スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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EP31

 

「目標殲滅用大型融合体、転移完了」

「複製体先導開始」

「目標勢力、全殲滅開始………」

 

 

 

 まずカルナダイン、次にプリティー・バルキリー、そして攻龍のセンサーが順番に最大級の警報を鳴り響かせる。

 

「超大型転移確認! 地上拠点制圧母艦クラス!」

「ワームホール、質量過多による自壊を確認! なんて質量を転移させてきたんですか!」

「超大型ワームの反応、いえこれは前にも確認されたコピー複合体と思われます!」

「ワームの相当クラスは」

「ランクは…!?」

 

 カルナ、エルナー、七恵の報告が各艦に伝わり、最後の門脇艦長の問に答えようとした七恵が、その場で絶句する。

 

「どうした、相当クラスは?」

「ク、クラスは………AAAです………」

「AAAだと!?」

 

 嶋副長が再度問いかけると、七恵は引きつった声で報告し、それを聞いた冬后が思わず大声を上げる。

 

「艦長、AAAクラスと言えば………」

「………アメリカが本土の半分と引き換えに殲滅したクラスだ」

 

 かつてのワーム大戦を潜り抜けた者達ですら、情報でしか聞いた事のない強敵に、攻龍のブリッジ内が鳴り響く警報をそのままに静まり返る。

 

『こちら大和、アーンヴァル! 大和の方で先程来た敵情報の正誤を確認してほしいそうです!』

「あの、艦長………」

「すぐに分かる。全火器の準備をするように進言しておこう」

「了解。こちら攻龍、先程の情報は…」

 

 タクミが大和に通信を入れる中、門脇艦長は改めて軍帽を深くかぶり直す。

 その頬を、冷たい汗が一筋流れていった。

 

『こちらガランド、なんだこのふざけた数値は』

『あの、間違いありません………』

「ガランド少将、全ウィッチ及び全艦艇をこちらの示す安全圏まで退避。全対空火器を持って撤退を援護。大和を通じて、全艦に艦内退避を連絡。N2弾頭ミサイル、発射準備」

「え………」

「艦長、しかし」

「急げ」

「り、了解」

 

 今の今まで使用を禁止していた無差別破壊兵器の使用命令に、七恵は思わず手が止まり、嶋副長も問い返そうとするが、門脇艦長の有無を言わさぬ口調に、七恵は即座に準備に取り掛かる。

 

「ソニックダイバー隊、大至急攻龍まで退避! G、ウィッチ、光の戦士、トリガーハート、武装神姫の人達も早く安全圏へ!」

『N2兵器をこの時代で使用する気ですか!』

「幸い、ここは大西洋の中央部だ。被害は少なくて済む」

 

 門脇艦長のとんでもない作戦に、エルナーは異を唱えるが、門脇艦長はあくまで淡々と状況を説明する。

 

『ですが、全く無いわけではありません!』

「我々の世界では、北米大陸の半分と引き換えだった」

『そこまで………そんな物がこの世界で暴れたら………』

「こちらの世界を、私達の世界の二の舞いにさせるわけにはいかん」

「全安全装置解除、発射準備態勢に入ります!」

『やむを得ません………ユナ! ポリリーナ! すぐにプリティー・バルキリー内に!』

『全ウィッチに通達、各武装神姫の指示に従い、安全圏まで退避の後、手近の艦内にて対ショック体勢。今度は今度で何だこのふざけた危険域は?』

 

 総員退避の指示に、戦闘を中断させた少女達が大慌てで手近の艦内へと退避していく。

 

『一つだけ伺います。N2兵器使用による、敵の殲滅確率は幾らくらいですか?』

「不明だ。さすがに大陸を半壊させる程の弾数は無い」

『概算ですが、この世界への影響を最小限に抑えるには、一発が限度でしょう。もしそれで倒せなければ………』

「発射準備完了です!」

「総員艦内退避完了しました! 現在全艦が安全圏まで全速航行中! 残存敵勢力はAAAクラスワームに集結を開始!」

 

 エルナーが最悪の事態を口にする前に、七恵とタクミの報告がそれを遮る。

 

「目標の進行速度は?」

「約12ノット! 質量が巨大過ぎて、それ以上速度が出ない模様!」

「島がまるごと一つ動いてるようなモンだ。動くだけで小型艦は転覆するな………」

 

 冬后がゆっくりと、だが着実に迫ってくるAAAクラスに、そんな皮肉を言いつつ、ソニックダイバー隊の帰艦を確認。

 その顔には、深刻な焦りが浮かんでいた。

 

 

 

「目標確認! 測距開始!」

「測距開始!」

 

 攻龍から来たデータを元に、大和の観測班が肉眼とレーダーで目標となるAAAクラスワームを観測していく。

 

「測距終了と同時に艦内退避! 急げ!」

「班長………自分は目がおかしくなりそうであります」

 

 作業を急がせる観測班の班長に、測距儀を覗いていた若い兵士が声を震わせる。

 

「あれは、本当に敵なのですか?」

「貴様、何を言っている! 敵以外の何だと言うのだ!」

「………」

 

 怒鳴り返す班長に、測距儀を覗いていた兵士は無言で手招きして測距儀を指さす。

 

「何だ、と………」

 

 それを覗きこんだ班長は、測距儀に映し出される敵影と、観測された相対距離、そしてそこから概算される敵のスケールが、今まで見た事も無いような巨大さである事に気付き、絶句する。

 

「デカい、デカ過ぎる………」「班長………」

「何をしている!」

 

 そこへ、扉を破るような勢いで美緒が観測室に飛び込んできた。

 

「さ、坂本少佐!?」「なぜここに!」

「決まっている!」

 

 扶桑有数のウィッチの突然の乱入に観測班が驚く中、美緒は敵の見える位置まで駆け寄り、眼帯を引き剥がすように外し、魔眼を発動させる。

 

「何という巨大さだ………あんな物まで投入してくるとは………観測データは全てブリッジに送れ! そしてすぐに艦内退避! 急げ!」

「り、了解!」

 

 美緒の号令に、本来指示下に無いはずの観測班の班員達が大慌てでデータをまとめていく。

 

(もし、攻龍の切り札が通じなかった場合、我々は、アレに勝てるのか?)

