スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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EP26

「エリカ7は他に逃げ遅れた人がいないかを確認! 急ぎなさい!」

『はい、エリカ様!』

「敵は攻龍周辺に潜んでいるそうよ! ちょっとでも異常を発見したら知らせて!」

「総員ストライカーユニット装着! 上空から捜索を!」

「敵の正体は分からん! どんな小さな物でも見逃すな!」

「システム閉鎖の影響がどこに出ているか分からないわ! 機材のそばに近寄る時は注意して!」

 

 各リーダー達の矢継ぎ早な指示が飛び交う中、辛うじてストライカーユニットが使えるウィッチ達以外は、全てが生身による人海戦術で各種作業が行われていた。

 

「ストライカーユニットもいつまで持つか分からない! 不調を感じたらすぐに帰還するんだ!」

「進んだ技術が、こんな形で仇になろうとは………」

 

 次々と発進していくウィッチ達に叫ぶ宮藤博士の隣で、出撃禁止状態の美緒が周辺の状況を見ながら呟く。

 

「アーンヴァル達の方は?」

「武装神姫達はあの地下施設の中に避難させてもらっています。白香が言うには、すぐに緊急閉鎖をしたから影響は少ないだろうとは言ってましたが………」

「だがこの状態が長く続けば、直に全ての機械が使えなくなる。もしそこを襲撃されれば………」

「それもありますが、攻龍で治療中の二名の事も問題です。宮藤の治癒魔法でもどれくらい持たせられるか分からないらしく………」

「それが一番の問題か………」

「魔眼は使えます。私も捜索に」

「敵を見つけても戦闘は避けるんだ、いいね?」

 

 宮藤博士の警告に頷きながらも、美緒は扶桑刀を片手に捜索へと乗り出す。

 

「マシンクレイドルがもう閉鎖されるそうよ!」

「他に避難が必要な者はいないか再確認を!」

「向こうのクレーン、傾いて来てる!」

「今押さえる!」

 

 ウィッチの魔力や元から有している特殊能力以外、人力に頼るしかない状況でも、少女達は必死になって状況を打開しようとしていた。

 

「何か見つかりました!?」

「いいえ、何も………」

「近くってどこだよ~」

 

 攻龍上空を中心に、目視で索敵を行うウィッチ達だったが、敵影を発見出来ずに焦りばかりが募っていく。

 

「まさか、ここまで……」

 

 攻龍の直上、足元の攻龍を見ながら固有魔法を発動させたミーナだったが、彼女の空間把握もノイズが入り乱れ、攻龍の形すら明確に把握する事が困難だった。

 

 

「早く、早く見つけないと亜弥乎ちゃんやユーリィが出て来れないよ!」

「でも、探せって言われてもどこ探せばいいのよ!」

「誰も気付かなかったという事は、誰も気付かない場所よね?」

「だからそれがどこかって言ってんのよ!」

 

 オロオロしているユナに思わず舞が怒鳴り、エリカが冷静に考えようとするが、逆に舞が更に怒鳴るだけだった。

 

「え~とえ~と、こんな時はどうすれば………あ! そうだエイラさんに占ってもらえば!」

「それって、アレ?」

 

 ユナが名案と手を叩くが、舞が呆れた顔で上空を指差す。

 そこには、両手に何かを握ったエイラが攻龍の周りを旋回していた。

 

「おかシい………どうなってるンだ?」

 

 エイラがありあわせの鋼材で用意した鉤状のロッド、ダウジングロッドと一般的に言われる探知用ロッドで周辺の探査を試みていたが、なぜかダウジングロッドは攻龍の方ばかり指している。

 

「攻龍にはあれだけ人がいて探してるシ………それでも見つからないトなると………」

 

 エイラの脳裏に、一度戦った光学迷彩ワームが思い出されるが、それならセンサーに引っかかるはずだったと思い出し、再度ロッドを手に攻龍のそばへと近寄っていく。

 

「まさカ……攻龍の中に?」

 

 

 

「機関部点検急げ! 遮蔽を確認するんだ!」

「見れる限りの配線をチェックするんだ!」「電源落とせる機械は全部落とせ!」

 

 電源の一切無い攻龍の中、懐中電灯を手に整備スタッフ達が異常の確認に走り回っていた。

 

「何かあったらすぐに報告するんだ! 内部潜入の可能性もあるぞ!」

「また動力室になんて入ってねえだろうな!」

「そちらは確認済みです!」

「常時誰か警備に張り付くんだ! ヤバイ所は全部!」

「銃火器のFCSを外せ! どうせ役に立たん!」

 

 冬后と大戸の指示が飛び交う中、時間だけがただ無為に過ぎていく。

 

「クッソ! クレーンも何も動かせねえから、ソニックダイバーもハンガーに戻せねえし、直し様がねえ!」

「でも、ブレーカー入れたらまた暴走やで」

「そやそや」

 

 艦内の捜索に狩りだされた遼平を先頭に嵐子と晴子、三人そろって文句を垂れ流しながら懐中電灯片手に異常の確認をしていた。

 

「整備中だから厳重に警戒はしてたはずだぜ? 一体いつ潜り込まれたんだ?」

「ここまでするような奴やで? とんでもないステルス使ったんやろ」

「普通そんなんはレーダーはともかく、目には見えるはずなんやけど……」

 

 ふとそこで、最後尾を歩いていた晴子の足が止まる。

 

「なあ、今なんか聞こえんかった?」

「へ?」

「まさか敵か!?」

「いや、そんなんやなくて……」

 

 足が止まった三人の耳に、か細い声が響いてくる。

 

