スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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EP34

 

 

「うん………」

 

 アイーシャがゆっくりと目を開ける。

 視界に映るのが見慣れた攻龍の医務室の天井だと気付き、そのまま首を左右へと向けると、右にベッドを占拠して寝ているエリーゼが、左に備え付けのデスクに突っ伏して寝ているサーニャの姿があった。

 体を起こそうとした所で、物音に気付いたのかサーニャも目を覚ました。

 

「起きた?」

「うん。こうなっているという事は、作戦は成功したんだな」

「大成功したよ。皆頑張ったから。今は事後処理の真っ最中みたい」

 

 サーニャに言われて改めてアイーシャが耳を済ますと、外から聞こえてくるらしい航空機やボートの音に、作業音のような物が混ざり忙しく動いている様が想像出来た。

 

「戦ってた子達は皆寝てる。アイーシャももう少し寝てた方いい」

「そうさせてもらう。サーニャもちゃんと寝た方がいい」

「そうだけど、もう少ししたら当直が回ってくる」

「当直?」

「フェインティア・イミテイトが捕虜になってる。その監視」

「! あれを? よく出来た………」

「代わりにエイラの同僚が重傷になったって聞いてる。自己治癒能力があるから大丈夫だってエイラは言ってたけど」

「う~ん、見たかスカイガールズの底力………」

 

 寝返りを打ちながらのエリーゼの寝言に、思わず二人は顔を見合わせ、サーニャは微笑み、アイーシャはそれに頷く。

 

「じゃあもう少し休む」

「その方がいい。私はそろそろ準備して行ってくる」

 

 アイーシャが目をつむったのを見ながら、サーニャは医務室を出る。

 通路を歩いて行くと、攻龍の乗組員達が交代しながらも、事後処理に奔走していた。

 

「防護服は後無かったか!」

「第三倉庫に予備が有ったはずだ!」

「負傷者の最終確認急げ!」

「炊き出しまだか!」

 

 攻龍のみならず、この海域にいる全ての船が似たような状態になっている事を確信しながら、サーニャは格納庫まで赴く。

 そこでは、整備スタッフ達がダメージを負ったソニックダイバーの修理の真っ最中だった。

 

「お、目覚ましたか」

「うん、アイーシャもさっき起きたけど、まだ休ませてる」

「できれば、あんた達ももう少し休ませたい所なんだがな」

 

 話しかけてきた大戸に答えつつ、アイーシャは寝ている間に宮藤博士に整備してもらっていたストライカーユニットに足を入れる。

 

「気ぃつけろよ。腕利きで取り囲んでるたぁ言え、あいつに暴れられたら事だからな。それと搬送中の原子爆弾に絶対近付くなよ」

「分かりました」

 

 攻龍の武器庫から借りたロケットランチャーを背負いつつ、サーニャはストライカーユニットを発動、整備スタッフ達が慌てて避ける中を滑走して艦外へと飛び出す。

 外に出ると、戦闘で破損した軍艦らは修理の真っ最中で、最早どの世界も所属も関係なく、皆が協力していた。

 その中で、何か一際厳重に封印されたコンテナが搬送されていく。

 

「漏れてないか厳重にチェックしろ!」

「防護服着てない奴は近づけるな!」

「そこのウィッチ! もっと離れろ!」

 

 厳重に防護服に身を包んだ攻龍のスタッフやシールドをまとった機械人達がガイガーカウンターを手に、殺気立ってコンテナを沈みかけた軍艦の一つへと下ろしていく。

 

(あれが原子爆弾………そんなに危険なんだ)

 

 試しに固有魔法を発動させて状態を確かめようとしたサーニャだったが、あまりに封印が厳重過ぎて何も感知出来ない事を知ると、そのまま目的の船へと向かっていった。

 

 

 

「遮蔽は完璧だ、今の所はな」

「それでは、こちらで預かります。どこかの恒星にでも破棄しましょう」

 

 防護服を着た冬后と、防護フィールドを発生させている鏡明が原子爆弾の状態を念入りに確認していた。

 

「これを運んでいた方々は?」

「プリティー・バルキリーで寝てもらってる。洗浄は済んでるそうだ」

「これだけの放射線を垂れ流しにする兵器とは、無知とは恐ろしい物ですね」

「言うな。こっちも前の大戦じゃプラズマ兵器とN2兵器切れたんでこいつを使う直前だったからな。その前にワームが自殺行為と誤認してくれたから助かったが………」

「それでは、こちらで受け入れ体勢が整い次第、転送させます」

「くれぐれも慎重にな。安全装置は確認したが、この時代のじゃ実験兵器段階で安全がどこまで保証されるか分かった物じゃねえ。

表向きはさっきの戦闘のどさくさで消失って段取りにするそうだ。ガランド少将が手回してくれた」

「それしかないでしょう。できればもう作って欲しくない所なのでしょうが………」

「そればっかりは保証出来ないな。この世界が、オレ達の世界のようにならないとは保証出来ない。だが、あれだけのウィッチがいれば、あるいは………」

 

 半日と経っていない激戦の事を思い出しつつ、冬后は目の前のコンテナを見つめていた。

 

 

 

 サーニャは機関部に致命的な損傷を受け、航行不能となったある空母へと着艦する。

 沈没こそは防げたが、自力航行は不可能、修復も困難として廃艦が決定した船だったが、今その空母の甲板には機械人やウィッチ達が歩哨として立ち、しかも本来とは逆の内側の方を警戒していた。