 

 一抹の不安を胸中に隠しつつ、データを送り終えた観測班の最後に続いて美緒は艦内へと戻る。

 

「いや、勝たねばならんのだ。何をしても………!」

 

 覚悟を決めた美緒は、ブリッジへの道を急いで戻っていった。

 

 

 

「一体何事だ! 今いい所だったんだぞ!」

「私達だけじゃないわ、総員どころか全艦に艦内退避が出てるみたい。敵もなんでか一斉に退いてくし」

 

 手近のプリティー・バルキリーに退避したマルセイユが文句を言う中、圭子が周辺の様子を確認しながら呟く。

 

「攻龍がN2兵器の使用を決断したそうよ」

「N2兵器? 聞いた事ないわね」

「窒素使用型爆発兵器の通称の事です」

「非核反応兵器として開発されましたが、威力が過大過ぎる故、極めて慎重な使用が前提となります」

 

 ポリリーナが深刻な表情で呟き、美佐が首を傾げるが、そこにサイフォスと紅緒が説明をする。

 

「威力が過大って、どれくらい?」

「最低でも、半径5kmは効果範囲となりえます」

「5km!? そんな物使う気なの!?」

「あの門脇艦長が使用を即断したって事は、それほどの敵って事ね………」

 

 圭子が思わず仰天する中、ポリリーナは別の事を思案していた。

 

「有効半径5km………そんな物、早々使えないわね。ソニックダイバー隊の人達の世界地図が変わったのは、それの過剰使用だって聞いてるし」

「あの、それは一体どういう………」

「全員乗った!? 衝撃波が来る可能性があるから、しゃがむか何かに掴まって!」

 

 ミーナが攻龍内部で見せられた世界地図を思い出しながら呟き、思わずそばにいた真美が問おうとするが、そこへ最後に退避してきたミサキが叫び、全員が慌てて対ショック体勢を取り始める。

 

(もしこれで倒せなかったら、他に打つ手はあるの?)

 

 ミサキもしゃがみながら両手で頭を挟むように覆いながら、考えてはいけない事を考えていた。

 

 

 

「急いで! 弾薬の退避はもういいわ!」

「搬入エレベーター閉鎖!」

「隊長も中へ!」

 

 グラーフ・ツェッペリンの甲板から、撤退していく敵に追い打ちの砲撃を放ちつつ、フレデリカとマイルズの指示で陸戦ウィッチ達が艦内へと退避していく。

 

「これで最後です!」

 

 物資の搬入を手伝っていたエグゼリカがアンカーで残った物資をまとめて最後の搬入エレベーターへと乗せ、閉鎖を確認していく。

 

「一体何が起きるっての!? この過剰な防御措置は!?」

「説明してる暇はありません! N2兵器なんて本来大気圏内で使う兵器じゃないんです! 早く貴方も艦内に!」

 

 説明を求めるフレデリカに、エグゼリカが状況説明だけして退避を促す。

 

「貴方は!?」

「カルナダインに戻ります! トリガーハートの私なら、十分に間に合いますし、この距離なら単艦フィールドでも防げる計算ですから!」

「あ、あの!」

 

 カルナダインに帰艦しようとしたエグゼリカに、艦内退避したはずのシャーロットが声をかけてくる。

 

「先程は、助けてくれてありがとう………」

「いえ!」

「エグゼリカ! 後で話したい事が色々あるから! 後でね!」

「隊長、急いで!」

 

 礼を言うシャーロットに続けて、マイルズもエグゼリカに声をかけるが、フォートブラッグに促されて、手を振りながら扉を締める。

 

「後で、か………」

 

 こんな状況にも関わらず、エグゼリカは微かに笑みを浮かべると、カルナダインへと全速力を出して戻っていった。

 

 

 

「艦内退避!?」「え~と、どれに?」

 

 都合最も遠い位置にいた502・ブレイブウィッチーズが、突然の艦内退避の通告に慌て始める。

 

「艦内退避どころか、艦隊その物の退避が始まっているぞ」

「マスター、私達も急ぎましょう!」

 

 ルーデルもただならぬ事態を確信するが、運悪く艦隊の退避方向は、その場にいるウィッチ達の進行方向と同じだった。

 

「もっと速度上げなさい! 間に合わないわよ!」

「これで全速だ!」「いや~、速いね君」

 

 フェインティアが転送されてきた撤退範囲に自分達がぎりぎりのラインにいる事にいらだつが、直枝とクルピンスキーに怒鳴り帰される。

 

「マイスター、このままでは作戦に支障を来たす可能性がある」

「わかってるわよ!」

「使用される兵器がどのような類の物かは分からないが、我々のシールドで防げない物かか?」

「この距離なら可能かもしれませんが、推奨はしかねます」

「私のシールドはほとんど役に立たないぞ」

「もしもの時は、私がマスター一人くらいなら」

「ルーデル司令、ラル隊長、私達が着艦できそうな艦艇は優先的に退避した模様です! どうします!?」

 

 各武装神姫とそのマスター達がどうにか出来ないかを話し合うが、ポクルイーキシンはすでにウィッチが着艦可能な空母は撤退しているらしい事に慌て始める。

 

「一番近い空母は?」

「あそこ、おそらくリベリオンのワスプですが、ウィッチ対応ではありません!」

「この際構わない。総員、ワスプに全速力で…」

「もっといい手思いついたわ」

 

 ルーデルの号令でワスプに向かおうとするウィッチ達に、フェインティアがある事を思いつく。

 

「全員、手でも足でもいいから繋いで」

「?」「一体何を…」

「ガルクアード!」

 

 飛びながらも訳が分からず、一応空いている手を繋いだウィッチ達にいきなりフェインティアがアンカーをブチ込む。

 

「あう!?」「ニパさん!」「な、何を…」

「そのままシールド張ってなさい! ガルクアード、フルスイング! リリース!」

 

 訳がわからないウィッチ達に説明もせず、フェインティアはそのままウィッチ達を超高速でスイング、一気にワスプへと向かって投じた。

 

「あれええええぇぇ!」「過激だな~」「後で覚えてろ~~~~!」

 

 悲鳴やぼやき、怒号をドップラー効果で響かせつつ、ウィッチ達は一塊となって半ば叩きつけれるようにワスプへと着艦、というか墜落していった。

 

「よし、私達もカルナダインへと戻るわよ」

「マイスター、いささか過激だったのでは?」

「ウィッチって案外頑丈だから大丈夫でしょ」

 

 ムルエルティアもさすがに呆れる中、フェインティアは全速力でカルナダインへと向かっていった。

 

 

 

