GS ヨコシマ IN HUNTER×HUNTER   作:OLDTELLER

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6. ヨコシマと呪われし運命の螺旋

 

 

(これって、たしか一般人に魔装術を無理矢理かけたときになるってヤツだよな)

 センリツの身の上話を聞き、タダレたように溶けかけ醜く変貌した腕を見せられたヨコシマは心話で神眼に呼びかけた。

 

 数日前に夢の中で行われた霊的知識の強制授業でこの手の話を聞いたことがあったからだ。

 

 魔装術という霊気を鎧にする術があるが、これはオーラを鎧として纏う‘堅’とは違い、霊気へと変貌したオーラを身に纏うために霊的進化に耐えられない未熟な者が使うと魔物化する。

 

 その術を他者から無理矢理かけられれば、人は拒絶反応で死ぬかセンリツのような変貌をきたす。

 霊能者の扱う呪いのなかにはそういったものがあるのだと神眼は語った。

 

 GS見習いとして活動するにあたって、そういった知識は師である霊能者が教えることが義務つけられているらしいが、ヨコシマの師といえば、あの美神令子だ。

 

 金儲け優先で実践で覚えろという主義の上に、ヨコシマも美女と一緒で勉強が手に付くわけがなく、座学による授業など行われることはなかったため、そのとき初めて知ったのだ。

 

 美神は、専門でない上に手間がかかる割りには儲けが少ない霊的治療の依頼は受けたことがなかったが、文珠とは本来戦闘よりもそういった方面で活躍してきた術式らしい。

 

 方面は違えど我が神と同じ知恵を司る高位存在の名を持つ術なのだから極めて見せなさいと、意味が通っているのかいないのか判らない理屈で、ヨコシマは神眼から一日数時間もの猛勉強を課せられている。

 

 受験の時期ですらそんな長時間の勉強とは無縁の人生を送ってきたヨコシマは、魔物などほとんどいないこっちでそんなこと勉強してもと盛大に文句をタレていたが、人生どんな勉強が役に立つか判らないものだ。

 

(その通りです。 それでは文珠で浮かべる文字は判りますね)

 神眼の問いに心の中で頷いたヨコシマは文殊を四つとりだしてセンリツに語りかける。

「俺がその身体を治せるっていったら信じるか?」

 

「本当に……! 治せるの?」

 センリツは一瞬、歓喜の声をあげそうになったが、直ぐに感情を抑え、ヨコシマに問う。

 

 ヨコシマが何の為にそう言い出したのかが判らない。

 あの日からずっと望み続け待っていた救いが訪れるのかもしれない。

 念能力が通じない男の言葉を、そのまま素直に信じていいのだろうか。

 もし、信じてそして裏切られたとしたら、自分はどうすればいいというのだろう。

 

 そういった不安や希望、不信や恐怖がセンリツを縛っていた。

 だから、ただ一言、信じると口に出せばいいはずなのにそう問い返したのだ。

 

「ああ、やったことないけど……たぶん」

 ここで信じろと言えればヒーローなのだが、それができないのがヨコシマだった。

(お、おい。 ホントーに治せるんだろうな。 スゴイ期待されてるっぽいぞ!)

 不安になって心の中で神眼に頼る気まんまんの自信のなさを情けなくアピールする。

 

 煩悩にまかせての行動なら後先考えずに行動できるのだが、それ以外となると思春期に入ってからずっとセクハラしてはしばかれ罵られ続けてきたせいで育った劣等感が顔をだすのだ。

 

 自業自得とはいえ、普通なら心を折られひきこもったり生きてるのがイヤになるようなセッカンを受けながら、それでもセクハラをやめないタフさと煩悩の強さがコンプレックスをも尋常ではなく強いものにしていた。

 

 強ければカッコいいというわけではないという見本のような男だった。

 

(わたしを疑うのか愚か者め。 自分を信じられないならわたしを信じなさい)

 そう神眼に言われてやっとそらした眼をセンリツへともどすと。

 

