スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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EP19

 

「おわあぁ!」

「きゃああぁ!」

「ひいぃー!」

 

 凄まじい衝撃が攻龍を揺さぶり、各所で悲鳴の声が上がる。

 

「現状を確認、報告せよ」

「は、はい!」

 

 まだ艦が揺れ動く中、かろうじてブリッジに戻った艦長が冷静な声で命じ、続けてブリッジに戻ってきた者達がいまだ戸惑いながらもそれぞれの席について情報収集に入る。

 

「各部署、現状を報告してください!」

「攻龍、センサー・通信系異常無し!」

「格納庫! ソニックダイバーに被害は!?」

「一体何が起きた………」

 

 タクミ、七恵、冬后が仕事に入る中、副長が席に付いた時だった。

 

『周辺に高エネルギー残留を確認、現地域は戦闘中と推測されます』

「ワーム反応確認! A+級です!」

「何!?」

 

 ブレータと七恵からの報告に、副長の顔色が変わる。

 

「機関部、電算室、弾薬庫、異常ありません! 負傷者が若干出てますが、いずれも軽症だそうです!」

「格納庫にも異常無し、パイロットも無事、すぐに行けます!」

「衛星リンク途絶! 現在位置は不明です! 上空に大型艦と思われる飛行物体2、それと小型反応が多数!」

「小型?」

「あああ、あれは!」

 

 現状が把握しきれない中、タクミが外を指差す。

 そこには、見覚えのある格好をした少女達と、見た事も無い格好をした少女達の姿が空に舞っていた。

 

「ウイッチか! だがどこから?」

「……逆かもしれん。我々がウイッチのいる場所に来た可能性もある」

「艦長、それは…」

「通信複数! 見た事も無い通信形式です! 今調整中!」

「電子攻撃の可能性は!」

「いえ、そこまで強力な物では……繋ぎます!」

『こちらプリティーバルキリー号! そこの水上艦、聞こえてますか!』

『こちらカルナダイン! 通信繋がりました!』

 

 

 

「全員無事か!」

「いってえ………」

「り、遼平大丈夫?」

「お尻痛いよ~」

「なんて無茶な転移………」

「どこのどいつよ、あんな事やらかしたの!」

 

 格納庫のあちこちから苦悶や怒号が飛び交う中、大戸が頭を振りながらいち早く状況を確認する。

 

「ソニックダイバーにダメージが無いか確認、急げ!」

「は、はい!」「外の様子どうなっとる!?」「誰か見といて」

「シャッターはまだ開けるな!」

「私見てくる!」「私も!」

 

 大戸の号令で整備スタッフ達がソニックダイバーの確認に入り、音羽と亜乃亜がシャッター脇のドアへと向かい、そっと開けて外の様子を覗き見る。

 

「あれって、ワーム!?」

「バクテリアンもいるわ!」

 

 覗き見るだけのつもりの二人が、先程までいなかったはずの敵の姿に思わず扉を全開で開ける。

 

「え、ちょっとあれ!」

「誰か戦ってる! あれって、ウイッチ!?」

「うじゅ?」

 

 ウイッチという単語に、お尻を押さえていたルッキーニがドアから外を見る。

 

「う、あ、あああああああ~!」

「ルッキーニちゃん?」

「ど、どうしたの?」

 

 外を見たルッキーニがいきなりつぶらな瞳を大きく開け、大声を上げる。

 思わず耳を塞いだ二人が問いかけた時には、ルッキーニは普段以上の機敏さで格納庫を突っ切り、自分のストライカーユニットに飛び込むように足を入れると、即座に始動。

 

「おい! 外は危ない…」

「うりゃあ~!」

 

 大戸の制止も聞かず、ルッキーニは狭い格納庫をストライカーユニットで突っ切り、整備員達が思わず頭を引っ込めた所で、今だドアの所に立っていた二人を押しのけるようにして外へと飛び出していく。

 

「ルッキーニちゃん!」

「トゥイー先輩! ウイッチがいるっていったらルッキーニちゃんが飛び出していっちゃいました! 私も出ます!」

 

 音羽が呼び止めようとするがルッキーニは今まで見た事もない加速で飛んでいき、亜乃亜が慌てて後を追おうと連絡を入れながら自らのRVへと向かう。

 

「遼平! ゼロを早く出させて!」

「もうちょっと待て! つうか出撃命令出てねえだろうが!」

「音羽はんはスプレッドブースに行っときや!」

「一体何がどうなっとるんや………」

「決まってんだろ。戦場のど真ん中に放り込まれたんだ!」

 

