スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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EP25

 

「当該目標、全交信パターンを確認」

「α、β、θ、δ、各レベルに設定」

「作戦目標は各ユニットのデータ入手及び無力化」

「作戦開始まで2:00………」

 

 

 

「五番アンカー、出力上昇」

「水平を維持、速度微速」

 

 攻龍の船体が重力アンカーに支えられ、ゆっくりと整備用船台へと移動していく。

 

「う~む、クレーンも無しにあれだけの物が宙を浮くというのはな」

「見ていて少し恐い物があるわね」

「今の時代はコレが普通よ。クレーンにもワイヤーが付いてないでしょ」

 

 攻龍が移動させられるのを見ていたバルクホルンと瑛花が呟いたのを、後ろを通りかかったミサキが答える。

 

「最初は壊れているのかと思った」

「私も……」

「トリガーハートのアンカーの方がもっと進んだ技術で造られてるわ。出力的には今動いてる工業用アンカーと同等かそれ以上よ」

「なるほど、道理で同じように投げようとしてもうまくいかない訳だ」

『え?』

 

 さらりとバルクホルンが言った事に、思わず二人がそちらに振り向く中、重々しい音を立てて攻龍が船台にセットされる。

 先だって急ごしらえのハンガーに収納されているプリティー・バルキリー号、カルナダインと並び、三隻の母艦がその船体を露にしていた。

 

「こうやって見ると、改めて技術格差ってのが分かるな………よく共闘出来たモンだ」

「案外、下手に考えるよりも体が動くタイプの人達だったから上手くいったのかもしれませんね。それなりの微調整は必要でしょうが」

「それがオレらの仕事か」

 

 水上戦闘艦、宇宙航行艦、トリガーハート支援艦と三艦三様を見た冬后が呟き、エルナーもそれに共感する。

 

「ようし、取り掛かれ~!」

 

 大戸の指示の元、待ち構えていた機械人、攻龍双方の整備スタッフが攻龍の点検整備に取り掛かる中、そのそばに人垣が出来始めていた。

 作業中に足を止める者、興味本位で場所取りをしていた者、その他諸々の人垣は、その中央で対峙する二人の女剣士に熱い視線を注いでいた。

 

「ガンバレ音羽!」「頑張ってください音羽さん!」

「お~し」

 

 エリーゼと可憐の声援を受けながら、音羽は気合十分に竹刀を正眼に構える。

 

「少佐! 頑張ってくださいまし!」「坂本さん! まだ無理しちゃダメですからね!」

「もうそこまで心配される程でもない」

 

 ペリーヌと芳佳の声援を受けながら、美緒は竹刀を下段八双に構えた。

 

「それでは、お二人とも準備はいいかしら?」

「はい!」「いつでもいいぞ」

 

 音羽の少し強引に提案された両者の試合に、審判を買って出たジオールが両者を交互に見ると、片手を上げる。

 

「それでは、始め」

 

 開始の合図と同時に手が振り下ろされる。

 

「でああぁぁ!」

 

 開始と同時に、音羽が気合と共に一気に間合いを詰める。

 そのまま上段から一気に竹刀が振り下ろされるが、美緒は構えを崩さないまま、僅かに後ろに下がってその一閃をかわす。

 

「力が入りすぎているな」

「まだまだ! たああぁ!」

 

 追撃とばかりに音羽は横薙ぎの一撃を繰り出すが、美緒は手にした竹刀でその軌道をずらして回避する。

 

「もっと相手をよく見るんだ」

「はいっ!」

 

 音羽は矢継ぎ早に竹刀を繰り出すが、そのすべてがかわされ、受け流され、防がれる。

 

「予想はしてたけど、それ以上ね」

「音羽もかなりの腕だけど、美緒は更にその上をいってるわ。戦歴の違いが如実に出てるようね」

 

 冷静に試合を観察していた瑛花とポリリーナが、端的に感想を述べる。

 

「はあ、はあ………」

 

 体力には自信のある音羽だったが、焦りが出たのか、呼吸が荒くなってくる。

 それに対し、美緒は息一つ乱してなかった。

 

「そろそろ、こちらから行くぞ」

 

 宣言と同時に、鋭い一撃が音羽を襲う。

 とっさに竹刀をかざしてその一撃を受けた音羽だったが、竹刀越しに伝わってきた衝撃に一瞬呼吸が止まる。

 

(重い! おじいちゃん並か、それ以上!)

「次っ!」

 

 下段からの切り上げを音羽はなんとか捌いてかわすが、それでも手に衝撃が伝わってくる。

 攻防転じての美緒の攻勢だったが、音羽は一撃一撃を受け止めるか弾くので精一杯だった。

 

「改めて見るとすごい腕ですわね」「一撃のエネルギー量がまるで違うわ。同じ武装とはとても思えないわね………」

 

 エリカとフェインティアが美緒の剣の腕に素直に感嘆する。

 手数こそ音羽に比べて少ないが、一撃の鋭さと重さは丸で違う。

 徐々に押されていった音羽が、とうとう人垣間近にまで後退してしまう。

 

「ガンバレ音羽!」「反撃です! 音羽さん!」「しっかりしろ音羽!」「こっちは貴重なオヤツ賭けてんやで!」

「勝手に賭けるな!」

 