「……なあ、今の」

「猫の声やなかったか?」

「……猫型の敵、って事はないやろな?」

 

 三人が思わず顔を見合わせた時、再度泣き声が響いてくる。

 

「下か!」

「でもこの下、何もあらへんで?」

「でも何かいるで………」

 

 生唾を飲み込み、三人は手に海中電灯や大型スパナ、技術交流のついでに作った軽金属ハリセンを手に攻龍の最下層へと向かう。

 

「……うぶ………から………でも………」

 

 か細く響く鳴き声に混じり、微かに話し声のような物も響いてくる事に、三人の緊張は一層高まる。

 やがてある扉の前に立ち、そこが音の元だと確信した三人は無言で頷くと、一気に扉を開く。

 

「誰だ!」

 

 先頭の遼平が叫びながら中を照らすが、明らかに話し声がしたはずなのに人影は無い。

 

「あら?」「妙やな………あ」

 

 続いて入ってきた二人も首を傾げるが、やがて部屋の中央に何かがいる事に気付き、晴子がそれを抱き上げる。

 

「みゅ~~」「鳴き声の正体はこれやな。ペットロボット?」

「確かこれ、ポリリーナさんのペットや。ミルキーとか呼んどったで」

「なんだ人騒がせな………一応医務室連れとくか。これも攻撃食らってキツイんだろうし」

「………これ喋れるんか?」

「さあ………」

 

 他に何もなさそうな事を確認した三人が部屋を出ようとするが、何故かミルキーが床へと向かってか細い鳴き声を上げ続ける。

 

「どうかしたんか? 今少し楽になれるとこ連れてってやるさかい」

「何かいるんか? 幽霊とか」

「おいおい、妙な事を………何か?」

 

 そこである可能性に気付いた遼平が、突然二人と一匹を置いて走り出す。

 

「ど、どないしたん!?」

「オレ達は何かいるのを探してたんだろうが! ひょっとしたら!」

「あっ!?」

 

 遼平の言わんとする事を悟った二人も走り出す。

 彼らが去った後、無人と思われた部屋に小さな音が響いた。

 

「ん~……違うなあ~………あたしのオーナーどこだろ?」

 

 

 

「見つかった!?」

「いいえ!」

「上空にも何もいません!」

「じゃあどこに!」

 

 皆が必死になって敵を捜索していたが、一考に見つからない敵影に焦りがどんどん濃くなっていた。

 

「くソ~………やっぱ適当なノだったからおかしいのカ?」

 

 手にしたダウジングロッドを睨むエイラだったが、そこに攻龍の甲板に飛び出してくる三人に気付いた。

 

「下だ!」

「へ?」

「この子が下に何かいるって言ってるんや!」「誰か見てきてや!」

 

 ミルキーを指差しながら叫ぶ三人にエイラが、修理用の船台に上げられている攻龍の真下へと潜り込む。

 そこで手にしたダウジングロッドが跳ね上がり、攻龍の船底を指し示すように湾曲した。

 

「ここダ~~!!」

 

 エイラが大声で叫び、それに気付いた皆が一斉に近寄ってくる。

 

「どこ? どこ?」

「何も無いわよ!?」

「間違いなイ! ここにいる!」

「どいてくれ!」

 

 そこへ美緒が集まった皆を掻き分け、眼帯を引き剥がして魔眼を発動させた。

 

「いた! そこか!」

 

 叫びながら、美緒は手にしていた刀を抜き放ち、魔眼が見つけた場所へと向かって投じる。

 白刃の切っ先が船底へと激突する瞬間、何かが高速で攻龍の船底から飛び出していった。

 

「いたぁ!」「船底に擬態してたなんて!」

「追撃!」

 

 飛び出した何かを追って、ミーナの号令にウィッチ達が一斉に後を追い始める。

 擬態を解いたそれは、全長2mくらいのコバンザメにも似た容姿をしていたが、体表は金属の光沢でぬめるように光り、体の各所から触覚を思わせる無数のアンテナが伸びていた。

 

「早い!」「トネール!」

 

 高速で逃げる敵に向かってリーネが照準を定め、ペリーヌが電撃を放つが、予想以上の高速機動で照準は定まらず、電撃はただ虚空に散る。

 

「バルクホルン大尉とハルトマン中尉は右から、私とエイラさんは左! リーネサンとペリーヌさんは上を抑えて! シャーリーさんとルッキーニさんで一気に…」

 

 ミーナの指示が終わるより早く、突如として敵は動きを変えてこちらへと向かってくる。

 

「シュトルム!」

 

 とっさにハルトマンが固有魔法を発動、小型の竜巻となって突撃を試みるが、なんと相手は竜巻の周囲を同速度でバレルロールして回避、そのままハルトマンの脇をすり抜けていく。

 

「ウソ!?」

「うじゅ!」

 

 さらに向かってくる敵に向かってルッキーニが多重シールドを発動、だが敵は先程よりも高速に関わらず、シールド直前で直角に曲がり、そのまま上空へと回避していく。

 

「なんて速度に運動性だ!」

「スピードなら!」

 

 バルクホルンが思わず呻くが、相手を逃すまいと今度はシャーリーが固有魔法の高速飛行で敵を追う。

 上空へと登っていく敵にシャーリーは何とか追いすがろうと限界まで速度を上げていく。

 相手との距離が段々狭まってきたかと思われた時、いきなり速度が落ちた。

 

「なんだぁ!?」

 

 まさかと思ってシャーリーが自分のストライカーユニットを見ると、エンジン部分は無事だったが、制御部分からスパークが上がり始めていた。

 

(ストライカーユニットもいつまで持つか分からない!)