 

「501のサーニャ・V・リトヴャク中尉です。交代に来ました」

「お待ちください………確認しました、どうぞ」

 

 艦内に続く扉の前に立っていた機械人に所属と目的を告げ、向こうが確認した所でようやく扉が開かれる。

 艦内も異常なまでの警戒態勢がしかれており、サーニャは途中何度か道を聞きながら、目的の格納庫へと入っていく。

 一歩中に入った所で、中に満ちている殺気にサーニャは思わずたじろぐ。

 

「あ、サーニャ………」

「お、もう交代の時間か」

 

 格納庫内に用意されていたテーブルの対面で座っていたエイラとアウロラが同時に気付き、サーニャの方へと振り向く。

 二人の両脇には空戦用と陸戦用のストライカーユニットと銃器(ついでにスコップ)が置かれており、その格納庫で何が起きても対処出来るようにしているのが見て取れた。

 だが、当の二人はエイラは目の下にクマを作ってデスクに突っ伏し、対照的にアウロラは平然としている。

 その理由は、デスクに転がっている複数の空の酒瓶が物語っていた。

 

「エイラ、大丈夫?」

「なんとカ………じゃあ悪いケド、あと頼む………」

 

 そう言いながら、エイラはデスクに突っ伏したまま寝息を立て始める。

 

「全く、情けない妹だ」

「アウロラさん、一応警備任務中では………」

「ん? 私はいつもこんな物だぞ。何より、あれだけやらかしたのに、休みも無しにこれだ。飲まずにやってられるか」

「言いたい事は分かるのだけど、アルコールを箱で持ち込むのは………」

 

 同じく警備任務にあたっていたポリリーナが、半ば呆れて転がる空瓶を見つめる。

 

「見張るのがアレだから。マジメにやり過ぎると保たん」

「確かにアレは………」

 

 そう言いながら三人(寝息立ててるエイラ除く)は格納庫の中央に視線を向ける。

 そこには、まず機械化帝国から持ち込まれたフィールド発生装置が鎮座し、内部の者が出れないように厳重にフィールドを発生させている。

 更にその中、幾つかの機械人用医療機器が内蔵されているベッドにGから持ち込まれた特殊耐久繊維製の拘束帯に縛り上げられたフェインティア・イミテイトが、ベッドの上からも複数の封印措置が施されて寝かされていた。

 

「こういう連中の事はよく分からないが、あれだけ暴れておいて、致命的な傷は負ってないらしい。ニパが食らわした頭部への一撃もそこにあった部品が壊れたショックで昏倒しただけだそうだ」

「亜弥乎はそのコントロールコアを破壊したら元に戻ったけれど、彼女はどうかは不明よ。攻撃ユニットは全部破壊したけれど、また呼ばれる可能性もあるし」

「あ………」

 

 眠ったままのフェインティア・イミテイトの方を見ながらアウロラとポリリーナが呟く中、サーニャの固有魔法の魔導針が突然発動する。

 

「彼女が、目覚める」

 

 その一言にアウロラは中身の残っていたグラスを投げ捨てながら即座に陸戦用ストライカーに騎乗して傍らにあった銃を構え、ポリリーナは応急で設置されたスイッチを叩き押す。

 要注意を示すサイレンが鳴り響き、隣室で控えていた機械人やウィッチ、光の戦士等が一斉になだれ込み、中央のベッドにそれぞれの得物を向けて取り囲む。

 

「皆、注意せよ。妙な動きをするようなら、即攻撃を」

 

 先頭で剣を構える剣鳳が周囲に指示を出しながら、ベッド上のフェインティア・イミテイトを睨みつける。

 

「起きろイッル!」

「ZZZ………」

 

 デスクに突っ伏してる妹を起こそうとアウロラはスコップでデスクの足を叩くが、甲高い金属音が響き渡ったはずなのにエイラはデスクに突っ伏したままだった。

 

「う………」

 

 そんな中、フェインティア・イミテイトがすこしうめいたかと思うと、ゆっくりと目を開く。

 身じろぎしようとして、微動だに出来ない事、そしてそれが全身を縛り上げる拘束帯による物だと気付いたフェインティア・イミテイトが露骨に顔をしかめる。

 

「これってどういう事?」

「どうもこうも無いわ。あれだけ暴れてくれた人を、拘束するのは常識でしょう?」

 

 ある意味妥当なフェインティア・イミテイトの第一声に、パッキンビューを構えたままのポリリーナが答える。

 

「確かにそうね。けど、今の私は貴方達と敵対する気はないわ」

「そう言われて、はいそうですか、ってのは無理だろうな。お前のお陰で何人ものウィッチが病院送りになってる」

 

 アウロラが冷めた目でフェインティア・イミテイトを見ながら、銃口を突きつける。

 

「撃ちたければ撃てばいい。ただし、私も抵抗させてもらうけど」

「その状態で抵抗という言葉が出てくるか。本気と取るぞ」

「待って下さい!」

 

 剣鳳の目が更に鋭い物へと変わっていく中、エルナーが格納庫内へと飛び込んでくる。

 

「彼女は貴重な情報源です。不用意に攻撃するのは得策ではありません」

「しかしエルナー殿………」

「それに、本当に抵抗出来るなら、わざわざ挑発しないで動けないふりをして、隙を見て脱出した方が効率的です。そうしないという事は、抵抗したくても出来ないという証明でしょう」