 仕事を抜け出してきたらしい遼平や嵐子の声援に思わず怒鳴り返す音羽だったが、そこに更に鋭い上段からの一撃が襲う。

 

「わあっ!」

「余所見は禁物だぞ」

 

 なんとか竹刀を両手で横に構えて受け止めた音羽だったが、美緒は容赦なく力をこめてくる。

 

「こ、のおっ!」

「やるな!」

 

 力任せに美緒の竹刀を弾いた音羽が、竹刀を構え直す。

 

(つ、強い………おじいちゃん以外にこんな強い人は見た事が無い………)

 

 完全に乱れている呼吸を何とか戻そうと音羽は深呼吸を試みるが、中々呼吸は整わない。

 見れば美緒の呼吸も少し荒くなっていたが、あちらは数度の呼吸で見事に整える。

 

(これ以上、長びいたら勝てない。だったら……!)

「………たああぁぁ!」

 

 一度大きく息を吸った音羽は、それをありったけの気合と共に吐き出しつつ、大上段から最大限の一撃を繰り出す。

 

「むっ!」

 

 美緒は竹刀を頭上にかざしてその一撃を受け止めるが、強力な一撃に体勢が崩れる。

 

「やっ…」

 

 一瞬勝利を確信しかけた音羽だったが、渾身の一撃が半ばまで振り下ろされた所で止まる。

 

「え?」

「いい一撃だ。申し分ない」

 

 音羽の一撃の前に体勢が崩れた美緒だったが、勢いに逆らわずに後ろに下がり、下半身のバネで勢いを吸収する事でしのいだ美緒が音羽に向かって笑みを浮かべる。

 

「次は、こちらから行くぞ」

 

 音羽の竹刀を弾きながら美緒は立ち上がると、数歩下がってから竹刀を正眼に構える。

 数度呼気を整えたかと思うと、美緒の雰囲気が変わっていく事に音羽は気付いた。

 

「ちゃんと受け止めろ。手加減は無しだ」

「え、あの………」

「はあああ、烈・風・斬!!」

「きゃああぁぁ!」

 

 魔力こそ篭ってないが、文字通り噴きつける烈風がごとき上段からの大斬撃が音羽へと解き放たれる。

 音羽とは比べ物にならない凄まじい一撃が美緒の手から放たれ、なんとか音羽は受け止めようとするが、あまりの威力に体ごと弾き飛ばされ、地面へとしりもちを付いた。

 

「それまで!」

「音羽!」「無事か!?」

 

 ジオールが決着を宣言した所で、仲間達が音羽の元へと駆け寄る。

 

「あたたた、お尻打った………」

「それで済めばいい方だろ」

「あの、音羽さん、竹刀………」

「え?」

 

 可憐に指摘されて音羽が竹刀を見ると、美緒の一撃を受けた部分から完全に砕け、使い物にならなくなっていた。

 もしまともに食らった時の事を想像し、音羽の顔から血の気が引いていく。

 

「流石ですわ少佐!」「マスター、水分補給を」

「お、すまないな」

 

 ペリーヌとアーンヴァルからタオルやスポーツドリンクを受け取った美緒だったが、そこでドリンクボトルを手に音羽へと歩み寄る。

 

「桜野、筋は十二分にいい。後は経験を積んでいく事だ。無駄を無くし、攻撃の配分を考え直せ」

「はい! ありがとうございました!」

 

 慌てて立ち上がって砕けた竹刀を手に頭を下げる音羽に、美緒はその頭に軽く手を置いてからその場を後にする。

 

「攻撃の配分か……やっぱりなんとかさっきの技を…」

「さあて、それじゃあ約束の物」

 

 ぶつぶつと呟く音羽の隣を、どこから用意したのかダンボール箱を手にしたハルトマンが通り過ぎる。

 

「あ~、分かったよ!」「持ってき!」

「あ~ん、音羽なら勝てると思ったのに~」

 

 その箱に遼平達がオヤツを投げ入れるのを見た音羽と可憐が苦笑するが、そこに見るからに顔を引き攣らせたバルクホルンが駆け寄ってくる。

 

「何をしてるかハルトマン!」

「何って、見ての通り少佐の勝ちだったから勝ち分の収集」

「少佐の試合で賭け事とは何を考えている!」

「だって向こうから言ってきたんだし~」

「貴様はカールスランド軍人としての自覚をだな…」

「さあ仕事に戻るとするか」「そやな」

「中々面白い物が見れましたね」「時間があったら私もペリーヌさんあたりとやってみましょうか?」

 

 激昂するバルクホルンと聞き流しているハルトマンの二人を置いて、皆は持ち場に戻っていく。

 話を聞いたミーナが止めにくるまで、バルクホルンの説教は続いた。

 

 

 

「ふ~む………」

『ふむふむ………』

「素晴らしい練度だ」

 

 カルナダインのブリッジで、フェインティアとカルナ、ムルメルティアが先程の美緒と音羽の試合の映像を真剣な表情で解析していた。

 

「何してるの?」

「ちょっとね。音羽の近接戦闘力も結構な物だと認識してたんだけど、上には上がいるな、と思って」

「余程の訓練と戦歴を誇っているのだろう」

 