 大戸の一言は、この場の状況をもっとも的確に言い表していた………

 

 

 

「何あの船!?」

「水上戦闘艦に、片方はシャトルかしら? でも何故?」

 

 突如として出現した謎の二隻に、ユナは目を白黒させ、ポリリーナは二隻を冷静に分析しつつも、困惑していた。

 

「まずいぞ。あの船、狙われる!」

「でも、敵か味方かも分かりませんわ」

「ネウロイじゃなさそうだけど………」

 

 ウイッチ達も困惑する中、ふと水上戦闘艦から小さな影が飛び出す。

 

「何か出てきたみたいですぅ!」

「敵? 味方?」

 

 何人かが警戒する中、影はどんどんこちらへと向かってくる。

 その輪郭がはっきりし始めた所で、その影から声が響いてきた。

 

「……リ~………シャ~リ~……シャ~~リ~~!!」

「あ、あれって!」

「ルッキーニちゃん!?」

 

 その影が、同じ501統合戦闘航空団の最年少隊員の姿だと気付いたウイッチ達が驚く中、名を呼ばれたシャーリーが顔をほころばせる。

 

「シャーリー!」

「ルッキーニ!」

 

 互いの名を呼ぶ中、ルッキーニは思いっきりシャーリーの豊かな胸に飛び込み、顔を埋めて久方ぶりの感触を堪能する。

 

「やっぱりこれは本物のシャーリーだ♪」

「ルッキーニ、無事だったんだな」

「うん!」

 

 優しく頭を撫でてくるシャーリーに、ルッキーニは大きく頷く。

 

「彼女もウイッチ? じゃああの船は………」

「残念だが、私達の知ってるどの艦種にも当てはまらない」

「あれね、攻龍って言うんだよ」

 

 幾分緊張を緩めたポリリーナだったが、バルクホルンはまだ緊張を解いていない。

 だが、ルッキーニは無邪気に船名を教えた。

 

「ルッキーニ、他に誰かいるのか?」

「あのね、サーニャとエイラ、ミーナ中佐と、音羽と亜乃亜とストラーフと可憐とフェインティアと…」

「……後半誰?」 

「ミーナもいるのか!」「サーニャちゃんとエイラさんも!?」

「ちょっと待って!」

 

 見当たらなかった仲間の名前と、聞き覚えのない名前にウイッチ達が一喜一憂するが、その名前の一つにクルエルティアが反応する。

 

「フェインティアがあの水上艦に!? 本当なの?」

「うじゅ! いきなりおっきいのに乗って現れて、つい攻撃したらミーナ中佐にバケツ持って立たされた………」

「つまり、あの船に仲間のウイッチやトリガーハートがいるって事?」

「今確かめるわ。カルナ、コミュニケーションリンク、フェインティアの識別コードをサーチ!」

 

 なんとかルッキーニの言う事を理解したポリリーナに、フェインティアが慌ててコミュニケーションリンクを開いた。

 

 

「あいたぁ~、なんて乱暴な転移よ」

「マイスター、どうやらここは戦場だ」

「でしょうね。ブレータ、周辺の全ユニットの識別開始」

『了解、フェインティア』

「マイスター、上空2時」

「なあに?」

 

 文句を言いながら、デッキに出ながらムルメルティアの指摘した方向を見たフェインティアが、そこに浮かぶ白いトリガーハートの存在を認識して目を見開く。

 

「トリガーハート!? 元の座標に戻れたの!?」

「マイスターの友軍と見ていいのか?」

「あの子は見た事無いけどね」

『フェインティア! こちらTH32 CRUELTEAR! いるなら返答を!』

「クルエルティア!? 本当にクルエルティアなの!」

『フェインティア! 本物のフェインティアなのね!』

 

 コミュニケーションリンクに飛び込んできた、かつて共に戦ったトリガーハートの通信にフェインティアも驚く。

 

「あなたもいるって事は、元の座標に戻れたのね!」

『残念だけど、違うわ』

『フェインティア? じゃあオリジナルの……あ、初めまして。TH60 EXELICAです』

「TH、クルエルティアの妹機ね。オリジナルってどういう事?」

『フェインティア、気になる反応が存在します。座標を』

「そっち?」

 

 状況が上手く飲み込めないフェインティアだったが、ブレータが示した方向を見た所で、その目が大きく見開かれる。

 その座標に浮かぶ、自分そっくりのトリガーハートに。

 

「………あんた誰!?」

 

