スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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EP22

 

「う…………ん………」

 

 全身に異様な気だるさを感じながら、美緒はゆっくりと目を開ける。

 

(ここは、確か………)

 

 普段と違う目覚めに、美緒が寝る前の事を思い出そうとした所で、心配そうにこちらを覗き込む二つの顔に気付いた。

 

「坂本少佐! 目を覚まされたんですね!」「マスター! 体調は大丈夫ですか!?」

「ペリーヌにアーンヴァルか………そうか私は……」

 

 二人の顔を見ていて、ようやく自分が戦闘中に失神した事を思い出した美緒が、寝かされていたベッドから体を起こそうとする。

 

「まだ起きてはいけません少佐!」「マスターは49時間35分も寝ていました……」

「丸二日? そんなにか………道理で体が重いと………」

 

 先程よりさらに心配そうな顔になった二人を前に、美緒は起こそうとした体を戻す。

 

「戦闘はどうなった?」

「安心してください、少佐のご活躍で無事撃破に成功いたしました!」

「現在、この星の設備で各艦が復旧作業中です。今後の方針については連日会議が行われてます」

「そうか………会議の内容を見れないか?」

「あ、確かレポートが」

「ちょっと待ってて下さいマスター」

 

 ペリーヌが席を立ちかけた所で、アーンヴァルがベッド脇のコンソールを操作して会議レポートを探し出して表示させる。

 

「はいどうぞマスター」

「すまんな。これはどう見ればいいのだ?」

「ここをこうタッチして…」

「ぬぬぬぬ………」

 

 アーンヴァルがコンソールの美緒の間近でコンソールを操作してるのを見たペリーヌが、徐々に顔を引き攣らせていく。

 

「あちらの、攻龍だったか? 部隊データは?」

「まだまとめてる最中です。他にもGと呼ばれる組織も一緒です」

「ふむ、これは………」

 

 レポートに目を通しながらアーンヴァルにあれこれ質問する美緒とそれに答えるアーンヴァルの姿に、ペリーヌの視線が徐々に殺気を帯び始める。

 ふとそこで医務室の扉が開き、そこから芳佳とナース服姿の詩織(※本職、コスプレにあらず)が室内に入ってきた。

 

「よかった~坂本さん目が覚めたんですね!」

「おお宮藤か、心配かけたようですまん」

「でも~~まだ~~無理をしては~~~いけませんよ~~~」

 

 詩織がそう言いながら美緒のベッドに内蔵されている機器を操作、美緒の現状のライフデータを確認していく。

 

「あ、そうだ。目が覚めたら安岐先生に知らせてって言われてたんだった」

「今~、カルテ~~まとめますね~」

「安岐先生?」

「攻龍の船医さんです。機械だけじゃなくてちゃんと診察した方がいいって何度か回診に来てもらってるんですけど………」

「それでは、私が呼んでまいりますわ」

「そうか、頼むペリーヌ」

「はい少佐!」

 

 ペリーヌが喜び勇んで医務室を飛び出していく。

 それを見ながら、美緒は僅かに苦笑。

 

「私が寝ている間に、何か変わった事は?」

「そうです! 私達元の世界に戻れるらしいですよ!」

「え? 私聞いてませんが」

「ついさっき、亜乃亜ちゃん達の、Gの本部の方と通信が繋がったそうなんです! すでに私達ウィッチの世界の場所も調査中で、それが分かればこの星の機械で戻れるそうなんです!」

「本当か!?」

「今すぐ~~では~~ないそう~~ですけど~~」

「戻れるアテが出来るならそれでいい。私もすぐには動けんようだし………」

「マスター、まずは休養と栄養補給です。まずはスポーツドリンクでも」

「あ、私何か作ってきますね!」

「食事は~~診察の~~~後に~~」

 

 周囲が騒がしく動く中、美緒は再度レポートに目を通す。

 

(果たして、無事に戻れるのか?)