「………なんでそっちの小さいのはこうイヤな連中ばかりなの」

 

 エルナーの指摘に、観念したのかフェインティア・イミテイトは思わず愚痴を漏らす。

 

「その通りよ、確かにこれじゃ身動き取れないわ。けど、敵対する気が無いってのも本当。ヴァーミスは鹵獲したオリジナルを解析して私を作ったけれど、思考回路までコピーしてしまったため、コントロールコアを付けて外部から私をコントロールするしかなかった」

「よく分からんが、ニパの一撃食らってそれが壊れたから操られなくなったって訳か」

「そういう事になるわね」

 

 アウロラのぶっちゃけた意見に、フェインティア・イミテイトは素直に肯定する。

 

「とりあえず、警戒体制は一段階落としてもいいでしょう。色々と聞きたい事もありますし」

「ぬう、エルナー殿がそう言うのなら………」

「本当に信じていいのか?」「だが妙に大人しいし………」「私は信じないぞ」

 

 剣鳳が剣を下ろし、回りで殺気だっていた者達も口々に呟きながら、一応格納庫から出て行く。

 それでもなお疑り深い数名が警戒して残る中、エルナーがフェインティア・イミテイトの傍らへと近寄る。

 

「拘束の際、最低限度ですが手当はしてあります。会話に支障はありませんね?」

「今セルフチェックを走らせてるわ。話するくらいは問題ないようだけど」

「それではまず聞きます。貴方は我々に情報提供する意思はありますか?」

「提供って言っても、大した情報は持ってないわよ。私はコントロールコアに送られる命令に従ってただけだし、それ以上の事は………」

「それほど詳細な情報は求めていません。まず聞きたい事は、貴方はいつヴァーミスから別の存在に支配権を奪われたのですか?」

「エルナー殿、それは一体………」

 

 予想外の質問に剣鳳が思わず声を上げるが、フェインティア・イミテイトはしばし迷ってから口を開く。

 

「いつ、ってのは正確には分からないわ。けれど、その人達の星を攻撃してた時は完全にヴァーミスの支配下じゃなかったのは確かよ。何がどうなったかは説明できないけど、強力なハッキングで、私を含めたヴァーミスの惑星侵略ユニットその物が全て乗っ取られた。その上であの星への侵略を命じられた。私が言えるのはそれだけよ」

「そうでしたか………道理でトリガーハートの人達が違和感を感じるはずです」

「そういや、そのトリガーハート達は? 姿見えないけど」

「全員修復中よ、だからと言って逃げようとは思わないでね。ここの警戒は厳重にしてるわ」

「さっきの見れば分かるわよ、こんな破損ユニットにどんだけ戦力割いてるのよ………」

 

 フェインティア・イミテイトの問にポリリーナが答えると、フェインティア・イミテイトは呆れた声で今だ緊張状態を保っている面々を視界の範囲で確認する。

 

「戦う気も逃げる気も無いわ。どうやら、私はコントロールコアで操られてた分、乗っ取られたのもコアだけ済んでたみたいだし」

「他に何か、覚えている事は?」

「そうね、そう言えば本来トリガーハートは個体でワープ出来る能力は無いわ。けれど、こちらを乗っ取った何かは、指揮ユニットとして私を残しておきたかったのか、ピンチになったら呼び戻してたみたい」

「機械化惑星で消えたのもそれね。でも、コントロールコアを壊されたので戻せなくなった」

「多分ね、ところでどうやってコントロールコアを破壊したの? どうしてもそれがメモリーから取り出せないんだけど」

「………まあ、あれは思い出せない方がいいんでしょうけど」

「あ~、見たかったな。その光景」

「思い出せないならそのままの方がいいと思う」

「??」

 

 言葉を濁すポリリーナと、視線を逸らすアウロラやサーニャに、フェインティア・イミテイトは疑問を更に深くする。

 

「とりあえず、もうしばらく拘束は続けさせてもらいます。外はまだ事後処理でてんてこ舞いですので」

「あんだけふっ飛ばせばそうなるでしょうね。いいわ、もう少しスリープモードで復旧専念させたいし」

「勝手に直るのか? どういう作りしてるんだこいつ?」

「この時代だと理解すら不可能なレベルでしょう。これだけのダメージを修復システム無しの自己修復ならば、生身の人間より少し早い程度の修復速度しか無いそうです」

「つまり、しばらくは絶対安静の重傷患者って事か」

 

 なんとか解釈したアウロラが、中身が残っていたボトルをそのままあおる。

 

「それじゃ、私らも休ませてもらおうか。いつまでも酒でごまかすのもアレだからな。それにイッルが起きないという事は、そうそうすぐに暴れる事もないだろうし」

「後は私が」

「ZZZ………」

 

 残った酒を飲み干した所で、サーニャに後詰を頼んでアウロラは疲労(よりも姉に付き合わされた酒)で全く起きようとしないエイラを担ぎ、格納庫を出て行く。

 

「まだ信用できるかどうかは断言出来ません。臨戦とはいかないまでも、警戒は続けて下さい」

「分かってるわ。交代人員は?」

「まだ皆さん寝てる方々ばかりです。もっとも、用心して格納庫で寝てる人もそれなりにいるのですが………ポリリーナこそ大丈夫ですか?」

「仮眠は取ったわ。もうしばらくなら大丈夫」

「無理はなされるな。我々もいる」

「それに、まだ終わっていないようです」

 

 エルナーの言葉に、ポリリーナ、剣鳳、そしてサーニャも先程フェイティア・イミテイトの言っていた事を思い出す。

 

「ヴァーミスのみならず、ワーム、バクテリアン、ネウロイを軒並み支配下に置いた存在がいる」

「それこそが、真の黒幕」

「そいつは、今までの戦いをずっと見ていた。ティタやアイーシャも気付いてる」

「早急に体制を立て直す必要があります。一刻も早く………」

 

 

 

(う~ん………)

 

 何か頭がヤケに痛む事を感じつつ、ニパは目を覚ます。

 頭痛の次に妙な浮揚感が全身にあり、何か泡が立つような音も聞こえてくる。

 

(あれ?)

