スーパーロボッコ大戦   作:ダークボーイ

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EP17

 

 その哄笑は、地表で治療をしている芳佳と治療を受けているユナの元にまで響いてきた。

 

「ひどい………なんでこんな………」

「………して」

 

 そこでユナが何かを呟く。

 芳佳にその呟きは届かなかったが、突如として治癒魔法が弾かれる。

 

「きゃああ!」

「どうしたの芳佳ちゃん!」

「わ、分かんない………」

 

 突然の悲鳴に護衛をしていたリーネが振り向くが、今まで無かった現象に芳佳も唖然とするが、そこで治療を受けていたはずのユナが立ち上がっているのに気付いた。

 

「返して……」

 

 再度ユナが呟き、変化が訪れる。

 彼女の純粋さを現したような白いバトルスーツが、墨でも流したかのように黒く染まっていく。

 

「え………」「何あれ………」

 

 芳佳とリーネが絶句する中、変化は更に進み、ユナの全身を黒ずんだバトルスーツが覆っていく。

 そして、変化の終了を示すように、ユナの目から零れ落ちた涙が地面へと落ちる。

 同時に、ユナの全身から凄まじいエネルギーが溢れ出す。

 

「何? 何?」

「ゆ、ユナさん?」

「な、何よあれ!」

 

 状態に気付いたウイッチ達や光の戦士達も変貌したユナの姿に絶句するが、それすら上回る驚愕が次の瞬間に起きた。

 

「亜弥乎ちゃんを返せええぇぇぇ!!!」

 

 ライトニングユニットも無しに、ユナが地面を踏みしめてジャンプする。

 いかな力がかかったのか、一撃で金属製の地面にクレーターが浮き、ユナの体はロケットのような勢いで上昇する。

 

「返せええ!!」

 

 二歩目は上空へと伸びていたケーブルの束、一撃でその束を軒並み蹴り飛ばし、ユナの体が更に上昇していく。

 ユナを迎撃するため、数体のネウロイ・イミテイトが彼女の前へと立ちふさがる。

 

「邪魔だあぁ!!!」

 

 ユナはそれに対し、無造作に腕を一閃、たったそれだけでネウロイ・イミテイトは粉々に吹き飛んでいく。

 

「何だ、あの力は!」

「な、なんかやばいよ!?」

『い、いけません! 皆さんユナを止めてください!』

 

 歴戦のバルクホルンとハルトマンも、恐怖を感じるような圧倒的な力を振るい、襲ってくるネウロイ・イミテイトを石ころのように扱いながら更に上昇していくユナに、エルナーが慌てて制止を叫ぶ。

 

「あれは……」

「ユナさん!?」

「うわあああぁぁ!」

 

 ケーブルやネウロイ・イミテイトを踏み石にして、とうとうユナがトリガーハート達が戦っている高度にまで到達する。

 

「この! 壊れろ!」

「ああああぁぁ!」

 

 ユナの異常なまでの戦闘力、いや破壊力にフェインティア・イミテイトもファルドットを襲ってくるユナへと差し向け、無数の弾幕やレーザーがユナを襲う。

 

「返せええぇぇ!」

 

 だが、その無数の弾幕やレーザーをユナは力任せに弾き飛ばし、ファルドットですら踏み壊しながらフェインティア・イミテイトに迫っていく。

 

「ひ、いやああぁぁ!」

 

 むき出しの感情そのままに迫るユナに、とうとうフェインティア・イミテイトの口から悲鳴が洩れる。

 ユナの手がとうとうフェインティア・イミテイトへとかかる直前、その動きが止まる。

 

「ダメです! ユナさん! ディアフェンド!」

 

 直前でアンカーでユナをキャプチャーしたエグゼリカが、出力を上げてなんとかユナを留めようとする。

 

「ユナ! 落ち着いて!」

「ダメよユナ!」

「そのままでは、貴女も兵器になってしまう!」

 

 更にようやく追いついたポリリーナとミサキ、クルエルティアも加わって二人+アンカー二つで何とかユナの動きを止める。

 

「ば、化け物! こんな事、聞いてないわよ!」

「亜弥乎ちゃんを、亜弥乎ちゃんを……」

「亜弥乎! こいつを壊しなさい!」

 

 恐らく初めて覚える恐怖に、フェィンテイア・イミテイトが亜弥乎に命じる。

 命令に応じて、亜弥乎がこちらへと向かってきた。

 