「こういう事か! でもまだ!」

 

 失速していく中、なんとか敵を捉えようと銃を構えるシャーリーだったが、その狙いが定まる直前、ユニットの制御部分がショート、完全に機能を停止したストライカーユニットと共にシャーリーの体が落下を開始した。

 

「こいつ!!」

 

 落下しながらもトリガーを引いたシャーリーだったが、敵はその場を離脱、また攻龍へと向かっていった。

 

「シャーリー!」「シャーリーさん!」

 

 下でルッキーニとリーネがなんとか落下してきたシャーリーをキャッチ、そのまま離脱させる。

 

「ダメだ中佐! 近付きすぎると、ストライカーユニットでも持たない!」

「そんな!? じゃあどうすれば………」

 

 シャーリーの報告に、ミーナのみならず、その場にいた全員が顔色を失っていった。

 

 

 

「なんて奴だ………」

「前大戦のワームの電子戦機に酷似してますね。けれど、せいぜい無人機を狂わせるのがせいぜいだったはずですが、能力は比べ物になりません」

 

 ブリッジから見える戦況に副長が歯軋りし、緋月が淡々と解析していく。

 

「どうやら、ある種の電磁パルスやエネルギーパルスを自在に操れるようです。攻撃してこない所を見ると戦闘力はない模様ですが、ストライカーユニットにまで影響が出るとなると、ウィッチによる格闘戦は不可能でしょう」

「それ以前に速度が違い過ぎる。何か手は……」

「交差する瞬間に攻撃するしかありません。しかし………」

 

 ブリッジに運び込まれた白香も苦戦しているウィッチ達の状況に何か手は無いかと考えるが、何も思い浮かびはしない。

 

「ソニックダイバーはどうにか動かせないのか?」

「それが乗っ取られそうになったのをバルクホルン大尉が止めてくれたそうなのですが、その状況でメインブレーカーを抜いたのでどうにも………」

「それ以前に、この電子攻撃を止めるか無効化しなければ無理でしょう」

 

 艦長の呟きに副長と緋月がそれぞれ答え、艦長の顔も険しくなっていく。

 

「………手はあります。私のエネルギーを全開にすれば、短時間なら多分この電子攻撃を無効化できます」

「本当か!」

 

 白香の提案に、副長が色めき立つ。

 

「ですが、せいぜい数分。しかもこの船くらいがやっとで………」

「それでは意味が無い。何か、他に無い物か………」

 

 艦長が熟考する中、また一機ストライカーユニットが機能停止に陥っていた。

 

「もう時間が………」

 

 白香の呟きは、誰もが感じ取っていた………

 

 

「出力が安定してない! そっちのダイヤル二つ回して!」

「計器から目を離さないで!」

「こっちの回線が焼けてきてる! バイパスを!」

 

 攻龍の医務室では、マドカが設計した防護フィールドを、アナログな制御装置を駆使してエミリーとウルスラも一緒に必死になって維持させていた。

 

「このバッテリーじゃこれが精一杯か………せめてブースターが使えれば………」

「私の計算でもこれが限度よ。後は外の皆に期待するしか……」

「大丈夫です! 私が二人を護りますから!」

 

 マドカとエミリーが設計図や数式を手作業で見直すが、それを横目で見た芳佳が魔法による治癒を続けながら断言する。

 

「容態は安定はしているわ。けれど長時間は………」

「まだもっといけるかも」

「うう……」

 

 二人の脈を取った夕子先生が顔を曇らせ、ティタはなんとか言葉を返すが、アイーシャは相変わらず苦悶している。

 その様子を見ていたサーニャがおもむろに立ち上がった。

 

「私も行く」

「ダメよ! 感知系はむしろどんな影響を受けるか!」

「けど、このままじゃアイーシャもティタも………」

「大丈夫! この防護フィールドと芳佳ちゃんの治癒魔法があれば、二人を護りきれるよ!」

「出力より安定性に重視すれば、まだしばらくは持つ計算です」

「今、姉さん達が頑張っています。信じて待ちましょう」

「でも……」

「マドカ!」

 

 サーニャが言葉を濁すが、そこに亜乃亜が慌てて飛び込んでくる。

 

「エリューがいい事思いついたって! ちょっとこっち来れる!?」

「でも今ここを離れたら……」

「何か分かりませんけど、私とウルスラさんで何とかします。行って下さい」

「バイパス出来ました! これでしばらくはなんとかなります!」

「ゴメン! それじゃお願い!」

 

 亜乃亜と飛び出していくマドカを見送った二人は、再度フィールドの調整に取り掛かる。

 

「さて、それでは有言実行と行きましょう」

「はい」

「芳佳さんは大丈夫?」

「はい! 魔力だけはいっぱいありますから!」

 

 それぞれが出来る事を頑張る中、サーニャは黙ってティタとアイーシャの手を握る。

 

「もう少しだけ頑張って。きっと大丈夫」

「信じるはもちろん」

「………」

 

 苦しむ二人の手を、サーニャは握り締め続けた。

 

 

 

「もう何やってんのよ! そんな速度じゃ追いつけないわよ!」

 

 カルナダインの一室、緊急用退避ルームの中で、外の戦闘の様子を見ていたフェインティアが思わず怒鳴る。

 

「仕方ないわ……あれでも彼女達の最高速度なのよ」

「ったく! この私が行ければ!」

「私達が持っても、随伴艦が持ちません………」

 