「N2兵器!? 本当に使う気なのですか!」

『艦長の判断だ』

「門脇艦長はこの世界をあちらの世界の二の舞にするつもりですか!」

 

 攻龍格納庫のコンソールに向かって、普段の雰囲気から考えられない激しい口調でジオールが声を張り上げるが、コンソール向こうの冬后は険しい顔をしたまま淡々と事実のみを述べていた。

 

「あちらの世界って?」

「え~と、何て言えば………」

「仮定因果律線上の一つに存在し得る世界、その一つから私達も来ました」

 

 淳子の問に音羽がどう答えるべきか悩むが、代わりにハウリンが答える。

 

「そう言えばそのような事をイーアネイラも言っておったな。何の事やらさっぱりじゃが」

「あらあら、難しかったかしら?」

 

 ハインリーケも最初に武装神姫から言われた事を思い出したが、それを正確に理解出来るウィッチは皆無と言っていい状況でもあった。

 

「それにしても、そんな物騒な物この船に積んでらしたとはね」

「私達の世界でも、未開惑星の開拓用くらいにしか使用用途がない代物です。それも星間条約で今や使用禁止ですが」

「何言ってるか全然分からんな」

 

 エリカとエリカ7もさすがに顔を曇らせる中、ただ一人義子だけが我関せずと言った顔で格納庫に運び込まれた兵糧のおにぎりを貪り食っていた。

 

「あのマスター、衝撃に備えてあまり食べない方が…」

「お腹空いたら戦えないだろう」

「そんくらいにしとけ! 全員乗ったな!? 閉められる所全部閉めろ! 内壁によってしゃがんどけ!」

 

 まだおにぎりにがっついている義子をアルトレーネが止めようとするが、大戸が半ば強引に壁際まで引きずっていく。

 

「おやっさん! ソニックダイバー固定終わりました!」

「各重火器も固定したで!」

「弾薬ケースも固定終わったで!」

「お前らも体を固定するかしがみつけ! 倒れてきそうな物のそばにはよるな!」

『全艦、退避を確認。最終安全装置解除、N2弾頭ミサイル、発射まで30秒』

「対ショック体勢!」「こ、こう?」

 

 大戸の声に、七恵のカウントダウンが重なり、瑛花が叫びながら率先して両手で頭を覆いながらしゃがみ、音羽達もそれに続く。

 

「RV全機、ショックアブソーバー最大!」「ティタもご飯食べる」「後で後!」

「一体どんな兵器使う気!?」「知らぬ!」「むぐ! お茶!」「マスターも早くしゃがんで!」

「20………15………10」

 

 天使達やウィッチ達もそれに続いてしゃがんだり何かにしがみついたりする中、カウントダウンは進んでいった。

 

 

「全エアロック閉鎖、艦内セーフティーシステム最大」「攻撃目標まで約10km、危険範囲内オールクリア」

「さて、一体何を見せてくれるのやら」

 

 カルナとブレータの報告を聞きながら、ガランドは顔は嬉しそうに、だが目だけは鋭く映しだされる攻龍の様子を見つめていた。

 

「N2弾頭ミサイル、発射確認」「遮光補正入ります」「ほう、艦載型の噴進弾か」

「着弾まで5、4、3、2、1、着弾」

 

 噴煙を上げて飛んで行く巡航ミサイルを興味深そうに見ていたガランドだったが、目標に命中と同時に湧き上がる巨大な噴煙に、さすがに絶句する。

 遅れてきた衝撃波に、カルナダインの艦体が揺さぶられた。

 

「こんな距離まで揺れるのか………」

「ご主人様、この船は大分揺れが抑えられてます」

「下を見ればそれはなんとなく分かる、だが、あんな代物を使っていれば、世界まで壊してしまいそうだがな」

「実際、彼らの世界はそうなりかけたそうです」

「ふん、リベリオン辺りの馬鹿共が真似しそうで怖いな」

 

 ウィトゥルースとブレータからの報告を半ば聞き流しつつ、ガランドの目は今だ爆煙の残る画像のみを凝視していた。

 

「………ネウロイの巣ごと吹っ飛ばせそうな威力だが、果たしてどうなった?」

「現在再スキャンによる戦果を確認中………質量確認! 目標はまだ現存!」

「燃えカスではないのか? 島一つが消し飛ぶとは思えんぞ?」

「いえ、エネルギー数値は低下も、十二分に活動範囲内。再行動を確認しました」

「ご、ご主人様………」

「落ち着けウィトゥルース。まだ倒せないと決まったわけではない」

 

 カルナとブレータの報告に、ウィトゥルースは怯えるが、ガランドは怯える武装神姫の頭を撫でると即座に号令を飛ばした。

 

「大和に連絡! 全艦砲撃を!」

 

 

 

「カルナダインからの報告! 目標は今だ健在! 再活動を再開したそうです!」

「馬鹿な! N2弾頭の直撃だぞ! 破壊出来なくとも、活動不能くらいには十分出来るはずだ!」

「し、しかし…」

「目標はただのワームではない。そうなる可能性もあったという事だ」

 

 タクミの報告に、嶋副長が思わず声を張り上げるが、門脇艦長は淡々と現実を受け止める。

 

「大和から入電! 目標に一斉砲撃を開始します!」

「N2兵器で止められなかった物が、この時代の兵器で止められるとは思えんが………」

「だが、撤退すればアレにこの世界が蹂躙される。それを看過する訳にいかん」

 

 攻龍ブリッジ内の焦りを掻き消すように、周辺から一斉に砲声が鳴り響き始めたのは、その直後の事だった。

 

 

 

「撃て! 撃て!」

 

 集結した艦隊の中でも、最大の砲を持つ大和の46cm砲を皮切りに、居並ぶ各国の戦艦が一斉にAAAクラスワームへと向けて砲声を轟かす。

 

「目標に着弾確認!」「予備の弾薬も惜しむな! 数値が本当ならば、今まで確認された事も無い超大型だ!」

「測距班から連絡! 砲煙で目標との正確な距離の測定が困難との報告!」

「概算で構わん! 砲撃を途切れさせるな!」

 

 矢継ぎ早の報告に砲撃指示が飛び交い、大和のブリッジは蜂の巣を突付いたかのような騒ぎとなっていた。

 

「アーンヴァル、目標の動きは?」

「………信じられませんが、動きは遅くなってますが、こちらに向かってきています」

「これだけの砲撃を受けながらか」

「はい、エネルギーの活性化が確認出来ます。恐らくは攻撃を受けながら再生してると………」

 