 

 状況はよく思い出せないが、てっきりまたベッドの上かと思ったニパが目を開ける。

 視界に妙な色合いが広がり、小さな泡が通り過ぎて行く。

 数秒の間が経ち、自分が水中にいるらしい事を理解したニパがパニックに陥る。

 

(!?!? 何だこれ!? 溺れてる!?)

 

 もがこうとした所で、手足が何かに当たり、自分が何かカプセルのような物に入れられている事もなんとなく分かった所で、視界に見覚えのある顔と無い顔が入ってくる。

 

『ニパさん、気がつきましたか!?』

『暴れたら~~~ダメ~~~ですよ~~』

 

 こちらを心配そうに見つめるポクルイーキシンと、何か操作している詩織の顔に、ニパが少しだけ落ち着きを取り戻す。

 その時になって、ようやく自分が酸素マスクのような物をしている事にも気付いた。

 

『声、聞こえてますよね? これ、ヒーリングカプセルとか言う医療機器ですって。これに入っていると、傷がすぐ治るそうです』

『実際~~~危ない~~~所でした~~~』

『ニパさん、頭蓋骨が割れかけてたんですって。治癒魔法を持つウィッチや、治療出来る装置が有って何とかなったけど、無茶したらダメですよ。それとニパさんの使ってたストライカーユニット、見事に大破してました。ここから出たらお説教です』

(あう………)

 

 心配そうな顔から、普段通りの怒り顔になったポクルイーキシンに、ニパは無言でうなだれる。

 

『え~~と、マスクに~~~マイク~~入ってますので~~~スイッチ~~~入れて~~~おきますね~~』

「あ、こっちからも喋れるんだ」

『聞こえました、でも治るまで大人しくしてた方いいですよ。まだ重傷なんですから』

「他の皆は?」

『ニパさんが一番の重傷です。もっともさっきエイラさんがアウロラさんに飲み潰されてきて隣で唸りながら寝てますけど』

「何やってるんだイッルの奴………」

 

響いてくる頭痛に悩みつつ、ニパはため息をもらす。

 

「それで、ここからいつ出れるんだ?」

『あと~~~半日は~~~入っててください~~~治りが早いので~~~それで~~~大丈夫~~~だと思います~~~』

『だ、そうです。大人しくしててくださいね。軽症でも治せるのは治すようにと通達が来てますから』

(軽症、でも?)

 

 詩織の異様な間延びも気になったが、ポクルイーキシンの言った事にニパは内心首を傾げる。

 

『普段なら入院する位の重傷なんですけど、強力な治癒魔法を持つ人が何人もいたから、これくらいで済んでるんです。戦闘時はもっと周囲を注意しないとダメです!』

「なんで吹っ飛んだか思いだせないんだけど………そもそもなんで頭が痛いんだっけ?」

『覚えてないんですか? なんでも頭突きであの紅い悪魔撃墜したとかで、すごい騒がれてますよ。勲章物だって噂も』

「頭突きで勲章っていいのかな?」

『いいんじゃ~~~ないですか~~~? あの方には~~~私達も~~~随分と~~困ってましたから~~~~』

「困ってた、ね~………」

 

 色々と気になる事はあったが、ニパは大人しく治療に専念する事にする。

 なお、ヒーリングカプセルから出る時、なぜか開閉装置の調子が悪くなったり、酸素供給が止まって危うく本当に溺れそうになったりもしていた。

 

 

 

「損傷度の激しいユニットも結構あるな」

「予備機も来てますので、代替も考慮した方がいいかと」

 

 後発で来た工作艦に、大量に並べられたストライカーユニットを前に宮藤博士とウルスラが損傷度を元に修理可能かどうかを診断していた。

 

「特にあの水中から発見されたのはもう無理じゃないかな? どうやって持ってきたのかは知らないけど」

「水中特化の武装神姫が拾ってきたそうです。人魚型とタコ型だそうですが」

「開発コンセプトが分からないな………」

「可愛ければいいじゃないか」

 

 横から聞こえてきた声に二人が振り向くと、そこにはウィトゥルースを従えたガランドの姿があった。

 

「これは少将」

「二人がここにいると聞いて驚いた。宮藤博士は公的には死亡となっていたし、危うくウルスラも死亡届を出す所だったぞ」

「こちらだと、彼女はどうなっていたんですか?」

「それがな、いつも通り研究室が爆発したかと思えば、彼女の姿だけ跡形も無く消えていた。機材に損傷は有ったが、人一人が木っ端微塵になるには程遠かったし、指一本も落ちてないので、皆が不思議がっていた。まあ私はどこかで生きてるだろうとは思っていたが」

「心配おかけしました」

「何、その分面白い新型も出来たようだしな。必要な物が有ったら幾らでも言ってくれたまえ。すぐに取り寄せる」

「それで間に合えばいいのだが………」

「あの、早めの方がいいと思います」

 

