは思ってないわよっ! アタシをなんだって思ってるの!?」
「って、そこまでじゃあなくても、思ってんじゃあないスか!」
「まあまあ。 ヴェーゼもヨコシマさんができることを探して──」
試験開始まで一ヶ月弱。
それなりに気心が知れたとはいえ、チームワークには問題があるようで、ハンター試験対策にはまだまだ時間がかかりそうな三人だった。