 外部から完全に遮断され、映像も外部の緊急時用光学カメラを手動で操作するという原始的としか言いようの無い方法を取りながら、クルエルティアもエグゼリカも狭い退避ルームで固唾を呑んで見守るしかなかった。

 

「電子攻撃にのみ特化した敵性体、機械体であるこの星の住人や私達にはあまりに危険過ぎるわ」

「確かに………」

 

 クルエルティアの分析に、エグゼリカが退避ルームの一角、本来なら自分達トリガーハートが退避時損傷していた場合に使用するはずだったハンガーカプセルに眠っているユーリィと亜弥乎を見る。

 

「こちらの二人は閉鎖が早かったからなんとかなりましたけど、攻龍の方は大分ひどいみたいです」

「そりゃ、あんな原始的な水上船じゃね~」

「こちらもカルナ、ブレータともに閉鎖状態よ。あまり他の事は言えないわ」

「そもそも、あれは一体なんなのよ! トリガーハートやカルナダインのレーダーまで潜り抜けてどうやって潜り込んだってのよ!」

「作業の隙を突かれた、としか考えられないわ」

「警戒はしてたはずですが、まさかあんな小型の電子戦機とは………」

「ああもお! この私が出ればぱぱっと片付くのに!」

「ここは…」

 

 喚き散らしながら、室内を歩き回るフェインティアにクルエルティアは声をかけようとした所で、フェインティアがその手に緊急閉鎖状態で動かなくなったムルメルティアをずっと抱いている事に気付く。

 

「何が万全の体制よ………いきなり閉鎖状態になっちゃって………」

「あっ……」

 

 そこでエグゼリカがふと何かを思い出す。

 

「そう言えば、カルナダインの閉鎖前に何か小さな転移反応があったような………」

「この上何が来るっての!?」

「それが、反応が小さすぎててっきりノイズかと思って………けど、多分質量的には………」

 

 エグゼリカの瞳は、フェインティアの手の中で動かないムルメルティアに向けられる。

 

「まさか………」

 

 

 

「私が出る! 烈風斬ならあるいは!」

「ダメだ! 速度も運動性も違い過ぎる!」

「それに、今出撃したら貴女は!」

 

 出撃しようとする美緒を、宮藤博士とミサキが二人がかりで引き止めていた。

 

「ではどうしろと言うのだ! このままでは、私達は全滅してしまう!」

「バトルスーツ無しでも、私のESPなら多少は……」

「多少では意味が無いではないか!」

「落ち着くんだ! 今マドカ君が中心となって対抗措置の準備をしている! それまで持ち堪えれば!」

「耐えられなかったらどうするのです!」

「それは………」

 

 美緒の言葉に、宮藤博士も言葉を濁す。

 誰もが焦り、状況の打開の糸口すら掴めていなかった。

 

 

 

「お願い遼平! ゼロを動かして!」

「バカ言うな! さっきの見てただろ! メインブレーカー入れたらゼロも乗っ取られる!」

「けどこのままじゃアイーシャが!」

「分かってる! 分かってるけどよ!」

 

 音羽が懇願するが、遼平もそれは無理な頼みだと分かりきっているだけに、苦渋に顔を染める。

 

「ソニックダイバーのスピードだったら、あの敵に対抗できるかもしれない、けれど動かしたら途端に乗っ取られる………」

「相手の動きを今計算してますが、けどこれをどうやって入力すれば………」

「でも、早くしないとアイーシャが!!」

 

 格納庫に集まった瑛花、可憐、エリーゼもなんとか出来ないかと考えるが、何も思いつかない。

 

「今動かせる状態にあるんは零神だけやが………」「マドカはんが頑張ってるようやけど、難しいみたいやで」

「そんな………」

 

 絶望的な表情で、音羽が零神へと歩み寄る。

 

「お願いゼロ………力を貸してよ………このままじゃ、アイーシャだけでなく、みんな………」

 

 涙ぐみながら零神に音羽が手をかけた時だった。

 

「いいよ」

 

 突然響いた声に、全員が零神の方に振り向く。

 

「今の誰や!?」「まさか零神が…」「違う! 零神の上!」

 

 遼平が指差した先、零神の頭部に小さな人影が座っていた。

 

「え~と、え~と、あ。次元転移反応確認、今から貴女があたしのオーナーだよ」

「武装神姫!?」

「え、でも武装神姫は全機動けなくなったって………」

「ストラーフ? いや似てるけど違う!」

「あたしは悪魔夢魔型ヴァローナ、よろしくオーナー」

 

 刃物を思わせる鋭いウイングにロングトマホーク、漆黒のボディスーツにストラーフよりやや短い緩やかなウェーブの掛かったツインテール、そしてなにより眠そうな目をした武装神姫、ヴァローナが音羽に自己紹介しながら尻尾のようなパーツを左右に振る。

 全ての電子機器が使えない状態で平然と動いている武装神姫に、その場にいた全員が目を丸くするが、音羽が先程の言葉を思い出す。

 

「ヴァローナ、だっけ。ゼロを動かせるの!?」

「あたしは電子戦特化型だよ。少しなら電子攻撃を無効化出来るよ。短い間だけなら~」

「何分!?」

 

 音羽の問いに、ヴァローナが手をかざすとそこに小型の3Dディスプレイが現れ、それが零神の前で何かを表示していく。

 

「う~ん、多分五分か、もっと短いかも………」

「でもナノスキンが無いと乗れねえだろうが!」

「それ以前に動力がないで!」

「それならなんとかなりそうです」

 

 表示結果を見たヴァローナの返答に、皆がどうにか出来ないかを話している時、突然緋月が格納庫に姿を現す。

 