 

 胸中に湧いた疑問はあえて口に出さず、今自分に出来る事はこのレポートを読む事くらいな事に美緒は僅かに焦りを感じていた。

 

 

 

「え、本当?」

「うん、さっき夕子先生が診察に行ったって」

 

 臨時に設置されたドッグで修復を受けている攻龍を横に、オペレッタから届いたばかりの座標データを見ていた亜乃亜と、日課の素振りをしていた音羽が美緒が目覚めたとの話をしていた。

 

「お見舞いに行こうかと思ったら、まだ目が覚めたばかりだから明日にしなさいって怒られちゃった」

「う~ん、確かにすぐ行ったら迷惑だしね………」

「むう………」

 

 音羽が素振りの手を止め、じっと握っている木刀を見つめる。

 

「どうかしたの?」

「ねえ亜乃亜ちゃん、必殺技ってどうしたら出来ると思う?」

「え?」

 

 

 

「様態は安定してるわ。でも念のため今日明日はここで大人しくしている事、無理な運動もしばらくは止めておきなさい」

「そうですか………体が鈍りそうで」

「ダメよ、私もこの仕事してそれなりになるけど、あんなに衰弱してた患者は滅多に見た事ないわ。元が鍛えてあったのと、ここの医療設備が優秀だったから早く回復しているだけの話。完全に回復するまで出撃は絶対禁止ね」

 

 夕子先生の診察結果に、美緒は難しい顔をするが完全にたしなめられる。

 

「お粥作ってきましたけど……」

「数日はそういう軽めで消化にいい物を食べさせて。胃腸も弱ってる可能性があるから」

「分かりました」

「それではお大事に」

「ありがとうございますわ」

 

 診察を終えた夕子先生に深々とペリーヌが頭を下げる。

 

「さて、しばらくは訓練もダメか……」

「坂本さんならすぐに治りますよ。え~とテーブルは」

「これです」

 

 ため息をもらす美緒の前に、アーンヴァルが操作してせり上がってきたテーブルに芳佳がそっとお粥の入った土鍋を置いた。

 

「少佐! 私が食べさせてあげますわ!」

「いいえ! 私がやります!」

「そのサイズでは鍋に入って煮えてしまいますわ!」

「そこまで非力ではありません!」

「あの、二人とも………」

「病室では静かに」

 

 お粥を挟んでにらみ合いを始めたペリーヌとアーンヴァルを芳佳がどうにか止めようとするが、そこへ別の声が割って入る。

 

「中佐!? は、確かにそうですわね………」

「すいませんでしたマスター」

 

 医務室に入ってきたミーナの姿に、ペリーヌは驚き、アーンヴァルは美緒に頭を下げる。

 

「ミーナか、会議は終わったのか?」

「ついさっきね。主だった所はもう決まったし、まだまだ決められない所も多くて………」

「あんな会議、やるだけ無駄だと思うけどな~」

 

 ミーナは空いていたイスに座り、彼女の肩のストラーフが会議の内容を思い出して顔をしかめる。

 

「そちらにも武装神姫がいるとはな」

「ええ、彼女達のお陰で何かと助かってるわ」

「マスター、コンソールすら使えないからね~」

「こちらのマスターは自動ドアの開け方すら分かりませんでした………」

「時代の差って奴ね。悪いけど、これから会議の内容について話すから、宮藤さんとペリーヌさんは席を外してもらえるかしら?」

「はい、分かりました」「中佐がそう言うのでしたら………」

 

 芳佳は素直に、ペリーヌは渋々医務室を出て行く。

 ドアが閉まって少し待った所で、ミーナの顔が真剣な物へと変わった。

 

「……美緒、正直に答えて。あのワームを両断した烈風斬、今の貴女にあれだけの魔力が放出できるとはとても思えないわ。それにこの衰弱、一体何をしたの?」

「気付かれていたか」

「答えて! 一切何を…」

「サイキックブースターよ」

 

 罰の悪そうな顔をする美緒をミーナが問い詰めるが、そこで突然別の声が割ってはいる。

 ミーナがはっとして振り返ると、そこには何時入ってきたのか、ミサキが携帯端末を手に立っていた。

 

「サイキック……ブースター?」

「サイキッカー用の特殊増強剤、副作用が問題視されて現状ではほとんど使われていない物よ。私が緊急時用に渡しておいたの」

「副作用!? そんな危険な物をどうして!」

「使ったのは私の判断だ。ミサキを責めるな」

「けど!」

「………美緒のアレが無ければ、私達は勝てなかった」

 

 狼狽するミーナに、美緒とミサキが冷静にたしなめようとするが、ミーナの顔から困惑の色は消せなかった。

 

「検査の結果、医学的な副作用の類は発見されなかったわ。けれど」

「けれど?」

 

 ミサキは無言で持参した携帯端末を操作してあるデータを呼び出す。

 