 大声を上げたのが聞こえたのか、それとも別の理由か、上空にいたフェインティア・イミテイトが攻龍とそこにいるフェインティアに気付いて大きく口を歪ませる笑みを浮かべる。

 

「まさかあなたに会えるとはね~、オリジナル」

「あんた、私の!」

「ちょうどいいわ、あなたのユニットいただこうかしら?」

「誰があげる物ですか!」

「あなたはいらないから、あなたを消去して、ユニットだけもらうの。紛らわしいし」

「私の方が可愛いから、区別は簡単よ! でも、イミテイトがいるってのはいい気しないわね! ブレータ! ガルシリーズユニットシンクロ準備!」

『了解』

「行こうマイスター、戦友が待っているようだ」

「ユニットシンクロ、各艦リンク! 砲撃専用艦ガルトゥース、砲撃&アンカー艦ガルクアード、旗艦フェインティア出撃するわよ!」

 

 ムルメルティアを伴い、フェインティアが虚空に赤い残影を残し、一気に飛翔した。

 

 

「状況は!?」

「まだ把握できん。だが周りは敵だらけのようだ」

「確かにね」

 

 ブリッジに飛び込んできたミーナとジオールに副長が分かっている事だけを伝える。

 

『私は英知のエルナー、現在この惑星はヴァーミスの攻撃に晒されてます。そしてヴァーミスはワームとバクテリアンという存在を使役し、私達は現在交戦中です』

「ワームを知っているのかね?」

「バクテリアンが!?」

 

 エルナーの説明に、艦長とジオールが同時に驚く。

 

『知っているのか! 我々は現在苦戦中で…』

「美緒!?」

 

 通信ウィンドゥに表示された美緒の姿に、今度はミーナが驚く。

 

『ミーナ!? その船に乗っているのか!』

「ええ、こちらには私とエイラさんとサーニャさん、それにルッキーニさんがいるわ」

「あの、ルッキーニちゃんならさっき出て行きましたけど………フェインティアさんも」

『なら、501は今ここに全員そろっている! 苦戦中だ、援護を!』

「ええ、分かったわ!」

『こちらブレータ、現在位置座標不明、当該戦闘空域にTH32 CRUELTEAR及びTH60 EXELICAの二機を確認、交戦中と推測されます』

「他のトリガーハートもここにいるってのか!?」

『周辺にウイッチに近似と思われる生体エネルギーパターンを持つ有機生命体多数、サイキッカーと推測』

「もう何でもありかよ!」

 

 ブレータからの報告に冬后が思わず怒鳴り返す中、ジオールが通信席の方へと歩み寄る。

 

「待って、私は秘密時空組織「G」グラディウス学園ユニットリーダー、力天使ジオール・トゥイー。バクテリアンがなぜここに?」

『分かりません。バクテリアンとの戦闘経験が?』

「Gは対バクテリアン防衛組織よ」

「そしてこの攻龍は、対ワーム用戦闘艦だ」

『! 全戦闘データを送ります! 現在交戦中のワームは、一度破壊したのですが、破壊前に分離した部分から再生したんです!』

 

 ジオールと艦長の言葉に、エルナーは即座にデータの転送を始める。

 

「A+、しかも自切再生型だと! 一体どうやって一度倒した!」

『説明は後です! 対処法は…』

『ミサキちゃん、これでいいの? もしもし、これ繋がってる?』

 

 情報が複雑に錯綜する中、突然そこにユナの顔が表示される。

 

「君は?」

『あ、私は神楽坂 ユナ! 光の救世主やってます! それで、あなた達は、あのエビの倒し方知ってるんですか?』

「……まあな」

 

 いきなりの事にブリッジが呆気に取られる中、冬后がぶっきらぼうに答える。

 

『それじゃあお願い! 力を貸してください! 亜弥乎ちゃんの星を救うために!』

「……501統合戦闘航空団、友軍援護のために出撃します!」

「「G」グラディウス学園ユニット、バクテリアン殲滅のために出撃します!」

「待て、まだ…」

『ありがとう!』

 

 ユナの言葉に呼応するように、ミーナとジオールが副長の制止も聞かずに出撃を宣告してブリッジを飛び出し、ユナは満面の笑顔で微笑む。

 

「艦長、どうします?」

「状況はまだ把握できないが、ワーム殲滅は我々の最優先事項だ。ソニックダイバー隊、出撃」

「了解! 全員、出撃だ!」

『ありがとう!』

 

 艦長の決断に、ブリッジが更に忙しくなる。

 そんな中、艦長は静かに表示が消えていくユナの顔を見ていた。

 