「白香さんが、数分間だけなら防護できるらしいので、その間に予備動力を起動、スプレッドブースを動かせれば」

「……なるほどな。どうせ動かせる時間は限られてる。やるだけやってみる価値はあるな……ようし、準備だ!」

「了解!」

 

 大戸の指示の元、メカニック達が零神の起動準備に取り掛かり、音羽はスプレッドブースへと急ぐ。

 

「問題はタイミングですね」

「ほれ、手開いてるのはお前さんだけだ」

 

 有線・無線双方で通信が出来ない状況でブリッジにどう知らせるか悩む緋月に、大戸がどこからか引っ張りだしてきたモールス用ライトを手渡す。

 

「武装は最低限でいい! 速度が大事だ!」

「ハッチ強制排除! 他の艦に連絡を!」

「何でも用意しておく物ですね」

 

 緊急用のパージボルトが起動、吹き飛んだハッチから外に出た緋月が、ブリッジとプリティー・バルキリー号へとモールスで作戦を知らせる。

 程なくブリッジからは冬后がハンドサインで返答し、プリティー・バルキリー号からはしばし待てとのモールスが送られてくる。

 

「何を…」

「桜野が出るのか!」

 

 疑問に思った緋月の後ろに、突然ミサキのテレポートに連れられた美緒が姿を現す。

 

「どうやら、対電子戦装備の武装神姫が現れたようでして、協力してくれるそうです」

「このタイミングで?」

「細かい事は後だ!」

 

 ミサキがあまりのタイミングの良さに疑念を抱くが、美緒は構わず格納庫へと走る。

 

「確かに、タイミングが良すぎますね」

「後で聞いてみるしかないわ。今は、あの敵を倒すのが優先よ」

 

 緋月も同様の疑問を口にするが、現状ではそれすら些細な状況なので二人とも口を紡ぐ。

 

「始まります」

 

 

「よし、頼む」

「分かりました」

 

 副長の合図と同時に、白香が防護シェルから出てくる。

 同時に電子攻撃を食らって少しよろめき、冬后が慌てて支えるがそれを断ると、白香は精神を集中させる。

 

「行きます! リフレ~ッシュ!」

 

 白香は自らの持つ状態異常回復能力を最大限で開放、同時に攻龍の予備電源用の回線が接続される。

 

「攻龍、一部機能回復しました! ただしレーダー関係は探索不能、通信も…」

「零神の出撃にのみ出力を集中、急げ」

「は、はい!」

 

 艦長の指示の元、七恵が攻龍の機能から必要な物だけ次々と回復させていく。

 

「スプレッドブース起動を確認! ただしナノスキン精製率は30%ほどです!」

「6分弱か………もっとも新しい武装神姫が防げるのはもっと短いらしいからな」

「本当に可能なのかね? この時代の物ですら強制遮断するしかない状況を………」

「信じるしかあるまい。我々に出来るのは、零神を無事出撃させるようにする事だけだ」

「ナノスキン最適化完了、後は零神が動けば…」

 

 

 

「よし、繋がった! 起動させるぞ!」

 

 メインブレーカーを接続、零神を再起動させると、遼平は超高速で内部のチェックに取り掛かる。

 

「頼むぜ……無事に動いてくれよ……」

「大丈夫だよ~多分」

「遼平!」

「あと1分待ってくれ!」

 

 ナノスキン塗布を終えた音羽が駆け寄ってくるが、零神のチェックはまだ終わらない。

 

「桜野!」

「坂本さん!」

 

 そこへ美緒が格納庫に飛び込んでくると、起動準備に入っている零神と音羽を交互に見る。

 

「起動可能時間は?」

「この船出たら五分がいいとこだね~」

 

 美緒の問いにヴァローナが答えると、美緒はしばし考えて音羽の肩を掴む。

 

「いいか。あの速度と運動性では、巴戦に持ち込むのは難しい。相手の直角線上を取り、相手が回避する前に高速交差して斬れ。出来るか?」

「はい! やってみます!」

「お前の、いやソニックダイバーの最大の利点はその速度にあると私は思っている。隙は他の皆が必ず作ってくれる。自分と、そしてこの場にいる全ての仲間を信じるんだ」

「はい!!」

「よし、チェック完了! 急げ音羽!」

「行くよオーナー~」

 

 美緒に見送られ、音羽は零神に乗り込む。

 それに合わせてヴァローナも再度3Dディスプレイを展開、対電子戦の準備を行う。

 

「ゼロ、行くよ!」

 

 機体を起こすと同時に、バーニアを点火。

 急加速させながら零神は格納庫から飛び出していく。

 

「行けぇ~音羽!」

「頼んだぞ、桜野………」

 

 

 

「AモードからGモードにチェンジ。速度上がるよ、大丈夫?」

「FLO15 エクスタス・ジャミングユニット、出力全開。大丈夫だよオーニャー」

「ニャーって………」

 

 高速のソニックダイバーに平然としがみ付いているヴァローナのノンキな返答に音羽は少し困りながら機体を変形、敵へと向けて加速していく。

 

「直角線上を取って交差する一瞬……どうすれば………」

「オーナーオーナー、向こうで何かしてるよ」

 

 美緒に言われた事をどう実行するべきか音羽が考えていた時、ヴァローナが横手を指差す。

 何気に音羽がそちらを向くと、そこに光の戦士達が集まり、何かの準備をしていた。

 

 

「アップ、ダウン、アップ、アップ………」

 

 ロックの姫が双眼鏡を覗きながら、敵の動きに合わせて何かを呟きながら足でリズムを取る。

 隣でバイオリンのアレフチーナがそれに合わせて即興で楽譜を書いていた。

 