「いけない! このままだと下手したら……」

「両方無事ではすまないわ!」

「どうせなら、両方壊れちゃえ!」

「貴女!」

「ど、どうしたら………」

『額だ!』

 

 ユナを何とか抑える四人が向かってくる亜弥乎と両方どうすればいいか悩んだ時、通信に美緒の声が響いてくる。

 

『私の魔眼で確かめた! その額飾り、それだけが外から接続されている! 恐らくそれが…』

「コントロール・コア!」

「あれを破壊すれば、彼女は開放される!」

 

 美緒の言葉を、トリガーハートの二人は続けるように叫ぶ。

 それを聞いたユナの動きが止まり、ゆっくりとバトルスーツの色が白へと戻っていく。

 

「本当? あれを壊せば、亜弥乎ちゃんは戻るの!?」

「間違いないわ! 短時間でシステムを完全に書き換えるのは不可能! だとしたら外部からコントロール・コアで制御するのが妥当よ!」

「じゃあ、彼女も………」

 

 ユナの問いにクルエルティアが断言する中、エグゼリカがフェインティア・イミテイトの額のコントロール・コアを見る。

 

「ふ~ん、やれる物なら、やってみなさい!」

 

 フェインティア・イミテイトがユナとそれを抑えたままだったポリリーナとミサキへとファルドットを向ける。

 

「ミサキ!」

「ええ、テレポート!」

 

 放たれた弾幕を避けるため、ユナを連れて二人が一気に地表へとテレポートする。

 

「ポリリーナ様、ミサキちゃん、みんな……さっきはゴメン」

「ユナさん大丈夫? あんな無茶したら危ないよ?」

 

 芳佳が心配して駆け寄る中、ユナが皆に頭を下げる。

 

「ま、あんな笑われ方したら誰だって切れるからね~」

「舞さん、いつもあんな感じですぅ」

「そう~~ですね~~~」

「取り合えず後よ。話、聞いてたわね?」

 

 ユナの謝罪を笑って皆が受け入れた所で、全員の視線が亜弥乎へと向けられる。

 

「あの趣味の悪いティアラをぶっ壊せばいいのね」

「問題は、どうやって近付くか………」

「……お姉様、私がやってみます」

「私達なら、あのケーブルを掻い潜れます」

 

 亜弥乎の絶対的ともいえる防御に、飛鳥とアーンヴァルが名乗りを上げる。

 

「それはいけません」

「亜弥乎殿は見ての通り、機械を操る能力を持つ。見た所、全身機械の君達は至近距離まで近付くのは危険行為だ」

 

 それを鏡明と剣鳳が制止、向かおうとしていた武装神姫の動きが止まる。

 

「じゃあ、どうすれば!」

「私が行きます!」

 

 ユナが戸惑う中、芳佳が立候補する。

 

「私のシールドは501で一番頑丈なんです! だから大丈夫!」

「危ないよ!」

「私とミサキがテレポートで近付けば…」

「あれの攻撃は全方位に来る、奇襲は無意味だ!」

「しかし!」

「悩んでいる暇は無い!」

 

 攻めあぐねる皆に、美緒の一喝が飛ぶ。

 再出撃してきた美緒の手にはすでに抜き放たれた烈風丸が握られ、もう片方の手には何本ものボトルがまとめた物が握られていた。

 

「全員これを。先程送られてきた、飲めば消費した分の魔力が回復できるそうだ」

「本当ですか!?」

『こちらではまだ理論上のエーテル補充薬のようです。坂本少佐で効果は実証済みです』

「未来には便利な物があるんだ♪」

「リューディアからね」

 

 ウルスラの説明を聞きながら、美緒から渡された回復エキスを受け取った皆が一気にそれを飲み干す。

 

「三方向で行く。宮藤は正面から、ポリリーナとミサキは左右から彼女に回り込む。他の者はそれの援護、突破口をこじ開ける。以上、質問は!」

『了解!』

 

 全員が一斉に返答し、亜弥乎へと向き直る。

 

「突破口は私が開いてみせますわ」

『私たちも!』

 

 芳佳の治癒魔法と回復エキスで半ば強引に回復させたエリカがエレガント・ソードを手にして立ち上がり、エリカ7もそれに続いて陣形を組む。

 

「芳佳ちゃん! 私も一緒に!」

「うん、行こうユナちゃん!」

 

 半ばスクラップになったライトニングユニットを破棄したユナが、芳佳の背におぶさる。

 

「それでは、行くぞ!」

 

 美緒が先陣を切って飛び出し、ウイッチと光の戦士達が続く。

 