 大和のブリッジ内で険しい顔をした美緒に、アーンヴァルはカルナダインや攻龍から送られてくるデータを元に、信じられない、というよりも信じたくない事実を淡々と告げる。

 

「なんという奴だ、一体何隻の戦艦の砲撃を受けているかも分からないというのに」

「マスター、物理攻撃による破壊は困難かと………」

「つまり、あれを倒せるとしたら、我々だけという事か。だが、どう戦えばいい?」

 

 自分の長い戦歴でも、前例の無いような巨大な敵に美緒もどう手を打つべきかを見いだせずにいた。

 

 

 

「これほどの攻撃でもだめか………」

「旧型とはいえ、艦砲射撃の集中砲火を食らっているのに平然と進んでくるとは………」

 

 宮藤博士とエルナーが、プリティー・バルキリーのブリッジで各艦から送られてくるデータやこちらでの精査も加えて、相手の異常さを確認させられていた。

 

「目標の質量に変化はありますが、一定以下の数値になってませんね。砲撃を受けながら再生している、と見るべきでしょう」

「ネウロイとは比べ物にならない再生能力だ。しかも再生速度が全く落ちていない」

「内包されているエネルギーも桁違いなのでしょう。通常物理攻撃では破壊はほぼ不可能かと………」

「だとしたら、取れる手段は」

「構成しているナノマシンシステムその物の破壊。しかし、ソニックダイバーのクアドラロックでも、あの質量は………」

「他に手はないのか?」

「何か、何かあるはずです。きっと何かが………」

 

 宮藤博士とエルナー、二人共、その持てる限りの知識を持って、必死になってあまりにも強大過ぎる敵の妥当方法を模索していた。

 しかし、その答えはなかなか導き出せないでいた………

 

 

 

 

「艦長! 残弾がもうほとんどありません!」

「砲撃一時停止! 目標は!?」

「まだこちらに向かってきています!」

「何という奴だ………」

 

 大和のブリッジ内で、杉田艦長は持てる限りの火力を叩き込んだにも関わらず、相手の動きを止める事すら出来ない事に歯噛みする。

 

「やはり、魔力を持って攻撃するしかなかろう」

「だが坂本少佐、あの巨大さだ。ウィッチの攻撃ですら、ダメージを与えられるかどうか………」

「艦長! 作戦本部から、ウィッチ隊の再投入指示が来ています!」

「現状ではウィッチ達を危険に晒すだけだ! 何か、何か手は………」

「アーンヴァル、機械化惑星に連絡! ミラージュキャノンはまだ使えないのか!」

「今問い合わせます!」

「それまで、時間を稼ぐしかない………!」

「ま、待って下さい少佐! さすがにもう魔力的にも体力的にも…!」

 

 予備の回復ドリンクを掴み、美緒が出撃しようとするのを必死に土方が止める。

 

「どけ! 今戦わなければ、この世界に未来は無い!」

「勝機の無い戦闘を避けるのも戦いの内です!」

「そうですマスター! ここには多くの仲間の人達がいます! きっと何か方法を考えてくれるはずです!」

「その時間があるかどうかなのだ!」

 

 土方とアーンヴァルが必死になって美緒を止める中、同様の事は他の艦でも起きていた。

 

 

「エルナー、こうなったらエルラインで!」

「それも考えました。しかし、明らかに接近している目標からは闇の力は感じられますが、基本はワームをベースとした機械的融合体です。エルラインでは闇の力を封じる事を出来ても、物理的に破壊する事は困難でしょう」

「でもでも、このままじゃ芳佳ちゃんの世界が無茶苦茶になっちゃうよ!」

「今ありとあらゆる可能性を検討しています。何か、手はあるはずです!」

 

 ユナが無理をしてでも出撃しようとするのをエルナーが押し留め、エルナーが中心となって宮藤博士とエミリーやウルスラも一緒になって打開策を検討していた。

 

『ユナ殿、もう少し、もう少しで永遠のプリンセス号とのリンクが可能となる!』

『ミラージュキャノンならば、あるいは…!』

 

 通信越しに剣鳳や鏡明もあれこれ急いで指示を出していたが、その間にも目標はゆっくりとこちらに迫ってきていた。

 

「エルナー、対処法の検討を続けて」

「思いつくまでの時間、稼がないとダメのようね………」

 

 最早一刻の猶予も無いと判断したポリリーナとミーナが、勝ち目が無くても出撃する決意を決めた時だった。

 

「攻龍から緊急連絡! これは…」

 

 

 

「僚平! ゼロを出して!」

「バカ言うな! AAAクラスだぞ! 幾らソニックダイバーでも相手出来るレベルじゃねえ!」

「でも!」

「オーニャー、落ち着いて落ち着いて」

 

 出撃しようとする音羽を僚平とヴァローナが止めようとする。

 

「はいひょうぶ! わたひたひもてつだうから!」

「亜乃亜、飲んでからにして」

 

 何を思ったのか、おにぎりと回復ドリンクを片っ端から口に突っ込んでいる亜乃亜が、咀嚼しながら何かを言うが、エリューがたしなめつつも更にドリンクを渡して口の中の物を飲み込ませる。

 

「RV全機でドラマチックバーストを撃ちまくれば、何とかなる! 皆も早く!」

「無理、データ上の再生速度とD・バーストの破壊力を比較しても、私達全機でも足りない」

「やってみなければ分からないよっ!」

「そうだそうだ!」

「けれど、もし効かなかったら、私達は全滅するわ」

「私も計算してみました。クアドラロックでも、破壊は90%以上不可能です」

「でもこのままじゃただやられるの待つだけじゃん!」

「確かに、討って出て何か手を…」

「手はある」

 

 皆の意見が真っ二つに別れる中、突然響いた声に全員が振り向く。

 そしてそこにいた予想外の人物に、唖然とした。

 

「アイーシャ!?」

「その格好………」

 

 そこにはモーションスリット姿のアイーシャが佇み、完全に臨戦態勢を取っていた。

 

「おい、シューニアが出撃するなんて聞いてないぞ!」

「そんな命令は出ていない。私は私の判断でここに来た」

「アイーシャ、手って何かあるの!?」

 

 大戸ですら慌てている中、音羽はいの一番にアイーシャの言っていた事に反応する。

 

「ペンタゴンロック」

「ペンタゴン………ロック?」

「それは、まさか………」

 