 宮藤博士の呟きに、ウィトゥルースが突然口を開く。

 

「どういう事だ? ウィトゥルース」

「あの、なんとなくですご主人様」

「なんとなく………」

 

 ウルスラもその意図する所をそれとなく察したのか、作業の手を早める。

 

「急ぐ事にしよう。確かに早めの方がいいだろうし」

「そうか、では頼むぞ」

 

 宮藤博士も作業を再開し、今一状況を飲み込めないガランドが一任してその場を去っていく。

 

「ホルスの3号機以降は?」

「ロールアウトは可能ですが、適合する搭乗者が………ビショップ曹長の姉を召喚しようかとも思いますが、すでに引退しているので、起動が可能かどうか」

「ならば、2号機までで対処するしかないだろうね。修理を急ごう」

「了解しました」

 

 

 

「う………む」

 

 夢すら見ない深い眠りから、美緒はようやく目を覚ます。

 そこがプリティー・バルキリー号の医務室である事を確認しつつ、ゆっくりと上体を起こす。

 

「目が覚めましたか、マスター」

「アーンヴァルか、何か必要以上に熟睡してたようだ。戦闘終了からどれくらい経っている?」

「32時間と26分です」

「32時間、だと? また私はそんなに寝ていたのか?」

 

 枕元のデスクにいたアーンヴァルから、丸一日以上寝ていた事を聞いた美緒がさすがに驚く。

 

「寝ていた、ではなくて寝かせていたのよ」

「私達の判断でね」

 

 声を聞きつけたのか、ミーナとミサキが医務室へと入ってくる。

 

「最低限のサイキックエナジー、そちらだと魔力が回復するまでの間、起こさないように少し特殊な睡眠薬を使わせてもらったわ。副作用は無いタイプだから、疲れは大分取れたはずよ」

「魔力の過剰使用で、かなり危ない状態だったそうよ。この船の設備が整ってたからなんとかなったけど………」

「そうか、私はもう無茶も出来んか………」

「マスター………」

 

 自覚はしていたつもりだったが、自分の予想以上にウィッチとしての限界が近付いている事に、美緒は半ば自嘲的な笑みを浮かべる。

 

「無茶は出来なくても、他に出来る事はあるわ」

「そうね、起きてすぐで悪いけれど、各隊長や副隊長クラスで会議を行うわ。アーンヴァルと一緒に来てほしいのだけれど」

「分かった、すぐに準備しよう」

「その前に何かご飯食べた方いいですよ。今芳佳さんにでも」

「さっき頼んでおいたわ。あまりゆっくりはしてられないけれど。すでに幾つかの部隊には帰還命令が出てるそうだし」

「どうにか、引き伸ばしてほしいのだけれど………戦力は一人でも多く欲しいし」

 

 ミサキの一言に、枕元にあったスポーツドリンクに手を伸ばしかけた美緒の動きが止まる。

 

「それは、どういう事だ?」

「エルナーがフェインティア・イミテイトを事情聴取したの。彼女やヴァーミスのみならず、ワームやバクテリアン、ネウロイまで操っている存在がいるらしい事を確認したそうよ」

「………黒幕がまだ残っている、という事か」

「そういう事に………なるわね」

 

 その場を沈黙が降りるが、そこでドアがいきなり開く。

 

「おにぎり持ってきました! 坂本さんは起きてますか?」

「おう宮藤、ちょうどいい所だ」

「さっきまで大変だったんですよ~起きた皆さんが全員食堂に集まってきて、料理得意な人が総動員でご飯作ったんです。皆さんいっぱい食べるし、後片付けもいっぱいで。なんとか終わりましけど」

 

 場の空気を全く読んでない芳佳に、ミサキとミーナは緊張を解いていく。

 

「あれはあれで戦場だったわね………」

「すまないわね、ユーリィがあるのを端から食べつくすし」

「激戦の後とはそういう物だからな」

 

 違う意味での激戦を思い出したミーナとミサキが遠い目をし、美緒は苦笑しながら芳佳が持ってきたおにぎりに手を伸ばす。

 

「そう言えば、他の航空団にも武装神姫がいたようだが」

「確認したけれど、他の世界の敵と接触した航空団には全て武装神姫が現れて、その助言で撃退してたそうよ」

「随分と準備がいいわね。こうなるって分かってたみたい」

「さあ………私にもなんとも」

「マスター、もうそろそろ会議始めるってエルナーが」

 

 別の謎に皆が首を傾げるが、そこにストラーフが端末を掲げながらミーナを呼びに来る。

 

「あら、もう時間?」

「む、今行く」

「ああ、坂本さん起きたばかりにそんな急いで食べたら胃によくないですよ」

「詳しくは会議でね。アーンヴァル、データまとめ終わった?」

「大丈夫です」

「攻龍の会議室でだから、私がテレポートで連れてくから」

「あそこではちと手狭かもしれんが」

 

 オニギリをスポーツドリンクで流し込んだ美緒は手早く身支度を整え、ミーナとミサキもデータをまとめた端末を手にアーンヴァルとストラーフを従え、攻龍へと向った。

 攻龍の後部甲板へとテレポートした一行は、甲板と格納庫に並ぶ種々のストライカーユニットに驚く。

 

「世界中のストライカーユニットの展覧会だな」

「これだけの統合戦闘航空団が一同に会したのは初めてでしょうからね」

「ちょっとそこどいて~」

 