 調整が終わったばかりのクルエルティアが聞くと、フェインティアは視線だけそちらに向け、その肩にいたムルメルティアが素直に賛辞を述べる。

 

「美緒ね、何でも戦歴が八年はあるとか聞いたわ。しかもほとんど最前線で」

「八年も最前線いるトリガーハートはいないわね………なるほど、戦闘データの蓄積が全然違うってわけ」

『フェインティア、必要ならば解析データをユニットに入力しますが』

「ガルシリーズでどうやるってのよ」

「私にも刀剣系の武装は無い」

『なら…ば』

「ブレータ?」

 

 AIから一瞬走ったノイズに、フェインティアが眉を潜める。

 

『あれ、接続がどこか問題でもあったんでしょうか?』

『不明、セルフチェックを走らせます』

「カルナダインで三機体制は限度ギリギリだしね。念入りにやっておいて」

『了解』

 

 AI二つ同時の返答を聞きつつ、フェインティアはデータ解析を終了させる。

 

「エグゼリカは?」

「最終調整がもう直終わるわ。私の方がダメージが大きかった分、先に調整してもらったから」

「早い所済ませてもらわないとね。次の敵襲がいつ来るか分かった物じゃないし」

「そのためにも、万全の体制を整えねば」

「そうね………」

 

 二人のトリガーハートと一体の武装神姫の懸念は、有る意味外れていた。

 悪い方向に。

 

 

 

「? ユナ何か言った?」

「ううん何も言ってないよ?」

「あれ?」

 

 転移装置の設置準備を進めていた亜弥乎が首を傾げ、手伝っていたユナも周囲を見回すが、皆忙しそうに動いているだけで声をかけてきそうな人影はいなかった。

 

「これが完成すれば、音羽ちゃんや亜乃亜ちゃんはお家に帰れるのか~」

「うん、ちょっと質量大きいけど、何度か実験すれば大丈夫だって玉華様も言ってたし」

「ねえねえ、行ったり来たりってできないかな?」

「う~ん、どうだろ?」

「そうしたらいつでも遊びに行けて便利なのに~」

「ユナさ~~ん、そこどいてくださいです~」

「ユーリィ、こっちこっち」

 

 そこへ大きな機材を掲げたユーリィが現れ、亜弥乎の指示でそれを転移装置のそばへと置いていく。

 

「そう言えばユナさん、ユーリィの事呼びませんでした?」

「呼んでないけど? どうして?」

「おかしいですね~誰かに呼ばれた気がしたんですけど」

「ユーリィも?」

「二人とも、疲れてるんじゃない? 特に亜弥乎ちゃんはまだ無理しちゃダメだよ?」

「そう、かな?」

「ユーリィは元気いっぱいですぅ。でもそろそろお腹すいてきたですぅ!」

「さっきオヤツ食べたばっかじゃない………」

「もう30分も経ってるですぅ!」

「まったくもう………」

 

 二人が感じた気配の事を、ユナはすぐに聞き流してしまっていた。

 だが、それこそが始まりである事を知るまで、さほど時間はかからなかった。

 

 

 

「あれ?」

 

 ソニックダイバー隊が四人そろってシミュレーションをしている最中、映像にノイズが走る。

 だがそれは一瞬の事で、即座に映像は元に戻った。

 

「あん? 調子でも悪いのかな?」

「いえ、現状では問題ないようですが………」

「ちょっと停止させてください。何かバグかもしれません」

 

 そのノイズを見た冬后がシミュレーション機器をチェックし、瑛花はシミュレーション自体にはなんら問題が無いので続行しようとするが、可憐が大事を取って停止を進言する。

 

「全員そこまで。色々あったから、目に見えない所で故障してる可能性もある」

「え~、いい所だったのに!」

 

 順当に架空スコアを上げていたエリーゼが文句を言う中、シミュレーションは中断、映像が消えた所で全員がシミュレーション用のHMDポッドを頭から外した。

 

「おっかしいな~、チェックは何度もやったはず………」

「もう一遍頼む。向こう戻ってから壊れてましたじゃ話になんないからな。誰か藤枝に頼んでスキャンもかけてもらってくれ」

 

 遼平がぶつくさ言いながら機材の確認に入り、冬后が念には念を入れてチェックを入れさせる。

 

「なに、どうかしたの?」

「いや、多分気のせいだと思うが……」

「マドカ呼びます?」

「また妙な改造されたら、たまんねえからやめてくれ」

 

 シミュレーションを見学していた亜乃亜も首を傾げるが、遼平が顔をしかめて手を左右に振って断る。

 

「そういや昨日から見てないが?」

「何でも、宮藤博士にストライカーユニットの講義を受けに行くって言ってました」

「資料渡されたの見たけど、オレは駆動原理すら理解するのがやっとだったな」

「また変な改造し始めないといいんだけど……」

「ミーナ中佐がいる限り大丈夫だろ。なんでかあれ以来ヤケに怖がってるが」

「何やったんだか……」

 

 些細なトラブルのための点検、それが後に行幸となるのを当人達は知る由も無かった。

 

 

 

「う~ん」

 