 アイーシャの発した言葉に、ある事を思いついた可憐が急いでブリッジに通信を繋ぐ。

 

「こちら可憐、今格納庫にアイーシャが来て、ペンタゴンロックを使うって………」

『アイーシャ!? 本気なの!?』

 

 可憐の問に、真っ先に周王が上ずった声を上げる。

 普段の彼女から考えられない狼狽ぶりに、可憐はある確信を持った。

 

『ペンタゴンロック? そんな物は聞いていないが』

『………これを』

 

 周王が送ってきたデータを、ブリッジと格納庫の全員が凝視する。

 

『ソニックダイバー四機によって発生させるクアドラロックの更に上位フォーメーション。シューニアを加えた五機によりクアドラロックよりも広範囲、大質量のワームに対処出来ます。理論上ならば、AAクラスでも殲滅が可能です』

「そんなにいいのあったの!?」

「………私達も今初めて聞いたわ」

 

 亜乃亜が喜色を浮かべるが、瑛花はむしろ深刻な表情をしていた。

 

「無理だよ! アイーシャは戦える体じゃないし!」

「ティタもそれ聞いた」

 

 エリーゼが真っ向から反対し、ティタも頷く。

 

『それもあるけど、それ以前にこれはまだ理論計算段階、実際の威力や成功率はまだまだ不確定要素が多過ぎるわ。それに、AAAクラスまで対処出来るかも不明なのよ………』

「けれど、他に方法は無い」

「……………」

 

 周王が次々と問題点を提示するが、アイーシャは淡々と、だがしっかりとした口調で断言。

 格納庫も、ブリッジにも僅かな沈黙が訪れた。

 

「その成功率、私達の事も入ってるのかしら?」

『いや、それは………』

「あら、この香坂 エリカとエリカ7もお忘れなく」

 

 沈黙を破ってジオールが手を上げ、エリカもそれに続く。

 

「カルナダインやプリティー・バルキリーにもこの事教えて! 不確定要素があるなら、皆の力を合わせれば!」

『………全艦にペンタゴンロック使用の助力を打電』

『わ、分かりました!』

『艦長! しかし…』

「ゴメン紀里子。けど、私は戦う。音羽達と一緒に」

『………説明は私がします。繋いで』

 

 最後まで反対していた周王だったが、アイーシャ自身が頑として譲らない事に、覚悟を決めた。

 

「ようし、ソニックダイバーの固定解け! ありったけの装備用意!」

「了解!」

「回復アイテムを全員使って! 何としてもペンタゴンロックを成功させましょう!」

「この私が引き立て役というのは気に入りませんけど、譲って差し上げますわ。行きますわよエリカ7」

『はい、エリカ様!』

 

 格納庫内に湧き上がる熱気は、次々と他の艦にも移っていった。

 

 

 

『以上が、ペンタゴンロックの詳細です』

「確かに、これなら………けど」

「不確定要素が多過ぎね。こんなの作戦とも言えないわ」

「私も同意見だ、マイスター」

 

 カルナダインのブリッジで、周王の説明を聞いたクルエルティアが不安げに頷き、フェインティアとムルメルティアは真っ向から否定する。

 

「でも、他に方法は…!」

「端的に言えば問題点は三つ。一つ、まだ理論段階で練習すらしていない。二つ、相手が幾らなんでも大き過ぎる。そして三つ、そのソニックダイバー隊とやらの五人目は戦える体じゃないから、一発で成功させなくてはならない。以上だな?」

 

 エグゼリカも不安げな顔をするが、コンソールに陣取っていたガランドが指を一本ずつ立てながら問題点を指摘する。

 

『その通りです。確かにこれは作戦とはとても………』

「ふふ、ふふふふ………」

 

 周王も表情を暗くするが、何故かそこでガランドの口から笑いが漏れ始める。

 

「少将?」

「面白い! 今まで色んな作戦を見てきたが、ここまでの大博打は初めてだ! いいだろう、全ウィッチがサポートしてやる! 根回しは得意だ!」

 

 いきなり破顔しながら賛成するガランドに、トリガーハート達はあっけに取られる。

 

「あの、ご主人様?」

「全統合戦闘航空団にソニックダイバー隊の援護を指示! 武装神姫にも連絡!」

「分かりました」

「さて、では行くか。お前達も早く!」

「待って下さい少将、貴方も出撃する気ですか!?」

「上がりとは言え、この作戦、一人でもウィッチは多いに越した事は無い。行くぞウィトゥルース」

「でもご主人様、指揮は?」

「現場で取る。通信は繋いでおいてくれ」

「あの、これは………」「姉さん、どうしよう?」「ウィッチってこんなのばっかりね」

 

 まさかの展開にトリガーハート達も呆気に取られる。

 だがガランドが壁に立てかけておいたMG42Sを手に取った所で、ふと何かを思い出しかのように振り返る。

 

「そうだ、一つ提案がある」

『なんでしょうか?』

「作戦名だ。作戦名は………オペレーション・スーパーノヴァ」

 

 

 

『オペレーション・スーパノヴァ発動! 全ウィッチに出撃命令! 繰り返す、全ウィッチに出撃命令! 作戦詳細は各武装神姫に順次転送する!』

「作戦名が超新星とは、言い得て妙と言うべきか、いささか無謀と言うべきか………」

「まさか、ソニックダイバー隊がそんな奥の手を持ってたとはね。こちらでも全面にサポートしないと」

 

 エルナーが送られてきたオペレーション・スーパーノヴァの概要に目を通しながら呟き、宮藤博士もそれを元に修正点の検討に入る。

 

「とにかく、相手の能力がまだ未知数です! ソニックダイバー隊は後方に待機し、トリガーハート達で威力偵察を行って下さい!