「状況も勢力も分からぬのに、少女のただ一言で協力体制が整うとはな………十年前、我々もこうできていれば………」

 

 

 

「全機出撃だ! シャッター開けろ! 手の開いてるのは他の奴の兵装手伝え!」

「外にみんないるノカ!?」

「うん、間違いない」

「進路開けて! RV出すわ!」

「起動チェックしてないよ!」

「そんな暇ない。すぐそこにいる」「危ない、伏せて」

『え?』

 

 ソニックダイバー、ストライカーユニット、RVそれぞれが出撃準備に取り掛かる中、格納庫のシャッターが開いていく。

 だがそこで、ティタとサーニャの言葉通り、こちらを狙っているバクテリアンと目が会った。

 

「やべえ!」「伏せろ!」

「エイラ」「分かった!」

 

 整備員達が仰天してその場に伏せ、サーニャが前へと出てシールドを展開、エイラが銃を構える。

 

「あ」

 

 そこでエイラが一言呟いたかと思うと銃口を下げ、更に上空からの銃撃がバクテリアンを撃墜する。

 

「よおし、間に合った!」

「皆さん無事ですか!」

「たぁだいま~」

 

 上空からの攻撃でバクテリアンを撃墜したシャーリーとリーネが、ルッキーニを伴って後部甲板に降り立ち、そのまま援護に当たる。

 

「ありがとう、助かっちゃった!」

「ルッキーニが世話になったみたいだから、これくらいはお安い御用さ」

「もう少しだけ持たせて!」

 

 亜乃亜がお礼を言うとシャーリーが笑顔で返し、エリューが叫びながらも出撃準備を進めていく。

 更にそこへ突然格納庫の中にミサキがテレポートして現れる。

 

「おわ!?」「い、今どこから!?」

「これがこの船の格納機? このユニット大型だけど、出撃所要時間は?」

「えと、スプレッドブースでナノマシン塗布して、リンクさせてだから」

「三分はかかる!」

「出撃方法は?」

「前部カタパルトから順次射出だ!」

「了解。こちらミサキ、エルナー、この船の機体出撃までの護衛を回して!」

『すでにエリカがエリカ7と向かってます!』

「前部のカタパルトに向かわせて! 後部格納庫はこちらでなんとかするわ!」

 

 エルナーに現状を報告しながら、ミサキは格納庫の中からリニアレールガンを構える。

 

「出撃急いでください!」

「弾が残り少ないんでね!」

 

 向かってくるバクテリアンを三つの銃口から放たれる銃火が迎え撃つ。

 

「……すげえ」

『どこ見取るんや!』

「ルッキーニちゃんの言ってた通りだ……」

 

 射撃の度に反動で揺れるシャーリーとリーネの胸を思わず凝視した遼平に、御子神姉妹の怒声が飛び、出撃準備を進める亜乃亜も小さく呟く。

 

「皆そろってる!?」

「全員出撃よ!」

 

 さらにそこへミーナとジオールが格納庫へ飛び込み、防衛に当たっているシャーリーとリーネ、そしてミサキを見つける。

 

「あなたは?」

「私は一条院 ミサキ、ヴィルケ中佐はどっち?」

「私だけど………」

「美緒から話は聞いてる。こちらのウイッチは連戦ですでに限界が近いわ。すぐに援護を」

「そうするわ、エイラさん、サーニャさん、ルッキーニさん、準備はいい?」

「準備は出来テル!」「はい」「うじゅう~!」

 

 エイラとサーニャが魔力を込めてストライカーユニットを発動、銃を携え、足元に魔法陣が浮かぶ中、ルッキーニは我先に銃を手にとってシャーリーの援護へと向かう。

 

「ストライクウイッチーズ、出撃!」

 

 それに続けて、ウイッチ達も次々と発進していく。

 

「こっちも行くわよ!」

「ビックバイパー、起動!」「ロードブリティッシュ、リンク確認」「マードックバイパー、システムオールグリーン!」「ビッグコアエグザミナ、行ける」「セレニティバイパー、プラトニックパワーリンケージ、全機発進!」

「空羽 亜乃亜、頑張ります!」

「エリュー・トロン、行きます!」

「マドカ、いってきま~す!」

「ティタ・ニューム、容赦しないからね」

「ジオール・トゥイー、出ます!」

 

 ジオールの号令と共に、RVを駆る天使達が次々と発進、格納庫を守る三人の脇と敵の攻撃をすり抜けて飛び立っていく。

 