 プリティー・バルキリー号の一室で、ホワイトボードに描かれた図面を前に、ウルスラは唸り声を上げる。

 マジックを手に、出来たばかりの図面の問題点を考慮するが、考慮すべき事が多過ぎて図面を消しては書き、修正しようかと思えば手が止まるを繰り返していた。

 

「ここをバイパスさせると、こちらに負荷がかかる。けどこっちを強化するとバランスに問題が……」

「失礼しま~す、ってあれ?」

 

 そこにドアを開けてマドカが入ってきた所で、ウルスラの書いた図面が目に入ってくる。

 

「あなた、確かGの」

「マドカよ、これってストライカーユニットの設計図?」

「今設計中の試作機。分かる?」

「宮藤博士に教わってきたばかりだから。へ~、なるほどなるほど」

 

 興味深く図面を見ていたマドカが、ホワイトボードに置いてあったマジックを手に取り、回路図の一部に修正案を書いていく。

 

「そっちにあるか分からないけど、こうしてみたら?」

「なるほど。けどそうしたら強度の問題は?」

「う~ん、素材の張力から見直してみるとか」

「重量問題もある。ましてやこれだと一番大事なのは回路の同調性にあるから」

「じゃあここはこうして」

「失礼します。こちらに…あら?」

 

 さらにそこへ資料を取りに来たエミリーが、二人があれこれ修正案を出している図面を目に止める。

 

「これ、この間言っていた新型ですね?」

「ええ、けどなかなかまとまらなくて」

「ちょっと失礼、対反応理論ってまだでしたね?」

 

 エミリーがテーブルからマジックをとり、図面のあちこちに方程式を書いていく。

 

「この理論を使えば、強度問題も大丈夫です」

「しかし、そうなるとバランスの問題が」

「じゃあ、ここはこうして……」

 

 

「そうなると、互換性は無理という事ですわね」

「こちらの機械技術と魔導技術はちょうどそちらと正対しているといっていい開きがありますからね。ソニックダイバーのシステムが応用できれば、ウィッチ達の損害ももっと減らせるんですが………」

 

 講義が終わった後も意見交換をしていた周防と宮藤博士が、色々と問題点を上げながら資料室代わりの一室のドアを開け、その場で同時に硬直する。

 

「こちらのバイパス、確かにそうすれば安定化できる」

「じゃあ、こっちはこうしてみる?」

「待ってください。今理論計算をしてみます」

 

 ウルスラ、マドカ、エミリーの三人が、ホワイトボードだけでは足りなくなったのか、壁や床にまで図面や回路図、方程式をびっしりと書き込んでいる。

 

「これは………」

「学者が三人集まると何も決まらないって言うけど、どうやら彼女達は逆みたいだね」

 

 凄まじい状態になっている室内を周王が唖然とするが、宮藤博士は興味深そうにその一つ一つを見ていく。

 

「これって、ひょっとして……」

「はい、タンデム型ジェットストライカーの試作図面です」

「戦闘用のタンデム機は魔力同調の問題があって実用化してなかったはずだけど、なるほどこれなら………」

 

 それが二人乗りストライカーユニットの図面だと理解した周王と宮藤博士が頷きながらもしばし考え込む。

 やがて、周王が手にしていたデータデバイスから何かを呼び出し、エミリーへと手渡す。

 

「これは?」

「ソニックダイバーのMOLP理論とその算出方程式。何かの役に立つかしら」

「これって、ソニックダイバーの根幹システムでは?」

「ええ、本来は統合軍の機密事項なのだけど、活用できるかと思って」

「すでに所属をどうこう言える状態ではないからね」

 

 宮藤博士もそう言いながら、図面の各所に的確に修正案を足していく。

 

「これが完成すれば、大きな戦力になる。早急に開発を…」

「あら?」

 

 そこでいきなり、エミリーが覗いていたデータデバイスの画面がブラックアウトする。

 

「どこか変な操作でもした?」

「いえ、何も…」

 

 周王も画面を覗き込んだ時、再度画面が表示されたが、次々とウィンドウが開き、内部のデータがドンドンと表示されていく。

 

「え………」

「そんな!? どうして……」

「何々?」

「どうかしましたか?」

 

 エミリーと周王の顔色が変わる中、マドカとウルスラも画面を覗き込む。

 だが表示されているデータに厳重にロックがかけられているはずの機密データが混じり始めた事に周王の口から悲鳴が洩れる。

 

「まさか、ハッキング!?」

「! どこから…」

 

 周王がその状態の真相に気付き、エミリーが思わず周囲を見回そうとした時、室内の照明が突如として明滅を始める。

 

「あれ? 今度はこっちの方が……」

「ま、まさか………」

 

 それが先程のデータデバイスと同じ状態の事に気付いたマドカの手から、マジックが滑り落ちて床で音を立てる。

 その音が、始まりの合図となった。

 

 

 

「何が起きている!」

「攻龍のメインデータバンクに異常発生! プロテクトが次々と突破されています!」

「艦内各所から異常発生の報告! イージスシステムが勝手に動作を始めました!」

 

 全くの唐突に始まった攻龍の異常に、副長が声をあげ、七恵とタクミが次々と異常を知らせてくる。

 