「現状での美緒の生体エネルギー、つまり魔力の総量は、明らかに前回より激減してるわ。宮藤博士の試算だと、飛ぶだけならともかく、戦闘に耐えられるのはあと数回が限度だそうよ」

「そんな!?」

「………覚悟はしていたが、そこまでとは」

 

 突きつけられた残酷な試算に、ミーナは絶句し、美緒はうなだれ、シーツを強く握り締める。

 

「それは単独で戦闘に参加した場合の試算なんですね!? 私がマスターをサポートして戦えば」

「すでにそれも計算済みよ。確かに現状で武装神姫の戦力は重要だけど、完全に代用が効くわけじゃないわ」

「しかし!」

「いいんだアーンヴァル。私の戦える時間がもう少なくなっている事など、十分承知していた」

「マスター………」

「美緒、どうやら私は貴女を過小評価してたようね。サイキックブースターを使用しても、あそこまで爆発的な力を引き出せる物ではないわ。悪いけど、サイキックブースターは返してもらったわ。もう一度使えば、今度は命の保障が無くなるかもしれないから」

「一つでいいから残してもらえないか?」

「ダメよ美緒!」「ダメですマスター!」

 

 ミーナとアーンヴァルに強烈に反対され、美緒は思わずたじろぐ。

 

「言ったはずよ、命の保障が無くなるって。私としても、そんな危険な事をさせたくはないわ」

「そうだよ、そんな危ないの使ったらダメだよ~」

 

 ミサキも頑として反対し、ストラーフも同意の旨を告げる。

 

「だが、私には…」

「まずは体を治す事ね、そうしたらやる事がたくさん溜まってるわよ。戦う事だけが501副隊長の仕事じゃないでしょう」

「ふ、書類仕事はあまり得意じゃないんだがな……」

「今各チームの戦力分析及び合同戦術構築の準備を進めてるわ。動く許可が出たら、美緒にも手伝ってもらうわ」

「そうね私一人じゃやりきれないし」

「そうか、分かった」

「それじゃあお大事に」

 

 ミサキが室外へと出て行った所で、美緒の顔色が暗い物へと変わる。

 

「私は………あとどれくらい、ストライクウィッチーズの一員でいられるのだろうか………」

「美緒………」「マスター………」

 

 室内を重い沈黙が覆い、ミーナもアーンヴァルも掛ける言葉が見つからない。

 

「え、え~と、ほら冷めちゃうから、ね?」

 

 沈黙に耐えられなかったストラーフがミーナの肩を降りて、テーブルに載せてあるお粥を薦める。

 

「ああ、そうだな………」

 

 呟きながら、美緒が普段の彼女からは考えられないのろのろとした動きで、粥をすすり始める。

 

「すまないが、この件は皆には……」

「なんとかごまかしておくわ。今は回復を優先させて」

「ああ、そうだな………」

 

 後はただ、沈黙の中に粥をすする音だけが響いていた。

 

 

 

『次元…動計す……安定。回線安定、データ通信状況、オールグリーン』

「これで大丈夫ね。念のため、回線は常時接続にしておいて」

『了解しております。支部長からの指示及び現在判明している全データ、転送を開始します』

 

 機械化帝国の機材も借り、ようやくオペレッタとの回線が安定した事にジオールは胸を撫で下ろす。

 

「取り合えず、これでここの転送システムとリンクできれば、私達はいつでも戻れるわね」

『そちらの次元座標は確定済みです。ですが、安定性という点を重視するならば、こちら側の転送システムだけでの転移は確実性に欠ける可能性があります』

「攻龍を丸ごと転移させなくてはいけませんしね………後でどうツジツマあわせるのかしら?」

『すでに支部長が統合軍との情報操作に乗り出しています。多少の事なら問題ありません』

「すでに多少は通り越してる気がするんだけれども………とにかく、そちらはお願いと言っておいて」

『了解しました』

 

 通信を終えたジオールは届いたばかりのデータを展開、内容に目を通していく。

 しばらくそれを熟読したジオールは、しばし考えた後、そのデータを携帯端末に転送、攻龍へと持参する事に決めた。

 

「正直に帰れそうにはないわね。しばらくは他のユニットと共同前線を…」

 