「なんだあれ、ジェットストライカーか? すげえ速いな~」

「違うみたいですけど………」

「RVって言うんだって」

「ふ~ん、後で見せてもらおう」

 

 高速発進していくRVを興味深く見ているシャーリーだったが、背後が更に騒がしくなる。

 

「ソニックダイバーの準備は!?」

「全機大丈夫だ!」

 

 大戸の言葉を聞いて、ナノスキン塗布・最適化を終えたスカイガールズが次々と自分の乗機に騎乗。

 

「飛行外骨格『零神』。桜野。RWUR、MLDS、『パッシブリカバリーシステム、オールグリーン』っ!」

「飛行外骨格『風神』。園宮。『バイオフィードバック』接続っ!」

「飛行外骨格『雷神』、一条、ID承認。声紋認識。『ナノスキンシステム』、同期開始っ!」

「『バッハシュテルツェ』、エリーゼ。『バイオフィードバック』接続っ!」

『ソニックダイバー隊、発進………待ってください!』

「え?」

 

 カタパルトへと移動する途中でいきなりの七恵の制止の声に、思わず音羽がマヌケな声を上げる。

 

「前方に敵機! 発進一時停止を…」

 

 カタパルト内で、前方に見える敵に気付いた瑛花が後続の停止を促すが、そこで突然見えていた敵機が爆散する。

 

「今のは……」

 

 

「エレガントソード!」

 

 攻龍前部、ソニックダイバー発進用のカタパルトが展開していく所へ押し寄せようとしたバクテリアンが、エリカの一閃で爆散する。

 

「エリカ7! カタパルト周辺に着きなさい!」

『はい、エリカ様!』

 

 エリカの号令と同時に、エリカ7がカタパルトの左右に展開、それぞれの得物を構えた。

 都合、ブリッジの真ん前に立つ事になったエリカが背後のブリッジに振り向き、笑みを浮かべる。

 

「ここはこの香坂エリカとエリカ7が守ってさしあげますわ。何か分かりませんが、早く出させなさい」

「……ソニックダイバー、発進!」

「は、はい! ソニックダイバー、出撃してください!」

 

 いきなりの事に呆気に取られたブリッジ内だったが、艦長の指示で即座に出撃シーケンスが続行、ソニックダイバーが次々発進していく。

 

「あれもウイッチでしょうか?」

「何か違いません?」

「まあ、助かったのは確かだ……」

 

 ある意味、ウイッチよりも風変わりな光の戦士達にブリッジ内に微妙な空気が流れるが、その確かな戦闘力に考えを改める。

 

『つまり、そちらでも同種の特性を持ったワームと交戦経験があるのですね?』

「そうだ」

「自切部位と電気信号でリンクしている以上、本体と自切部位、同時の攻撃殲滅が必要だ」

『その点なら問題ない。そちらが本体を攻撃、自切部位をこちらで受け持つ』

 

 戦場に次々と少女達が出撃していく中、攻龍とプリティーバルキリー号で作戦が手早くまとめられていた。

 

『ホメロス効果によるナノマシン統合体崩壊、そんな手が有ったとは………』

「だが問題は、前回の闘いではワームは自切部位を二つ続けて切り離した事だ。片方はソニックダイバー、もう片方はそちらで受け持つとして、もう一つの対処を…」

『お任せ下さい』

 

 エルナーと艦長の会話を遮るように、通信ウィンドゥにジオールが現れる。

 

『もし自切部位が二箇所なら、片方は私達が受け持ちます。RVのドラマチック・バースト一斉掃射なら、殲滅可能でしょう』

「確かに、あの火力なら可能だ」

「そういや、そっちのトリガーハートはどうした? あの戦闘力なら…」

『それが、現状だとこのようになってるので』

 

 冬后の問いに、カルナがある映像を映し出す。

 そこには、真紅のトリガーハート同士が壮絶な激闘を繰り広げる様と、それをサポートする濃紺と白のトリガーハートの姿があった。

 

「な、フェインティアが二人!?」

『片方はヴァーミスで複製されたイミテイトと思われます。オリジナルとイミテイト、二体のフェインティアの戦闘は現状の大型ワームとの戦闘とほぼ同レベル、そしてイミテイトの火力、機動性、防御力から推察して、トリガーハート以外での交戦はきわめて難しいと思われます』

『しかも、もしあれが大型ワームと共闘するような事になれば、対処は格段に難しくなります。トリガーハートの三人に任せて、こちらで対処するしかないかと………』

「確かに、トリガーハートの戦闘力は桁違いだからな」

 