「イージスシステムを止めるんだ! 周囲には作業中の人員がいるんだぞ!」

「それがコマンドを一切受付けません! 強力な電子攻撃です!」

「イージスシステムの回路を切断」

「止むをえんか……!」

「り、了解しました!」

 

 艦長の英断に、副長が緊急時用の停止スイッチをカバーごと叩き割り、七恵がコンソール下の緊急停止レバーを押し下げる。

 

「イージスシステム停止しました!」

「ハッキングは続行中、後は最終プロテクトだけです!」

「何だと!? こうも簡単に…」

「何が起きた!」

 

 副長が再度声を上げる中、異常に気付いてブリッジに飛び込んできた冬后が混乱状態のブリッジを見て生唾を飲み込む。

 

「大規模な電子攻撃です! 今防護プログラムを……間に合わない!」

「攻龍を完全停止させる」

「艦長! しかし…」

 

 七恵が悲鳴を上げながらハッキングを防ごうとするが、侵蝕を示すゲージが瞬く間にプロテクトを食い破ろうとしている。

 

「駆動キー停止行動」

「……了解」

「3、2、1」

 

 艦長と副長がそれぞれのコンソールにある駆動キーに手を伸ばし、艦長のカウントと同時にキーを回す。

 一瞬攻龍の全電源が落ち、停止が成功したかと思われたが、僅かな間を持って再度攻龍のシステムが起動する。

 

「おい!?」

「サブシステムが勝手に起動しています! もうそこまで!?」

「うわああぁ! 通信システムももう!」

「最終停止シーケンス実行」

「了解!」

 

 攻龍が乗っ取られるのが時間の問題かと思われた時、艦長の命令に反応した冬后がブリッジに配備されていたトマホークをカバーを叩き割って取り出し、ブリッジの床に走るメインデータバンクと動力の直結ケーブルのカバーを開けると、そこに走るケーブルにトマホークを振り下ろす。

 攻龍の動力炉から走るメインケーブルが一撃で断線され、今度こそ攻龍が完全に沈黙した。

 

「ま、間に合いました………」

「しかしこれでは………」

「おい、この電子攻撃、攻龍だけか?」

 

 胸を撫で下ろした七恵とタクミだったが、冬后の一言でまさかと思ってそれぞれ左右を見る。

 そこでは、明らかな異常を起こし、混乱状態に陥っている地獄絵図が広がっていた。

 

 

 

「うう……」「きゃあぁ……」

 

 最初の声は誰だったか、それすら分かる間も無く、各所で作業していた機械人達が次々と悲鳴や苦悶を上げて倒れていく。

 

「な、なんだこれは!?」「え? え?」

 

 何が起きたか分からずにいる者達の前で、被害は瞬く間に拡大していった。

 

「ユ、ユナ………」

「亜弥乎ちゃん!? どうかしたの?」

「ユナさん……ユーリィ頭痛いですぅ………」

「ユーリィまで!」

 

 ユナの目前で、亜弥乎とユーリィが頭を押さえて倒れこむ。

 

「ちょ、ちょっと誰か来て! 亜弥乎ちゃんとユーリィが…」

「は、早くその二人をカルナダインへ……」

 

 慌てふためくユナの前に、顔に苦悶を浮かべながらエグゼリカがらふらふらとした足取りで近寄ってくる。

 

「エグゼリカちゃんも!?」

「これは電子攻撃です………トリガーハートの防壁を持ってしても、食い止めるのが精一杯………戦闘用じゃないその二人の電子頭脳が持たない可能性が………カルナダインで完全閉鎖すれば………」

「わ、分かった!」

「手伝います!」「あちらに運べばいいんですね!?」

 

 ユナの声に駆け寄ってきた芳佳とリーネが肩を貸しながら、三人をカルナダインへと運んでいく。

 

「動ける者はマシンクレイドルの中へ!」

「急いでください!」

 

 向こうを見れば、同じように顔を苦悶に歪めながら、剣鳳と鏡明が誘導を行い、ウィッチ達が中心となって倒れた機械人の搬送を行っていた。

 

「これはどうなって………」

「マス、ター………システム保護のため、緊急閉鎖を……」

 

 愕然とその光景を見ていた美緒の肩の上で、アーンヴァルが呟いたかと思うとその表情が茫洋とし始め、数度揺れたかと思うと突然力を失って美緒の肩から滑り落ちる。

 

「アーンヴァル!? どうした、おい! しっかりするんだ!」

 

 慌てて美緒がすくい上げて声をかけるが、アーンヴァルは目を閉じたまま、ただの人形のように微動だにしない。

 

「美緒!」

「ミーナ! 何かが起きて…」

 

 聞こえてきた声に美緒がそちらに振り向くが、ミーナの手に同じようにストラーフが抱かれている事に気付くと事態の深刻さを思い知らされる。

 

「そっちもか!」

「機械人や武装神姫、それにトリガーハートの人達も同じような状態になってるわ! これは一体何が起きてるの!?」

「激しく動かしてはいけません!」

 

 慌てふためく二人に、突然誰かが声をかけてくる。

 その方向に二人が振り向くと、そこには通路に鎮座するカタツムリの殻のような物があった。

 

「………え~と」「ひょっとして、白香か?」

「はい」

 