 その内容、攻龍がこちらに転移した後も頻発しているらしい、ワームの同士討ちの報告に、ジオールの表情が険しくなる。

 だがそこでふと、遠目にだが攻龍のそばに人だかりが出来ているのに気付く。

 何事かと思って近付いていくと、そこには何か難しい顔をした亜乃亜の前で木刀を手にした音羽が何か奇妙な気合と共にやけに素振りをしている。

 

「やっぱそうじゃなくって、こうもうちょっとダイナミックに」

「ちぇすとおおお、ってこんな感じ?」

「う~ん、もうちょっと回ってみるとかさ」

「無駄な機動はどうかと思いますが」

「やっぱり、たああぁぁってやらないとダメなんじゃない?」

「いや、やっぱり前降りが大事だよ」

「もうちょっとこう、パターンを」

 

 シャーリー、飛鳥、ルッキーニ、ユナ、エグゼリカなどもそれを見ながら、口々に勝手な事を言っている。

 その度に音羽は何か神妙な顔をして、奇妙な素振りを続けていた。

 

「何をしてるのかしら?」

「あ、トゥイー先輩」

「それがさ、音羽が必殺技が欲しいって」

「必殺技?」

 

 声をかけた所で振り向いた亜乃亜に代わり、シャーリーが答える。

 

「坂本さんの必殺技、すごいかっこよかったから、ああいうのをどうにかできないかな~って」

「確かに、あれはD・ースト並どころか、それ以上の破壊力があったわね~」

「すごかったよね~」

「あまり使える技じゃないそうですけど。坂本少佐、先程ようやく目が覚めたそうです」

「エネルギーを使いすぎるのね。そもそも、ソニックダイバーってそういうシステムになってたかしら?」

 

 ジオールの一言に、全員の動きが止まる。

 

「……となると、まずはゼロからか………」

「う~ん、さすがにそっちの機体のいじり方は分からないしな~」

「あ~、でも前にマドカが変な改造してミーナさんに怒られてたし」

「いや、現状のシステムでも使い方いかんで」

「まずは運動限界から…」

 

 真剣な顔で明後日の論議を始める皆を見ながら、ジオールは笑みを浮かべながらその場を去っていく。

 

(この調子なら、こちらは問題なさそうね)

 

 いつの間にか、時代も世界も超えて仲良くなっている一同に、ジオールは安心しながら攻龍のブリッジへと向かった。

 

 

 

「………」「………」「………」「………」

「………何をしてるんだ、あいつらは?」

 

 美緒の代わりに戦術構築のミーティングに参加するべく攻龍を訪れたバルクホルンは、攻龍の甲板で佇んでいるアイーシャ、サーニャ、ティタ、詩織の四人を見かけて足を止める。

 

「さあな、さっきからずっとあんな感じだ。日向ぼっこでもしてるんだろ」

 

 同じようにそちらを見ていた冬后も、それくらいしか言えずに首を傾げる。

 

「30分前もあそこにいた気がするけど」

「いや、私が来た時にも見たから、その倍は経ってるはずなんだけど……」

「ひょっとして、全然動いてない?」

 

 同じくミーティングのために集まった瑛花、ミサキ、エリューも唖然として四人の方を見る。

 

「………」「ちょっと騒がしいね」「騒がしいのは元気な証拠」「そう~~ですね~~~」

 

 あちこちから整備や資材搬入の騒音が響く中、時たま取り留めの無い会話のような物をしたかと思えば、また四人は黙ってそこに佇んでいる。

 

「……詩織のペースについていける人達がいるなんて、パラレルワールドって怖いわね」

「それを言うなら、ティタと普通に会話してる方が驚きなんだけど」

「あちこちの世界を見れば、似たような奴はいるって事か」

「それって、ああいう事ですか、冬后大佐」

 

 瑛花がそう言いながら四人の後方を指差す。

 そこには、物陰からそちらの方を睨むように見ているエイラとエリーゼの姿が有った。

 

「………何をしてるんだ、あいつらは?」

「さあな、見張りでもしてるんだろ」

 

 先程と同じような言葉を思わず呟いたバルクホルンと冬后が半ば呆れた視線を向ける。

 

「ひょっとして、あっちもあのまま?」

「さあ? あのペースに割り込むに割り込めないんでしょう」

「それは有り得るけど………」

「すいません、遅れました」

 

 他の三人も呆れる中、遅れてきたクルエルティアがミーティング予定のメンバーが見ている方向に視線を向け、そこに佇んでいる四人(+二人)を見つけると視線を戻す。

 