 次にRVによる波状攻撃、効果如何によっては更に光の戦士達とウィッチ達による一斉攻撃に移ります! 武装神姫達は戦況をリアルタイムで送信、作戦内容の変更は順次行います!」

『了解、TH32 CRUELTEAR、出撃!』『TH44 FAINTEAR、出るわよ!』『TH60 EXELICA、出撃します!』

 

 オペレーション・スーパーノヴァの開始を告げるように、三機のトリガーハートが、高速でAAAクラスワームへと向かって超高速で出撃していった。

 

 

「なんて大きさ………侵食コアよりも大きい………」

「こんな物重力下で運用するなんて、正気の沙汰じゃないわね。ま、元々まともな連中でもないようだけど」

「姉さん、30秒後に攻撃有効範囲に入ります」

「私が正面、フェインティアが右、エグゼリカが左、目標の詳細データをスキャンして順次カルナダインに転送しつつ、攻撃開始…」

「待った、目標に動き有り!」

 

 クルエルティアがサイティングしようとするが、そこでムルメルティアが叫ぶ。

 視界に捉えたそれは、表面が無数の砲撃で歪になった動く島としか言い様のない巨大な物で、体の半分近くを水中に沈めて尚、展開しているどの艦よりも大きかった。

 そのAAAワームの前方、開いていく事によってようやくそれが口らしいと気付いたトリガーハート達の前に、見覚えの有る真紅の影が飛び出す。

 

「やっとうざったい花火が終わったようね」

「イミテイト!」

 

 それがフェインティア・イミテイトだと気付いたフェインティアが瞬時にガルトゥースをサイティングする。

 

「相手してあげてもいいけど、その前にちょっとやってほしい事があるのよね~」

「何か知らないけど、聞くと思ってるの!?」

「聞いてもらえるわよ、何せあの中、狭くってね~」

「狭い?」

「マイスター! 目標内部に多数の反応! 総数計測不能!」

 

 ムルメルティアの言葉に、トリガーハート達はAAAクラスワームに再度目を向ける。

 AAAクラスワームは見た目にはゆっくり、その実はあまりの巨大さ故に認識しきれない速度で体を再生させながら、口を更に大きく開いていく。

 その口腔内に、先程まで戦っていた多種の敵性体がおびただしい数でひしめいていた。

 

「こ、これはまさか強襲空母!?」

「姉さん!」

「それじゃあ、ちょっとこの子達の相手してくれる!」

 

 フェインティア・イミテイトの声を合図にするように、無数の敵が、一斉に吐き出されていった。

 

 

 

「AAAクラスワームから多数の敵出現! 分類はワーム、ヴァーミス、バクテリアン、ネウロイ、コピー体と思われる物も多数! 数はどんどん増えてます!」

「まだそれだけの手駒を持っていたのか!?」

「何て奴だ………」

 

 七恵からの悲鳴のような報告に、嶋副長と冬后が驚愕のうめきを漏らす。

 

「トリガーハート交戦開始! RV隊もそれに合流! ウィッチ、光の戦士も順次交戦状態に入ってます!」

「ソニックダイバー隊は後方に待機。一機でも欠ければ、作戦は成功しない」

「ガランド少将に連絡! 護衛のウィッチをソニックダイバー各機につけてもらえるように!」

 

 門脇艦長と嶋副長の指示が飛び交う中、攻龍のブリッジからも無数の敵との乱戦の様子が見えてくる。

 

「これを全部落とさないと、とてもフォーメーションには入れません………」

「幸い、ほとんどが小型のようです。皆さんに頑張ってもらうしかないでしょう」

 

 周王が低い声で淡々と告げるが、緋月は表情も変えずに戦況を観察していた。

 

「あ、AAAクラスワームのスキャンデータ来ました! 全長約1000m、形状は………これは、クジラ?」

「どんなクジラだ!」

「形状から見て、シロナガスクジラの外見に類似してるようです」

「文字通りの白鯨か」

「嫌味のつもりか、偶然か………」

 

 著名な文学作品を彷彿させる白鯨型ワームに、艦長、副長共に渋い顔をする。

 

「戦況はどうなっている」

「乱戦状態です。敵味方入り乱れて、どちらが優勢かどうかはまだ………」

 

 

 

「たああぁぁ!」

 

 気合と共にユナがマトリクスディバイダーPlusを一閃、接近していた小型バクテリアンが両断されて爆散する。

 

「まだまだ来るですぅ!」

「どこからこんなにかき集めてきてんのよ!」

「全員、そこで防衛線を維持して!」

 

 更に押し寄せてくる各種の敵の大群に、ユーリィと舞が声を上げる中、ポリリーナの指示で光の戦士達はライン上に並びながら奮戦していた。

 

『機動力に劣るライトニングユニットでは乱戦は不利です! 皆さんはそこでソニックダイバーに接近する敵を一体でも多く撃破してください!』

「分かったよエルナー! 音羽ちゃん達を守ればいいんだね!」

『端的に言えばそうなりますが………』

 

 俄然やる気のユナがマトリクスディバイダーPlusをガンモードにして連射しまくる。

 

「なにか~~~いっぱい~~来ましたけど~~~」

「見れば分かるわよ! 喰らえ~! 爆光球!」「フラワーミスト!」「レクイエム!」「放電!」「スタンオール!」

 

 押し寄せてきた大群めがけて、光の戦士達が状態異常攻撃を一斉発射、動きが鈍った所に他の光の戦士達の一斉攻撃でトドメを刺していく。

 

「そのままフォーメーションを維持して!」

「無理はしないで! ここが最終防衛線じゃないわ!」

 

 誰かに敵が集中しそうになると、テレポート能力を持つポリリーナとミサキが転移して増援するというフォーメーションを確立させ、光の戦士達は善戦していた。

 

「ふ、この私が露払いとは………」

「エリカ様、敵が多過ぎます」

「ここは数を減らす事が第一です!」

「分かってますわ、主役は彼女達に譲りましょう。さすがにあの巨大さは…」

 

 エレガントソードで敵を次々落としていくエリカのぼやきに、両脇にいたミドリとミキがたしなめる。

 だがそこで、エリカはふとある事に気付いた。

 

「あのクジラ、あの場から動いてない………?」

 

 ささいな疑問が、後々大事な意味を持つ事に、まだ誰も気付いていなかった。

 

 

 

「はっはっは。これはいい! 勲章が幾ら有っても足りんぞ!」

「え~、あんなの邪魔なだけじゃん」

「そうでもない、アレと引き換えに皇帝は何でも聞いてくれるぞ」

「皆さん、勲章を何かと勘違いしてませんか?」

 

 マルセイユ、ハルトマン(姉妹)、ルーデル、ハイデマリーのウィッチ4トップが揃うという前代未聞の状態に、周囲のウィッチ達は唖然としていた。

 彼女達の行く先の敵はことごとく駆逐され、交戦していたウィッチ達は思わず道を譲る程だった。

 

「すごい絵ね………」

「このまま任せておいてもいいかもね」

「ええ、でも………ってガランド少将!?」

 

 やや後方で戦況を確認していた圭子だったが、そこで隣にガランドが来た事に仰天する。

 