「マスター、敵機増援、多数!」

「分かっている、烈風斬!」

「これが私の本気です!」

 

 こちらが相談している間に体勢を立て直したネウロイ・イミテイトと無数のケーブルが向かってくる。

 それを迎え撃つべく、魔力の大斬撃と高出力レーザーが解き放たれる。

 

「エリカ7、私に続きなさい!」

『お~!』

 

 美緒とアーンヴァルの攻撃で開いた隙間に、エリカを先頭としてエリカ7が突っ込んでいく。

 

「ハルトマン! サイドは私達で防ぐぞ!」

「了解!」

「リーネさん! 援護を!」

「分かりました!」

 

 切り込むエリカ7の両脇を、ウイッチ達の猛攻撃が防壁を築き上げる。

 

「後ろからも来るわよ!」

「ユナさんの邪魔はさせないですぅ!」

「いえ、貴方達はユナを守ってください。私達だけで十分」

 

 振り向いて応戦しようとしたユーリィと舞を抑え、沙雪華を筆頭にエミリー、かえで、葉子が残る。

 

「貫きなさい!」「縦横無尽!」「エレクトンロンブレイク!」「プラスマリッガー!」

 

 次々と解き放たれるレーザーや衝撃波、電撃が防衛線を気付く中、皆は前へと進んでいく。

 

「ユナさんを援護する!」

「ケーブルを断線させろ! 後の修復は考えるな!」

 

 地表で鏡明と剣鳳に率いられた機械化帝国の兵達が、上空へと伸びようとするケーブルを次々と破壊していくが、それでもなお、無数のケーブルが亜弥乎へと向かう乙女達を狙っていく。

 

「そっちにも来たぞ!」「鬼よ……我に宿りたまえ」「茶筅ミサイル!」「ポイズンニードル!」「レ~~ザ~~発射~~!」

 

 伸びてくるケーブルを、シャーリーと飛鳥が速度と運動性を活かして、住華とマリ、詩織が遠距離攻撃を活かして迎撃していく。

 

『敵は全戦力を投入してきた模様です! 孤立すれば集中攻撃されます! 注意してください!』

「……つまり、孤立すれば敵の注意を引きつけられるという事か」

 

 エルナーからの通信を聞いたバルクホルンが、上昇を止めて先程受け取ったばかりの予備の重機関銃二丁を構える。

 

「バルクホルンさん!」

「構うな! ここで一体でも多く引き受ける!」

「うんそうだね。だからミヤフジ達は先に行ってて」

 

 振り返ろうとする芳佳を一喝するバルクホルンだったが、いつの間にかハルトマンが隣に来ていた。

 

「ハルトマン、お前まで……」

「よく見ようよ」

 

 ハルトマンが周囲を指差すと、姫、アレフチーナ、ルミナーエフ、麗美も同様に残っていた。

 

「それじゃあ、お次はこのナンバーだ!」

 

 姫が攻撃力上昇のロックを奏で、それを聴いた全員が力の高まりを感じると、一斉に頷き、次の瞬間には全員がそれぞれ違う方向へと飛び出していく。

 

「行くぞ!」「シュトルム!」「お眠りなさい! レクイエム!」「オーッホッホッホ! 狂喜乱舞!」「ファイブアニマルカンフー!」

 

 それぞれが必殺の攻撃を繰り出しながら、襲い来る敵陣に風穴を開けていった。

 

「もう少しよ!」

「亜弥乎ちゃん!」

 

 亜弥乎の姿が間近にまで迫ってきた事に舞とユナが声を上げた時、突然周囲にあったケーブルが奇怪な動きを見せた。

 

「いかん、止まれ!」

「何よこれ!」

 

 美緒が叫ぶ中、皆が慌てて止まる最中にケーブルは前方に集まっていき、やがてそれは編み物でもするように編みこまれ、大きなドームを形成していった。

 

「これは……!」

「破壊します!」

「食らうですぅ!」

 

 突如として前方に形成された、グラウンド一つは雄に収まりそうな巨大なドームに皆の動きが止まるが、リーネとユーリィが破壊しようと大型狙撃ライフルと双龍牙を速射する。

 放たれた弾頭とエネルギー弾がドームに風穴を開けるが、即座に周囲のケーブルが蠢き、穴を埋めていく。

 

「修復するのか!」

「こんな物でこの香坂 エリカが止められると思って! 皆、総攻撃で…」

『待って!』

 

 美緒が驚愕する中、エリカがエリカ7とドーム内に突撃しようとするが、そこで両サイドから先行していたはずのポリリーナの声が通信で響いてくる。

 