「何をしているんでしょうか?」

「さあな」

「さて、と。そろった事だし、ミーティング始めるとしようか」

「了解」

 

 その場はそのままにして、メンバーがぞろぞろとミーティングルームへと向かう。

 なお、数時間に及んだミーティングが終わった後、今だ四人(+二人)がそのままの状態でいた事に驚く事となるのはまた別の話。

 

 

 

「ええ、そうですわ。こちらに回せます? ……そう、それでは解析の方はよろしく。ええ、そのように。そちらの方は? もう少し詳しくまとめてもらえて? 早急に」

「あの~………」

「エリカちゃん、冷めちゃうよ?」

 

 夕飯の時間になっても何か忙しいといって食堂に来なかったエリカの部屋に夕飯を運んできた芳佳とユナが、幾つもの回線を繋げてあちこちに連絡をしているエリカの姿に、どうすればいいか分からずにたじろぐ。

 

「もう少しで終わりますから、そこに置いておいてください」

「随分と忙しそうだね」

 

 エリカの隣で何かのデータ整理をしていたミドリが空いているテーブルを指差し、ユナが持ってきた夕飯のトレイとお茶をそこに置いた。

 

「香坂財団の総力を尽くして情報収集してるんですけど、エリカ様の直接指示じゃないと末端は反応が鈍いらしくて」

「それだけじゃありませんわ。香坂財団関連のシンクタンクや兵器・戦略研究所にもこの前の戦闘のレポートを回して、解析を頼んでおきましたわ」

 

 ようやく話が終わったのか、回線を切ったエリカが一息ついてユナの持ってきたお茶に手を伸ばす。

 

「………これ、冷めてますわ」

「あ、すいません。入れなおしてきます!」

「エリカちゃんが長電話してるからだよ~」

 

 芳佳が湯飲みを手に慌てて食堂に戻り、ユナが呆れながらも夕飯を温め直してこようかとトレイを手に取るが、エリカがそれを制して少し冷めた夕食にようやく手を着ける。

 

「ユナ、ここでしたか」

「あ、エルナー。玉華さんとのお話どうだった?」

「取り合えず、各艦の整備が終わってから転送準備に取り掛かるという事になりました。幾ら人的被害を抑えたと言っても、惑星外表部にはかなりダメージが出てますから、しばらくかかりそうです」

「う~ん、芳佳ちゃん達も早く帰りたいだろうけど、どうせならしばらくいれた方が何かと楽しそうだしな~」

「攻龍の方は転移装置さえ動けば直ぐですが、ウィッチの人達は安全が確認されるのにしばしかかるようですし。完全な次元間転移なんて私にも未知の領域に近いですからね~」

「ユナさ~ん、マドカさんがデザートの差し入れくれました~。おいしそうですぅ~♪」

「わあユーリィ! 全部食べちゃダメだよ~!」

 

 聞こえてきたユーリィの声にユナが慌てて自分の分を確保しに行く。

 それを見送った所で、エルナーがおもむろにエリカの方を向いた。

 

「それで、頼んでおいた事は?」

「香坂のネットワークで調べておきましたわ。こちらでの部隊をほぼ壊滅させてやった後でも、あちこちの惑星で正体不明の存在が確認、交戦の報告もありましたわ。ただ、数はかなり少なくなってますわ」

「ミサキからも同様の報告が来てます。ただ、クルエルティアが言うには、ヴァーミスは侵蝕コア破壊後はそうそう攻めてくる事は無いはずなのですが………」

「詳しくはレポート待ちですわ。被害は大きくないようですし、こちらでの戦闘レポートも回しておきましたわ」

「ありがとうございますエリカ。これで何か分かるといいのですが………」

 

「これおいしいですぅ♪」

「わあユーリィ、そんな食べたらみんなの分なくなっちゃうよ!」

「早い者勝ち~!」

「やめんかハルトマン!」

「ちょっと、それあたしの分よ!」

「エリカ様の分を死守するのよ!」

「うじゅ~!」

 

「何をやっているのでしょうか………」

「………退屈はしそうにありませんわね」

「全くです」

 

 遠くから響いてくるデザート争奪戦の喧騒に、ミドリとエリカは苦笑し、エルナーはうなだれる。

 ちなみに数分後、お茶を入れ直した芳佳とボロボロになりながらエリカの分のデザートを死守したエリカ7が訪れ、エリカを更に呆れさせたりした。

 