 高速、大火力、そしてユニットとアンカー艦を使う高レベルかつ独自の戦闘光景に、冬后は苦い顔をして頷いた。

 

「そう言えば、そちらでは何で一度殲滅したのだ?」

『上空からの艦砲射撃だ、今はそうとだけ言っておこう』

「……上空、まさか攻撃衛星か!?」

『いえ、宇宙船艦です』

『……は?』

 

 副長の問いへの美緒とエルナーの返答に、ブリッジ内の数人が同時に疑問符を浮かべる。

 

「この際、些細な問題はいい。ソニックダイバー隊にワームへの攻撃を開始、クアドラロック使用可能状態になった時点で、カウントダウンをデータリンク」

「了解しました!」

『総員、大型ワームへ波状攻撃! こちらの合図と同時に、先程同様に艦砲射撃を行う!』

『こちらカルナ、戦闘データリンクOK! 各トリガーハートに送信開始!』

『リューディア、データリンク及びカウントダウンリンクを!』

 

 複数の指示が通信で飛び交い、それを上回る銃火が戦場を飛び交い始めていた。

 

 

 

「うわ、大きい!」

「A+でもここまで全長を誇るのは滅多にありません」

「あのウイッチの子達、どうやって倒したんだろ?」

「今に分かるわよ、相手は自切再生型、前と同じ手で殲滅する事に決まったわ。それじゃあ攻撃開始!」

 

 対ワーム部隊である自分達ですら滅多に見ない大物に、ソニックダイバー隊も驚愕しながらも、一斉に攻撃が始まる。

 ビームとレーザー、対空ミサイルが一斉に発射され、ワームへと直撃する。

 

「よおし!」

「待ってください、これは!」

 

 思わず喝采を上げた音羽に、可憐が何かに気付いて風神のセンサーでデータの収集に入る。

 爆風が消えると、そこには表面が僅かに焦げただけのワームの姿があった。

 

「ウソ!? 全然効いてない!」

『ワームセル損傷率10%未満! 前例の無い結合率です!』

 

 エリーザの驚愕の声に、七恵の報告が続く。

 

「攻撃を続行します! 全機Aモードにチェンジ、至近攻撃でセルを破壊! 可憐はその間に結合率の低い箇所を探して!」

「了解」

「MVソード!」「MVランス!」

 

 ソニックダイバーが高速飛行のGモードから強化外骨格形態のAモードへと変形、音羽の零神とエリーゼのバッハシュテルツェがそれぞれ近接戦闘武器を構える。

 

「それじゃあ突げ…」

「待って! バッキンボー!」

 

 突撃しようとした時、突然の声と同時に飛来したバッキンボーが、零神へと向かっていた何かを叩き落す。

 

「不用意に近寄ると、あれを食らうわ!」

「音羽さん、ヒゲです! ヒゲを近接武器として使うようです!」

 

 零神のそばに来たポリリーナの警告に、可憐が追加で情報を付け足す。

 

「あ、ありがとう。あなた、ウイッチ?」

「いいえ、私はお嬢様仮面ポリリーナ、そう呼ばれてるわ」

「………何それ?」

 

 一際風変わりなポリリーナの自己紹介に、エリーゼが思わず呟く。

 

「お互い、自己紹介は後でゆっくりね。ヒゲとハサミに気をつけて!」

 

 それだけ言うと、ポリリーナはその場からテレポートして消える。

 

「うわ! 消えた!」

「あっちにいる!」

「質量が完全に消えてる……本物の瞬間移動?」

「無駄話は後にしなさい! 散開!」

 

 予想外の事に驚く皆を瑛花が叱咤した所で、再度振るわれたヒゲを回避するために四機のソニックダイバーは散開、そのまま各自で攻撃に入る。

 

「仮面の超能力美少女戦士か~、結構かっこいいかも」

「それってポリリーナ様の事かな?」

 

 一度距離を取って間合いを見ていた音羽の呟きに答える声があって音羽が仰天、いつの間にか背後にいたユナの方に振り向く。

 

「ポリリーナ様と私は運命の糸で繋がってるんだから♪」

「………え~と」

 

 夢見るような瞳で語るユナになんと言えばいいか判断しかねた音羽だったが、上空から刺した影に双方とっさに左右に分かれる。

 

「うわ!」「危な~!」

 

 振り下ろされたハサミを回避した二人が、期せずしてハサミの根元を辿る同一の動きを取る。

 

「ゼロ、行くよ!」

「いっけえ~!」

 