『これは敵の罠よ! それの向こう側には敵が集結してるわ!』

『私達が片付けるまで、待機して!』

 

 同じく先行したミサキの声と、戦闘音が向こう側から響いてくる。

 

「ポリリーナ様! ミサキちゃん!」

「迂回しましょう! 二人きりでは危険ですわ!」

「……どうやらそうも言ってられないようだ」

 

 ユナが叫ぶ中、ペリーヌが慌てて反転しようとした所で美緒がそれを静止する。

 僅かに動きが止まった間に、ドームの周囲にはネウロイ・イミテイトが集結しつつあった。

 

「完全に追い込まれた。今戦列を乱せば、敵に集中砲火を食らう。だがこのまま進めば追い詰められるだけだ」

「でも坂本さん!」

「だから、こういう場合は殿(しんがり)に相手をひきつけられるだけの実力を持った者を置いて時間を稼ぐ物だ」

 

 そう言いながら、美緒が二本目の回復エキスを一気に飲み干す。

 

「ま、まさか坂本少佐! お一人で!」

「私も一緒です」

「無茶です! 私も…」

「ダメだ! 彼女の電撃に同じ電撃を使う者と、宮藤が防護に回る間に回復できる者が必要になる」

「しかし!」

 

 アーンヴァル以外にペリーヌと白香が殿を申し出るが、美緒はそれを却下。

 

「坂本さん!」「美緒さん!」

「香坂達であのドームを破壊、同時に応戦しつつ飛び出せ。速度が命だ」

「でも、危ないよ!」

「急げ!」

 

 芳佳とユナの声を振り切り、美緒は烈風丸を手に集結しつつある敵陣へと突っ込んでいった時だった。

 下方から同様に突っ込んでくる二つの影が、ネウロイ・イミテイト達を次々と蹴散らしていく。

 

「! 誰だ?」

「反応は機械人のようですが……」

「邪魔だぁ!」

「おどきなさい!」

 

 両肩に翼を思わせるパーツを着け、長髪を長いポニーテールにして手にメタルブレードを持った者と、中華風のゆったりとした衣服をまとって手に電磁ブレードを持った二人の女性型機械人が、凄まじいまでの強さで敵陣をかく乱していった。

 

「あれは!」

 

 遠目からでも分かる、その特徴的な姿と見覚えのある戦い方にユナの顔がほころぶ。

 

「幻夢(げんむ)さん! 狂花(きょうか)さん!」

「すまない! 遅れた!」

「その分、働かせていただきますわ!」

「誰?」

「亜弥乎ちゃんのお姉さんだよ!」

 

 その二人、妖機三姉妹の長女・幻夢と次女・狂花もユナの姿を確認すると、顔に笑みを浮かべせつつ、敵の包囲を崩していく。

 

「ようし、あちらは任せて行きますわよ! ミラージュビーム!」「必殺魔球、受けてみよ!」「ハリケーンシュート!」「燃やしてやるぜ、バックファイヤー!」「スポットライトビーム!」「オーロラファンネル!」「いくわよマコちゃん!」「OKアコちゃん!サイクロンカット!」

 

 それを見たエリカが真っ先にドーム内に突撃して腐食性ビームでドームを攻撃、そこにエリカ7の総攻撃でドームが一気に破壊され、皆が突撃していく。

 

「亜弥乎の事は、ユナに任せておこう」

「こちらの方が大事のようですしね」

「ああ、そうだな」

「敵かく乱を最優先です」

 

 その様子を見届けながら、残った四人が期せずして背中合わせになる。

 ふとその時、美緒は幻夢の額と、狂花のブレードを握る手に、どこかから漏れ出した潤滑液が滴っている事に気付く。

 それが、今しがたの戦闘に因る物で無い事も。

 

「……その体、あとどれくらい動かせる?」

「あと10分、も怪しいな……」

「他の六花戦や四天機よりはマシなのですけれど、無理を言って出てきたのですわ」

「この星は陥落一歩手前だったわけか……正直に言えば、私も全力ならそれくらいが限度だ」

「ユナと亜弥乎が無事なら、それだけ持たせれば十分だ」

「そうですわね」

「援護いたします、マスター」

 

 四人は笑みを見せ合って頷き、そして一斉に敵影へと向かっていった。

 

 

「亜弥乎ちゃ~~~ん!」

 