「後方で全体指揮してるはずじゃ………」

「前線で全体指揮に変えたまでだ。誰か手空きのウィッチに弾薬を用意させておけ。あれだとすぐに切れるぞ」

「こちらにあります!」

「準備は万端です」

 

 ガランドに言われるまでもなく、ありったけの予備弾薬や予備の銃火器を持っている真美とライーサが我先に敵機を撃墜していく4トップを見ていた。

 

「あのハルトマン姉妹の新型、なかなかの性能だな」

「でもあの火力はどちらかと言えば一点突破型で、殲滅戦向きではないかと」

「他の部隊も頑張っているようだな。502は少し下がれ、506もだ。陸戦部隊の援護と協力を」

 

 魔眼で戦況を確認しながらガランドは指示を出していく。

 

「ご主人様も少し下がった方が………」

「陛下もここはまだ危険です」

 

 ウィトゥルースが漏れ出てくる敵にラピットランチャーを速射、サイフォスもコルヌを縦横に振るい、なんとかマスターを守護する。

 

「これ以上下がれば、戦場の空気が分からなくなる。卓の前でふんぞり返っている連中と一緒にされるのもシャクだからな」

「あの、少将………私が言うのもなんですが、シールド張れないウィッチは確かに危険では………」

 

 片手にスコープとカメラ、もう片手に銃を持った本来なら引退している年齢のウィッチが、自らトリガーを引きながら他の部隊に指示や助言を与えていく。

 

「シールドが張れなかろうが、今は一体でも多く敵を落とすのが最優先だ。猫の手も借りると言うしな」

「私の使い魔狐ですが」

 

 苦笑しながら二人の手にした銃が同時に弾切れ、弾倉をイジェクトした所にそれぞれの武装神姫が素早く新しい弾倉を装填する。

 

「けど、その通りみたいで!」

「だろう?」

 

 初弾を装弾し、二人のウィッチは再度同時にトリガーを引いた。

 

 

 

「ドラマチック………バースト!」

 

 ビックバイパーがサーチした場所に無数のレーザーが降り注ぎ、多数の敵機がまとめて撃ち落とされていく。

 

「次っ!」

「亜乃亜、D・バーストの撃ち過ぎよ!」

「けどっ!」

「レーザーを範囲形に、ミサイルをスプレッドにした方が効率いいよ!」

「わ、分かった!」

 

 エリューとマドカの指摘に、亜乃亜は慌ててRVのモードを切り替えていく。

 

「それにしても、何て数なの………」

「さっきより多いかも。あの白鯨型ワーム、お腹の中に生産工場でも持ってるんじゃないかな?」

 

 エリューとマドカ、二人共ありったけの兵装を乱射しまくり、敵の数を減らそうと必死になるが、それでも敵はまだ数限りなくいた。

 

「リーダーは? 姿が見えないけど」

「50m前方、トリガーハートの人達の背後守ってる。ティタも一緒だよ」

「私達も合流したい所だけど、これは…………」

「私達の仕事は、ソニックダイバー隊のペンタゴンロックを使用可能な環境を作り出す事よ。ここは各自、一体でも多くの敵を殲滅し、目標に肉薄可能な状況にするべきだわ」

「言うのは簡単だけどね………」

 

 そう言う二人の背後で、再度ビックバイパーのドラマチックバーストが炸裂する。

 

「温存していられる状況でも無いみたいね………」

「回復ドリンクも持ってきてるし、私達もやるしかないわね」

『ドラマチック・バースト!』

 

 亜乃亜に続くように、無数のスプレッドボムと、複数のゲインビーの攻撃が炸裂した。

 

 

 

「くぅ…………」

 

 音羽が歯噛みしながら、眼前で繰り広げられている乱戦を凝視する。

 

「やっぱり私達も…!」

『ダメだ!』「ダメよ!」

 

 堪え切れずに飛び出そうとする音羽だったが、即座に冬后と瑛花の制止の声が響く。

 

『ソニックダイバーは今回の作戦の要だ。準備が整うまで、前線に出す訳にはいけない』

「堪えて音羽! やり直しは効かないのよ! 一回でフォーメーションを成功させないと!」

「でも!」

「大丈夫!」

 

 音羽の心境を表すように、震えるマニュピレーターでMVソードを手にしたままスラスターを吹かせようとする零神を遮るように、ガードにあたっていた芳佳が音羽の前へと出た。

 

「今あそこには、世界中のウィッチや、ユナちゃん達やエグゼリカちゃん達、亜乃亜ちゃん達や武装神姫の子達が一生懸命戦ってます! きっと、皆さんの作戦を成功させる時間を作ってくれます! それまで、信じて待ちましょう!」

「そうだよオーニャー。切り札は切るタイミングが大事だよ」

「芳佳ちゃん、ヴァローナ………そうだね、皆強いし、きっと………だから………」

「全機、その場で待機継続! 可憐、ペンタゴンフォーメーションの再計算を!」

「随時誤差修正しています! ナノスキンの耐久時間いかんによっては、一度帰艦も考慮してます!」

「エリーゼ、アイーシャ、いつでも発動出来るように準備を!」

「もちろん!」「問題ない」

 

 瑛花の指示が飛び交う中、零神のマニュピレーターの震えはいつの間にか消えていた。

 

「一回、チャンスは一回きり………」

「大丈夫、私も手伝う!」

 

 たった一度きりの撃破のチャンスを活かすべく、音羽は呼吸を整え、静かにその時を待つ事にした。

 

「あれ? 何か……何だろ?」

 

 ヴァローナが気付いた異変が、大きな転機となるのを皆が知るのは、それから僅か先の事だった。

 

 

 

「ぬう、いかんな。このままでは全部落とされてしまうのではないか?」

「それ以前に姉ちゃん、空戦型ホントウに大丈夫なのカ?」

 

 プリティー・バルキリーの格納庫内で、機械化惑星から送られてきたばかりのホルス2号機に登場したユーティライネン姉妹だったが、宮藤博士の最終調整が終わらず、出撃するに出来ない状態となっていた。

 

「やはり、一卵性双生児のエーリカ君とウルスラ君よりは同調に難があるか………だが十分範囲内だ。もっとも、あの二人程のスピードは出せないかもしれないな」

「あんな速度で飛べるノ、501じゃエーリカ以外シャーリーくらいだヨ………」

「確かに、速過ぎるのは難だな。狙いが付けにくい」

「………姉ちゃん、ホントウにこれ使うノか?」

 