「間違いないようね、ある主のリズムで動いている」

「二人ともあんな早いのによく分かったね………」

「ビートが早かったから、むしろ分かったぜ」

「よし、これなら!」

 

 ユナが感心する中、相手のリズムを解析したアレフチーナが、それを元にした曲を即興で演奏し始める。

 

 

「これは……!」

 

 聞こえてくるバイオリンの即興曲の意味に一番最初に気付いたのはミーナだった。

 

「みんな、聞こえてる!? この曲に合わせて!」

「合わせろって言われても……」

「そういうのは苦手だ!」

 

 突然の事にハルトマンとバルクホルンのWエースは戸惑うが、なんとか合わせようとしながら敵を追う。

 

「リーネさん」

「はい、なんとか」

 

 むしろ動かず、その曲に耳を済ませていたペリーヌとリーネは、同じタイミングで電撃と狙撃を撃ち放つ。

 双方の攻撃は敵の前後を挟み、慌てて敵は上空へと回避していく。

 

「いけますわ!」

「けど当たらない!」

「とどめは音羽さんに任せる事になるわ! なんとかして相手の動きを少しでいいから止められれば!」

 

 あくまで相手の牽制を狙うミーナだったが、そこで近接戦を狙っていたハルトマンとバルクホルンのストライカーユニットの電子部品から白煙が上がり始めている事に気付く。

 

「二人とも下がって! シャーリーさんとルッキーニさんに続いて、貴方達まで行動不能になるわ!」

「あう~もうちょっとだったのに~」

「無念!」

 

 Wエースの脱落に、ミーナは残ったメンバーでどうするべきか考える。

 

「ダメだ~! サーニャだったら分かるンだろうけど、私じゃ全然分からナい~!!」

「エイラさんは未来予知で何とかして」

 

 自分の音痴ぶりを嘆くエイラに、ミーナがなんとか励ます。

 

「そう言われテも………ん?」

 

 ふとエイラが見えた未来予知に、攻龍の方を見る。

 そこからモールスでの発光信号と、何かを準備しているGの天使達に今見た光景が重なった。

 

「皆回避ダ! すごいのが来るゾ!」

「すごいのって………」

「回避、急いで!」

 

 その意図を理解したミーナが回避を指示、ウィッチ達がその場を離脱する。

 

「オーニャー、何かしてる」

「信号見えてる! その場から回避?」

 

 ヴァローナの言葉と、零神が解析した発光信号に音羽は零神を上空へと向ける。

 敵が再度攻龍へと向かおうとした時、攻龍の甲板で何かが光った。

 

『ドラマチック・バースト!!』

 

 天使達の声と共に、無数のスプレッドボムが発射、爆破に巻き込まれまいと、敵は急速回避に移る。

 

「よ~し!」「かすっただけだけど、効いてる!」「けどもう一発は……」「何とかやってみて!」

 

 ロードブリティッシュから引きずり出した回線を制御装置を介さずに、急ごしらえのインターフェイスで天使達の手や首筋にくっ付け、天使達総員のプラトニックパワーを直接注ぎ込む、という荒っぽい方法で現状でもっとも有効と思われるDBを叩き込んだ天使達が歓声を上げる。

 だが本来想定してない運用法に、ロードブリティッシュから白煙が上がり始める。

 

「ダメ! もう一発撃ったら爆発するかも!」

「そんな!」「あと少しなのに!」

 

 マドカが悲鳴を上げ、亜乃亜とエリューが少しは動きが遅くなった敵を見つめる。

 

「少しはこちらのやる事も残しておいてほしいですわね」

 

 そこへエリカがエリカ7を伴って現れる。

 

「何か手があるのかしら?」

「エリカ7を舐めないでほしいですわ。準備は?」

『OKです、エリカ様!』

 

 そう言うやいなや、マミとルイが矢面に立ち、そこにアコとマコがボールを投じる。

 

「そおれ!」「シュート!」

 

 そのボールをマミのバットとルイのキックが飛ばし、ボールに内包されたチャフをばら撒き始める。

 

「3、2、いきな、さい!」

 

 更にそれをアレフチーナの曲にあわせながらエリカがバトルスーツ無しで、ありったけの力を込めてテレキネシスで加速させ、敵の逃げ道を塞いでいく。

 

「敵、チャフから逃げてます!」

「どんどん行きなさい! リズムを合わせて!」

 

 ミドリの報告を聞きながら、エリカの指示にセリカが有り合わせで組み立てたエンジン式のピッチングマシーンまで持ち出し、次々とチャフがばら撒かれていく。

 

「これ、で………」

「エリカ様!」

 

 バトルスーツ無しで無理をしたのか、エリカがその場に崩れ落ちそうになるのをミキが慌てて支える。

 

「後は頼んだよ、音羽ちゃん!」

 

 出来る限りの援護をした者達を代表するように、亜乃亜が零神へと向かって叫んだ。

 

 

 

「オーナー、ジャミング限界まであと二分。でも相手の動きが今なら捉えれるよ」

「分かってる!」

 

 上空からその様子を見ていた音羽が、零神を急降下させて敵を狙う。

 

(皆が作ってくれたチャンス、これで決めないと! こんな時、必殺技でもあれば…)

 

 零神を降下させながら、音羽はそんな事を思いだしていた。

 

「一撃、一撃で………」(ソニックダイバーの最大の利点はその速度にある)

 

 音羽の脳裏に、美緒の言葉が響く。

 相手の姿がどんどん大きくなっていく中、音羽は徐々にプレッシャーを感じ始める。

 