 美緒もミーナもこれだけ種々のストライカーユニットが並ぶのを見るのは初めての中、背後から聞こえてきた声にその場を開ける。

 そこに、自分のRVに乗った亜乃亜が、背後に一人の男性を乗せて着艦する所だった。

 

「まったく、RVで二人乗りなんて………」

「悪いな、オレのはまだ修理中なんだ」

 

 愚痴る亜乃亜に軽く謝りながら、背に巨大なキセルを背負った男が降り立つ。

 彼の肩に武装神姫がいる事に気付いた美緒は僅かに首を傾げる。

 

「そちらは?」

「ウチのメンバーの一人。この世界に先行して来てたんだって」

「エモン・5だ。501の隊長さんと副隊長さんだな」

「天使コマンド型MMSウェルクストラです」

「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です。Gには男性もいるんですね」

「坂本 美緒少佐だ。先行という事は………」

「オペレッタからあんた達の交戦データから何からもらって、次元跳躍反応が頻発してたここに飛ばされてな。途中でこいつと出会って、こっちのお偉方を説得してなんとか迎撃が間に合ったって寸法だ」

「なるほど、随分と戦力集結が迅速だと思ったら………」

「私とオーナーでどうにかしました。話が分かる人が軍上層部にいたのが幸いでした」

 

 ミサキがエモン・5とウェルクストラの説明に納得した所で、攻龍の館内放送が鳴る。

 

『もう直会議が始まります。各部隊の隊長方は、至急会議室へお集まり下さい。繰り返します、各部隊の隊長方達は至急会議室へお集まり下さい』

「おっと、続きは後でな。会議室ってどこだ?」

「案内します。早く行きましょう」

「そうだな」

 

 ミーナと美緒を先頭に、後ろにエモン・5とミサキが続く。

 ふと最後尾を行くミサキが、僅かにだがエモン・5の歩き方がおかしい事に気付いた。

 

(この男、負傷してる?)

 

 それが負傷による物だと気付いたミサキが疑惑の視線をエモン・5に向けるが、そこでエモン・5の肩にいたウェルクストラが振り向き、口元に指をあてて黙っているように頼み込む。

 

(訳あり、ね。この世界に転移する時、何があったの?)

 

 何かきな臭い物を感じつつ、ミサキは黙って会議室へと向かっていった。

 

 

 会議室内は各航空団の隊長、それぞれの部隊のリーダーや参謀役、門脇艦長や玉華なども加わり、かなり狭い状態となっていた。

 特徴的だったのは、参加者のほとんどが武装神姫を伴っている事だった。

 

「お~坂本、目ぇ覚めたか」

「無茶し過ぎて倒れそうになったって聞いたけど、大丈夫?」

「心配をかけたな、問題無い」

 

 先に来て近況を話していた義子や淳子に声を掛けられ、美緒が応じなら空いていた席に座る。

 

「それでは、だいたいそろったようなので始めましょう。私は叡智のエルナー、この会議の議長を努めさせていただきます」

 

 エルナーの開会宣言に、ウィッチ達は目を丸くし、思わず傍らの武装神姫に仲間かどうかを問い質す。

 

「色々聞きたい事はあるでしょうが、まずは今まで何が起きたか、そしてこれから何が起きるかが一番の問題です。色々と見慣れない物が多いでしょうが、まずは各武装神姫から送られた戦闘データの解析から入りましょう」

 

 エルナーがそう言うや否や、会議室の画面に幾つもの戦闘データが写される。

 そこにはウィッチ達とこの世界に突然現れたヴァーミス、ワーム、バクテリアンと言った敵達との戦闘の様子だった。

 

「データによれば、501部隊の失踪後、入れ替わるようにネウロイ以外の敵が各所に現れた。これは間違いありませんね?」

「間違いないわ、501の失踪と因果関係があるんじゃないかと思っていたのだけれど………」

 

 エルナーの確認に、淳子が片手を上げてそれを肯定する。

 

「会議の前に皆に話を聞いていて確信したのだけれど、それぞれの部隊に武装神姫達が現れて助言をしなければ、これだけの戦力を集中させる事は不可能だったわね」

「お力になれて光栄です陛下」

 

 圭子が膝の上のサイフォスを撫でながら断言し、他の隊長達も頷く。

 

「問題はそこです。何故、ネウロイ以外の敵がこの世界に現れたのか、そしてなぜ散発的に攻撃してきたのか、武装神姫達はどうしてそれに対処できたのか。この三つが大きな問題点でしょう」

「最後のは妾もイーアネイラに聞いてみた事があるぞ。でも分からないと言いおった」

「実際、何故と言われても答えられないし」

「待て、それはこっちでもそうだったぞ」

 

 ハインリーケが肩のイーアネイラを見ながら発言し、イーアネイラも首を傾げる。

 そこで美緒も発言し、皆がそれぞれの武装神姫を見つめる。

 

「まあ、その点は後回しでもいいでしょう」

「いいのかな?」

 

 エルナーのぶっちゃけた意見に、なんでか武装神姫のマスターだからという名目で会議に参加していた音羽が呟くが、内心賛同する者はいたが、別の問題の方の興味が大きく、誰も気にしなかった。

 

「問題は敵の方です。実際問題として、各部隊が接敵したのは、偵察部隊だと私は推察します」

「つまり、威力偵察?」

「恐らくは」

 

 エルナーの推察にラルが意見、エルナーがそれを肯定したために、室内がざわめき始める。

 