「……でも治せたとしても、あたしにはたいした報酬は払えないわよ」

 それが、自身のなさから来たものなのか駆け引きなのかが判らないセンリツは、ヨコシマが暗に報酬を要求しているのだと仮定してそう切り出した。

 

 レアな能力である除念、それも死者の念を除念する事ができる除念師の報酬といえば高額だ。

 数百億ジェニーを要求されることも珍しくないと言われている。

 

 また、ヨコシマにそんな駆け引きはできないが、希望を与えておいて次に不安を持たせて高い報酬を要求するというのはよくある話だ。

 

 インチキ霊能者などが、自分の実績を騙って頼らせておいてから、しかしこの霊は強力だなどといって次々と高い除霊グッズを売りつける手口である

 

「ああ、それなら別に……あんた念使いだろ。 俺の仕事を手伝ってくれればいいよ」

 元手はかからないからいいと言いかけて、ここには仕事で来たことを思い出したヨコシマは数百万ジェニーなら数ヶ月も仕事を手伝ってもらえばいいだろうと軽く考えてそう言った。

 

 しかし、実際は年棒数億という高給であっても百年はただ働きしなくてはならない額だ。

 センリツは、それを一生、自分の手足として働けという要求だと受け取ってしまった。

 

 普通ならば、とても受けられない契約だ。

 だが、すでにセンリツは一生を賭けて‘闇のソナタ’をこの世から消し去る決意をしていた。

 

「……わかったわ。 あなたが‘闇のソナタ’全てを消してくれるのなら、それでいいわ」

 そう条件をつけてセンリツは真っ直ぐにヨコシマの目をのぞきこむ。

 

 念能力に頼って生きるようになってからは、ついぞ出来なくなっていた人を信頼する決意が、センリツの瞳には浮かんでいた。

 

(‘闇のソナタ’って今度の仕事のことだよな。 自分の除霊をして仕事が失敗したら困るってことか。 わりと律義やな、このひと)

 

 しかし、ヨコシマにそんな決意などわかるわけもなく。

(…………)

 それを感じ取っている神眼も何も言わない。

 

「よし! じゃあやるぞ!!」

 あっさりとヨコシマは文珠に念をこめ、‘破’‘念’と‘快’‘癒’の文字が文珠に浮かび輝く。

 

 ギィヤウあああああツッ!!

 まず、‘浄’‘念’が発動し、音を伴わない怨嗟の叫びと共に、瞬時にセンリツにとり憑いた怨念が浄化される。

 

「んあああああああああ!!!」

 次いで、‘快’‘癒’が発動し、どこか色っぽい響きを感じさせる悲鳴がセンリツの口から漏れる。

 

 変化は劇的だった。

 まばゆい光に包まれ、奇形めいた醜い姿が、頭身までも変えモデルめいた美しい女の姿に変わっていく。

 

 後ろ髪しかなかった白髪は、キレイな艶をとりもどしての背中の中ほどまで届くほど伸びて、ファッション雑誌に出てくるようなシャレた髪形をしたプラチナブロンドに。

 

 ぎょろりとした魚めいた黒い目は、艶然と濡れた大きな切れ長のブルーアイに。

 首から下を全て覆っていたやぼったいコートからは、綺麗な肌のしなやか白い手足が伸び。

 

 数秒を経ずして、そこには床にしどけなく座り込み、頬を上気させた絶世の美女が復活していた。

 

「うまれる前からあいしてましたーっ!!」

 その姿を見た途端、煩悩メーターを振り切ったヨコシマが美女に覆いかぶさり。

 

「どうしたのっ!?」

 同時にヴェーゼの声がしてドアが開く。

 

 悲鳴がしたのであわてて駆けつけたヴェーゼの目の前に。

 

「あっ! だめ、いけません──!」

 ‘快’‘癒’の影響で痛みではなく快感と共にもとの姿にもどった副作用で力の入らない身体を色っぽくふるわせる美女と、そのうえに覆いかぶさろうとしているヨコシマの姿があった。

 

「このケダモノーッ!!」

 瞬時に念をこめたヴェーゼのケリがヨコシマをふきとばしたのは言うまでもない。

 

 やはりヨコシマの女運はどこにいこうと変わらないようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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