 エイラは用意されているホルス専用装備と一緒に並んでいる、機械化惑星に依頼して突貫で作ってもらった、と言うかただ金属塊を整形しただけのとてつもなく長大で巨大なスコップに胡乱な視線を送る。

 

「はっはっは、使うのは私だ。気にするな」

「何カ、向こうのと全然違うユニットになりそうナ………アレ?」

 

 ふとそこで、何かが見えた気がしたエイラは、ホルス2号機から飛び降り、僅かに開いているハッチから外を覗きつつ、固有魔法の未来視を発動させた。

 

「え、これ………やばい、皆逃ゲロ!!」

 

 

 

『周辺敵性体、駆逐率25、30、35…』

『作戦レコードを再計算しました! ソニックダイバーの一時帰艦の可能性もあります!』

「それはこちらも認識している! チャンスは一度きりだ、絶対に失敗するわけにはいかん!」

 

 カルナとエルナーからの報告に、嶋副長が力を込めて返信する。

 

「敵が多過ぎるぜ………これを軒並み墜とさないと、とてもフォーメーション発動は無理だな」

「軒並み?」

 

 冬后の何気ない呟きに、門脇艦長が再度戦況を映し出す画面を注視する。

 

「これは………まさか」

「艦長? 何か…」

「全センサーをフル稼働! 目標の状態を再精査せよ! カルナダインとプリティー・バルキリーにも同様に通告!」

「は、はい!」

「ソニックダイバー隊、いや総員に警告! 敵の作戦の可能性が…」

『白鯨型ワームに高エネルギー反応感知! 更に上昇しています!』

『こちらでも確認しました! これは、まさか!?』

「いかん、攻撃だ! 総員に防御体勢を徹底! 急げ!」

 

 門脇艦長の懸念が的中しつつある事に、ブリッジ内の全員が遅ればせながら気付いた。

 その判断がかろうじて間に合った事は、すぐに分かる事となった。

 

 

 

『高エネルギー反応! 敵の攻撃の可能性大! 総員防御! 繰り返す、総員防御!』

「何事!?」

「分からない! けど!」

 

 エルナーの警告が複数の回線を通じて、戦場に居る全員に鳴り響く。

 音羽も驚く中、芳佳はシールドを最大に発生、異変はその直後に起きた。

 

「いっちゃえ!」

 

 フィエンティア・イミテイトが叫ぶと同時に、白鯨型ワームの頭部から、何かが大量に噴出される。

 

「何だぁ?」「潮を吹いた?」「違います! あれは、攻撃です!」「マスター、逃げてください!!」

 

 ウィッチ達が首を傾げる中、各武装神姫達が一斉に悲鳴のような警告を上げる。

 

「うそ、あれは………ソニックダイバー全機、生命維持最大!」

 

 それを見た瑛花が、一見するとクジラの潮吹きのように見えるそれが、かつて他のワームが使っていた拡散型ビーム攻撃、しかもかつて無いほど高出力な事に気付き、顔色を変える。

 噴出された超極太ビームは、ある高度まで上がると、一斉に拡散、無数のビームの雨となって周辺全てへと降り注いだ。

 

「きゃああぁぁ!!」「うわあああぁぁ!」

 

 降り注ぐビームの雨に、誰かの悲鳴やシールドへの激突音、無防備に食らった敵性体や回避しきれなかった艦艇の破砕音が重なり、周辺を文字通り覆い尽くす。

 

「え………」「ユナこっち!」「いけない! ハイ・リザレクション!」

 

 思わず動きが止まったユナに、亜弥乎が無数のケーブルでシールドを形成させてかばい、白香がそれでも間に合いそうにないと悟って、己の内部のエネルギーを全開放させた。

 そのまま数秒間拡散ビームの雨は降り注ぎ、そして止んだ。

 

「さあて、どうなって………あら?」

 

 敵味方構わずの無差別攻撃に、唯一安全圏にいたフェインティア・イミテイトが戦果を確認しようとするが、ある一点から放たれた光が、周辺一体を覆い尽くしてる事に気付いた。

 

「なによ、それ………」

 

 

「お二人共、無事ですか!」

「何とかな」「助かったわ、真美」

 

 シールドの張れないガランドと圭子を助けるべく、所持していった予備の銃や弾薬を全て投げ捨ててシールドを張った真美の背後で、二人は息つく間も無く、周辺を見渡す。

 

「全部隊、被害報告! 死傷者を確認!」

『そ、それが………』

「どうした?」

「う………」

「ライーサ! 食らったの!?」

「そのはずなんですけど………」

 

 とっさの判断に遅れ、防ぎ切れずに片腕を負傷したライーサだったが、その腕の傷が見る間に治癒していく。

 

「これは………」

『誰かがとんでもない広範囲の治癒魔法を使用した模様! ウィッチの中で負傷者は出ていますが、死者は確認出来てません』

「何………? 誰が?」

 

 

 

「みんな無事!?」「なんとかね」「びっくりしたですぅ~」「ユナは!?」

「あれ、ちょっと当たっちゃったはず…」

 

 ユナが自分の状態を確認していた所で、背後からの光が消えた事に気付く。

 そこには、全エネルギーを開放して窮地を救った白香が、力を失って落下し始める所だった。

 

「白香!」「危ない! バッキンビュー!」

 

 ユナが叫ぶ中、ポリリーナがとっさに白香を捉え、そのまま拾い上げる。

 

「まずいわ、エネルギーが尽きかけてる! 早く治療を!」

「なんて無茶をするの! 機械化惑星に緊急連絡! 危険な状態よ!」

「白香! しっかり!」

 

 ほとんど反応を示さない白香を、駆けつけたミサキがテレポートで運んでいく。

 

「あの子のお陰で、みんな命拾いしたようね」

「ええ、次は無いでしょうけど」

 

 舞が横目でテレポートしていく二人を見送りながら、ゴールドアイアンを構える。

 ポリリーナが周辺を素早く見回し、同じように負傷撤退していくウィッチ達はいても、重篤な者はいない事、そしてそれがこの一度限りだという事を認識して呟く。

 

『白香は収容しました! 機械化惑星へ緊急搬送体勢を整えます!』

「そちらは頼むわエルナー。それとみんなに連絡。もう一発、食らったら終わりって」

 

 淡々と告げるポリリーナだったが、事態は急激的に悪化の一途を辿っていた………

 

 


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