「こちらの戦力を図り、一気に殲滅するつもりだったという訳か。だが、予想外にこちらの戦力集中が早かったために、頓挫した」

「恐らくは。もっとも、殲滅する予定だったのはそちらのウィッチ達ではなくこちらでしょうけれど」

 

 ガランドの解釈にエルナーが補正を加え、室内で頷く者と首を傾げる者が相次ぐ。

 

「しかし、我々はかなりの損害を負ったが、敵勢力の撃退に成功した。殲滅戦という事は、向こうも総力戦だったと考えるのが妥当だと思うのだが」

「それも間違いないでしょう。あちらも戦力のほとんどを消耗したはずです。あちこちの世界からハッキングによる徴収をしているようですが、そうすぐには戦力は補充出来ないと推測されます」

 

 門脇艦長の意見が肯定され、各所で胸を撫で下ろす吐息が漏れるが、幾人かはエルナーの声が緊張状態のままの事に気付く。

 

「待て、そもそもそう簡単にあの有象無象共は乗っ取られるような物なのか? 雑魚もおったが、それなりに手強い連中もいたぞ?」

「確かに。あの紅い悪魔なんて、ほぼ防戦に回るしかなかった」

「コア持ってないのばかりで大変だったし」

 

 皆が口々に意見を出す中、画面に苦戦をしいられた白鯨型ワームが映し出される。

 

「全ての敵が乗っ取られたわけでなく、これに代表されるように、コピーなどで製造された敵もいる模様です。複数種の複合体も確認されてます」

「ちょっと待って。複合体って、私の見た限り、敵はネウロイに似て非なる物だったわ。そんなのを混ぜ合わせる技術なんてあるの?」

「………方法は分かりません。しかし、実在していたのは確かです」

 

 圭子の質問に、エルナーはしばしの沈黙を持って答える。

 それと同時に、一つの画像が映し出される。

 

「あれって、この船?」

「正確には、この攻龍のコピー体です。攻龍が本来いた世界で接敵、交戦したそうです。これは攻龍の同型艦牙龍をベースにし改造された物で、内部にはネウロイ、バクテリアン、ワームの複合型コアが確認されています」

「擱坐した戦車や戦闘艦をベースにしたネウロイは知ってるけど、複合型コアなんて………」

 

 マイルズがかつて交戦経験のある駆逐艦ベースのネウロイを思い出すが、映し出される攻龍・イミテイトの戦闘力はその比では無かった。

 

「それだけではなく、こちらのコピーらしき敵機も確認してるわ。もっともこれはそちらでもあったそうだけど」

 

 ジオールが手元の端末を操作し、攻龍・イミテイトから出てきたコピー体の画像を映し出す。

 

「これって、スオムスで確認されたっていう………」

「ウルスラさんにも見てもらったわ。かつてスオムスで確認された物に比べて、性能は低かったそうだけど」

「恐らくですが、この攻龍のコピー体の建造に労力を注ぎ、他まで手が回りきらなかったのではないでしょうか? 今回の戦闘にしても、大型ばかりでウィッチや他のコピーは確認されてません。殲滅戦を念頭にした、火力重視の戦力だったのではないでしょうか?」

「そう言えば、ウィッチの乗ってない船には攻撃してこなかったと言ってたな。被害のほとんどはウィッチを狙った攻撃の巻き添えか、あのクジラの無差別攻撃による物だった」

 

 ガランドが被害の状況を思い出しながら頷く。

 

「それならば、向こうはほとんどの戦力を出しきったという事ではないのか? 討って出る好機ではなかろうか」

 

 ハインリーケの意見に何人かも同意するが、逆に何人かは難しい顔をする。

 

「問題はそこです。明らかにこれだけの事をした首魁がいるのは間違い有りません。ただ、それがどこにいる何者なのか、それが分からないのです」

「ぬ………そうか………」

「それらしいのは見かけなかったの?」

 

 エルナーの断言にハインリーケが言葉を詰まらせ、圭子が質問する。

 

「それが、全く確認されていないのです。極一部、感知能力が高い人達が何らかの視線を感じているそうなのですが、物理的証拠は何も」

「誰かそんなの感じた?」

「いやそんな余裕無くて」

「妾は何も感じなかったぞ」

「ホントかそれ?」

 

 皆が口々に問いながら首を傾げる。

 そんな中、今まで部屋の隅で無言で話を聞いていたエモン・5がそっと手を上げた。

 

「多分だが、オレはそいつを見た」

『!?』

 

 いきなりの爆弾発言に、全員の視線がエモン・5に集中する。

 

「それは本当ですか!?」

「まあ、見たって程の物じゃなかったが」

「オーナーがこの世界に転移する最中、謎の存在に攻撃を受けたのです。映像映します」

 

 頭をかくエモン・5に代わり、ウェルクストラが自分のメモリーからその時の映像を転送する。

 皆が固唾を飲んでその映像を凝視しようとするが、映し出されたのは不可思議な色合いの空間、そしていきなり現れる光条、画面が不自然に揺れ動き、やがて空間を抜けてどこかの航空基地らしき物へと急降下、つまりは墜落しそうになっている画像へと変わって途切れた。

 

「………今ので何をどう判断すればいいのだ?」

 

 誰もが無言になる中、皆の意見を代表するように美緒が口を開く。

 