 MVソードとマトリクスディバイダーPLUSがハサミに繋がる腕を左右から斬り裂こうとするが、予想外に重い手ごたえに二人の顔に苦悶が走り、刃を振りぬく前に再度離れる。

 

「硬っ!」

「さっきより頑丈になってるよこれ!」

 

 攻撃の効果が左程無い事に二人が手にした得物を確かめ、思わずぼやく。

 

「音羽さん! 下です!」

「へ?」

 

 そこで可憐からの警告に音羽が思わず下を向くと、そこから間接を反転させて振り上げられるハサミに気付く。

 

「まず…」

「クルクル~パ~ンチ!」

 

 予想外の攻撃に回避が遅れそうになる音羽だったが、そこへユーリィが拳を振り回して叩きつけ、ハサミを弾き返す。

 

「そこです!」

 

 さらにそこへ可憐の風神からの対空ミサイルが次々と打ち込まれ、その間に音羽は体勢を立て直す。

 

「ユーリィ! ありがと!」

「ユーリィお腹すいたですぅ! 早く終わらせてご飯にするですぅ!」

「音羽さん大丈夫ですか!?」

「なんとか。にしてもすんごい怪力……」

「それが、どうにもあちこちにフェインティアさんみたいなアンドロイドがいるみたいです。あの赤毛の人もそうみたいですけど」

「ここどこだろ……」

 

 遠くに見える未来的な街並みに首を傾げながらも、音羽はMVソードを構え直す。

 

「普通に攻撃してもセルが破壊できません! 連続して攻撃を仕掛けて、外殻部を破壊、内部の結合の弱い部分を狙ってください!」

「え~と、つまり殻を壊して中を攻撃すればいい訳?」

「はい!」

「とは言ってもね……」

 

 脇で可憐の説明を聞いていたユナが問い質した所で、音羽は改めて大型ワームの状況を観察する。

 

「食らえ~!」

「アチャ~!」

 

 エリーザの駆るバッハシュテルツェのMVランスと麗美の閃空槍が同時に突き出されるが、双方穂先が僅かに食い込むだけで、すぐに弾き飛ばされる。

 

「何よこれ!」

「さっきと違うアル!」

「攻撃の手を緩めないで! 少しずつでもダメージを与えれば!」

 

 そこへ瑛花の雷神が接近しながら、大型ビーム砲とガトリングを同時に斉射、重火力を持ってセル破壊を試みるが、ソニックダイバー1の火力を持ってしても、表層を僅かにえぐっていくだけだった。

 

「くっ……」

「冬后大佐! このワームの結合率は半端ではありません! こちらの攻撃はほぼ無効化されます!」

『攻撃を続けてそいつを足止めしろ! 攻龍の主砲で狙い打つ!』

「了解! 攻龍の射線を確保しつつ、攻撃続行!」

「あの船、攻龍って言うんだ。かっこいい名前だね!」

「いや~、そう言われると照れるな~」

「音羽! そういう事は後でしなさい!」

 

 ユナに母艦を褒められ、顔を緩ませる音羽に瑛花の檄が飛び、音羽は大型ワームへと向き直る。

 

「私は桜野 音羽、この子はソニックダイバー零神。あなたは?」

「神楽坂 ユナ、こっちはユーリィ。よろしくね♪」

「こっちこそ。それじゃあ、行くよユナちゃん!」

「OK音羽ちゃん!」

 

 出会ったばかりの二人の少女が、同じ目的を持って、剣を手に敵へと向かっていった。

 

 

 

「うわあ、見たトゥルーデ!? あれ変形したよ、かっこいい!」

「見た事も無いユニットか………あれも我々同様、どこか別の世界から来たわけか」

「そこどいて~!」

 

 目の前で変形したソニックダイバーにハルトマンが歓声を上げ、バルクホルンも興味を持つが、そこをビックバイパーを駆る亜乃亜がニアミスを起こしそうになる。

 

「うわあ!」

「速い! なんだあのユニットは!」

「ライディング・バイパー、通称はRVだそうよ」

 

 聞き覚えのある声に二人が振り向き、そこにいるミーナの顔に驚愕と安堵の顔をする。

 

「ミーナ! 無事だったんだ!」

「あの船に乗っていたのか……友軍と捉えていいのか?」

「友軍も何も、ワームはソニックダイバーの、バクテリアンはRVの対抗兵器だそうよ」

「敵の敵は味方、か」

「そう捉えてもらって結構よ」

 

 そこへミーナの隣にジオールが並ぶ。

 