「一撃で倒さないと、みんなが………一撃?」

 

 自分の呟いた言葉に、突然音羽の脳裏に何かの記憶が呼び起こされる。

 

(一瞬で散る花のごとく、これが奥義だ)

 

 それは幼い時の記憶、父が出征する前夜に、祖父が父に伝授していたのを隠れ見た時の事。

 

「思い、出した………必殺技!」

 

 顔をほころばせながら、音羽は更に零神を加速させていく。

 

 

「おい、速度が速すぎる! あれでAモードにチェンジしたら零神が持たないかもしれねえぞ!」

「音羽! 一体何を!」「音羽さん!」「音羽っ!」

 

 無茶すぎる急加速に、遼平が思わず叫び、ソニックダイバー隊の仲間達が音羽を呼ぶ。

 

「オーニャー、大丈夫なの!?」

「任せて!」

 

 ヴァローナも思わず問う中、音羽は渾身の笑みを浮かべていた。

 

「振り落とされないで! Aモードチェンジ!」

 

 高速急下降の速度のまま、零神をAモードに変形、敵はすでに目前にまで迫っていた。

 

(相手との交差の刹那、それに全てを叩き込む、これが…)

「MVソード! 桜野無敵流奥義!!」

 

 零神の各所に負荷が掛かる中、音羽はMVソードを抜刀、急降下の速度を乗せ、一気に白刃を振り抜いた。

 交差の刹那、零神の腕が高速でMVソードを数閃。

 警告のレッドアラートが各所から鳴り響く中、音羽は零神の各バーニアを全開。機体を急停止させながら、相手の方を確認した。

 

「木花咲耶《このはなさくや》………」

 

 敵はしばし何事もなかったかのように進んだかに見えたが、体の一部に直線上の亀裂が走る。

 次の瞬間、敵は花が散るような六つの破片に分断、そのまま破片のまま落ちていきながら、途中で無数の破片に分解していく。

 

「やった! ゼロ、無茶させてゴメン。ヴァローナも大丈夫?」

「………気持ち悪い」

 

 音羽が歓声を上げるが、アラートが鳴りっ放しの零神と音羽の頭の上で目を回しているヴァローナに気付き、苦笑しながら攻龍へと向かう。

 

『通信、回復しました!』『桜野、よくやった!』

「はい! これより帰還します!」

 

 通信からタクミと冬后の声が響き、満面の笑みで音羽は答える。

 

「音羽ちゃんすご~い!」「よくやった! 「かっこよかったよ~!」

 

 攻龍の甲板上から声援を送ってくる仲間達に手を振りながら、零神はゆっくりと格納庫へと向かっていった。

 

 

 

「なんとかなりましたね………」

「おっと」

 

 そう呟きながら卒倒しかける白香を、今度こそ冬后が支える。

 

「無理をかけさせたようだな、大丈夫かね?」

「はい、なんとか」

 

 そのまま床に座り込んだ白香に艦長が声をかけ、白香は疲れが見える笑顔で辛うじて応える。

 

「主電源の復旧および全部署点検、特にメインCPUの確認を重点的に」

「格納庫無茶苦茶だって言ってたな………ちょっと見てきます。ついでに医務室に行くか?」

「いえ、大丈夫です」

 

 副長の指示が飛ぶ中、冬后がブリッジを出る前に白香に声をかけるが、白香は小さく首を左右に振る。

 

「一時はどうなるかと思った………」「全くです。この後のチェックが大変そうですけど」

 

 タクミと七恵が思い一息を吐くと、それぞれの担当のチェックへと入る。

 

「………妙だな」「ええ」

「何がですか?」

 

 艦長と副長も自らのコンソールをチェックする中の呟きに、白香が思わず反応する。

 

「先程の電子攻撃、なぜ追撃が無かった?」

「確かに、もし物理的敵襲が有れば、我々は対処する術は無かった」

「あれだけの電子攻撃ですから、向こうも手を出せなかったのでは………」

「直接攻撃は無理でも、爆撃なり何なり、手は幾らでもあったはずだ」

「あっ!」「そう言われれば………」

 

 艦長と副長の言いたい事に気付いたタクミと七恵が同時に声を上げる。

 

「周辺索敵、可能か?」

「は、はい! 予備電源だと出力は弱いですが、何とか」

「主電源の復旧を急がせろ。しばらくは周辺警戒を厳に」

「通達します!」

 

 チェックと並列しながら、レーダーと艦内放送に電源が入る。

 

「もしや、別の狙いが……」

 

 艦長の呟きは小さく、誰の耳にも届く事は無かった。

 

 

「う……ん」

「くぅ~」

「良かった……二人とももう大丈夫みたい」

「ありがとう、貴女のお陰よ」

 

 穏やかな表情になったアイーシャと寝息を立て始めたティタを見ながら、夕子先生と周王は胸を撫で下ろし、芳佳の労をねぎらう。

 

「いえ、これが私に出来る精一杯でしたし」

「医療機器が使えるようになったら精密検査が必要だけど、この様子なら心配なさそうね」

 

 照れ隠しに頭を掻く芳佳に、夕子先生が二人の脈を確かめながら微笑む。

 

「生体組織は宮藤軍曹の魔法で大丈夫だろうけど、ナノマシンへの影響がどこまで及んでいるか………」

「アイーシャは!?」「ティタ大丈夫!?」

 

 周王がアイーシャの頭を撫でながら考えた所に、音羽と亜乃亜を先頭にソニックダイバー隊と天使達が医務室に大挙して押し寄せる。

 