 襲い来るケーブルとネウロイ・イミテイトやヴァーミス小型ユニットを掻い潜り、撃墜しながらユナと芳佳が亜弥乎へと向かう。

 

「雑魚は私達がどうにかするわ!」

「援護します!」

「亜弥乎さんの元に行ってくださぁい!」

 

 エリカがエリカ7を散開させて防衛線を構築し、リーネとユーリィが銃を連射して突破口を開く。

 

「先に行くわよ!」

「突破口は開いてみせますわ!」

 

 ユナと芳佳の前に、舞とペリーヌが先陣を切って亜弥乎へと迫るが、そこに周囲をくまなく覆う亜弥乎の電撃が襲い掛かる。

 

「行けぇ! 爆光球!」

「トネール!」

 

 それを迎え撃つべく、舞の両肩の爆光球から放たれた電撃とペリーヌの固有魔法が放たれる。

 都合三つの電撃が直撃し、周囲をすさまじいまでのスパークが荒れ狂う。

 

「舞ちゃん!」「ペリーヌさん!」

「く、このお!」「負けませんわ!」

 

 あまりにすさまじいスパークにユナと芳佳が二人を呼ぶが、スパークが己の体をあちこち焦がしながらも、双方電撃を放ち続ける。

 大気その物を焦がすような電撃同士のぶつかり合いは、あたりを眩く染め上げ、そしてとうとう均衡が破れる。

 

「うきゃあ!」「あう!」

 

 最初に舞の両肩の爆光球が爆砕、続けて魔力を使い果たしたペリーヌの体勢が崩れ、二人とも落下していく。

 

「ああ! 二人とも落ちてくよ!」

「助けないと!」

「構うんじゃないわよ!」

「今ですわ!」

 

 落下しながらも、二人が叫ぶ。

 

 その言葉どおり、こちらも力を使い果たしたのか亜弥乎の電撃が止んでいた。

 

『テレポート!』

 

 二人が命がけで作った隙を逃さず、ポリリーナとミサキがテレポートして亜弥乎の両腕を掴んで動きを封じる。

 しかし、余力を残していたのか、亜弥乎は体内の残ったエネルギーで直接電撃を二人へとお見舞いする。

 

「うあぁ!」「くうう!」

「ポリリーナ様! ミサキちゃん!」

「今よ!」

 

 直接電撃を浴び、苦悶を漏らしながらも二人は亜弥乎の腕を放そうとしない。

 

「亜弥乎ちゃん!」

「危ない!」

 

 ユナが亜弥乎の額のコントロール・コアに手を伸ばそうとした時、突然それを遮って芳佳がシールドを最大展開。

 そこへ上空から強力なレーザーが直撃した。

 

「そう簡単にはいかないわね~」

 

 亜弥乎の目前まで迫った二人へと向かって、フェインティア・イミテイトがファルドットからの攻撃を浴びせ、笑みを浮かべる。

 

「もう少しなのに!」

「どいてください!」

「そう言われてどくわけが」

「カルノバーン!」「アールスティア!」

 

 だが、そこに伸びてきた二つのアンカーが一つはフェィンティア・イミテイトに、もう一つがファルドットへと突きこまれる。

 

『キャプチャー!』

 

 同時にアンカーを繰り出したクルエルティアとエグゼリカだったが、何故かクルエルティアのアンカーはフェインティア・イミテイトをキャプチャーできず、エグゼリカのアンカーはかろうじてファルドットを止める。

 

「ち、まあいいわ。私にそれ効かないから」

「!? これは、ナノマシンコーティング! どこからそんな技術を!」

「どいて姉さん! アールスティア、フルスイング!!」

 

 トリガーハートにすら使われていない未知の技術に、クルエルティアは驚くが、そこにエグゼリカが全力でアンカーをスイング、猛烈な勢いでキャプチャーされたファルドットがフェインティア・イミテイトへと襲い掛かる。

 

「この! うわあぁ!」

 

 とっさに他のファルドットでそれを防ぐフィンティア・イミテイトだったが、爆風までは防ぎきれずに吹き飛ばされる。

 

「今です!」

「はい!」「亜弥乎ちゃん! 今助けてあげる!」

 

 エグゼリカの声に押されるように芳佳が一気に亜弥乎へと近寄り、ユナの手がコントロール・コアを掴み、一息に破壊した。

 直後、亜弥乎の体から力を抜け、落下しそうになるのを体を抑えていたポリリーナとミサキが慌てて支える。

 

「………あれ、あたし」

「亜弥乎ちゃん! 大丈夫!? どこか痛い所とかない?」

 