「どうって言われてもな。こっちもいきなり攻撃食らって、こいつの先導でどうにか逃げ延びたってだけだし」

「オーナーは悪運だけはあるのです」

「他には? 戦闘データのような物は?」

「跳躍時の不確定な空間だったので、奇妙なエネルギー不和が確認されただけです」

「どうする? 画像解析にでも回す?」

「………一応回して見ましょう。何か映ってるかもしれません」

 

 全くアテにならないエモン・5とウェルクストラのデータに、室内は露骨に呆れた空気が漂う。

 

「結局、まだ裏に黒幕はいるらしいが、どこのどいつでどこにいるか全く分からない、という事か」

「そういう事になります………」

 

 ガランドのぶっちゃけた結論に、エルナーが力なく頷く。

 

「それではどうしようも無いな。実在確認すら取れない敵相手に準戦闘待機と言っても上層部は納得すまい」

「そうでしょうね………」

「事後処理と言っても、何日もおれんぞ?」

「こっちはもう帰還命令きてるし」

「こちらも時間の問題ね………」

 

 ウィッチの各隊長達が首を傾げて唸る中、彼女達のすぐそばから声が上がった。

 

「そんなに時間はかからないよ」

「本陣に帰陣する前に事は終わります」

 

 ハウリンとサイフォスを皮切りに、武装神姫達が次々と口を開き、不思議な事を言い出し始める。

 

「お前もそう思うか、アーンヴァル」

「はいマスター」

「でもそれってどういう事?」

「あれ? どうしてだろ? でもそう思うんだよね」

 

 アーンヴァルとストラーフも似たような事を言い始め、美緒とミーナは思わず顔を見合わせる。

 

「まさかアンタ達全員、バグってるなんて事はないわよね?」

「それはあり得ないマイスター、だが私の中で警告がある」

「つまり、ボスが迫ってるって事か?」

「………そこまでは分かりません、お姉様」

「え~と、それじゃあ一体?」

「何か分かんないけど、何かあるんじゃないかな、オーニャー」

 

 要領を得ない武装神姫達に各マスター達は更に首を傾げる。

 

(やはり、彼女達は………)

 

 ただ、エルナーだけはある確信を得ていたが、心中に潜めておく。

 

「確証は全くありませんが、各部隊とも装備を整えておいてください。何もなければ幸いなのですが」

「武装はこちらで用意致します。必要なだけ申し出てください」

「あの銃、見た事ないタイプじゃが、どこのメーカーのじゃ?」

「ウルスラ・ハルトマンが作ったって聞いたけど」

 

 玉華の申し出に、各隊長達は必要な物資をまとめるために、会議は解散となる。

 

「素直に元の世界に帰れる、とは考えない方がいいのだろうな」

「残念ですが………」

 

 門脇艦長も険しい顔をする中、エルナーは思わず言葉を濁す。

 

「現在、オペレッタが機械化帝国の転移装置を使用して、スリングショットと呼ばれる方法で元の世界に戻れる方法をシミュレートし

ています。戻る分には問題無いはずなんですが………」

「前例があるからな」

 

 ジオールが一度機械化帝国に戻ってからまた転移する、という方法を提示するが、門脇艦長はこの世界に跳ばされた時の事を思い出し、険しい顔のままだった。

 

「悩んでも仕方有りません。攻龍とソニックダイバーの修理には、どれくらいかかりそうですか?」

「機械人達の助けもあって、数日中には完了するだろう」

「カルナダインもあとは最終調整さえ済めば大丈夫です」

「プリティー・バルキリーもそれまでになんとか………」

 

 エルナーはそこでちらりとエモン・5の方を見る。

 背中に背負っていた巨大なキセルで一服しようとして、記録係をしていた七恵に禁煙を告げられたエモン・5へとエルナーは近寄っていく。

 

「一つお聞きしたい事があります」

「ん? なんだい?」

 

 仕方なくキセルを背負い直したエモン・5に、エルナーはある問いを発した。

 

「記録映像はあれだけでしたが、貴方自身は何か見ませんでしたか?」

「何かって言われてもな………本当にいきなりで何が何だか」

「………巨大な歯車を見た覚えは?」

 

 エルナーの一言に、エモン・5の手が止まり、視線が急に鋭くなる。

 

「知ってんのか、あれが何かを」

「やはり、そうでしたか。信じたくはありませんでしたが………」

「エルナー、ではやはり………」

「恐らく、間違い有りません。《機械を統べる者》………」

 

 その言葉を聞いた玉華の顔色が瞬時に変わり、そのただならぬ様子に会議室に残っていた者達が緊迫した空気を漂わせ始める。

 

「その、機械を統べる者とは?」

「………まだ確証が有りません。しかし、恐るべき敵、という事は確かです」

「知っているなら、対処法とかは?」

「それもまだ………正確には、私が知っている物と、同じ状態とは思えません」

「どういう事?」

「何と言えばいいのか………」

 

 ミーナが問うが、エルナーは黙りこんでしまう。

 

「相手は知っている奴かもしれないが、現在の状況は分からない、そう考えればいいのか?」

「そういう事になるでしょう。正直、助言らしい助言すら出来るかどうか」

「知っているだけで充分だ。今まで訳の分からない相手とばかり戦ってきたからな」

 

 美緒の率直な意見に、誰もが思わず苦笑を漏らす。

 

「各自、戦闘準備を怠らないでください。あれは、必ずこちらを狙ってくるでしょう………」

 

 エルナーの言葉に、誰もが無言で頷くしかなかった。

 

 

 


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