「医務室では静かに。もう大丈夫」

「よかったぁ~………」「芳佳ちゃんありがとう」

 

 胸を撫で下ろす音羽に、亜乃亜は芳佳の手を握って思いっきり上下に振って礼を述べる。

 

「さて、それじゃあ格納庫に行って自分の機体を直してこないと」

「まずは起こす所からね………ウィッチの人達呼んできた方がいいかもしれないわ」

「あ……」「忘れてた………」

 

 瑛花とジオールの言葉に、格納庫が凄まじい状態になっていた双方のメンバーが肩を落とす。

 

「あの、私手伝いますか?」「芳佳ちゃんは疲れてるだろうから、いいからいいから」「その前にこのマドカの張ったフィールド装置外さないと」

「そうね、お願いできる?」

 

 やる事が山積みな事に皆が気を重くする中、とにかく医務室の片付けを始める。

 

「頑張ってねオーニャー………あたしは眠い………くーくー」

「私の頭の上で寝ないで………」

「変わった武装神姫だね、この子のクレイドルもどこかにあるかな?」

「それも探さないといけませんね」

「しばらくは音羽の頭がベッドだね」

「む~」

「はいはい、だから静かにね」

 

 

 

『シールド順次開放、電子攻撃の完全停止を確認』

『物理遮断リリース、回線回復』

「プリティー・バルキリー号再起動、チェックプログラム走らせます」

 

 カルナとブレータからの通信が届く中、エルナーも自己閉鎖を開放してプリティー・バルキリー号のチェックに入る。

 

『マシンクレイドルからも閉鎖終了の連絡が来ています』

「お互い、閉鎖が早くて事なきを得ましたが、一時はどうなる事かと………」

『トリガーハート三機、セルフチェック中。現状で異常無し。こちらで保護していた二名はどうするべきでしょうか』

「ユーリィと亜弥乎はマシンクレイドルでやってもらうしかありませんね………」

 

 ブレータからの報告を聞きながら、エルナーはある種の違和感を感じていた。

 

『こちら攻龍、プリティー・バルキリー号、カルナダイン、応答してください』

「こちらプリティー・バルキリー号、現在復帰作業中」

『こちらカルナダイン、セルフチェックまもなく完了、完了と同時に全機能使用可能です』

『うらやましいですね~、こちらはメインケーブル切断しちゃったんで、完全復旧に時間かかりそうです』

 

 タクミからの通信にそれぞれ答える中、通信ウインドゥに艦長の姿が表示される。

 

『双方、索敵機能は働いているか?』

「ええ、完全ではありませんが」

『こちらでは現状第二種戦闘態勢で索敵中、セルフチェック完了と同時に第一種に上げられますが……』

『すぐにそうしてほしい。今回の電子攻撃、どうにも妙だ』

「……やはりそう思いますか」

『確かに、他に敵影は感知されてませんし………』

『電子攻撃は陽動で、他の目的の可能性も十分ありうる。しばらくは警戒態勢を引き上げておいた方がいい』

「了解しました」

『了解、トリガーハートにも伝達しておきます』

 

 通信が切れると同時に、エルナーはしばし考え込む。

 

「どうにも敵の行動パターンが読めません………一体、なぜここまで手の込んだ事を?」

 

 その問いは、程なくして解ける事となった。

 

 

 

「うん………」

「あら、目が覚めた?」

 

 アイーシャがゆっくりと目を開けると、そこには幾つかの検査機器を動かそうとしている夕子先生とそれを手伝っている白香、ついでに隣のベッドでまだ寝ているティタの姿があった。

 

「そうか、私は………」

「まだ無理をしてはいけません。周王さんから貴女のデータをいただきましたから、体内のナノマシンへの影響をマシンクレイドルで見てもらいましょう。何かあってもすぐ治療できます」

「……攻龍にはそこまでの設備は無い。頼む」

 

 体を起こそうとするアイーシャを白香が起きないように促し、アイーシャは大人しくそれに従う。

 

「う~ん、これはここの機械も見てもらった後の方いいわね」

「そうですね、どんな影響が出てくるか分かりません。データチェックも必要でしょう」

「データ………」

 

 そこで何かを思い出したアイーシャが跳ね起き、医療機器をチェックしていた二人が思わず振り返る。

 

「だから無理をしてはダメって…」

「みんなに伝えてほしい。敵に干渉されて分かった事がある」

「え……それは?」

「敵の狙いは、みんなのデータ。こちらの対抗手段を封じつつ、こちらのデータを奪う事が目的だった。けれど、対処が早かったから各艦のデータバンクへのハッキングは不完全。私を除いて」

「仮定の通り」

 

 いつから起きていたのか、ティタがアイーシャの言葉を肯定する。

 

「それって、一体どこまでです!?」

「ソニックダイバーとこちらに来ていたウィッチと天使達のデータを持っていかれたと思う」

「まさかそんな事が………」

「エルナーに教えてきます!」

 

 白香が慌てて医務室から出て行く中、アイーシャがベッドで半身を起こしたままうなだれる。

 

「アイーシャ悪くない。悪いのは多分あっち」

「分かってる。でも何か手が」

「悩むの無駄。だから寝る」

 

 そう言うやいなや、ティタはまたベッドで寝息を立て始める。

 

「アイーシャも休んでなさい。何かあっても、みんながなんとかしてくれるから」

「うん………」

 

 力なく答えながら、アイーシャは再度体をベッドに横たえる。

 

(信じよう、みんなを。この先何が起きても、みんなと力を合わせれば、きっと……)

 

 そう自分に言い聞かせながら、アイーシャは瞳を閉じた………

 


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