 瞳に光が戻った亜弥乎が、目の前にいるユナを見つめた所で、その目が大きく見開かれ、涙を浮かべ始める。

 

「あ、あたし、ユナにひどい事………」

「いいの、私はもう大丈夫だから。だから気にしないで」

「ユナ………ごめん、ごめんね………」

 

 優しく、そして力強くユナは亜弥乎を抱きしめ、亜弥乎はその腕の中で泣きじゃくり始める。

 

「よかった………本当によかった………」

「亜弥乎ちゃん無事でよかったですぅ」

「うん!」

 

 芳佳も思わず貰い泣きし、ユーリィとリーネも亜弥乎の無事を喜ぶ。

 

「ちぇっ。つまんない事なったわね」

 

 そこへ、爆風に吹き飛ばされていたはずのフェィンティア・イミテイトが戻ってきて舌打ちする。

 彼女の眼下では、あれほどいたはずのヴァーミスの戦闘ユニットもネウロイ・イミテイトも、皆の奮戦でほぼ駆逐されようとしていた。

 

「ほう、それは詳しく聞きたい所だな」

 

 三本目の回復エキスを飲み干しながら、美緒が白刃を手に上昇してくる。

 

「貴女も、そのコントロール・コアを破壊すれば」

「聞きたい事もいっぱいあるわね」

 

 随伴艦を向けるクルエルティアの隣で、ポリリーナがバッキンビューを構える。

 

「だが、簡単にいかないのだろう? 力尽くだな」

「そうですわね」

 

 銃身の焼きついた銃を投げ捨て、バルクホルンが両拳を鳴らし、エリカもエレガント・ソードを構える。

 他にも、敵を撃破した仲間達が続々と上空のフェィンティア・イミテイトを包囲していく。

 

「降伏してください。最早状況の挽回は不可能です」

「……さもなくば、実力を行使します」

 

 間近まで迫ってきた武装神姫達に勧告された所で、フェインティア・イミテイトの顔に笑みが浮かび、やがてそれは徐々に哄笑へと変化していく。

 

「あは、あはははは、あっはっはっは!」

「……おかしくなったかな?」

「これほどの戦力差ならば致し方ないでしょう。奥の手も奪われたのですし」

 

 ハルトマンが首を傾げ、沙雪華が笑みを浮かべる。

 だが、その言葉にフェインティア・イミテイトはその顔に邪悪な笑みを更に深くする。

 

「奥の手? ああそれの事? そんなのは鹵獲サンプルの有効利用よ。奥の手なら、ちゃんと用意してあるから」

「今、なんて!?」

「総員警戒態勢!」

 

 亜弥乎を指差しながらの予想外の言葉に、ミサキが驚愕しつつ周囲を見回し、美緒が全員へと向けて叫ぶ。

 

「見せてあげる。とっておきをね!」

 

 フェインティア・イミテイトが片手を高々と上げると、指を一回鳴らす。

 直後、真下の地表にとてつもなく巨大な渦が現れる。

 

「あれは!」

『巨大な転移反応確認! 注意してください!』

 

 それが自分達がここに来た時に飲み込まれた物と同じだと気付いたウイッチ達が警戒する中、エルナーの警告が響き渡る。

 だがその次に起きた事は全くの予想外だった。

 突如としてその渦から、膨大な量の水が噴き出して、周囲に瞬く間に溜まっていく。

 

「いけません!」「待避! 急げ!」

「危ない!」「急げ!」

 

 地上にいた機械人の兵達が鏡明と剣鳳の指示で慌てて逃げ出し、水に飲み込まれそうになった兵達をシャーリーとセリカを中心とした数名が救助に向かう。

 

「この水、しょっぱいぞ!」「海水だ!」

 

 救助の傍ら、溢れ出す水を少し被ったシャーリーとセリカが、それから漂う潮の匂いに気付く。

 救助が進む中、水は更に溜まっていき、とうとうそれは巨大な湖、否、海のようになっていった。

 

「海ができちゃった………」

「ウソ………」

「一体何をするつもり!」

 

 ユナと芳佳が呆然とその凄まじい光景を見詰める中、ポリリーナが問い質す。

 

「マスター! 水面下に巨大な動体反応!」

『何か、何かがいます! とてつもなく巨大な何かが!』

 

 アーンヴァルとエルナーの声が響く中、水面に影が浮かぶ。

 それは、徐々にその大きさを増していく。

 水面下にいるその巨大な影に、皆は固唾を呑む事しか出来なかった…………

 


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