 

 

『改造シミュレーション、完了しました』

『こちらでも演算終了しました。現状の体制よりも、カルナダイン単艦をトリガーハート旗艦として運用する方が効率的です』

「そうなると、改造にどれくらい掛かるかね………」

 

 カルナダインのブリッジで、カルナとブレータ双方にシミュレートさせた結果をクルエルティアは思考する。

 

「正直、私もあのシャトルはそろそろ限界だと思ってた所よ。使える所をブレータごとカルナダインに移植した方がいいと思うわ」

「元は脱出用にマイスターが奪った支援艇だというなら、有効的な活用法の一つだと思う」

 

 隣でその結果を見ていたフェインティアとムルメルティアも、それに賛同する。

 

「トリガハート三機同時運用ともなると、カルナダインのスペックギリギリの改造になるわ。幾らこちら優先に整備させてもらってるとは言え、時間的にも余裕があるかどうか」

「ま、一応そういう事出来そうな心当たりもいるから、後で話してみるわ」

「そういえば、Gの天使にエンジニアがいたな。妙な改造をしてミーナ中佐に制裁を食らったと聞いたが」

「……大丈夫なの? その人? まあ、ウィッチにもいたけど………」

 

 あれこれ考えている内に、ふとフェインティアはコンソールの端に飾ってある写真に気付いた。

 そこにはクルエルティアとその隣に大人しく座っている一頭の犬、まだ小さい猫を抱いているエグゼリカ、そして彼女達の真ん中に立って柔和な笑顔を見せている初老の男性の姿が有った。

 

「これは?」

「ああ、父さんの、地球で私達の面倒を見てくれている人と犬のワットと猫のオムレット。殺風景だから、これでも飾っておきなさいって言われてね」

「ふ~ん……クルエルティア、貴女少し変わったわね」

「そう? 貴女もよフェインティア。サポートなんて受けたがるタイプじゃなかったのに」

 

 写真とクルエルティアを交互に見ながら呟くフェインティアに、クルエルティアはフェインティアの肩にいるムルメルティアを指差す。

 

「こっちも色々あってね」

「マイスターはいささか協調性に欠ける点がある。今後の戦略的にも、他の部隊との共同前線を張らねばならないのにそれでは大いに問題だ」

「悪かったわね! あれはあっちが先に攻撃してきたのよ!」

「私が仲介に入らなければ、危ない所だった」

「その前に制圧してたわよ!」

 

 肩のムルメルティアと論争するフェインティアに、クルエルティアが思わず吹き出す。

 

「何よ」

「いいえ、お互い様ね。この闘いが終わったら、地球に来て。父さんに紹介するから」

「その前にチルダに戻りたいわね………」

『残念ながら、私達のいた世界への転移座標はまだ検索中だそうです。見つかるかどうかも不明らしくて………』

『現状では、まずは侵蝕行動を行っていると推察される存在への対処が優先です』

「分かってるわよ、全く妙な所に転移して以来、このパーフェクトな私が振り回されっぱなし………」

「マイスター、それは皆に言える事だ。盟友と共に戦うのみ」

 

 AI双方の突っ込みに、フェインティアは頭を抱えそうになる。

 更にそこへムルメルティアの腕組みしながらの宣言に、本気で頭を抱え込む。

 

「今戻りました」

「エグゼリカ、それでどうだった?」

「はい、数日中には重傷患者の修理も一段落するので、私達の整備もしてくれるそうです。完全に、とはいかないそうですけど、限りなくフルスペックに近い状態にはできるみたいです」

「二人とも、すごい状態だしね。カルナダインの整備ユニットじゃ限界か………」

「あなた達ももう休みなさい。明日も何かと忙しくなりそうだから」

「そうさせてもらうわ」「了解した」「お休みなさい。姉さんも無理しないでね」

 

 三人がブリッジから退室した所で、自分もそろそろ休もうかと思っていたクルエルティアだったが、そこで一つのデータが送られてきた。

 

「これは………」

 

 そこには、《現状に置ける武装神姫解析データ》とタイトルがふられていた。

 

 

 

翌朝

 

「はっ、はっ……」

 

 まだ人影もまばらなドッグ周辺を、日課のジョギングを行っていた瑛花の前に、同じくジョギング中のエリカ7が姿を見せる。

 