 白香が普段背中に背負っている防護シェルの中央部分が開き、そこに白香の顔が映し出される。

 

「これは電子頭脳を狙った電子攻撃です! 電子頭脳を持った全ての存在に無差別にハッキングとクラッキングをしかけてきています! 早く仕掛けてきている敵を見つけないと!」

「攻撃、これは攻撃なのか!」

「ちょっと待って! 電子頭脳を持った全ての存在って、確か未来の兵器は大抵付いているって聞いたんだけど………」

「………いかん!! 誰か攻龍へ!」

 

 

 

「うわあああぁぁ! なんだなんだぁ!?」

「あかん! システムが踊り始めてるで!」

「防壁張りや! 早く!」

 

 ソニックダイバーに突如として生じた異常に、専属メカニック達が大慌てで対策を講じようとするが、相手の攻撃はそれよりも早かった。

 

「やべえ! メインブレーカーを外せ! 早く!」

「おやっさん! けどすぐには…」

 

 遼平が思わず叫んだ所で、突如として零神が音羽が乗っていないのに身震いを始める。

 

「ダメや! 間に合わん!」

「ソニックダイバーが、乗っ取られる!」

 

 零神を始めとして、風神、雷神、バッハシュテルツェ、そしてシューニアカスタムまでもが勝手に動き始める。

 

「マジか!?」「洒落になっとらんで!」

「遼平!」

「くそっ間に合え!」

 

 完全にAIを乗っ取られ、暴走を始めたソニックダイバーから皆が逃げ出す中、遼平は無理やり零神に乗りかかり、振り落とされようとするのを必死にしがみ付いて強制停止用のメインブレーカーを引っこ抜き、かろうじて零神だけは停止した。

 

「ええい、ウチらも!」「待ちいや! ただ動くだけならまだしも、攻撃なぞされたら!」

「弾は込めとらん! 大丈夫…」

 

 整備中だったので実弾は装填されてなかったが、思わずその場から飛び退いたメカニック達に向けて複数のビーム砲が向けられる。

 

「やべ………」

「どぉりゃああああ!」

 

 零神から降りた所に向けられた雷神の大型ビーム砲に、一瞬走馬灯がよぎりそうになった遼平だったが、そこへ凄まじい気合と共に雷神が吹っ飛ばされる。

 

「ええい、何が起きてるか分からんが、状況は分かった!」

「トゥルーデ、やり過ぎ………」

 

 固有魔法の発動で雷神を蹴り飛ばしたバルクホルンが、どこか困惑した表情はしているが、全身に魔力を漲らせて勝手に動き回るソニックダイバーの前に仁王立ちする。

 

「私が動きを止める! その間にどうにかして動力を落とせ! 行くぞハルトマン!」

「え~?」

 

 疑問符のハルトマンを無視して、バルクホルンは向かってきたバッハシュテルツェの両手を掴むと、そのまま固有魔法でバッハシュテルツェを持ち上げていく。

 

「うおおおおおお!」

「うげ!?」「ウソやろ………」

「どおりゃああ!」

 

 絶句する御子神姉妹の前で、そのまま気合と共にバルクホルンはバッハシュテルツェを向かってきた風神へと投げつける。

 直撃した二体のソニックダイバーは壮絶な音を立ててもつれ込んでいく。

 

「オーバーホールしたばっかやのに!」

「文句は後で聞く!」

「ああああ! バッハが!」

 

 凄まじい音に格納庫に駆けつけたエリーゼが予想外の事態に悲鳴を上げる。

 

「遼平! ゼロは…」「一体何を…」

「うおおおぉ!」

 

 同じく格納庫に来た音羽と亜乃亜の目に、シューニアカスタムをジャイアントスイングに持ち込んでいるバルクホルンの姿が飛び込んでくる。

 

「どけえぇ!」

 

 怒声と共に、ぶん投げられたシューニアカスタムが壁に直撃、そのまま沈黙する。

 

「次!」

「あ~、それくらいにしといたら」

「う~! この~!」

 

 力任せにソニックダイバーをねじ伏せていくバルクホルンに、固有魔法で立ち上がろうとしているソニックダイバーを風圧で押さえ込むハルトマンに、駆けつけたルッキーニがシールドで更に動きを押さえつけていた。

 

「今の内だ!」「は、はい!」「………バルクホルン大尉って、ミーナ隊長と違う意味で恐い人やな」「……そやな」

 

 大慌てで非常時用のメインブレーカーをメカニック達が外しに入る中、ウィッチ達がソニックダイバーを押さえ込み、なんとかソニックダイバーが停止していく。

 

「な、なんとか最悪の事態は免れたぜ………」

「あああ、これ直すの手間やな………」

「それよりも、原因究明が先…」

「あの………」

 

 そこへ亜乃亜が恐る恐る声をかけてくる。

 

「どうした?」

「次はこっちお願いしたいんですけど………」

「ダメだ、緊急停止が効かない!」

「押さえろ!」

 

 そう言う亜乃亜の後ろ、エリューや騒ぎを聞きつけてきたメカニック達が押さえ込もうとするのを無視するかのように、無人のままのRVが浮き上がり始めていた。

 

「次だハルトマン!」

「………後でいい?」

「あの、お手柔らかに………」

 