「あなたは?」

「私は秘密時空組織「G」所属、グラディウス学園ユニットリーダー、ジオール・トゥイー、彼女達のリーダーよ。貴方達がミーナさんが探してた仲間ね?」

「ゲルトルート・バルクホルン、階級は大尉、こっちはエーリカ・ハルトマン中尉だ」

「よろしくね」

「彼女達は501のWエースよ」

「へえ、それはすごいわね」

「ジオール、来た」

 

 簡単な自己紹介の最中に、いつの間にかジオールの後ろにいたティタが呟く。

 その言葉どおり、バクテリアンの一群が迫ってきていた。

 

「それでは、お互い別の自己紹介と行きましょう。右のはそちら、左はこちらで」

「了解、それじゃあ二人とも」

「ああ」

 

 頷くとウイッチと天使達は同時に動いた。

 ウイッチ達が機敏な動きでバクテリアンの攻撃を掻い潜り、次々と撃墜していく。

 

「うわあ、やるな~」

「こっちも行くわよ!」

「D―バースト以外の全兵装解除、バクテリアンを殲滅!」

『了解』

 

 一味違う501エースの戦いぶりに亜乃亜が感心し、エリューとジオールが号令をかける。

 

「マドカにお任せ♪」

「あ、ずるい!」

 

 マドカのマードックバイパーが先行、バクテリアンを撃墜し、残ったパワーカプセルを回収していく。

 

「ぱっ! ぱっ! ぱわー! あーっぷ!」

「私だって!」

「上空はこちらで押さえる!」

「ティタ、下からのをお願い」

「急行」

 

 バクテリアンを次々と撃墜、そのエネルギーで兵装を増していくRVに、今度はウイッチ達が仰天する。

 

「敵のエネルギーで兵装を増加させる!?」

「う~ん、こっちも出来れば、今頃私とトゥルーデですごい事になってるんだけどな~」

「さすがに無理よ……」

「それじゃあ、ボクも行くよマスター!」

 

 ミーナが苦笑した所で、肩に乗っていたストラーフが飛び出す。

 

「これでどうだ!」

 

 小型のストラーフのGA4“チーグル”アームパーツの一撃がバクテリアンの一体の中央を陥没、墜落させる。

 

「武装神姫! そちらにもいたのか!」

「そちらにもって、こっちにも?」

「さっきまでいたよ、ちょっと無茶して今撤退してるけど」

「あれの相手をしてもらったのでな」

「あれ?」

 

 バルクホルンにつられて、ミーナも上空を見る。

 そこには、凄まじい速度で激戦を繰り広げる、二つの赤い機影の姿があった。

 

 

 

「ガルトゥース! ファイアー!」

「このう!」

 

 オリジナルとイミテイト、二人のフェインティアの戦闘は目まぐるしく双方の位置が入れ替わり、無数の砲火が飛び交う凄まじい物となっていた。

 

「ガルクアード! フルスイング!」

「させるかぁ!」

 

 フェインティアのアンカー艦がスイングを始めた矢先、イミテイトがファルドットを直接ぶつけ、強引にスイングを中断させる。

 

「なんて戦い方すんのよ!」

「ユニットなんて幾らでも代わりはあるわ!」

「そんな奴に私の随伴艦は渡さないわよ!」

「だから奪わせてもらうわ!」

「マイスター、もう少し周囲への影響を考えた方がいい」

「はあ?」

「先程からマイスターの僚機が下への流れ弾の防御に専念しているのだが」

 

 ムルメルティアに言われ、フェインティアはようやく他のトリガーハートの状況に気付く。

 

「クルエルティア、どうやら尻拭いさせてたみたいね」

「構わないわ。こちらは今までの戦闘のダメージが蓄積してる」

「私と姉さんが対処しますから、そちらはお願いします!」

 

 クルエルティアとエグゼリカが下へ被害が及ばないように尽力するのを確認したフェインティアは、イミテイトに再度随伴艦を向ける。

 

「フェインティア、イミテイトはナノマシンコーティングを全身に施してるわ。アンカーキャプチャーは不可能よ」

「私達もそれで苦戦しました」

「ナノマシンコーティング?」

「マイスター、ひょっとしてナノスキンでは………」

「だとしても、ソニックダイバーの物とは別物ね。クルエルティアからの戦闘データだと、とっくに耐久時間は過ぎてるわ」

「ごちゃごちゃうるさいわね、来ないならこっちから行くわよ!」

「上等よ!」

 

 僅かな疑問を考慮する暇も無く、再度二つの赤い閃光が、戦場の空に火花を散らしてぶつかった。

 


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