「おはよう、早いのね」

「そっちも」「他のメンバーはやらないのか?」

「どうにも、こちらのメンバーは軍人としての心構えがなってないと言うか、そもそも無いというか……」

 

 挨拶をかわした所で、先頭を走っていたマミとルイの問いに、瑛花は少しばかり顔をしかめる。

 

「あれよりはいいんじゃない?」

「昨日より更に高い所に行ってるよ………」

 

 マミが指差した先、整備用に設置されたばかりのクレーンの上に毛布一枚で寝ているルッキーニの姿に、さすがに全員唖然とする。

 

「あれはあれでトレーニングかもしれないわね………」

「こっちに来る前も?」

「砲身とかレーダードームの上で寝てたわ………」

「変わった子だね。こちらも人の事言える面子じゃないけど」

「そうかな?」「そうだよ」

 

 マミが表現に困る中、後ろを走っていたアコとマコが顔を見合わせる。

 

「それじゃあ後で」「おう」

 

 再度両者はジョギングを再開する。

 なお、足元からこちらを見上げる人達で騒がしくなってきてルッキーニがようやく目を覚ますのはこれから一時間後だった。

 

 

 

「修理概要の最終結論が出ました」

「やはり、一週間はかかるか………」

「部品は用意してくれるそうですが、まずその部品の設計図と組成から、てんだから………」

「弾薬の補充もせねばならん。今度は我々が時代遅れになってしまったが」

 

 攻龍のブリッジ内で、ブリッジクルーが先ほど来たばかりの修理概要に目を通し、それぞれの理由で顔を曇らせる。

 

「未来の技術で手軽にパワーアップ、とはいかない物なんですね~」

「それだと、一から設計しなおす羽目になるって宮藤博士は言ってたな」

「規格は同一でも、材質から違う物ばかりではそうなるだろう。特にソニックダイバーは少しでもバランスが狂えば致命的になりかねん」

 

 タクミがぼそりと呟いた事に、冬后と副長も同意、難航している修理にタダでさえ普段から険しい副長の顔が更に険しくなっていた。

 

「転送装置については、こちらの修理が終わってからになるそうですから、半月ほど先になる可能性も………」

「そんなにか?」

「安全性確保のためだそうです。Gの方でも準備を進めているそうですから、もう少し早くなるかもしれないとか」

「どちらにしろ、それだけ作戦が遅延するのは由々しき問題だ。だが、我々にはどうする事もできん」

 

 七恵からの報告を艦長は淡々と受け止める。

 事実、攻龍だけでは戻る手立てがないのも確かで、機械化帝国に任せるしかない現状を確認しただけだった。

 

「そういや周王と緋月は?」

「周王さんはクレイドルの方へ、緋月少尉はプリティー・バルキリーの方へそれぞれ技術出向してます。周王さんは昨日の朝から泊り込んでるみたいですけど………」

「技術格差の摺り合わせも一苦労だな。最大で400年は開いている計算になるわけだからな」

「それで共闘出来てるんですから、不思議と言えば不思議ですね~」

「まあ装備はともかく、やってる事はそんなに変わらないしな」

「あれ、周王さんから何か来ましたが」

 

 そこで、七恵は周王名義のデータが送られてきた事に気付く。

 それのタイトルを見た七恵は将校レベルの規制を設けて攻龍のデータバンクに登録、それぞれが送られてきたばかりのデータに目を通した。

 

「武装神姫の解析データ? この世界の技術を持ってしても製造は極めて困難だと?」

「これほどの出力をあのサイズで安定使用は困難、問題はそこだけではない。各神姫のブラックボックスは強度なセキュリティブロックで解析不可能、ただし一部の封印が解かれ、開放されたデータからこの星の技術で製造可能な専用装備を開発中という点だ」

「ただしエネルギー系統は神姫自身からの供給。伝導経路は解析不能、か………神姫達は、この星に来る事を知っていたというのか?」

「え?」「そんな事は一言も………」

「もしくは、あいつらを造った奴が、かだ」

 

 送られてきたデータから艦長と冬后が辿り付いた結論に、タクミと七恵は思わず絶句する。

 

「……この事はこの場にいる者だけの機密とする。セキュリティがかけられていたという事は神姫自身もその事は自覚していない可能性が高い」

「確かに………」

「またさらに話がややこしくなりそうだ………」

 

 冬后のボヤきは、くしくもその場の全員の共通認識として一致していた………

 


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