 拳を鳴らしてRVへと対峙するバルクホルンに、亜乃亜の背中を冷たい汗が滑り落ちていった。

 

 

 

「機関閉鎖! 急いで!」

「なんて侵蝕速度!? ありったけの防壁出して!」

「今やってます! 主電源落とす準備も!」

「誰かハンガーの固定確認!」

「各部署の安全を大至急点検! 全システムが停止するぞ!」

 

 整備用ハンガーに鎮座したままのプリティー・バルキリー号が各所のランプや装備がデタラメに明滅や稼動をする中、そのブリッジでポリリーナが叫び、マドカとエミリーが電子攻撃を食い止めようと悪戦苦闘し、宮藤博士の指示の元、各所の緊急点検が行われていた。

 

「ストライカーユニット、若干電子装置に負担が掛かっている模様ですが、大丈夫です!」

「カルナダインから緊急連絡! 状態悪化の防止のため、トリガーハート三人と共に緊急閉鎖するそうです!」

「攻龍は全システム停止! 現在ソニックダイバー、RVの暴走を鎮圧中!」

「手の開いてる人は下に来て! 機械人達をマシンクレイドル内部に避難させるわ!」

 

 口頭伝達以外の方法が無い中、次々と報告が飛び交い、皆が被害を食い止めるべく右往左往している。

 それとは対照的に、隣のハンガーに鎮座しているカルナダインは完全に閉鎖されているのか、外見上は完全に沈黙している。

 そしてハッチの所には、ユーリィや亜弥乎を運び込んだユナ、芳佳、リーネの三人が心配そうにカルナダインを見つめていた。

 

「避難完了後、マシンクレイドルを閉鎖するそうです! 閉鎖後は外部との連絡はほとんど不可能になると!」

「ユーリィがぶっ倒れてカルナダインに運び込まれたアル!」

「ちょっと! バトルスーツも使えなくなってるわよ!?」

「バトルスーツだけじゃないわ………」

 

 ポリリーナがちらりとブリッジのコンソール、緊急事態に対処するためにプリティー・バルキリー号の制御コンピューターと直結して自己閉鎖作業をしているエルナーの方を見る。

 

「いまこの船を失うわけにはいかない、けどエルナーでも自分諸共自己閉鎖するしかないなんて………」

「すいません! 宮藤軍曹いますか!?」

 

 そこへ血相を変えたエリューが飛び込んでくる。

 その背後では、ジオールがぐったりしているティタをおぶさっていた。

 

「怪我でもしたの!?」

「それが、急に苦しみ出して………医療システムも使えなくなってるから、宮藤軍曹の魔法なら………」

「いえ、恐らくダメね………」

 

 険しい顔をしたジオールが、背中のティタを見つめる。

 

「この子はちょっと訳ありなの。多分この電子攻撃の影響を受けているんだと思うけど……」

「じゃあこちらじゃなくてマシンクレイドルへ! 閉鎖すれば、影響も少ないはず!」

「どっちにしろ治療は必要よ!」

「でも、魔法治療が可能なのかどうか………」

「オイ! 宮藤はいるカ!?」

 

 どうすればいいか分からず手をこまねく皆の元に、今度は血相を変えたエイラが飛び込んでくる。

 

「他にも誰か倒れたのか!」

「そんな生易しい状態じゃナイんだ! 早く宮藤を攻龍に!」

「まさか………」

 

 狼狽しているエイラの様子に、もう一人電子攻撃の影響を受ける可能性のある人物がいた事に、エリューの顔色は更に青くなっていった。

 

 

 

「く、ううう、あう………」

「しっかりして、今芳佳ちゃんが来るから」

「あ、ああ………」

 

 攻龍の医務室のベッドで、普段無表情なアイーシャが苦悶に呻き、額には大量の脂汗が浮かんでいる。

 付き添っているサーニャが声をかけるが、それにすら答えられない程、アイーシャの状態はひどい物だった。

 

「これは一体………」

 

 医療機器が動かない中、何とか治療を試みる夕子先生だったが、見た事のない症例にどうすればいいかを必死に考えていた。

 

「アイーシャが倒れたって!?」

「大丈夫なの!?」

 

 そこへソニックダイバー隊のメンバーや周王が医務室へと飛び込んでくる。

 

「アイーシャ! しっかりして!」

「何がどうなって………」

「分からないの。機械がおかしくなってきた時、突然苦しみ出して………」

「まさか、アイーシャのナノマシンにまで攻撃を受けているの!?」

 

 アイーシャが倒れた場に偶然居合わせたサーニャの説明に、周王の顔色が一気に変わる。

 

「ちょっと待って! それって、アイーシャもゼロみたいに………」

「そんな! どうにかならないの!?」

「こんな強力な電子攻撃なんて想定した事無かったわ………早くなんとかしないと、アイーシャの体、いえもっとも影響を受けるのは………」

 

 つい先程格納庫で繰り広げられた光景を思い出した音羽とエリーゼが周王に問うが、周王は完全に顔色を無くしたまま呟く。

 そして、一番ダメージを受ける可能性があるのは、人体のデータバンクにあたる脳だという事に気付いた周王は、対処法をなんとか見つけようと必死になって考えを巡らせる。

 

「宮藤連れてきたぞ!」

「怪我人はどこですか!」

「やっぱり!」

 

 混乱する医務室に、エイラと救急箱片手の芳佳が飛び込み、更にエリューとジオール、背負われたティタも入ってくる。

 

「そちらも!?」

「ティタさんも寝かせてください! 今治療を…」

「それよりもあっちに運んだ方がいいんじゃないノか!?」

「ダメ」

 

 それまで無言だったティタがベッドに寝かされながら呟く。

 

「この子の干渉力はティタより結構上………電子閉鎖しても、干渉されるかも。それに、この船の被害が大きいのは、この子を中継したため………」

「そんな………」

「喋らないで下さい! 今治療を…」

 

 芳佳が二人同時に固有魔法で治療を試みるが、すぐに違和感に気付く。

 

「これ………何ですか!?」

「………二人して機械と生体の融合っぽい。生体活性化の効果は半分半分」

「え? え?」

「つまり、芳佳さんの魔法でも治療は完全にはできない………」

 

 ティタの説明を、ジオールが結果だけ端的に告げる。

 

「じゃあどうするの!? このままじゃアイーシャが!」

「落ち着いて! 今対策を…」

「対策はあります!」

 

 突然響いた声に全員がそちらに振り向く。

 そこには、医務室のドアからこちらを覗いているミーナと、彼女が抱えている防護シェルの姿があった。

 防護シェルの中央が開き、そこから白香の顔が表示される。

 

「この電子攻撃は、攻龍近辺から仕掛けられています! つまり、この船のそばにいる大元の本体を叩けば、この攻撃は収まります!」

「本当!?」

「探してくる!」

 

 白香の言葉に、音羽の顔が僅かにほころび、最後まで聞かずにエリーゼは医務室を飛び出していく。

 

「ところで、機械人はみんな倒れたようだけど、貴方は平気なの?」

「私には黒皇帝・玉鷲(ユイジョー)様が作ってくれたこの防護シェルがあります。この中ならばいかなる攻撃をも防げるのですが、見ての通り動く事が出来ないので………」

「それ、もう一人二人入れない?」

「さすがにそこまでの余裕は………」

「武装神姫だけでも入れて欲しかったんだけど、今フタを開けるのも危ないらしいわ」

 

 夕子先生の問いに答えた白香に、周王が防護シェルをじっと見つめながら聞いてくるが、白香の困った顔が表示され、抱えているミーナも顔を曇らせる。

 

「ティタならしばらく問題あったりなかったり。それよりそっちが危ない」

「うう………」

 

 芳佳の治癒を受けながらかろうじて喋れるティタに対し、アイーシャは先程よりは幾分マシには見えるが、いまだ苦悶を浮かべていた。

 

「サーニャさんなら敵の居場所が分からない?」

「やってみる」

 

 ミーナの指示でサーニャが固有魔法を発動、魔導針が頭部に浮かんだ矢先、突然それが破裂するようにして消える。

 

「あ……!?」「サーニャ!」

 

 目を白黒させながら倒れそうになるサーニャをとっさにエイラが支える。

 

「サーニャさん!?」「大丈夫!?」

「はい……けど、敵を探知しようとしたら急にすごい負荷がかかって………」

「魔法にまで干渉されるの!?」

「止めといた方推奨。生だからその程度で済んでるぽい」

 

 感知手段の全てを封じられた事に気付いた周王が愕然とする中、ティタの助言が更に場に混乱をもたらす。

 

「攻龍の全システムはダウン、レーダー系も完全停止、サーニャさんの感知魔法も使えない………どうやって敵を探せば………」

「一つしかありませんわね」

「有視界探索、つまり目で探すしか………」

「待った! サーニャが出来ないナラ、私がなんとかシテみる!」

「ひょっとして占いで探すのかしら?」

 

 周王、ジオール、ミーナが深刻な顔で相談する中、エイラが意気込んで医務室を飛び出していく。

 

「どいてどいて!」

 

 今度はそれと入れ替わりに何か資材のような物を抱えたマドカを先頭に、同じく色々と抱えたウルスラとエミリーが医務室へと飛び込んでくる。

 

「何を持ち込んで…」

「ここに簡易的だけど防護フィールドを形成してみる! 少しだけど影響が少なくなるはず!」

「30秒待って! 最適なサイズに設計し直します!」

「宮藤軍曹は治療を続けてください!」

 

 エミリーが手書きで方程式を計算し、それに合わせてマドカとウルスラが資材を組み上げていく。

 

「………ここは任せるわ。私は艦長にこの事を報告してくる」

「私もブリッジへお願いします。分かっている限りの事を教えておいた方がいいと思うので」

「それぞれ手分けしてこの攻撃を仕掛けてきている敵の捜索を。サーニャさんも念のためにここにいて」

「はい」

「私はRVの状態を確認してくるわ。この状況だと起動も不可能かもしれないけど………」

「急いで。出来る限りはするけれど、私と芳佳さんでどこまで出来るか……」

 

 それぞれがなすべき事を定めて医務室を出て行く中、夕子先生は今使えるアンプルや器具を総動員して苦しんでいる二人に出来うる限りの治療を施そうとしていた。

 


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